鋼鉄の咆哮_AZUR BREAKER   作:Bligh_Drunk

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そして、互いは姿を見せた。

こちらは『純粋なる正義』... あちらは『常なる狂気』。


2つの理念は相容れない、だが双方ともに譲る理由も無い。

正しきを証明するものが何一つ無いなら、『力』で示すより他に無し...

己の全てを以って語れ!!

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A-10.カオス・ロワイアル

~数週間前

 アズールレーン・ユニオン部隊支部

 

 

『……ふぅ、それで? 零次君、君は先程の映像を見せて我々にどうしろというのだ?』

 

「中将殿、並びに将校のお歴々にはもうお分かりかと思いますが... 奴らは"セイレーンに対して攻撃"していました。そして、我々がこれまで目にしたことが無い"巨大な艦","未知の高度な技術"...」

『じゃあ何か? あの南極海で確認された"不明艦"然り、セイレーンに次ぎ"新たな脅威"だと? 馬鹿馬鹿しい!!』

『そもそも、君も言っていたようにそれは鏡面海域内で確認されたことなのだろう? あの不明艦についてはともかく...このような映像だけで事を主張されて、[はい、そうですね]とは言えんよ。』

 

「しかしッ!!」

『…まあ、他の方々の言い分も分かります。』

「…ハリックス大将...」

 

『セイレーンとの大規模戦も間近... レッドアクシズとの一時的な共同戦協定にも漕ぎつけて、ようやくのスタートラインです。そんな時に、このような事態が起こってしまっては皆が混乱してしまうのも当然というもの... 今更、戦線に穴を空けるわけにもいきません。

そこでどうでしょう? この件については、境大佐に一任するとしてこれらの調査を行わせるというのは。』

『むぅ...』

 

『以前の南極海の調査以降でしたか? 各地の海域にチラホラと未確認の鏡面海域が発見されだしたのは。おそらく、この件に関係があるものと思われます。まずは、これの調査を開始するのが賢明ではないでしょうか...?』

 

『うぅむ... 致し方あるまい、それで行こう。境 零次大佐、並びに特務混成部隊はこの調査を開始されたし!! この任務における全権は君に委任する!!』

『ウーフ大将殿!?』

 

「…はっ、了解致しました。」

『そういうことです。各々方も作戦の調整に向けて"やるべき事"が多いでしょう。ここはひとまず、解散ということで...』

 

『…っく! 今回は、例外だぞ!!!』

『…では、我々も解散ということで...』

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「ハリックス大将、申し訳ありません。貴方の手を煩わせてしまい...」

『構わんさこれくらい... それに、これから大変なのは君の方だ。なかなかの重責を押し付ける形になって、すまない。』

 

「いえ、それに関しては自分も望むところです。気になることもあるので。」

『そう言ってくれると助かる。で、早速だが君に調査を頼みたい。場所は......』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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任務を受けたのが約1週間前のことだ。この件に関しては、今回の出撃に俺も同行することになった。

一部のKAN-SENはこの事に対し強く反対の意を示していたが、最終的に俺が無理やり通した。

彼女達には悪いことをしたが、流石にこの件を彼女達だけに背負わせるには荷が重過ぎる。

だからこそ細心の注意を払い、指揮艦にも装甲重視の戦艦を採用した。

今回は、場所が場所だけに厄介だというのもある。

 

件の鏡面海域はザディア領に面した陸地の一角にあるという...

これだけでも、ザディア或いはレッドアクシズ側から何かしらの対応があってもおかしくない。

 

…しかし、当初の予想とは裏腹にザディア側はこちらへ何らかの接触を仕掛けてくるどころか、あっさりとこちらの侵入を許した。レッドアクシズからの妨害も何も無い。

 

上の連中が何らかの形で介入でもしたのだろうか... それとも、ザディア並びにレッドアクシズには何らかの考えあっての静観か...

 

結局、何の妨害もないままに俺達は鏡面海域の中へと突入した。

 

 

 

 

 

今にして思えば、全てはこの事態を予見していたからだろうか...

 

 

<お前らに話すことは何も無ぇ。これから死ぬ奴らに、言ったところで無駄だろ。>

 

 

目の前に荘厳とそびえ立つ巨城が如く、巨大戦艦は砲煙が上がると共に咆える。

 

対峙して、今でこそはっきりと分かる...

 

 

<見せてもらうぜ、[KAN-SEN]の持つ性能ってヤツを!! 冥府への手向けに俺の"名"を持っていけ!

 戦火の暴威... 超兵器[シュトゥルムヴィント]!!! 戦闘開始ッ!!>

 

 

こいつは... "危険"だ...!

 

 

 

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/// 超高速巡洋戦艦 [ シュトゥルムヴィント ] 接近! ! ! ///

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『…!? 全艦、回避急げぇッ!!』

 

零次の怒号によって、それまで待機していたKAN-SEN達は反射的に回避行動を取った。

次の瞬間には、つい先ほどまで立っていた場所に数本の巨大な水柱が上がる。

 

…先手を取ったのはシュトゥルムヴィントだった。

 

まだこちらのサウスダコタの主砲射程外にもかかわらず、ほぼ正確にこちらの場所へ奴の主砲は着弾した。

不確かだが、この距離からでも異常なほどと分かる長砲身ゆえの射程距離なのか...

 

…であれば、この状況は非常にまずい!!

 

 

『クリーブランド、皆を連れて奴に接近だ! サウスダコタも後に続く形で、航空機隊を護衛につける。リスクはあるが、あのまま撃ち放題にさせるわけにはいかない!!』

「了解! みんな、私に続けッ!!」

 

クリーブランドを先頭に、足の速さでもって零次の部隊が詰めて掛かる。

近づくことでよりあのシュトゥルムヴィントなる奴の直撃弾を受ける危険性は高まるが、"近づけさえ"すれば強力な雷撃の前に戦艦は成す術もない。

 

……そう、これが『通常の戦艦』であったなら最も合理的かつ模範的判断と言えるかもしれない。

問題は、その相手が合理も模範も意に介さずはね除ける"超兵器"であることの一点である。

 

 

<俺と足を競うつもりか? いいぜ、追いつけるもんなら付いて来てみやがれ!!!>

 

「敵が動く...ッて、なっ!?」

「ちょっと!! どういうことよ!? 戦艦が出せる速度じゃないでしょ!?」

<はっ! 負け惜しみはあの世で言うんだな!!>

 

シュトゥルムヴィントとしては、相手側の反応は予想通りである。

今の今まで、敵の意表を突く為とはいえシュトゥルムヴィントは"巡航速度以下"の速力で零次の部隊に接近していたのだから...

それがいきなり、駆逐艦の快速が霞んで見える程の超高速で動き出したんなら、尚の事その事実に混乱しないわけがない。

 

これは、指揮官たる零次にとっても予想外のことだ。

当初、あのシュトゥルムヴィントを仕留める為の策が最早なんの意味も無くなってしまった。

みるみるうちに離されていく彼我距離を見ればそれは明らか、こちらがどんなに追いすがろうとしてもあの常識外れの速力の前には太刀打ちできない...!

 

さらに悪いことに...

 

 

「あれ見て! あいつの後ろから何か来る...!」

「あれは...?」

 

シュトゥルムヴィントの後部甲板から飛翔体が1つ、こちらに向かって飛んで来る。

KAN-SEN達は、一瞬それが何だか分からなかったが、多くの戦場を経験した零次にとってはそれがなんであるかは一目瞭然だった。

 

『ミサイル!? 前衛部隊反転ッ!! 何としても叩き落すんだ!!』

 

零次の対応は早かった。

ミサイルの脅威を理解しているなら、あれの危険性は主砲の比じゃない。

特に、装甲の薄い駆逐艦,軽巡洋艦に対しては致命的だ。

当然のこと、生半可な対空性で落とせるほどに甘い代物ではないが...

 

 

「ここはやらせない...!」

「当ったれ~☆」

 

そこはKAN-SENの力でカバーする! クリーブランド級とアトランタ級の対空性能なら、多少強引にでも落とせる!!

直前に迫っていた弾頭は、分厚い対空砲火の前に破砕する。

狙い通りにミサイルの処理は成功した。

 

「よし、このままあいつを...」

<余所見はいけねぇな。>

「っんな!?」

 

 

だがそんな上に気を取られている隙を、シュトゥルムヴィントが見逃す筈が無い。

いつの間にか超至近距離にまで接近したシュトゥルムヴィントは、高速で反転すると同時に魚雷をばら撒く。

厄介な事に、酸素魚雷と誘導魚雷の複合雷撃である。

 

そして、距離を離せば再び主砲とミサイルによる攻撃...

 

上は砲弾とミサイル、下は魚雷、捌ききれなければ阿鼻叫喚の地獄絵図は避けられない...!

 

 

一方でシュトゥルムヴィントは完全優位なのかと言われれば、そういう訳にもいかず...

 

<チィッ!! 奴ら一体何機抱えてやがんだ...!! 落としてもキリがねぇ!!>

 

エンタープライズとサラトガの航空機隊に追い回されている状況である。

 

一応シュトゥルムヴィントに対空手段が無い訳ではないが、お世辞にもヴィント級は超兵器群の中で対空性能は高くない。

味方の支援もシュトゥルムヴィント自ら断っている以上、援護は見込めないし認められない。

なら、おのずと対処法は絞られる。

 

 

<狙い目はあの"戦艦"だな。>

 

シュトゥルムヴィントの標的となったのは、部隊の中で唯一の量産艦...

すなわち、"指揮艦"一択である。

 

本当は、空母KAN-SENを狙えば済む話だろうが...

 

 

<その首、貰うぞ人間!!!>

『何っ!?』

「しまった!! 間に合えッ!!」

 

連中があの艦を中心に部隊を展開している点からも、司令塔として機能していることは分かりきったこと。

奴が積極的に狙われるなら、KAN-SENは当然無視できない筈だ。

事実、その通りに向こうの空母はシュトゥルムヴィントの雷撃を庇うようにして盾になり...

 

全ての魚雷はエンタープライズに直撃した。

 

『エンタープライズ!? くそっ!!』

<まずは1つ... ん?>

 

 

エンタープライズは...

 

「っ...! まだ...」

<何っ!? 無傷!?>

 

沈んではいなかった...!! そして、反転するシュトゥルムヴィントに向け艤装を構える。

 

「これで... "終わり"だ!!!」

 

渾身の爆撃機がシュトゥルムヴィントに向けて飛翔する。

 

<ちくしょう...!!>

 

シュトゥルムヴィントも振り切ろうとするが、如何せん雷撃距離にまで近づいたのが仇となった。

激しい爆音と共にシュトゥルムヴィントに炎が上がる。

 

<ぬおおぉぉぉお ! ! ! !>

 

 

 

巨大艦を覆うほどの凄まじい黒煙が辺りを漂う。

敵の姿は確認できないが...

 

「やった... やったよ!! エンタープライズ、あいつを倒した!!」

「ああ、これで、何とか...」

 

 

<やってくれるじゃねえか、おい。>

 

「ッ!!」

 

 

だが、無情にもそこには未だに健在のシュトゥルムヴィントが姿を見せた。

 

<機関は損傷したが、お前らを仕留めるには十分だ。こいつで止めだ、エンタープライズ!!>

「ここまでか...!」

 

 

奴の主砲が、ゆっくりと狙いを定めた。

最早これまでか...?

 

『前の借りを返すぞ! [テュランヌス]の手先ィ!!』

<何だとっ、裏から!? ぐっはぁあ!!?>

 

猛烈な光を伴ってシュトゥルムヴィントを爆炎が襲う。

横槍を入れてきたのは、なんとピュリファイアーだった。

 

<くっそがあぁぁぁ......>

『あっははははは!!! ざまぁみろ!! 目の前の奴に気を取られてるからそうなるんだよ!』

 

当然、彼女の狙いはエンタープライズ達への介入などではなく、前回燃やされた件に関してのリベンジである。

ピュリファイアーからもらった至近距離の高出力レーザーの深刻なダメージにより、シュトゥルムヴィントの耐久は限界に達した。

 

 

「くっ...」

『情けない姿だね、エンタープライズ。ちょうどいいや、此処であんたも処分してやるよ。その後で、指揮官も一緒にね。ついでに、お間抜けな[テュランヌス]のリーダーもな!!』

 

 

<全くだ。お前みてぇな奴に不覚を取るなんざ、情けないにも程がある。>

『はっ?』

 

そう、そのすぐ直後である。

ピュリファイアーの砲がエンタープライズ達へと向けられる中...

通信に割り込んできたのは、つい先ほどまで回線から聞こえていた声とまったく同じ奴の通信だ。

 

その発信源の存在はすぐ明らかになった。

 

なんせ、先程沈んだ筈の大型艦が陸の影から"3隻"も現れたからだ。

 

そして先のお返しと言わんばかりの主砲による豪雨が容赦なくピュリファイアーに襲った。

 

『アアア、クッソ、なんでまた私があぁぁぁ!!』

回避は間に合わず、哀れピュリファイアーはまたしても爆発四散した。

 

 

 

<やれやれだ、イレギュラーのせいで予備も投入することになるなんてな...>

 

さて、状況は依然として最悪...

ピュリファイアーによってシュトゥルムヴィントを撃破したかと思いきや、まさかまったく同じ巨大艦が同時に3隻も出て来るとは...

 

しかし、やはりシュトゥルムヴィントはピュリファイアーに対して攻撃していた。

奴はセイレーンと"敵対"している... 加えて、先程彼女が言っていた[テュランヌス]という単語から組織として動いている存在である可能性が高い。

 

こうなると、はっきりさせておかなければならない...!

 

『お前らは何者だ!? セイレーンと敵対している一点においては、俺達と目的は同じじゃないのか!!!』

<しつこい奴らだぜ。さっさと止めを...>

 

『…タイムオーバーだ、[ホットロッド]。帰還準備だ。』

<……! ……了解......>

 

 

そこへ割って入るように巨大艦を制したのは、白銀の翼を持つ異形の航空機に乗った奴だった。

 

なんだあいつ!? …とクリーブランドはかなり困惑の声を上げていたが無理もない。

その男... アレスの見た目からしてみれば黒一色の戦闘スーツにフルフェイスマスクという怪しさの塊である。

 

上空に滞空した航空機から身を乗り出し、立ち上がったその男は零次の部隊が使う回線に無理やり割り込んできた。

 

『本来、俺が出て来る予定は無かったが、要らぬ勘違いをされても面倒だからな。あのお喋りセイレーンがこちらの事を漏らした以上、組織としての隠蔽にもう意味は無い。』

 

『お前ら... いったい...』

 

 

『我々は[テュランヌス]。人類への、"敵対者"だ。』

 

 

 

 

 

その数分後、鏡面海域の崩壊が始まり双方は海域を後にした。

零次達にとっては、正に奇跡的な生還となった。

あれだけの危険な相手と相対して、消失戦力が無かったのはそう言う他にない。

 

 

 

『映像はしっかり収めたな...?』

『ばっちり撮れてる... これから帰還するよ。ふへへ...』

 

『作戦完了。本国に帰還するよ。』

『ご苦労様... "貴重な参考資料"となるわ、確実に持ち帰るように。』

『了解...』

 

 

この件により、[テュランヌス]という存在は完全にあちらの世界へ露見した。

セイレーンともまた異なる系統の新技術... 新たな波紋が伝播するのも、時間の問題だった...

 

 

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……

………

 

≪目ぼしい収穫はあったか?≫

 

『……セイレーンの存在、甘く見過ぎていたかもしれねぇ...

 鏡面海域、そしてあの"記録"... 既に奴らの手の内にあるとすれば...

 

 どうやら... "真相"を明かす必要があるな。』




シュトゥルムヴィントには超兵器撃沈の役目を果たして貰いました。量産型ですが。
ガチガチ武装のオリジンユニットが簡単にやられてちゃあねぇ?


どうにかこうにか、Aエリアはこれで終了です。
ぶっちゃけ、今までは色んな鏡面海域でやりたい放題するにいたるまでのつなぎと言っても過言ではない。(断言)


ここからは、俺ワールド全開で展開していきます。

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