俺の幼なじみは、 作:かわいいね
俺には幼なじみがいる。
「ふあ〜ぁ、しゃりゅる……ぼくもうねむいよぉ。しゃるりゅもつかれてるでしょ、きょうはもうねよ? ……なにしてるの? そっちに僕はいないよ? せっかく一緒の部屋になれたんだから二人で一緒のベッドに寝るのは当然でしょ? こういう時、仲のいい幼なじみは一緒に寝るのが普通なんだよ? それなのにシャルルは僕一人で寝ろって言うの? やだやだやだ! 今日から僕は一人で寝ないぞ、絶対にシャルルと寝るんだ。シャルルがそっちで寝るつもりなら僕がそっちに行くからね、ダメって言っても無理だよ。おじゃましまぁす……すやぁ……」
「……おやすみ」
この幼なじみ、じつは甘えん坊だ。
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「はい、あーん」
「…………」
「しゃーるーる、ほーら、口をあけてー」
「……シャルロット」
「ほらほら、スクランブルエッグだよー」
「シャルロット」
幼なじみは今朝も絶好調。
学園生活二日目の朝八時。一年生寮の食堂からお届けするのは、俺たちの朝食風景だ。右も左も女子しかいないことを除けばいつも通り。
シャルロットが自分のおかずを俺に分け与えようとしてくるのは昔からの習慣で、理由は二人で食事をしてる実感が欲しいからなんだと。よくわからんがそういうことらしい。
個人的に、手足の細い幼なじみにはもっと食べて肉をつけてもらいたいところなんだが……。
「おいしいよ〜。あ、ほら聞いて! この子も言ってる! 『ボクオイシイヨ! タベテ!』っね?」
「シャルロット!」
「うん、なにかな?」
あとはまあ、単純にこのやり取りを楽しんでるんじゃないか。毎日毎食、飽きもせずこうなんじゃ、違うとは言い切れないだろ。
ちなみにシャルロットのメニューは洋食セット。焼きたてのトーストにジャム、スクランブルエッグとウィンナー、あとサラダ。カップサイズのトマトスープもついてくる。
昨日の昼と夜もそうだが、IS学園の食堂メニューはどれも気合いが入っててうまい。ここの生活に慣れると自炊できなくなりそうだ。
そういえば学園は全寮制。早朝は弁当を持参したい学生向けにキッチンが開放されてると聞くし、俺も昼くらいは自分で用意するべきなのかもな。
「あれ、もしかしていまはスクランブルエッグじゃない気分だったりする?」
直前まで俺に食わせようとして、スクランブルエッグを掬っていたフォーク片手に、閃いたとでも言いたげな顔のシャルロット。
別に口の気分だとかそういう話じゃないと言いたいところだが、こういう時の対処法は別にある。慣れってのは恐ろしいもので、俺は考えるよりも先に手元を動かしていた。
「シャルロット」
「うん? はむっ……むぐむぐ、シャルルお箸使うの上手だね……はむっ……むぐむぐ、いつ練習してたの?」
とりあえず目についた玉子焼きをシャルロットの口の中に詰め込む。この作戦を成功させるには、とにかく相手に考える暇を与えないのがミソだ。
逆にこちらのおかずを食べさせることで、俺になにを食べさせるか考えさせず、先に満足させてしまえばうまく誤魔化せるって寸法よ。ちなみに攻めが甘いとお返しとして話がぶり返す。
目安としてはシャルロットが他のことに意識を向けたかどうか。話題が明確に変わったら、ひとまず詰め込むのをやめてよしとする。
で、箸の練習だったか?
「昨日の晩、寝る前に少しだけな。これを食うのにフォーク使ってちゃ雰囲気台無しだろ?」
茶碗からご飯をいくらか取ってみせる。昨日の今日でさすがに持ち方は少し不格好だが、段々コツも掴めてきたところだ。
ちなみに俺が今朝頼んだメニューは和食セットB。焼き魚はまだハードルが高いので、そっちがメインのAではなく煮物がメインのBをチョイスした。魚はまた今度ということで。
「へー……お箸か。よし、シャルルが気に入ってるなら僕も挑戦してみよっかな」
「まあ慣れといて損はないだろ、多分」
と、話している内に食事も終わり、俺たちは早めに食堂を出た。
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どれだけ朝食べたとしても、昼になればおのずと腹は減るもの。これはもう仕方のないことだ。健康的に生きてるなによりの証拠でもある。
「ううん、結構混んでるね。どこか二人一緒に座れる席が空いてればいいんだけど」
「そうだな。前の、社食が混んでた時みたいなのは二度とゴメンだ」
「僕はそれでもいいけど?」
「……膝が痺れるんだよ、あれ」
と、いうわけで昼休み。俺とシャルロットは揃ってまた食堂にいた。朝と違ってえらい混みようで、空いてるテーブルを探すのにも一苦労といったところ。
なにせうちの幼なじみ姫は俺と同じ席での食事をご所望だ。この身に余る栄誉と引き換えなら、これくらいの苦労も仕方あるまい。むざむざ膝を生贄に捧げることもないしな。
「……向こうが空いてそうだ」
「ほんと? じゃあそっちに行こうか」
昼食の載ったトレーを手に、空いてるテーブルに向かう俺たち。するとそこにはどこかで見た後頭部が。
「よう、人気者」
「ん? あれ、シャルルか」
織斑、もとい一夏がいた。ちょうどいい、相席させてもらうついでに親睦も深めておこう。お互いなかなか都合のいいタイミンが合わないからな。
「昼は混んでて大変だな、一夏。ここいいか?」
「お、おういいぜ。別に誰か待ってるわけでもないしな。箒もいいだろ?」
聞いて驚くことなかれ、一夏にも幼なじみがいる。目の前で味噌汁を飲む彼女がそうだ。すごい偶然もあったものだな。
「……構わない」
「よし、なら決まりだな。一夏、助かる」
「篠ノ之さん、隣に失礼するね」
一声かけてからテーブルにつく。篠ノ之の隣がシャルロット、俺は一夏の隣。
「あ、なあ聞いてくれよシャルル、箒が──」
「ねえ。君たちが噂のコでしょ?」
さっそく、一夏が親睦を深めようと話を切り出してきた途端、いきなり横槍が入る。赤いリボンからして三年生らしい。どうでもいい情報だが、一年は青、二年が黄色だ。
「……噂?」
「はあ、たぶん」
俺の代わりに一夏が返事をすると、三年の先輩はその場で腕を組んだ。俺たちに話しかけてきた時点でわかりきってたことだが、どうもこの先輩ここに居座る気でいるらしい。若干前かがみになりつつ、話を続ける。
「代表候補生のコと勝負するって聞いたけど、ほんと?」
「まあそうですけど、ちょっと違いますかね」
「先にここの二人が模擬戦をして、勝った方がその代表候補生と試合をするんですよ」
人から推薦を受けた候補者同士でより優れた方、オルコット風に言うならばクラス代表によりふさわしい方が、クラス代表の座をかけてオルコットと勝負をするという運びだ。
というわけでシャルロットが補足するが、そこは先輩にとってあまり重要ではなかったらしい。
「ふーん……でも君、素人だよね? IS稼働時間っていくつくらい?」
「いくつって、二○分くらいだと思いますけど……シャルルは?」
「俺か?」
まさか自分に話が振られるとは思ってなかったので面食らう。そこは一夏がずっと先輩とお喋りしてる流れだろ、だから一言も話さないつもりでいたってのに。
で、俺のIS稼働時間だっけか。んなの細かく覚えてないっての。ここでそんな数字が必要になってくるとも思わなかったしな。
えー、っとだな。シャルロットの付き添いでデュノア社に行った何回目かの土曜、親父さんが気を利かせて会社見学をさせてくれて、そん時に無人のISに触れるかなにかして起動させてしまったのがもう何ヵ月も前で、そっからちょくちょく乗る機会があってほどなくして専用機も与えられてたから……。うん、いちいち考えるのも面倒だ。
「……まあ一夏よりは多いんじゃないか?」
二○分よりは多い、それでいいだろ。
「その程度じゃあ無理よ。ISは稼働時間がものをいうの。その対戦相手、代表候補生なんでしょ? だったら軽く三○○時間はやってるわよ」
なんとも胡散臭い口振りだが、目は本気だ。このままだとどうやら俺たちの敗北は濃厚らしい。俺は別にそれでもいいんだが、シャルロットの期待を裏切るのもなんだか悪い気がしてならない。どうしたものやら。
「でさ、二人に私が教えてあげよっか? ISについて」
提案しつつ、物理的な圧をかけてくる先輩。
あ、っと……。さては最初からそのつもりで話しかけてきたな。やべぇ。これが逆ナンというやつか!
「はい、ぜ──」
「結構です。彼は私が教えることになっていますので」
と、一夏と幼なじみの篠ノ之が断りを入れる。
俺も必要ならシャルロットがいるし、善意で提案してくれたとこ申し訳ないが断らせてもらうか。
「あなたも一年でしょ? 私の方がうまく教えられると思うなぁ」
「……私は、篠ノ之束の妹ですから」
四時間目の授業の頭では否定していたことを、ここで自分の口からはっきりと宣言する篠ノ之。
「篠ノ之って──ええっ!?」
そう、篠ノ之はISの生みの親、篠ノ之束の親族なのだという。あの様子からしてあまり家族仲はよくなさそうだ。
関係を訊かれた教師が親族だと認めた中、無関係とまで言い切ったからな。それも大勢の前で。
「ですので、結構です」
「そ、そう。それなら仕方ないわね……」
その名前を出されちゃ敵わないと言わんばかりに、先輩はあっさりと身を引いて立ち去った。
……ひょっとしなくても篠ノ之が俺たち二人を見るもんだと勝手に思ってくれたんだろうか。いや、さすがにお二人さんの邪魔はしないって。
「なんだ?」
不思議そうな顔して見つめる一夏に、篠ノ之は眉を顰めた。
「なんだって……いや、教えてくれるのか?」
「そう言っている」
「あー、よかったじゃないか一夏。まあ頑張れや」
激励も兼ねて肩を叩く。IS稼働時間がたった二○分の一夏は、俺よりも厳しい戦いを強いられるはずだ。
専用機も国から支給される予定とはいえ、それがいつになるかわかってない状況だからな一夏の場合は。一応週明けには間に合うって話だったが。
「篠ノ之さん、幼なじみっていう立場はお守りじゃないんだから、ちゃんと使わなきゃ意味ないんだよ」
「……?」
ああ篠ノ之、シャルロットが意味のわからないことを言い出すのはよくあることなんだ気にしないでくれ。耳に入った内容を全部考えてたら日が暮れるからな……。
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俺には幼なじみがいる。
「……はい、時間もちょうどいいし今日のトレーニングはここまでかな。さて、突然だけど先生役の僕にもやっぱりなにかご褒美があって然るべきだと思うんだよね、ほら労うっていうか、今日も一日頑張ってて偉いね、みたいなの。シャルルはいい子にはどうすればいいと思う? 僕はスキンシップがいいと思うな。関係ないけどここ見て、ほら、ここが空いてるよ、手を置いてスリスリできそうだね、きっと触り心地は悪くないはずだよ、ちょっと試しにやってみたらどうかな、ねえシャルル! なでて! 髪わしゃわしゃして! あわよくば抱きしめてもふもふして! はやくはやく!」
「……お疲れさん」
この幼なじみ、やっぱり甘えん坊だ。
シャルルの特徴
距離感がややバグり気味
慣れで感覚が麻痺している
別にスキンシップそのものは嫌ではない
変だとは感じてるがおかしいとは思っていない
そもそもシャルロットだから仕方ないと思っている
普通の定義がややズレている
一般常識は備えているが幼なじみ絡みではあまり適応されない
数々の応援、ありがたき幸せ。
〔|〕「仕事が片付き次第、感想に順次返信していくのでそのつもりでいてくださいね」