「というわけで、暁くんはこれから皆さんと同じく二人部屋になります!」
唐突に部屋を訪れた、山田先生により恐らく拒否権がないであろう言葉が発せられる。
「……一夏の部屋の移動が決まったって感じですか?」
若干嫌そうな声音で聞き返す暁。彼としては、後から二人部屋になるくらいなら最初から二人部屋が良かったのだ。当然の反応である。
「いえ、そういう訳では無いんですが、そういった細かいことは明日のホームルームで分かりますので!」
そう言って部屋を出ていく山田先生を見送り、ベッドに寝転がる。
「マジかー……ただでさえ一人部屋って感じしてなかったのに……」
そんなふうに嘆く暁を他所に、再度部屋の扉が開く。
「入りますわよー」
「もうノックすらしないのなお前」
当然のように部屋に入ってくるのはセシリアである。彼女はここ数週間は基本的に、平日は授業後から、休日は昼時から、夕飯時まで暁の部屋に入り浸っている。
そして本日は、セシリアの入室後に今度はノックの後に扉が開く
「邪魔するわよー」
「どうぞー、って言ってから入れよお前ら……」
入ってきたのは、先日の対抗戦乱入被害者の鈴であった。
「あら鈴さんいらっしゃい」
「セシリア? 何であんたが?」
「お気になさらずー。休日はいつもこんな感じですの」
「付き合ってんのアンタら?」
「いえ全く」
当然のようにベッドの上に座りながら勝手にテレビをつけているセシリアを見て、当然の疑問を覚える鈴だが、セシリア本人はなんの疑問も感じない様子で面白い番組はないかとチャンネルを回している。
「まあいいわ。一夏との事でね、色々進展があって、アンタらには色々話しておくのが義理かなって思ってさ」
「気にしなくていいですのに。それで、どうなったんですの?」
「少しはその興味津々って感じを隠せ。で、どうなったんだ?」
「デリカシーって言葉知ってるアンタら?」
「「知識としては」」
気にするなと言う割に早く結果を教えろと言わんばかりの雰囲気を醸し出すセシリアと、隠せと言いつつも興味ありげな雰囲気の暁に呆れたように返す。
「別にアンタらの期待してるような事にはならなかったわよ。誤解は解いて今まで通りに接するって話になっただけ。あいつはあいつですぐに答えなんて出せないだろうし、アタシはアイツが好きだけど、それもいつ変わるかわかんない。だから今まで通り、幼馴染。それだけよ。恋人になったわけでもなんでもない」
「ふーん……まあ、納得できる形に収まったんなら良いと思うけど、今まで通りって」
「そう簡単に出来るものでもないような気が……」
鈴の話を聞いて若干心配になる二人。
「難しい事でもないわよ。よくある話じゃない? 告白したからって、それで大きく変わっちゃうような関係になるほど、アタシの気持ちは弱くないし、一夏だってそれで関わり方を変えるようなやつじゃない。そんな奴ならはなから好きになってないしね」
心配そうな二人に対して、腫れ物が落ちたように笑う鈴。
「まあ、そういう事なら大丈夫……なのかな?」
「それにしても一夏さんもまあなんと言うか……罪な男ですわねぇ……」
額に手を当てて悩ましげな表情をするセシリアを他所に鈴が声を上げる。
「あ! この番組今日だった! 録画するの忘れたからここで見せて!」
「えぇ、構いませんわよ。ねぇ?」
「俺のプライバシーはどこに消えた……」
テレビを指さしながら勝手な事を言う鈴とセシリアに頭を抱える暁。
(ルームメイトが出来たら少しはマシになるんだろうか……)
そう考えながら、恐らく三人目となる男性操縦者に一縷の望みを託す暁であった。
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そして翌日
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二人です!」
「え……」
「「「ええええええっ!!!」」」
山田先生の言葉に教室中がザワつく。当然と言えば当然だが、一人だけ冷静な者がいた。
(転校生。噂のルームメイト様か……、とはいえ二人。どっちか片方なんだろうけど。ん、いや待てなんでうちのクラスに二人だ? 鈴は二組に編入されたのに)
騒ぐ周囲と、なにか話しかけてきているセシリアを他所に、思考を巡らせる暁。
教室のざわめきが収まる前に、教室のドアが開く。そして、二人の転校生を見て、教室が一気に静まり返った。
「失礼します」
「…………」
それもそのはず、入ってきた二人のうち、片方が男子だったのだ。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
転校生の一人が、シャルルがにこやかにそう告げる。
クラス全員が呆気にとられる中、驚く事無くシャルルを見つめる暁。
(彼がルームメイト。いや、ホントに”彼”か?)
シャルルを見つめながらまたしても自分の世界に入り込みそうになった暁の肩が少し強めに叩かれる。
「聞いてますの? 暁さん?」
「あぁ、悪い。なんの話?」
「転校生の方ですわよ転校生の方」
三人目の男子の登場に大騒ぎするクラスメイトの声に混じり、セシリアが声をかけてきたのだ。
「男子の方ですわよ。嬉しくないんですの? これでやっとまともに訓練なども出来る可能性が出来たというのに」
「いやまあ、なんだ。嬉しくないわけじゃないんだけど、なんて言うか、嫌な感じがする……っていうか、なんて言えばいいんだろうなこういうの」
「おかしな方ですわね。中性的ではありますが、どこもおかしな所などないように見えますけども?」
「うん、まあそうだな。なんつーか、ちょっと考えさせて」
「は、はぁ……? まあ構いませんわ」
困惑するセシリアから、再度シャルルの方を向き直し、改めて彼の事を観察する。
(顔立ちは中性的。男と言われれば男に見えるし、女と言われればそうも見える……長い金髪のせいで女っぽく見えるだけか? いや、それだけじゃないな。明らかに線が細い。男の細身とは違うソレだ。もしかするとアイツ……)
そこまで考えたところで、何かが叩かれるような音に意識を戻される。
音の方へ目をやると、セシリアがもう一人の転校生、ラウラの手を一夏の目の前て掴んでいた。
(何やってんだアイツ?)
暁は全く見ていなかったが、状況としては一夏の事を唐突に叩こうとしたラウラの手をセシリアが止め、その手を抑えている状態だ。
暁と過ごし、彼の暴走への対処を考えるうちに、女子からの攻撃的行為に対して、彼女も割と敏感になっていたのだ。
「いきなり随分なご挨拶ですわね。そういうのはろくな事になりませんわよ」
笑いながらそう言ってはいるが、ラウラの腕を掴むその手には明らかに力が入っている。
「っ……! 離せっ!」
顔を歪めながらセシリアの手を振り払い、掴まれていた方の手を抑えながら一夏の方を睨みつける。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
そう言って一夏の前から立ち去るラウラ。空いている席に座ると腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなった。
「ありがとうセシリア」
「お気になさらないで、こういう時のために最近鍛えてますの」
「そ、そうなのか」
一夏にそう告げると、自信ありげに胸を張り、自分の席へと戻ってくるセシリア。
「何やってんの?」
「いえ、なんと言うか、身体が勝手にと言いますか、咄嗟に動いた感じですわね」
「なるほど? というかお前今握力いくつだ? アイツの腕ガッツリあと残ってたけど」
「測ってませんけど……ハンドグリップは50kg程度なら余裕でしたわ」
「マジかよこわ……」
「貴方が暴走した時に備えているのですが?」
ドン引きする暁をムッとした表情で睨む。
そんな話をしていると、織斑先生が軽く咳払いをして、口を開く。
「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦等を行う。解散!」
そう言って手を叩き、全体へ行動を促す。
「名瀬、デュノアの面倒を見てやれ。どちらかと言えばお前が適任だろう」
さっさと更衣室に向かおうとしてた暁に対して織斑先生が指示を出す。
「あー、分かりました。はい」
(アレは多分……気を遣われているのだろうか)
「君が名瀬くん? 初めまして」
「挨拶は後で良いよ。とにかく急ごう、更衣室が遠いから。話すなら歩きながらで頼む」
そう言って、言うと同時に歩き出す暁に若干の早足でついて行くシャルル。面倒を見ろ、という指示の割に、暁にシャルルを気にかける様子はない。別段シャルルに対して何か悪印象がある訳では無いが、今現在彼の頭の中はシャルルの性別の事でいっぱいであり、完全に心ここにあらずといった状態である。
「まあ多分、色々あって他クラスの女子は俺に寄り付かないから、一夏と一緒に行動するよりは安全だと思うよ」
「安全?」
「ただでさえ一夏の周りには、物珍しさで人が集まってくる。三人目の男子、しかも君みたいなのと一緒に歩いてたら確実に人だかりができる」
「そ、そういう事……」
「まあ、とにかく同じ男子同士、よろしく」
「う、うん。よろしく名瀬君。僕の事はシャルルでいいよ」
「わかった」
素っ気ない態度の暁に置いていかれないように、更衣室まで必死について行くシャルルであった。
暁本来の性格の部分がようやく描写できたような気がする。
いや、セシリアとのファーストコンタクトから割と嫌な奴なのは気づいてる人多かったかな?