インフィニット・ストラトス、通称IS。宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ。
まあ、平たく言ってしまえば、アイアンマンだとか一部の仮面ライダーみたいな、人が装着して動かすパワードスーツだと思ってもらえればいい。基本的には世界中のお偉い方々もそんな認識で、開発から少し経った頃には兵器として使われてた。
そこから紆余曲折あり「これを正式に兵器として扱うのはやめよう」というように、どういうわけか世界中の意識が変化していき、現在では専らコイツを使った戦闘行為もどきがスポーツとして扱われている。
とまあこんな具合に、創作物の中から出てきたような男の子心くすぐるシロモノがつい数年前に現れて、世界を変えていったわけだ。
ただ、コイツが世界を変えるに至った理由は、そういうロマン的な部分とかでは無いわけで、もっと違う部分で世の中を大きく変えた。
『ISは、
そんな欠点のおかげで、世界は超女尊男卑社会へと変わっていった。
と、まあこんな風に仰々しく言ってはみたものの、俺個人としてはそんな大層な話でもない気はする。兵器使用禁止の機械を盾に威張り散らす女共も、そんなもんにビビってまともに意見できなくなる男共も、どっちもどうかしてるとしか言いようがない。フェミニズムはどうしたフェミニズムは。
まあ、俺の考え一つで世論は変わらんし、そもそも俺はこんな世界になる前から女は嫌いだし、男も別に好きではない。理由はまあ、その内話すよ。
ひねくれた事に俺は人間という存在が好きでは無いのだろう。集団からはみ出た存在を袋叩きにして大喜びする個体が多い種族を指して「俺は人間という種族をまとめて愛してる」と言うのも中々イカレてるとは思うが。
無駄話が多くなったので本題に入ろう。
そんな俺が今どんな状態かと言うと、あろう事か女に囲まれた教室の中で男2人という地獄にいる。しかももう一人の男の名前が「お」から始まるせいで席も遠い。
ここはIS学園。読んで字のごとく、今説明したISの操縦者を育てるための学園で、当然女子生徒しかいない。
はずなんだけど、どういうわけか俺ともう一人、男子生徒がいる。
名前は確か、『織斑一夏』。ISの世界大会だかで話題になってた織斑千冬の弟だ。彼自身も第二回世界大会のちょっとした騒動で話題になってた。さほど興味もなかったので細部は知らん。
「……くん! 名瀬暁君!」
「あ?」
「あっ、あの、大きな声出しちゃってごめんなさい。怒ってるかな? ゴメンね。でも、自己紹介、『あ』から始まってもう『な』まで来ちゃったんだ。自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」
色々と考え込んでいると、副担任の山田真耶先生が怯えた様子で尋ねてくる。
「あー……すみません。考え事してました。今します」
そう言って立ち上がったはいいものの、なぜだか視線が痛い。皆の自己紹介中に上の空でいた事を批判している。という感じではなく、コイツは何か見せてくれるのか、という期待の目。
「名瀬暁。そんな大層な自己紹介は出来ないませんが、まあ、一年間よろしくお願いします。男ですけど、中学時代に諸事情あって女性だらけの空間には慣れてるので、気軽に話しかけてください」
こんなものではなかろうか。これ以上の自己紹介などない。周りの目も、まあ自己紹介なんてこんなもんだろう、と言った雰囲気だ。悪かったな、特技とかなくて。
と、自己紹介を終えて教室を見回してみると、いつの間にやら山田先生が教卓の前に戻ってるし、教師らしき人物が増えてる。スーツを着た黒髪の女性、織斑千冬。このクラスの担任で、さっき説明した織斑一夏の姉。
さっき周りから歓声が聴こえた気がしたけど、この人が原因っぽい。
えっと、どこまで話したっけ。ああそうだ、なんでこの学園に俺ともう一人男がいるかって話か。
どうやら教室の前の席にいる彼は、高校の試験会場で間違えてISを起動したらしい。経緯は知らん。
俺がここに入るに至った理由は、そういううっかりではなく、多分なんか作為的なもの。ある日突然家に謎のネックレスが届いて、着けたら、ISが起動した。
ね? 訳分からんけど絶対第三者の手が加わってることは確かでしょ? その上その時起動したISは今も手元にある。一度は回収されたけど、バラして研究しても、他のISにパーツだけ移植しても、まるで動かない。元の状態で俺が着けてないと、動きすらしない。
結果、コイツは俺の元に戻ってきた上に、晴れてIS学園への入学も決まったわけだ。
「あっきー。ねえあっきー」
「ん?」
後ろの席から声がかかる。茶髪で袖の余ったやけにゆったりした話し方の女の子。誰だ?
「ホームルーム終わったよ?」
「あ、うん。あっきー?」
「うん。暁だから、あっきー」
「そっか。君は?」
「えー、後ろの席なのに自己紹介聞いてなかったの〜?」
「ごめん。考え事してた」
「いいよ〜。私布仏本音。なにぬねので、後ろの席。よろしくね〜」
「ああうん。よろしく。後ろの席なのは、うん、状況見たら何となくわかる」
「だよね〜」
よく分からん子だけど、多分この子はいい子だ。悪いイメージを持たれないようにしたい。
そうこうしてる内に授業開始のチャイムがなる。
「とりあえず授業始まるし前向くよ織斑先生怖そうだし」
「うん。これからよろしくね」
女だらけの学園生活は割と楽しくなりそうで良かった。