放課後。
「名瀬くん。名瀬くん」
「なんでしょう?」
一通り授業が終わり、机でぐったりしている一夏を眺めていると、山田先生に話しかけられる。
「えっとですね。寮のお部屋の鍵をまだ受け取ってませんよね?」
「あー、はい。入学前に送られてくるもんだと思ってたんですけど」
「本来はそうなんですけど、事情が事情で、空き部屋を改良して部屋にしたので、鍵の用意が間に合わなかったんです」
「なるほど」
「それで、これが名瀬くんの部屋の鍵になります」
「はい。ありがとうございます」
1026……一夏と同じ部屋じゃないの?
「これは……一人部屋ですか?」
「はい。織斑くんの部屋が先に決まってしまってたので、変更が出来なかったんですよ」
「なんと」
「暫くしましたらお引越しが出来ると思うので、それまでお待ちください」
「りょーかいです」
別に一人部屋ならそれはそれで良いのだが、暫く一人部屋で過ごしてから、二人部屋になるのは非常にキツい。どうせ二人部屋に後からなるくらいなら最初から二人部屋が良かった。
「それと、夕食は六時から七時、寮の大食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーもありますけど、大浴場もあります。と言っても、織斑くんと名瀬くんはまだ使えないのですが……」
「男子用の大浴場はまだないと……」
「その通りです……」
「ところで、夕食後に部屋で間食などは……?」
「それはご自由にしていただいて大丈夫ですよ。部屋の中では基本自由なので。あ、でも夜更かしは授業に支障を来さない程度にですよ」
そこまでお見通しだったか……気をつけます。
◇
「というわけで同室じゃないんだってさ」
「そうなのか。まあ、それならこのまま一人部屋二つで良い気もするけどな」
「だよな」
一夏と部屋が隣り合わせなので、寮への短い道を一緒に向かう。
「1025だから……ここか」
「じゃあ俺はこっちか」
一夏の部屋の隣の1026と札に書かれた部屋の鍵穴に鍵をさす。
「ん?」
「どした?」
「いや、鍵が空いてる」
「マジかよ不用心だな」
こっちはちゃんと閉まってた鍵を開け、部屋の中に入る。
でかいベッドが二つにあって、備え付けのノートPCがある。高級スイートって感じの部屋だ。さすがIS学園様って感じの部屋だな。
隣の部屋の一夏の悲鳴が聞こえる。まあ、鍵空いてたってことはそういう事だよな。同室の人は結構過激な人だったんだろう、ご愁傷さま。
◇
食堂
「サンキュー一夏」
「気にするなよ。奢るって言ったろ」
一夏の一悶着が終わるのを待ってから、二人で夕飯を食べに来た。一夏の奢りでハンバーガーセットをご馳走になってる。こんな学園だけどこういうジャンクフードがあるのはありがたい。お上品な飯ばかりじゃ気が滅入る。
「ところで何も考えずに巻き込んじゃったけど、あの、モルモットみたいな名前のイギリス人との決闘についてなんか考えてる?」
「モルモット……? ああ、あのセシリアって子との試合か」
「そうそう。セシリア・モルモットみたいな」
「オルコットな。本人の前で言ったらまた拗れるぞ……?」
それは嫌だな。あの子なんか常に上から目線だし、基本喧嘩腰だし、あんまり関わりたくない……
「とりあえず俺はアテがあるから、昔の知り合いに少し稽古に付き合ってもらうかな。今の段階じゃ量産機の貸出もなくてIS操縦の練習もできないし。暁は?」
「俺はもうぶっつけ本番で良いかな。コイツの事は何故か大体わかるし」
首元のネックレスを指さす。初めての装着時から、何故かどう動かすのか、どんな武装があるのかも頭の中に流れ込んできた。コイツなしで生活してきたのが信じられないくらい、コイツについて既に理解出来てる。どういう原理か分からんけど、専用機ってのはそういうもんなんだろう。
「へぇー、なんか不思議なもんだなISって」
「だな」
「まあ、負けるとまた色々めんどくさい事になりそうだし、勝たないとなー」
「確かにな。アレに勝たせると、いよいよ手がつけられなくなりそうだし、そうなると代表候補生様もクラスで孤立するのが目に見えてる。それは避けたいし」
それを聞いて一夏が目を丸くする。
「なんだよ?」
「いや、あんな感じだったし、向こうがどういう状況になろうとどうでも良さそうだったから。意外とクラスメイトの事気にかけてるんだなって思ってさ」
「別に目の敵にしてるわけじゃないし、クラス全員で楽しめるんならそれ超したことは無いでしょ。あの子の場合、悪意を持ってやってるわけじゃなさそうだったし、プライドが高いだけで根は悪い子じゃない、と思うから」
「へえー、結構優しいんだな」
「そんな事ないよ。孤立しないようにしたいってだけで、俺からわざわざ関わりに行って仲良くしようって気は毛頭ない」
「なるほどな。まあ、そういう事なら俺も頑張るよ」
やっぱり良い奴だな。俺以外に一人しかいない男子生徒が、とんでもない奴だったらどうしようと思ってたけど、一夏ならその心配もいらなさそうだ。
「じゃあ、そろそろ俺は寮に戻って寝るわ。ご馳走様。また明日」
「おう、早寝なんだな」
「いや、普段はもっと遅いよ。こんな環境でちょっと疲れただけ」
「確かにな。俺も今日は早めに寝ることにするよ」
「そんじゃ、おやすみ」
「おう、おやすみー」
と、言ったものの自室に戻ったところで状況と、普段の就寝時間とのズレのせいもあり、なかなか寝付けず就寝時間は結局0時を越えた。