アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 元旦のお2人


Story12:正月

「次のレースは弥生賞に出るけど構わないだろう?」

 

 年末年始にもかかわらずトレーナー室で実験をしていたタキオンを思わず2度見する。

 ホープフルステークスで1着を取り、そこからずっと何かを考えていたわけだが……。

 どういう気持ちの変化なのかはわからないが、レースに出ると言ってくれたのは嬉しい報告だ。

 早速と思って資料を探しに立ち上がろうとすると、タキオンに声をかけられて止められる。

 

「別に今すぐ動かなくてもいいよ。私としては関係ないが、今日は正月だ。少しぐらい休んでおくといい」

 

 一体誰のせいで正月からトレーナー室を開けているのか。

 朝からしこたまメッセージアプリにスタンプ爆撃をされ、何かと思って連絡したら実験したいと。

 結局押し切られて渋々ここに来たわけだ。俺の正月が……。

 

「別に用事があるなら行ってくればいいじゃないか。私はここで研究しているから」

 

 タキオンを見張っておかなきゃいけないからここから出られないんじゃないか。

 自宅から持ってきたみかんを剥きながらそう話す。

 とりあえず毎年恒例の駅伝でも見るか。ウマ娘のレースもいいが、人間の走りというのもまた違ったドラマがあるからな。

 テレビをつけてソファに腰かけると、何やら不満そうにタキオンが見てくる。

 

「なんだいなんだいモルモットくぅん。私が何か危ないことをするとでもいうのかい? 心外だなあ。私が誰かに危害を加えるようなことをしたことがあるのかな。ないだろう? 君は私のトレーナーだよ。それなら私のことをきちんと信じるのがトレーナーとしての矜持ってやつじゃないのかい」

 

 とくとくとして語られるが、そうだねと適当にあしらってみかんを食べる。

 お、始まった! 俺の出身校が活躍してくれると嬉しいな。

 結構強かったと思う。在学中応援に行ったことないけど。

 

「ふぅン? ずいぶんと適当に対応してくるじゃないか。君が先に失礼なことを言ってきたんだぞ? こういう時はまず誠意ってものを見せるべきじゃないのかな。わかるだろう? 誠意だよ、誠意。さあ見せてくれたまえよ」

 

 うわっ、めんどくさっ。

 思わずタキオンを見て口に出てしまった。

 それを聞いた彼女はむむむと下唇を突き上げてさらに不機嫌になってしまった。

 

「めんどくさいとはなんだめんどくさいとは! 大体君が余計なことを言わなければどうにもならなかったじゃないか。いいかい? 私はね、気分を害しているんだよ。他でもない自分のトレーナーのせいでね。どうしてくれるんだい、モルモット君。これはありとあらゆる実験を君に課さない限りフラストレーションは消えることは無いだろうね」

 

 私、不機嫌ですと顔に書いてあるかのような表情で、試験管をぷらぷらと揺らしながらにじり寄ってくる。

 最近遠慮がなくなってきてない?

 

「それは君もだと思うけどね。さ、飲んでくれたまえ。一息にね。飲むんだ」

 

 ぐいぐいと口元に試験管を押し付けられるので、渋々受け取って一気に飲む。

 空になったものを返して口直しにみかんを食べていると、あっとタキオンから声が漏れた。

 

「あー、うん。いや、どうだろうな……」

 

 何やら顎に手を当てて唸り出した。

 薬の配合に失敗したやつ渡されたのだろうか。たまに間違えて渡されることがあるから。

 

「薬は大丈夫さ。ただ、君の持っているそれが問題でね」

 

 持っているそれ?

 手元に視線を向けると、俺が持っているのはみかんだ。

 みかんが問題なのか?

 

「そうなんだ。グレープフルーツが有名なんだが、柑橘類に含まれるフラノクマリン類が」

 

 あ、専門的な話はわからないのでわかりやすく教えて欲しいです、はい。

 

「むぅ……つまり、君の食べているみかんが今飲んだ薬の効果に影響があるかもしれないってことさ。もちろん、種類にもよるけどね」

 

 確かに、グレープフルーツと薬を一緒に飲むなってよく聞くからな。

 

「薬の種類にもよるけどね。で、だ。そのみかん、種類は何かな」

 

 普通のみかんだぞ。

 実家から送られてきたやつだ。

 

「うぅーーん! それじゃあわからないね! 効果が出たら考えよう」

 

 眉尻を下げて困ったように唸るタキオン。

 こちらもどうしようもない。とりあえず、この持ってるみかんはタキオンにあげよう。

 

「おや、くれるのは嬉しいが、私はあいにく両手が塞がっているんだ。食べさせてくれるかい?」

 

 いや、それは面倒だからいいです。

 

「えー!?」

 

 にべもなく断られて驚くタキオンだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 薬の効果で足が蛍光色に光っていたが、みかんの効果かすぐに収まった。

 やや不機嫌になったタキオンを連れて、近くの神社にお参りへ。

 

「ふぅン、ここが例の……」

 

 興味深そうにタキオンが辺りを見回す。

 正月でトレセン学園が近いからか、見知ったトレーナーやウマ娘の姿が多い。

 

「トレーナーさん見てください! 大吉を超えた超吉ですよ~!」

「ワタシもデス! Extreme Happy!」

「私も……トレーナーさんからもらったお守りのおかげです」

「ぶっとばす」

「だめだよぉ! 大凶だけどはやまらないでぇ!」

「ぐふふ……ウマ娘ちゃんでいっぱいでしゅ……うへへぇ」

 

 やいのやいのと盛り上がっているようだ。

 俺たちも一旦お参りに行こう。

 

「お参りか。小さい時以来だね」

 

 タキオンと一緒に列に並ぶと、そんなことをぽつりと呟いた。

 あまり行かなかったのか?

 

「私の親は放任主義でね。行きたいと言わなければ連れていくことはなかったよ。ああ、もちろん親子関係に問題があるわけではないさ。自由になんでもやらせてくれる家というだけだよ」

 

 彼女の話を聞いて、なるほどと思った。

 タキオンが好き勝手に制限を無視して実験をしたりわがままを言ったりしているのは、親の方針で育まれたものらしい。

 まあ、それにしたってちょっとハジケているとは思うけど。

 

「欲しいと言えば実験用の器具も買ってくれたし、トレセン学園に行きたいと言えば応援してくれたよ。間違ったことをしなければ何も言わない人たちなんだ」

 

 そう話すタキオンの横顔は穏やかなものだった。

 人をモルモット扱いして投薬実験を繰り返すようなウマ娘だが、いい家庭で育っているみたいだ。

 でも実験器具が欲しいって娘が言ったら少し考えるものじゃないか?

 

「ああ、何に使うんだと言われたよ。懇切丁寧に説明したら納得してくれたが、今思うとあれは説得されただけかもしれないね」

 

 やっぱり色々思うところはあったようだ。

 自分の娘が研究して薬を作って、それで足を速くしたいと言っていたら納得はできないだろうな。

 タキオン自身はドーピングがすごく嫌いだからやらないけど、傍から見るとドーピングに見えるだろうから。

 

「外からの評価は仕方のないことだよ。しかしだね、それは私の最終目標に至るまでの障害には成り得ない。壁ですらないのだから」

 

 ふん、と息を吐いて流し目で俺を見てくる。

 どうやら何を言われようが研究を続けるということらしい。

 それはもう知ってるし、先を見るまで手伝うよ。そう言うと、くつくつと笑う。

 

「ふぅン……君は失礼なことをよく言ってくるが、私をよく補佐してくれている」

「モルモット君改め、助手ということにしようじゃないか」

 

 機嫌がよさそうに笑うタキオン。

 彼女の中で俺の存在が1歩格上げされたようだ。

 

「私たちの番のようだよ。ほら、お金を入れて鳴らしたまえ」

 

 賽銭箱に5円玉を2枚投入。紐を掴んで揺らし、鈴を鳴らす。

 カランカランと音が鳴り、タキオンと一緒に礼と拍手をして願いを想う。

 タキオンがケガすることなく走れますように……。

 

「………」

 

 目を開けてタキオンを見ると、熱心に祈っていた。

 科学実験を好んではいるが、かなりのロマン思考だ。こういったものに関心はあるらしい。

 

「……うん、いいだろう。さ、行こうかトレーナー君。気になる物もあるからね、少し回ってみようじゃないか」

 

 少し楽し気に尻尾を揺らすタキオンと共に、境内を散策するのだった。




Report:●△年1月1日

 トレーナー君と神社に行った。
 被検体Aのチームメンバーがみんなつけているお守りが売っていたから少し拝見してみたが、他の場所で売っているものと変わったところはなかった。

 サイレンススズカの天皇賞秋。
 あの走りでは計算上確実に故障すると、私とシャカール君は思っていたんだが……。
 ロジカルじゃないと彼女は怒っていたが、私も腑に落ちてはいない。
 彼女や被検体Aに話を聞く機会を作ってもらうとしようか。
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