アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 ゲットだぜ!


Story09:トレーナー室

 メイクデビューにて圧倒的な勝利を収めて数日後。

 俺は理事長に呼び出しを受けていた。

 まさかタキオンの処遇が……とビクビクしながら理事長室に入る。

 

「歓迎! よく来てくれた!」

「どうぞこちらにお越しください」

 

 理事長とたづなさんの言われた通り、机の前に立つ。

 満足そうにしている理事長がたづなさんに目配せすると、彼女は俺に書類を渡してきた。

 これは……トレーナー室の申請書類だ。

 

「アグネスタキオンのデビュー戦、みごとだった!」

「素晴らしい結果でしたね。見ていてドキドキしてしまう走りでした」

「肯定! 故に、改めて処遇を決めた! もちろん、在学だ!」

 

 おお! 思わず声が出る。

 これでタキオンは退学せずに済む!

 

「うむ! これからの活躍に期待している!」

「学園側からのサポートとして、トレーナー室の使用許可を出します。本当はすぐに出すべきだったのですが……遅くなってしまい申し訳ありません」

 

 頭を下げるたづなさん。すぐに頭を上げてもらうよう話す。

 そもそもタキオンが悪いわけですし。

 

「学園はやる気のあるウマ娘でも、スターになれるのはほんの一握り。悔しいが、やる気が見られないウマ娘を置いておける余裕がなかったのだ」

 

 それはそうだ。

 トレセン学園はものすごい数のウマ娘がいるし、毎年新入生だって入学してくる。

 走るつもりがないウマ娘なんて周りの迷惑にしかならないだろうからな。

 モチベーションの低下につながるんだ、やる気のなさっていうのは。

 

「しかし! メイクデビューを見て確信した!」

「アグネスタキオンには夢を見せる魅力がある!」

 

 ビシッと扇子で俺を差し、力強くそう話す理事長。

 

「激励! これからの活躍に期待する!」

「私も応援しています。頑張ってくださいね、トレーナーさん」

 

 はい!

 大きな声で返事をすると、2人とも嬉しそうに笑ってくれた。

 タキオンと一緒にトゥインクル・シリーズを走り抜くぞ! そう気合を入れ直す。

 

「ところで、トレーナーさん」

 

 ぐっと拳を握っていると、たづなさんがもじもじして何かを言いづらそうにしている。

 なんだろう?

 

「タキオンさんが理科教室をつかっていることなんですけど」

 

 あっ。

 

「あそこは教室なので、実験の場所を移してほしいんです。その……トレーナー室に」

 

 ということは……。

 

「うむ。残念だが……」

 

 もらったトレーナー室がラボになるってことですか!

 

「決定! いや、決定ではないのだが……すまない!」

 

 困ったようにそう言った理事長を見て、がっくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「へぇ、思ったより広いじゃないか。水場もあるし、中々いいところだね」

 

 タキオンと一緒にトレーナー室に入って室内の状態を確認する。

 トレーナー用の机と、ミーティングをする用のテーブルと椅子。あとはニュースなどを確認するためのテレビもある。

 結構広いんだな……。

 

「とりあえず私は実験道具を持ってくるよ。やれやれ、面倒だが教室を私物化していたのも事実だからね」

 

 便利だったんだけどなーとぶつぶつ言いながらトレーナー室から出ていった。

 俺は持ってきていた資料とノートパソコンを机に置いて、仕事の環境を整える。

 ある程度整理できたところで、タキオンも戻ってきた。

 

「トレーナー君、手伝っておくれよ。私1人では時間がかかりすぎる」

 

 ガチャガチャと試験管やらビーカーやらをテーブルに置いている。

 どれだけ量があるんだ、それ……。

 

「実験には色々必要なんだよ。物を溶かして混ぜたり薬を冷やしたりね。それに清潔でなくてはならないから掃除の用品だっているんだ。実験器具以外がかさばるんだよ」

 

 ひとまとめにしてあるから取ってきてくれと言うので、渋々取りに向かう。

 理科教室に入ると確かに器具やその他の用品がひとまとめにしてあった。

 何にも包まれず、全て裸のままで。

 

 見た瞬間にもうげんなりしてしまう。

 なんだろう……小さな子どもの片付け方だ。

 片付けておいて。はーい。そう言って部屋のすみっこにとりあえず全部かためて置いておく。

 それは片付けじゃないんだよ。

 

 ガラス製品ではない頑丈なものを別の何かよくわからないものが入ったダンボールに叩きこみ、まとめて持っていく。

 そりゃあ時間かかるわ! そう言えばさっき戻ってきたタキオンは両手で持てるだけのビーカーなんかを持ってきただけだった。

 効率を気にする割にはえらい雑だなぁ。

 

「おや、ずいぶんたくさん持ってきてくれたんだね」

 

 トレーナー室に戻るとタキオンがニヤリと笑って俺を見る。

 テーブルにダンボールを置くと、うんうんと頷きながら中身を取り出していく。

 ……最初から俺に全部運ばせるつもりで適当においていたな?

 

「おや? その顔はどうやら気づいてしまったようだね。まあまあ、私の世話をするのが君の役目じゃないか。頼むよトレーナー君」

 

 悪びれもせずそう言ってきた。

 なんてひどいウマ娘なんだろうとタキオンを見ると、視線を感じたのか俺のほうを見た。

 

「なんだい、トレーナー君。そんなカフェみたいな目で私を見て。もしや、薬でも飲みたくなったのかい」

 

 怪しく笑いながらどこからともなく薬入り試験管を取り出してゆらゆらと俺の前で揺らす。

 慌てて別の話題を考える。

 か、カフェってよく一緒にいるマンハッタンカフェ?

 

「そうだよ。君も面識があるだろう」

 

 マンハッタンカフェとはちょこちょこ会う。

 というのも、俺がタキオンの薬を飲んで体を光らせたりしている時に気にしてくれるのはあの子ぐらいしかいない。

 困った顔で大丈夫ですか、とコーヒーを差し入れしてくれるのだ。

 

「君はカフェのコーヒーをよく飲んでいるが……信じられないよ」

 

 彼女がくれたコーヒーを思い出していると、タキオンが苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見てくる。

 今まで見た時のない表情だ。何が悪かったのだろうか。

 

「何が悪いって? そんなの決まっているじゃないか」

 

 そう言ってタキオンはビシッと俺を指さす。

 え、俺?

 

「コーヒーだよ、コーヒー! なんであんなに苦い飲み物を飲むのかな、君たちは!」

 

 コーヒー?

 首を傾げていると、やれやれと肩をすくめて首を振られる。

 

「いいかい、トレーナー君。私は基本的に紅茶を飲むんだけどね。紅茶は香りとほんの少し茶葉の苦みがあるだろう? わかるかい?」

 

 それはわかるよ。

 

「コーヒーも同じようだね。苦みに香り。同じなら紅茶でいいじゃないか。そこに砂糖、気まぐれでミルクを1差し。どうだい? うん?」

 

 つまりはタキオン。

 コーヒーが飲めないってことだな。

 

「飲めないんじゃない、飲まないんだ。何故あんな泥水みたいなものを飲むのか意味がわからないよ」

「泥水じゃありません……」

 

 突然第3者の声が聞こえてきてビクッとなる。

 誰だと思って入り口を見ると、マンハッタンカフェが物陰からじ……とタキオンを睨んでいた。

 

「おや、カフェじゃないか。どうしたんだい、そんなところで睨みつけて。もしかして実験に協力を……」

「コーヒーを侮辱されたので……すみません、トレーナーさん……」

 

 いや、別にいいけど。

 作業が止まっていたので、ダンボールから物を取り出してテーブルに置いていく。

 その間、タキオンとマンハッタンカフェは舌戦を繰り広げていた。

 

「コーヒーは、おいしい飲み物、です……奥深い味わいがあるんです……」

「紅茶だって奥深いものだよ? 産地で味が違うし、香りも違うんだ。味だってそうさ。入れ方で味も変わるからね」

「コーヒーには、バリスタという専門の人もいます……紅茶とは、違います……」

「おいおいおいおいカフェ? ティーインストラクターという人たちだっているんだよ?」

 

 マンハッタンカフェがコーヒー党でタキオンが紅茶党のようだ。

 正直俺はどっちも飲むからどうでもいい。

 空になったダンボールを持ってトレーナー室から出ていくと、まだ室内から話し声が聞こえていた。

 

 トレーナー室をもらって頑張らなきゃと身構えていたけど、なんとかなるか、とタキオンとカフェの戦いを聞いて気が緩むのだった。

 荷物を持って戻ってきた時に「どっち派なんだ」と詰め寄られて恐怖を覚えたのは割愛する。




Report:●×年7月○□日

 トレーナー君がトレーナー室をもらった。
 私は理科教室を取り上げられた。
 結果、ラボはトレーナー室となった。
 移動は面倒だったが、今後は大義名分が色々できるから実験がやりやすくなるだろう。

 それよりもカフェだ!
 コーヒーよりも紅茶のほうがよっぽどいいだろう!
 トレーナー君もどっちも飲むからなぁとか玉虫色の回答をしてくるし。
 いかに紅茶が良いものか、トレーナー君に教え込む必要があるみたいだね。
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