そう言えばクラシック級に上がる時にも神社に行ったんだね。
懐かしいね。あの時はまだ君に何も言ってはいなかったのに、随分と従順に付き合ってくれていたものだよ。
あの頃からじゃないかな、君をあまりモルモット扱いしなくなったのは。
え? 今もしているって?
それはモルモットとしてじゃないよ。助手としてお願いしているんだ。わかるかい、この違いが。
実験に付き合ってもらっているが、強制することはなくなっただろう?
今も昔も、君がやるというからやってもらっているんだよ。
飲みたくないと言われたらわかったよって大人しくひっこめているじゃないか。
他の人に飲ませると言ったら飲むしかないというのはね、違うと思うんだよ、トレーナー君。
嫌味とかでやっているわけじゃないのはわかっていると思うんだが。
君が飲まないのなら他の人で試すしかないだろう?
自分では一度試しているんだからね。
うーーーーーん!
私のせいではあるが、信用されていないね!
いやはやなんとも……ああ、トレーナー君大丈夫だよ。
君が私の言うことを信じてくれているのはわかっているさ。
しかしこういう性分だからね、とにかく研究の成果を見たくて仕方がないんだよ。わかってくれるだろう?
例えばほら、ここに紅茶に入れるための砂糖がある。
そしてこの紅茶に入れると、砂糖は溶けるだろう?
だが限界がある。溶解度を超える量は入れても溶けないからね。
……あー、うん。そんな顔をしないでくれたまえよ。
今はもう朝に紅茶と砂糖の比率を1:1にして飲むことはしていないから。
本当だとも。後でデジタル君に聞いてみるといい。
耳が痛くなるほど怒られたからね。流石にもうやっていないよ。
君が作ったスイーツを朝ごはん代わりに食べてはいるが。
仕方ないだろう?
君が作ってくれるスイーツは量が多いんだ。
他の娘にもと言われているけどね。基本的に私たちはアスリートだよ?
糖質の塊を頻繁には受け取れないんだ。それでも食べようとするのはスペシャルウィーク君かオグリキャップ君ぐらいのものだよ。
私の先輩ではあるが、あの2人の食への欲求は実に興味深いと思うね。
あれだけお腹がふくれているのにすぐ元に戻るというのもまた不思議なところだ。
ほら、人はたくさん食べてもあんなにお腹は膨れないだろう?
以前フードファイターと呼ばれる人を調べてみたが、理解できる範疇のお腹だったよ。
胃の大きさかい? それはごもっともな指摘だね。
だけどね、トレーナー君。胃の大きさというのは、たくさん食べることと関係はあまりないそうだよ。
これは医師が内視鏡検査を繰り返した知見なんだ。
つまり、少ししか食べれなくなったことを「胃が小さくなった」と表現しているにすぎないんだ。
機能の低下、ということだね。
それに、多く食べて何度も胃に負担がかかってしまうと、しなびた風船のように内臓がのびてしまう。
そうすると機能が低下するはずなんだが……いやはやなんとも、2人はよく食べるんだよ。
だから調べたくなってしまうんだよ。追い求める速さとは別にね。
おっと、かなり話が脱線してしまったね。
要するに、私はトレーナー君をトレーナーだと思っているんだよ。
わかるかい? そうじゃなければずっと担当なんかしてもらわないだろう。
………。
おい、トレーナー君。何か言ってくれたまえよ。
何って。
恥ずかしいじゃないか、改めて話すのは。
むっ、なんだいトレーナーくぅん? その人を小バカにした顔は。
私はからかわれるのが嫌いなんだ。知っているだろう?
やれやれ、また気分を害されてしまったよ。
これはまたモルモット君に戻ってもらって実験をしていくことで溜飲を下げるしかないんじゃないだろうか。
というわけで、ここに新しく作った薬がだね。
なあ、トレーナー君。話を聞いているかい?
おいおい! 聞いていないってどういうことなんだ!
このトレーナー室には私と君以外いないだろう!
どうしたら聞いていないでいられるんだ!
まったく……トレーナー君は都合が悪くなるとすぐ耳が遠くなる。
やれやれ、年は取りたくないものだね。そうは思わないかい?
私も同じだって?
なんのことだい? 私はウマ娘だよ。
耳が遠いことは無いだろう。
都合が悪いとはぐらかすって?
そんなことしないよ。基本的に聞かれたら答えているじゃないか。
教室で煙を出した時もきちんと説明しただろう?
反射で動いたとき脚はどのように動かすのかを実験するためだったと。
……ああ、うん。
クラシック級の時か。
そうだね。確かにあのときは君に何も説明していなかったよ。
する必要はないと思っていたからね。
いや、しないほうがいいと思っていたと言うべきか。
君の想いとか覚悟とか、そういうものを私は理解できていなかったからね。
そうだよ。
結局君は私に寄り添うために努力していたけど、私はそれを利用していた。
それがあのクラシックの結果だったからね。
もちろん悔いはないよ。
本当のことさ。
なら、少しだけ話そうじゃないか。
私がクラシック級でレースに出た時のことをね。
ここから菊花賞までIntermissionはありません。
一気に進みますよ!