俺の幼なじみは、   作:かわいいね

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なんやかんや続く


僕の幼なじみは、ずるい

 僕には幼なじみがいる。

 

 

「いい、無理だけはしないでね。シャルルが試合に勝ったならそれはもちろん嬉しいけど、僕にとって大切なのはシャルルが怪我をしないで帰ってくることだから。僕はここで待ってるよ。勝っても負けても、ここに戻ってきたらおかえりなさいって、ぎゅーっとしてあげる。行ってらっしゃい!」

 

「……汗臭くなってるだろうからやめてくれ」

 

 

 幼なじみの彼は、ちょっぴりずるい。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「よう、災難だったらしいな」

 

 

 片手を軽く上げて、対面のピットから出てきた一夏と白いISを出迎える。予定より五分遅れての入場だ。日本人ってやつは時間に煩いって聞いてたんだがな……。

 

 さて。月曜の放課後、場所は第三アリーナ。これから俺と一夏の模擬戦が始まるところだ。先に予告しておくと、まともな試合にはならなさそうなんで悪しからず。

 

 

「ああ。なんとか間に合った」

 

 

 やる気のわりに、真っ直ぐ飛ぶのもおっかなびっくりな様子の一夏。動きが全体的にぎこちなく感じられるのは、別に俺の気の所為ではないだろう。

 それもそのはず。この男、遅刻の理由が専用機の到着の遅れだというのだからなんとも災難だ。つまり慣らし運転どころか最初のフォーマットやフィッティングすら済んでない可能性が高い。

 

 

「戦えそうか?」

 

「やるだけやってみるさ」

 

 

 手を開いたり閉じたりしながら、一夏は威勢よく応えた。専用機の名前は白式、だから装甲が白いのか。

 

 その意気やよし。……けどな。

 

 

「ならまずピットを出る前にメインの武器くらいコールしとけ。これ、基本だぞ」

 

「……あっ」

 

 

 次いで、銃口が上を向くように片手で構えた五五口径バトルライフル《ヴェント・カスタム》を一発撃つ。まさか俺がこれをする側に回るとはなぁ……。

 

 

「それと棒立ちもするな、動け。もう試合はとっくの昔に始まってるぞ。いまからでも俺がお前のシールドエネルギーを半分に削れることを忘れるな、ロック警告が出た瞬間に動けなけりゃ死んだと思え」

 

 

 続け様にヴェント・カスタムをもう一発撃つ。今度は銃口をきっちり一夏に向けて。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 ガンッ──! 重たい音と共にヒットマーカーが表示され、白式の装甲が僅かに歪む。

 オートガードで真芯への直撃は避けたようだが、白式のバリアーを貫通した弾丸は一夏の左肩に命中していた。

 

 

「隙を晒すな、いい的だぞ。まるでボーナスバルーンだ」

 

 

 一度の回避で既にグロッキーな一夏にいくらか追撃を入れ、頃合いを見て小休止の時間を与える。

 ISの緊急回避は優秀だが、そのぶん操縦者への負担も大きい。特に回避復帰の自動姿勢制御が中の人をいい感じに振り回してくれる。いまの一夏のように。ブラックアウトを防ぐ機能がISになかったら、あっという間に脳虚血で気絶してるだろうな。

 

 

「一夏、さてはお前、ISのトレーニングなにもやっちゃいないだろ」

 

「うっ゛……」

 

 

 カスダメにもならないダメージを白式に負わせたところで、俺は以前から気になっていたことをここで確認することにした。

 というのもこの一週間、一夏と篠ノ之の姿をアリーナで見かけたことが一度もなかったのだ。放課後誰よりも早く教室を出ていく二人を見ていただけに、それがあまりにも謎だった。

 

 

「篠ノ之に面倒見てもらうって話だったよな。お前、今日までなにやってた?」

 

 

 まさかとは思うが、座学しかやってないなんてオチじゃないだろうな。いやそれにしたって基本もなってないような気がするのはおかしいんだが。

 

 

「……それが、なんつーか……」

 

「まあ、とにかくあったことをそのまま言ってみろ」

 

 

 途端、なぜか観念したように項垂れる一夏。

 

 

「やるにはやったんだ。その、剣道の稽古をみっちりと」

 

「……他には?」

 

「いや、それだけだ。六日間剣しか振ってない」

 

「…………」

 

 

 絶句とはこのことを指すんだろう。いちIS操縦者として、基礎身体能力が高いに越したことはないとはいえだ。……これが音に聞く日本人のSAMURAI魂なのか。

 

 

「お前、そんな状態でどうやって英国のお嬢さんに勝つつもりだったんだ?」

 

「どうって……なるようになるとしか言えないな」

 

「つまり当たって砕けるつもりってことか」

 

「うぐ……」

 

 

 なるほど、図星か。負けるつもりで挑む気はなかったとはいえ、出たとこ勝負でいくつもりだったと。

 

 

「……よし、わかった」

 

「シャ、シャルルさん?」

 

「いまからお前に踊り方を教えてやる」

 

「は?」

 

「ショコラータ式の社交ダンスだ。案ずるなこの俺も通った道だぞ、気合い入れて覚えろ。そんで、エリート気取りの英国のお嬢さんの鼻をぱっと明かしてやれ」

 

 

 こうして、直後に手持ちの武器が近接ブレード一本しかないことが判明する一夏との、過去に類を見ない恐るべき激闘がはじまった。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「……そっか。なんだかシャルルらしいや」

 

 

 シャルル側のピットで一人、リアルタイムモニターを見ていたシャルロットが独り言ちる。視線はすっかり幼なじみのシャルルに釘付けだった。

 

 

『どうした! 俺とお前は同じ条件だぞ! 遅い! 武器が近接ブレード一本なら相応の戦い方をしろ! リーチの長い鋼鉄の足を使え、遊ばせてる腕も拳も、使えるものは全てだ! 地に足つけて戦ってるんじゃないんだからな! 三次元的な動きを常に意識しろ、焦るな、俺も慣れには時間がかかった、マシな動きができるようになるまで何度もボコボコにされた!』

 

 

 試合開始から三〇分。シャルルが織斑一夏に向けてした宣言通り、模擬戦は途中から即席のIS教室、実践・応用編と化している。

 後に試合を見ていた上級生たちは総じて授業のおさらいを見ているようだったとコメントし、一年生はそう遠くない未来でこれあの時見たやつだと驚いたそうな。

 教師をして超ハイスピードな詰め込み教育だと舌を巻くそれを、他でもないシャルロットの幼なじみが披露しているのだ。

 

 

「はあ……シャルルかっこいいよシャルル」

 

 

 手にした出処不明のTシャツとクマのぬいぐるみを胸元に抱き寄せるようにして、甘いため息をつくシャルロット。

 

 

「それに、優しいんだ。とっても……」

 

 

 明らかにISの操縦に慣れてない一夏をそのままにしておかず、ある程度マシな動きができるようになるまできちんと面倒を見る。シャルルがそういう人間であることを、シャルロットはよく知っていた。

 

 

「僕……僕は、その大きくて深い心根に救われたんだ」

 

 

 他ならぬシャルロット自身がそうだったからだ。酷く落ち込んだ時、シャルルは彼女を支え、力になってくれた。

 そんなシャルルがいたからこそ、いまのシャルロットがある。……それが良くも悪くも。

 

 

「……でも、三〇分は僕にはちょっと長いかな……」

 

 

 モニターの中のシャルルは応えないし、シャルロットと目も合わせない。下手に姿が見えるだけ、状況は完全に一人でいる時よりも酷いかもしれない。

 長いこと抱きしめられて人肌に温められたクマのぬいぐるみに、シャルロットは幼なじみの低めの体温を見出しつつ、襲い来る強烈な寂しさをなんとか紛らわせていた。

 

 

「シャルル……寂しいよ……」

 

 

 シャルロットの我慢もそろそろ限界を迎えようとしている中、試合は大きな動きを見せた。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「……あっ!」

 

 

 一夏側のピットでモニターを見ていた山田真耶が、素っ頓狂な声を上げる。

 画面の向こうで戦っている白式に、わかりやすく変化が起きていた。

 

 

「一夏っ!」

 

 

 僅かに負っていた実体ダメージがすべて消え、光の粒子となって新たに形成、変形し洗練されていく白式の装甲。一夏が手にしていた近接ブレード──これもまた形状が変化している──の装甲が一部スライドして展開、そこから溢れ出た光が収束し、刀身を生み出していた。

 

 

「あれは、織斑先生の……?」

 

「……ふん」

 

 

 意味深なやり取りをする大人組を他所に、画面の白式は動く。

 そう、純白の専用機がいま、本当の意味で一夏の専用機となったのだ。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 ──雪片。それは、かつて千冬姉が振るっていた専用IS装備の名称。

 そして俺が手にしているこのブレードの名前は、近接特化ブレード・雪片弐型。

 

 ふと、千冬姉の大きな背が見えたような気がした。その背中はずっと俺を守ってくれていた背中だった。

 今日の試合でわかったことがある。それは、いまの俺は弱いってことだ。でもいつかは、これからは。

 

 俺も、俺の家族を守れるようになりたい。

 

 

「俺には、世界で最高の姉さんがいるんだ」

 

「ほお、奇遇だな。俺にはこの宇宙で最高の幼なじみがいる。世界で最高の両親にフランス一の師匠。人の一生でこれ以上の贅沢はないだろうな」

 

 

 だからレヴェナント(この機体)はシンプルなんだとシャルル。後付装備が最初に見せた銃と今装備してるIS用コンバットナイフしかないことを試合の途中に明かされ、俺は妙な親近感を覚えた。白式なんか雪片しかないんだもんな……。

 

 

「レッスンは卒業。こっからが本番だ。お前の最高、俺にぶつけてみせろ」

 

「ああ。とりあえず、千冬姉の名前を守れるくらいにはなれないとな!」

 

 

 言い終えるよりも早く、動く。

 試合の最初に俺がやられたこと。不意打ち気味に加速し、シャルルの懐に飛び込む。圧倒的に使いやすくなった機体に驚かされつつも、俺は最初の手に打って出た。

 

 

「おおおおっ!」

 

 

 いける。雪片の使い方ならずっと見てきた。

 握りしめて込める想いに応えるように、雪片の刀身から光が溢れ出くる。

 

 シャルルと目が合った。口元が笑ってる。この一撃はきっと避けられるだろう。けれどその次の手は? 次の次、そのまた次だったら?

 俺は勢いそのままに袈裟払いを放つ。この一撃をどう次の一撃へと繋げるか、そう考えながら。

 

 

 ──が、斬撃を放った次の瞬間、俺の想像に反して、決着を告げるブザーが鳴り響いていた。

 

 

『試合終了。勝者──織斑一夏』

 

 

 えっ……?

 

 

「は?」

 

 

 たぶん俺はいま相当間抜けな顔をしてるはずだ。ぽかんと口を開けて、すぐにでも「なんで?」と言えるような。

 そしてそれは俺だけではなく、今日の試合を見ようと観客席に詰めかけてきた第三アリーナのギャラリーも、ピットで試合を見守っていた箒や、山田先生もそうだった。

 ただひとり、渋い顔をしている千冬姉を除いて、避けられたはずの斬撃を避けようともせず、真っ向から食らってエネルギーがゼロになったシャルル本人だけは、俺と向き合ったまま珍しくケラケラ笑っていた。

 

 

「クラス代表をやるのは俺も御免だったからな。オルコットに負けることなく、代表をやらずにすむ方法はこれだけだったわけだ。悪いな、一夏」

 

「悪いな……ってオイ」

 

「どう負けたものか考えてたら都合よく必殺技みたいなのが飛んできたんだ。あんな大波に乗らない手はないだろ、ってなわけで次はオルコットとの試合だな。ま、頑張れや」

 

 

 たったの一撃で試合が終了して、結果は栄えある勝利……の、はずなんだが。

 勝ったはずの俺は、なんだか負けた気がして仕方なかった。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 僕には幼なじみがいる。

 

 

「おかえりなさいシャルル、お疲れさま! 大変そうだったね。負けちゃったけどすごくかっこよかったよ、これでシャルルのことを悪く言う子もいなるなるんじゃないかな。あ、いま一瞬忘れてると思ったでしょ。戻ってきたらおかえりなさいって、ギューってしてあげる約束だったよね。えへへ、もちろんしっかり覚えてるよ。汗かいてるだろうから、じゃーん、タオルも用意してました。これで汗を拭いて、体を冷やさないようにね。はい。拭いた後のタオルは僕がついでに洗濯しておくから、使ったら僕に渡してくれると助かるかな。あれ、あれれどこ行くのシャルル?」

 

「……先に戻ってシャワー浴びるわ」

 

 

 幼なじみの彼は、やっぱりずるい。




《レヴェナント》
和名:帰還者
型式:MR-08/SS
世代:第二.五世代
国家:フランス
分類:全距離対応撹乱型
装備:バトルライフル《ヴェント・カスタム》
   近接ショートブレード《ブレード》
   他、固定式装備複数
装甲:衝撃吸収性サード・グリッド装甲(特殊軽量化仕様)
仕様:パージ、???

シャルルの専用機。デュノア社の次期量産型ISの座をラファール・リヴァイヴと争い、汎用性の圧倒的な差によって競合に負けたミラージュ・ルヴニールを専用機として改良したもの。同じ会社で開発されたものらしく、外装はリヴァイヴと似通っているものの、やや第一世代の面影が残っており、装甲やバススロットを利用しない腕部ユニット等の固定装備に表れている。専用機への改修に伴い、デュノア社で開発中の第三世代機のデータが一部使用されているため厳密な世代は第二.五世代だが、一般には第二世代で通してある。


《ヴェント・カスタム》
ヴェント・カスタムはヴェントのバトルライフルモデルです。
高速で高い威力の弾丸を直射します。射程距離が強化されており、安定したダメージが期待できます。

《ブレード》
ブレードはデュノア社の近距離兵器です。
弾丸やエネルギーを用いず、堅牢な金属で作られた刃によって対象を容易に切り裂くことができます。超至近距離での使用に適しています。


EWACジェガン、グライフェン、あの手のデザインが理想に近い。単に腕が太いだけというのではなく、腕にごてっとパーツが装着されてる形式がよいのだ。


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