俺の幼なじみは、 作:かわいいね
この小説の内訳
堕天使成分>依存≧献身>ヤンデレ
俺には幼なじみがいる。
「待って、待って待って待って、待って。あれあれおかしいな、ひょっとしていまのは僕の聞き間違い? ちょっといやかなり聞き捨てならないな。世の中の男の人がどうかなんて知らないけど、とにかくいまここでシャルルを間接的にお猿さん呼ばわりしたことについてまず彼に謝罪してくれないかな。セシリア・オルコット、君はイギリスの代表候補生でお国ではさぞ持て囃されていたんだろうけど、僕に言わせれば猿とシャルルの足元にも及ばないくだらない人間なんだ。それともなにかな、代表候補生ならいくら人を辱めても許されると思ってる? なら、僕も代表候補生だよいいかい、君はまるで躾のなってない犬だ。クラス代表の候補として人から推薦してもらうこともできなければ見向きもされない、クラスの人気を二分してどちらもお猿さんたちに取られた負け犬だ。ごめん負け犬は言い過ぎだったかな、それにいま比喩で織斑くんを猿と表現したことをここに謝罪しておくよ。君なんて精々が大きな動物相手に遠くから威嚇する小型犬ってとこだろうね……あ、どちらにしろ相手にされないか。それに自称エリートさんは頭の中にプランクトンが詰まってるからわからないかもしれないけれど、僕は大切な人を侮辱されてとても腹が立っているし、さっきの言葉は彼とフランス政府に喧嘩を売ってるともとれるよ、仮にも君はエリート、しかも専用機を任されてる代表候補生なんだから、イギリスの。別に僕は国がどう思うかなんてどうでもいいけど。とにかく彼はミジンコ以下の君がお猿さん呼ばわりしてもいい人じゃないんだ。だから謝れ、謝れよ、はやくシャルルに謝れってば!!! ……っあ、ごめんごめん、なにか弁明だとか釈明だとかがあるなら謝罪よりも先に聞いておかないと、大切なことなのに頭に血が上って失念してたみたいだ。今度は僕も話の途中で遮ったりしないから、君の考えをしっかりと僕に聞かせてよ。さあさ、さぞ聴き応えのあるお話なんだろうね。それで、どうかな? ん?」
「……口が悪いぞ」
この幼なじみ、めちゃ恐い。
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三時間目の頭、クラス代表を決める流れでシャルロットがオルコットにブチ切れるアクシデントがあったものの、話は週明けに当事者同士で決着をつけろという織斑先生からのお達しで締めくくられ、以降の授業は滞りなく執り行われた。何故か山田先生がそれまでの二割増でオドオドしていたこと以外は。
「シャ……ル……」
昼休みも、学食への行きも帰りも食事中でさえ多少窮屈な思いをしたが、それを除けばこれといった不便もなく、見られている感じはしても、織斑と俺とで分散されていて気になるほどでもなかった。もっとも、織斑の方はうんざりしてる様子だったが。案外、姉弟揃って神経質なのかもしれない。
「シャル……!」
午後の授業も終わり、お待ちかねの放課後になっても見られている状況は依然として変わらず、むしろ他のクラスから授業という拘束から解き放たれた生徒が大勢集まり、俺や織斑の動向を観察しているようだった。
まあこういうのは一過性のブームみたいなもんだからな。隣の家に犬の赤ちゃんが産まれたくらいの話題性と考えれば、隣近所だから見に行けない距離でもないし、見るだけなら飼うわけでもないのでタダ。ならそこまでの犬好きでなくても一目くらいは見ておこうかなという気持ちに……。
「シャルル!!」
「……あ?」
机に手を置かれ、ぼんやりとした感覚が戻る。頬杖をついたまま声の元を辿ると、シャルロットが上の空だった俺を見て、柔らかそうな頬をパンパンに膨らませていた。
「もう……。やっぱり疲れてるんじゃない? いつもより眠たそうだし、今日はこのまま寮の部屋に戻ろうよ、ね?」
その場でしゃがむと、シャルロットは席に座っている俺を見上げるように覗き込む。そんなに眠そうに見えるのか、いまの俺って。
シャルロットの言う通り、疲れてるか疲れてないかで言えば当然疲れている。慣れない環境で、今日一日だけで三日分も脳ミソを働かせた気分だ。……ああ、神経すり減らしたといえば。
「あー。なんか、大変な話になってたんだったな……」
大きく欠伸をする。
なんかもう帰る流れになってしまっているが、教室に残った俺たちは元々、これからどうするか話し合おうとしているところだった。来週の頭に向けてアリーナでトレーニングをするか、それとも今日はもう寮に戻ってしまうか、そういった話だ。
「ごめん。僕、ついカッとなっちゃって……」
しおれるシャルロット。彼女は俺が次の月曜にISの模擬戦をしなければならなくなったのは、自分がオルコットに啖呵をきったからだと、そう思い込んでいるらしい。
俺に言わせれば、あんなのどっちにしろこうなる流れだった。しかしそう言っても自分が悪いと頑なに譲らないのがシャルロットだ。放っておくと見当違いな方向へ沈みっぱなしになる。
はてさて、どっちが目を離せないタイプなんだか。
「気にするな、と言いたいとこだがそうもいかないな。あとでオルコットにも謝っておけよ」
怒鳴られてかなりショックを受けていたみたいだからな。あれでまだ小さく震えながらも気丈に振る舞えてるんだから、クラス代表は自分にこそ相応しいと言うだけあって、オルコットも相当肝の据わったやつらしい。
別にそこまで怖がるほどとも思わないが。経験上、怒ったシャルロットに詰め寄られたやつは顔を真っ青にしてひっくり返るか逃げ出すかのどっちかで、立ってられたやつなんて片手で数えられそうなものだ。
「あれはオルコットさんが悪い」
「……変なとこで真顔になるよな、お前って」
しょんぼり顔から急に真顔になるシャルロットの表情筋の活躍はさておき……。
シャルロットの沸点は基準がよくわからないところにある。幼なじみ歴十年以上の俺でも、こればっかりはどうしようもない。いや本当に。
なにがあっても動じない時もあれば、大して騒ぐほどでもないことに突然キレ散らかす時もある。別に鬱憤を抜けずに溜めてるわけでもなさそうなのだが。
そうなるともうさながら地雷原のそれで、おまけにこちらには探知機が支給されてないときてる。まず踏んでから解除しろというお話だ。
しかしその反面、わかっていることもなくはない。
「でも、シャルルがあんなふうに言われるのは我慢できないよ」
口を尖らせ、自分の事のように不貞腐れるシャルロット。
ご覧の通り、十年来の幼なじみは俺の悪口を聞くのが大層お嫌いなんだそうだ。今回の場合は俺と織斑の男子二人が気に入らないオルコットが、俺たちを指して野蛮な猿と呼称したのがどうもお気に召さなかったらしい。
内容がどうであれ、俺なんかに気を遣ってくれるのは嬉しいんだがな。
「あんなのはよくある話だろ」
……そう、よくある話だ。
ISは女性には使えて男性では使えない。
ISを使える女性は使えない男性よりも優れている。
ISを使えない男性は女性に劣っている。
そんな女性優位思想のある現代社会では、普通に生活してるだけでも男性が一部の女性から陰湿なハラスメントを受けることがある。彼女らの傲慢な振る舞いにカチンときて手を出せば、結局社会的に負けるのはこっちの方だ。
俺も外出時に絡まれたことは一度や二度じゃ済まされないが、まあそういうもんだと割り切ってる。いちいち目くじらを立てるだけ時間の無駄でしかない。
「よくある話で片付けるの、よくないよ」
が、しかし。そんなクソしょうもないことでマジになるのがシャルロットという少女なのだ。煽り耐性が低すぎて幼なじみとして心配になるレベル。
「僕が誰かに悪く言われたら、シャルルは怒ってくれるでしょ?」
「さてどうだか。知らんぷりするかもな」
もちろんそんなことはしない。だがそもそもの話、この世に完璧美少女のシャルロットを悪く言うやつがはたして何人いるのやら。
「怒ってくれたよ、ずっとずっと子供の頃に。僕は覚えてる」
「……あんなのもう昔すぎてなかったようなもんだろ。忘れとけ忘れとけ」
ちゃちゃっと片手を振る。あれは悪口というか、母子家庭のシャルロットがちょっかい出されてただけの話だ。好きな子に意地悪したくなる男子だの、可愛い子に嫉妬する女子だとか、よくある話だろ。
別にシャルロットが大袈裟に言うほど怒った訳でもないし、ちょっと話をしただけで……。あんなことが美談みたいになってもらっても、ぶっちゃけ俺は困る。
だから正直忘れていて欲しかったんだが……。
「嫌だ」
「嫌って、お前な……」
「嫌だよ。絶対に忘れないから。シャルルが忘れても、僕はずっと覚えてるから」
律儀というか、義理堅いというか。じっと目を見て言い切るシャルロットに、俺はこれ以上忘れろとは言えなかった。
「……でね、僕のために怒ってくれる人が悪く言われて黙っていられるほど、僕はまだ大人じゃないし、聞き分けのない子供のままでいたいなって……」
うん。まあ、それであんまり人様を怒鳴ったりとかしないようにね。
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俺には幼なじみがいる。
「シャルル、ねえシャルル。僕のシャルル。トレーニングするなら僕を呼んでって、言ったよね。一人でトレーニングしないでとも言ったはずだよ。そもそも疲れてるみたいだからトレーニングはなしって話だったよね。僕が悲しいのはそこだよ。また一人で無茶をしようとしてる。それでなくてもシャルルはすぐ無茶をするから僕がちゃんと見てないといけないんだ。なのに、どうして、こんなところに、僕がいないのに、ISを展開して、ねえ聞いてる? どうして僕がシャワールームにいる隙に抜け出して一人でここにいるのか、僕にちゃんと説明してよ。黙ってちゃわからないよ。僕が嫌なの? それならダメなとこを教えて、全部、僕ちゃんと直すから、僕のどこが嫌なの? やっぱりお昼のこと怒ってる? ごめんね、あんまりにも他の子たちがシャルルのこと見るから、それが嫌で睨んだりしちゃったけど、雰囲気を悪くするつもりはなかったんだ、本当だよ、信じて、ねえ、それともあれかな、違うならこれ? だめだ……僕じゃわからないよ、いやだ……こんな僕じゃシャルルにきらわれちゃうよ……ねえシャルル、僕のどこがだめなの……?」
「……お前
この幼なじみ、やっぱり恐い。
Q.お取り込み中とは?
A.そういうのに理解がある親の気持ちになりなさい。
〔|〕「知っていても狼狽えない。それが家族というものです」