翌日、重たい足取りで教室へと向かう男がいた。
前日の試合でイギリス代表候補生を半殺しにした名瀬暁その人であった。
(ぜっっったいに、孤立する)
当然である。クラス内でも屈指の実力者であるセシリアを半殺しにした上、その時の姿はまるで悪魔のような暴れっぷり。意図的に虐められたり、ハブられたり、という事は無いだろうが畏怖の対象になること。周りの接し方が今までと変わることは容易に想像がついた。
(教室に入りづらい……)
なんとかドアの前には着いたものの、それを開けて中に入る勇気はない。
(そもそもどんな顔して入ればいいんだ? こう、圧をかけながら入る感じか? いやダメだろ!)
「何してるんですの貴方は……」
どうしたものかと頭を抱えていると、後ろから昨日嫌というほど聞いた声がする。
「セシリア!?」
昨日保健室でボロボロになっていたはずの少女がそこにいた。
「なんですの幽霊を見たような顔をして。失礼な方ですわね」
「いやだってお前、怪我は!?」
「打撲も脱臼もISの訓練で慣れていますし、骨折も肋骨ですからコルセットを巻いておけば問題はありませんわ。そんな寝たきりでいないといけない状態じゃないのですから、授業くらい参加しますわ」
「な、なるほどな」
「それで? 入らないのなら先に入りますわよ」
驚く暁を横目にドアを開けるセシリア。
「セシリア!?」
クラス内から驚きの声がする。当然の反応である。
「ごきげんよう。どうしたんですのそんなUMAを見たような反応をして」
「お、おはよう。いや怪我は大丈夫なの?」
「その事なら、あちらで突っ立ってる方にもう説明しましたわ。私はあの程度で動けなくなったりしませんわよ」
クラスメイトの一人が質問をする。自慢げに説明をするセシリアだが、まだ完治している訳では無い。
しかし、そんな事を感じさせる様子はなく、普段通り自分の席に着く。
セシリアの言葉を聞いた生徒の一人が暁の方へ寄ってくる。
「おはよう名瀬君。セシリアあんな風に言ってるけど、ホントに大丈夫なの? あ、それと昨日の試合凄かったね! いつもとは別人みたいだった!」
「あ、いや、えーと、セシリアはああ言ってるから大丈夫だと思うけど……怖くないの……?」
「何が? 暁くんの事が?」
「そう、それ。昨日あんなだったし」
「あー、それは織斑君がね、試合の後に「なんであんなことになったかは分かんないけど、あいつは良い奴で、必ず何か事情があるはず。だから怖がらないでやってくれ」って。少なくとも一週間一緒に過ごしてきて、私達も名瀬くんが良い人なのは知ってるから、心配しないで平気だよ」
「そっか、ありがとう。一夏も来たら礼を言っとかないと」
知らぬ間に自分の評価が上がってた事と、自分がクラスで孤立しないように一夏が配慮してくれてた事に感謝しながら自分の席に向かう。
「おはよう本音さん」
「おはようあっきー。昨日は凄かったね〜」
「その言い方はなんか誤解を生みそうなんだけど……」
本音に挨拶をした後に、横から別の生徒が声をかけてくる。
「でもホントに凄かったよ! 完全に試合終了かと思ったら、砂煙の中から出てきてあっという間にセシリアに勝っちゃうんだもん! 怖かったけどカッコよかった〜!」
「負けてませんわ!」
横からセシリアが口を出してくる。未だに勝敗について文句があるらしい。
「まだ言ってる。二人ともどう思うこれ? 往生際悪いよね〜」
売り言葉に買い言葉、またセシリアを煽るような事を言うが、
「でもでも〜試合のルール的にはあっきーの負けだよ〜」
「そだねー。本音さんの言う通り、試合としては名瀬くんの負けだね」
その通りである、そもそもISの試合は、シールドエネルギーがゼロになったら敗北である。昨日の試合においては、着地後の一斉掃射によって暁のシールドエネルギーはゼロだったので、試合自体はセシリアの勝利である。その後のセシリア半殺し事件は、試合の結果とは何ら関係してこない。
「まぁ、ただ、この様相は勝者の姿じゃないよねぇ?」
「んなっ!? これは貴方の反則行為によって出来たものなんですから少しは反省したらどうなんですの!?」
「だから何度も謝ってるだろ! ホントしつこいなお前!」
そんなふうに言い合う二人を見て、本音が笑う。
「なんですの?」
「なんだかセッシーとあっきー、仲良くなったな〜と思って」
「「どこが!」」
「そういう所かな〜」
のほほんとした空気に絆された所でクラスのドアが開き、一人の男子生徒が入ってきて席に座る。
「おはよう一夏」
「おはよう暁」
教室に入ってきたもう一人の男子生徒に挨拶をし、昨日の礼を言おうとしたところで、
(礼は飯のタイミングで奢りながらでも話そう)
そう考える暁であった。
あんまり一夏の出番がなかったので。試合後のフォローは一夏がしてくれてたってことになりました。
クラス代表になってからの一夏はもう少し出番を増やしていく予定