午後六時、暁の部屋。
「わたくしがきましたわ!」
「ヒロアカでも見たんかお前は」
どこかで聞いたような決めゼリフを吐きながらノックもせずに部屋のドアを勢いよく開き、セシリアが突入してくる。頻度は日によって違うが、よくある光景のため暁も慣れた様子で対応する。
「それで何の用だ?」
「私最近カウンセリングの本をよく読みますの!」
「そうか」
「ですから私が暁さんのカウンセラーになって差し上げますわ!」
「不安しかない」
このように突拍子もない提案をしては暁を呆れさせている。
「トラウマの克服には苦手なものに少しずつ慣らしていくことが重要と書いてあったような気がしますわ」
「克服させたいなら確信を持ってやってもらえる? まあいいや、それで少しずつ慣らすって具体的にどうする気?」
曖昧なセシリアの知識に一抹の不安を覚えつつも、なんとか解決の手伝いをしようとしてくれる相手を無碍にするような事は出来ないため、話を聞く。
「まず暁さんに必要なのは女性に慣れる事ですわ」
「あれもしかして俺が女性恐怖症って前提でこの話進む感じ?」
「というわけで、まずは女性との触れ合いから始めましょう」
「あ、やっぱりその前提で進むんだ」
勝手に女性恐怖症ということにされている暁だが、別に苦手と言うだけで女性恐怖症というわけではない。クラスメイトとの会話などを見ればわかる通り、相手に悪意がなければ問題なく会話も人付き合いも可能である。
「なのでまずは私と普段より近めの距離でお話してみましょう。隣失礼しますわね」
「これ意味ある?」
疑問をぶつける暁をよそに、部屋へと入りベッドに座る暁の隣に腰掛けるセシリア。今にも肩が当たるかといった距離だが、提案した本人は得意げな表情で暁の顔を覗き込んでいる。
「この距離での会話すら無理なら俺はとっくにこの学園から逃げ出してるんだけど、その辺把握出来てる?」
「してますわ」
「じゃあ別の策を考えた方がいいのでは?」
「屁理屈ばかりで人の親切を素直に聞く気がありませんの貴方は?」
呆れたようにセシリアが聞き返す。確かにこの行為はあくまでセシリアの親切心であり、本来暁側に文句を言う筋合いはない。
「いやまあ、そう言われると何も言えないんだけどさ……」
事実、突拍子もない提案が多いのは確かだが、これといって暁側が迷惑を被っているわけでもない上に、こうして二人でいる時間が嫌いでもないため、基本的には押し切られる形でセシリアの提案に乗っているのだが、
「……」
「……」
「……え? 話題ないの?」
「ありませんわ!」
お互いを見つめ合うこと十数秒、毎度こういった所の詰めが甘いのである。
「……もっと諸々詰めてから来てもらいたかったんだが」
「……良い天気ですわね!」
「室内で言う奴じゃないなそれ」
「ご趣味は……」
「それが最初に出てくるのはお見合いだな」
「お、お見合いなんてそんな! 大体私の好みの男性像は貴方と真逆ですわ!」
何を勘違いしたのか顔を赤くしながら否定するセシリア。暁としては唐突に焦り出した相手に困惑しかない。
「いや別にお見合いしてる気はないし、俺の理想も真逆だよ。タッパがある人の方がいい」
「あなた自身そんなに大きくないのに?」
「168はギリ平均だよ。というか大抵の女子よりはデカいんだからセーフだろ」
「じゃあ理想の女性の身長はどのくらいなんですの?」
「172」
「自分より大きい方が好みで?」
「そうだね。俺と同じか俺よりデカい方が良いな」
「なるほど」
「……」
「……」
「ところで」
少しの沈黙の後に、暁が口を開く。
「なんですの?」
「これなんか意味ある?」
「……ありませんわね」
「だろうな。まあいいや、毎度ありがとな。飯でも食いに行こうぜ」
―――――――――――――――――――――
食堂
他愛のない会話をしながら食堂に向かった二人だが、そこには今日出会ったばかりの女子生徒がものすごい勢いでラーメンを食べていた。
「あれは……」
「……ですわね」
「「面白そうな予感」」
こういう所は暁に似てきたセシリアである。
「やっほ」
「御機嫌よう」
「アンタら確か……」
食べる手を止め声をかけてきた二人に視線をやる鈴。
「一組の名瀬暁」
「同じく一組、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ」
鈴のラーメンの前自分のトレーを置き、腰に手を当て胸元にもう片方の手を持っていくいつものポーズで自己紹介をするセシリアと、トレーを持ったまま名乗る暁。
「なんか用……? 今楽しくお話って気分じゃないんだけど」
「思い詰めたみたいにラーメン貪り食うツインテチャイナ娘がいたら大抵の奴は気にするもんだよ」
「そんな風に見えた? あっそ、でもなんでもないから気にしないで」
「そう突っぱねないでくださいまし。大方一夏さんのことでしょう? お話聞かせていただけませんこと?」
「なんで分かるのよ……」
冷たくあしらおうとする鈴に対して穏やかに対応するセシリア。精神的な成長だろうか。今までであればこのような態度に対して普段通りの対応をするなどありえない事だった。
「まあまあ、ああいう方は意図せず女の子を傷つける事がありますから。あなたと彼の関係を見るに、そういう事情かと勘ぐらせていただきましたわ」
「ムカつくくらいに勘がいいわね……まあいいわ。そうよ、アイツの事。わざわざ傷心中の女に声掛けてきたんだから。アンタら愚痴くらい聞きなさいよ」
「「そのつもり(ですわ)」」
――――――――――――――――――――――――
「というわけなのよ!」
「なるほどね。まあそういうタイプだよなアイツは」
鈴の話曰く、所謂「毎日自分の飯を食ってくれ」式のプロポーズをしたが、肝心の一夏はそれを「毎日タダ飯を食べさせてもらえる」と認識していた。という事だ。
「にしても、あのタイプの方になぜそんなに回りくどい言い方を……」
「言いづらいでしょ! 中学生女子がそんなにハッキリ告白なんて!」
「気持ちはわかりますが……」
「まあアレだな。今のところライバルは一人っぽいしここから積極的に行けばいいんじゃない?」
セシリアに詰め寄る鈴を宥め、今後についての提案をする。
「そうは言っても……相手は私より前からの幼馴染って言うし、そもそもこの学園じゃあ男子は少ないから、いつライバルが増えるか分かったもんじゃないし」
「実質選択肢は一夏さん一択ですものね」
「おい、お前ら今失礼な話してるな?」
「「なんの事かしら?」」
すっとぼける二人をジト目で睨みながらため息をつく。
「そこはとりあえず良いか。色々吐き出して少しは気が楽になったかね転校生君よ」
茶化すように問う暁に対して、少しムッとした表情になる鈴。
「……まあね」
「それなら良かったですわ。こちらも楽しませていただきましたし、クラス対抗戦ではあの朴念仁を叩きのめしてくださいまし!」
「その発言は利敵行為ととるぞ〜」
「レディの気持ちも分からない方はお黙りくださいませ」
「ふふっ。ホントに仲良いわねアンタら」
いつもの調子の二人を見て笑みがこぼれる鈴。
「とにかく、クラスは違えど同じ学園の仲間ですもの。これからも愚痴があれば聞きますわ。ですから、この無神経男共々、仲良くしてくださいまし」
そう言ってセシリアに差し出された手を取る。その後、セシリアの隣に座る暁に手を出す。
「……何?」
「流れでわかるでしょ! お礼と今後よろしくの意味の握手よ!」
テーブルに置かれていた手を無理やり引っ掴み、若干強めに握手をする。
「はいはい。よろしくな」
「……よし! アンタらのおかげで吹っ切れた事だし、キッチリケジメつけて仲直りよ!」
「えぇ、応援してますわ」
「頑張れチャイナ娘。骨は拾ってやる」
「玉砕確定みたいに言うんじゃないわよ!」