アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 次のレースは如何せん


Story10:次走

「次のレースについて?」

 

 アルコールランプで試験管を熱しているタキオンは不思議そうにこちらを見た。

 メイクデビューを終えて、研究とトレーニングを続けている。

 ならば次に出走するレースについて考えなければならない。

 だってトゥインクル・シリーズに参戦してるのにレースに出ないとか意味が無いからな。

 

「と言ってもだね、私は研究に忙しいんだよ。君も研究に付き合ってくれているのだからわかるだろう?」

 

 日夜研究と薬の開発をしているタキオンは、本当に最低限のトレーニングしかしないし、レースについての勉強や調査もしない。

 その他の時間を全て研究につぎこんでいるわけだ。

 結局研究の最終目標が何なのかは教えてくれないので、どうしたいのかさっぱり。

 

 だが、目標と言うか期限を決めなければタキオンは動いてくれない。それはメイクデビューを設定した時にわかった。

 逆に言うと、期限さえ決めれば渋々やってくれるということだ。

 本当に渋々だけど。

 

「確かに期限を決めるということは大切だ。時間は有限だし、効果がでそうにない配合はある程度の試行を経て切り捨てるべきだからね」

 

 試験管を揺すって溶けたものを丁寧に混ぜる。

 少しずつ中の液体が赤色になってきた。

 

「うーん、でもなあ。前にも言ったけれど、レースのレベルが問題なんだよ。最低でもGⅠレースでのデータが欲しい。しかし、ジュニア級ではほとんどないだろう? GⅠレースなんて」

 

 確かに、ジュニア級では挑戦できるGⅠレースが少ない。

 阪神ジュベナイルフィリーズ。阪神フューチュリティステークス。

 そしてホープフルステークス。この3つだ。

 

 タキオンはレベルの高いレースなら出てもいいということを言っている

 ならば簡単だ。この3つのどれかを目標にすればいい。

 この不健康なマッドサイエンティストウマ娘の適正は中距離だと思われる。

 となると、出走するレースは1つだ。

 

 ホープフルステークスに出よう!

 

「ホープフルステークス? ああ、確かに今はGⅠレースだったね」

 

 元々はGⅡレースだったのが、GⅠレースに格上げされたホープフルステークス。

 中長距離を目標にしている、実力のあるウマ娘が挑むレース。

 かなりいいデータが取れるんじゃないかと思うんだけど。

 

「ふぅン……誰が出るのか決まっているのかい?」

 

 まだ先だから確定じゃない。

 今のところ素晴らしい実力派なウマ娘が参戦予定ではあるみたいだけど。

 例えばそう、アマゾントリップ。もしくはミナモトライコウ。

 デビュー戦でタキオン同様とてつもない力を見せて話題になっている。どちらもかなり強いウマ娘だ。

 

 あとはマンハッタンカフェだろうか。

 メイクデビューで3着だったが、最近体調不良になっていたらしい。

 調子を戻してから未勝利戦を頑張りますと言っていた。

 

「ああ、みんな知っているよ。そうか、彼女たちが出るのか」

 

 アルコールランプにキャップを被せて火を消し、試験管を揺らしてこちらを見る。

 

「いいだろう! ホープフルステークスに出ようじゃないか」

 

 ニヤリと怪しく笑いながら、出走を決意してくれた。

 よし! 思わずガッツポーズをとる。

 そんな俺に、スッと試験管を差し出してくるタキオン。

 

「その代わり、わかっているだろう? まあ、対価と関係なく飲んでもらうけどね」

 

 まあ、うん。

 知ってたよ!

 げんなりしながら試験管をもらって薬を飲むのであった。

 作ったばかりで熱すぎて一気に飲めず、タキオンが不機嫌になったのは割愛させていただく。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 練習場にタキオンを呼び出した俺は、せっせとトレーニングの準備をしていた。

 それを見た彼女は不思議そうに持ち込まれたものを見て声をかけてくる。

 

「なあトレーナー君。これはなんだい? 見たところぱかプチのようだが」

 

 ぱかプチだよ。

 そう言って紐でくくられたぱかプチをタキオンに手渡す。

 

「おいおいモルモット君。トレーニングだと聞いて渋々来てやったんだぞ? それなのにぬいぐるみ遊びかい? ふざけているなら研究に戻るぞ、私は」

 

 何を失礼な!

 これは先輩から教えてもらった、由緒正しいトレーニングだぞ!

 効果があるかどうかはウマ娘の相性次第だって言われたけど。

 

「トレーニング……? これが?」

 

 困惑してぱかプチを見ているタキオンをよそに、彼女にひもをくくりつける。

 縛り終えて、とりあえずぱかプチを落とさないように1周2,000mを走ってきてほしいと話した。

 

「ふぅン。私のこの滑稽な姿を見てまだトレーニングだと言うんだね。やれやれ、とんだトレーナーを担当にしたものだよ」

 

 ぶつぶつ言いながらタキオンは走り出した。

 スタートダッシュで直線を走っている時は全く問題はない。

 ウッドチップが跳ね、引っ張られて宙に浮くぱかプチに当たる以外は。

 

 しかし、コーナーに入ったところで減速すると、ぱかプチが地面に落ちてずるずると引きずられていく。

 音で気づいたのかタキオンが振り返り、一瞬ムッとした表情を見せる。

 コーナーから出るとまたスピードが上がり、ぱかプチは宙に浮く。しかし既にウッドチップが刺さったり繊維に引っかかっていて、何とも言えない姿に。

 

 向こう正面を終えてコーナーに入ると、今度は外側に膨らみながら走ってくる。

 コーナーでの減速によってぱかプチが地面に落ちたのがわかって修正したんだろう。

 だが膨らんでも何度か地面に落ちてウッドチップを削る。

 パチパチと音が鳴り、そのたびにぱかプチがボロボロになっていく。

 

 最終直線に入ってまたも宙に浮き、そのままゴールする。

 減速してぱかプチを確認したタキオンは、かなり不満そうに満身創痍のゴルシちゃんを持ち上げた。

 

「ぬいぐるみは無駄に重いし遠心力でコーナーは回りにくい。それにスピードを落とせばすぐに地面に落ちる。速度を維持して走るトレーニングだね、なるほどなるほど」

 

 思ったより失敗したのが悔しいのか、むすっとしながらウッドチップを取り除いては地面にぽいぽい落としていく。

 多少綺麗になったが、ほつれや傷はかなり目立つ。

 一応これ、先輩からもらったトレーニング用のぱかプチなんだけど……いいのだろうか。愛バをこんな扱いにして。

 

「これを落とさない最低限の速度で走れば効率よくコーナーを曲がれそうだ。思っていたよりはいいトレーニングだよ。このぬいぐるみを使うところ以外はね」

 

 ボロボロになってしまうじゃないか、全く。タキオンはそう言いながら、また走り出していった。

 コーナーでの走り方を工夫しているタキオンを見ながらタイム測定やフォームの確認をしていると、後ろから声をかけられて振り向く。

 そこには目がキラキラと輝いているウマ娘が。

 

「グレイト! 楽しいトレーニングをしてマスネ!」

 

 両手をバッと広げてニコニコと笑う。

 この体も声も感情表現も大きなウマ娘は、トレセン学園内最強のマイラーことタイキシャトルだ。

 急に大活躍中のスターウマ娘に話しかけられて驚いていると、オウ、と逆に驚かれた。

 

「ソーリー、見たことあるトレーニングだったので、つい話しかけてしまいマシタ!」

 

 そりゃあそうだろう。

 だって教えてくれた先輩のチームに所属しているんだから。

 もしかして今日は先輩もこの練習場をつかっているのか?

 

「トレーナーさんは坂路デス! ワタシはトオリガク……カガリ……?」

 

 どうやら通りがかったところに自分のチームのトレーニングをやっていたから話しかけてくれたみたいだ。

 なんというコミュニケーション能力……!

 

「た、タイキさんのアグレッシブなコミュニケーション……! やはりすごいですぅ……」

 

 そんな中、近くの木の陰から怪しげな声と共に覗き見る視線が。

 誰だと思ってそちらを見ると、ピンク色の髪をしたウマ娘がだらしない笑顔でこちらを見ていた。

 ……あれ、あの娘って。

 

「オウ! 探しマシタ! デジタルー、ハウディー!」

「ひょえぇ~~~!!! 元気ですぅ~~! うっ、フレンドリーなウマ娘ちゃん尊い……」

「おや、デジタル君じゃないか」

 

 覗き見ウマ娘の奇行を眺めていると、タキオンが戻ってきた。

 やっぱりそうか。彼女があのアグネスデジタル。

 というか知ってるんだ。

 

「彼女は私と同室だからね。いやはや、デジタル君が相手だと私が観察される側になってしまうんだよ。いささか新鮮でね」

 

 そうなのか。

 おひょ~~とかはえ~~とか謎の声を上げながらタイキのハグで膝崩れしているけど。

 

 アグネスデジタル、彼女は今話題のウマ娘だ。

 なんといっても芝とダートを選ばず、どちらでも活躍しているのがすごい。

 というかレースのローテーションがおかしい上多い。

 ダートで3、4連戦してからマイルチャンピオンシップで芝のマイルGⅠレースを勝つってどういうことなんだ……。

 

 そんな彼女はタイキシャトルと同じく先輩のチームに所属している。

 距離適性的にタキオンとは被らないだろうが、もし戦うことになればかなりの強敵だろうな。

 

 悲鳴を上げる彼女を見ながら、タキオンの周りは個性派が多いなーと思うのだった。




Report:●×年8月□日

 ぱかプチダッシュという謎のトレーニングをやらされた。
 被検体Aのトレーナーから教えてもらったトレーニング。
 理には適っているがこう、やっぱり納得できないね。
 トレーナー君は今後もやる気みたいだから困ったものだよ。

 デジタル君は相変わらずウマ娘観察でウロウロしていたようだ。
 彼女は真面目だと思うんだが、不思議とアグレッシブな時がある。
 面白いよ。今度研究に付き合ってもらえないか聞いてみるとしようか。
 また断られてしまいそうだけどね。
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