アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 久々の未来


Intermission:契約

 菊花賞で走り終わった時は嬉しかったよ。

 本当にね。思わず笑いだしてしまったからカフェに心配されたぐらいさ。

 

 でもね、トレーナー君。

 今までダメかもしれないと思っていたことが、当たり前のようにできるようになる。

 それがどれだけ素晴らしいことかわかるだろう?

 

 今では天皇賞春を目標にできるぐらいになっているけど、それまではガラスどころじゃない。細い木の枝みたいなものさ。

 それを巨木に変えてしまったんだからね。

 なんというか……あのチームのトレーナーはヘンだと思うよ。

 新人のときにあのトレーニングを考え出したんだからね。その恩恵にあずかっている身で言うことではないのだろうが。

 

 先輩をヘンって言うなって?

 いやいやトレーナー君、よく考えたまえ。

 初担当のウマ娘でジュニア級からシニア級までGⅠレースでほぼ全勝だよ?

 チーム結成後は全距離でGⅠ勝利に加えてURAファイナルズもほぼ独占。

 それをサブトレーナーすら経験していない新人がなし得たんだ。どんな思考をしているのか見てみたいところだよ。

 

 それに彼が考えたトレーニング。

 見た目は奇天烈なものばかりだが、その全てがケガしにくいような体を作るためのものだ。

 脚にばかり負担がかからないように体幹を鍛える。

 それから体幹で走るという走法を身につける。

 そうすれば、劇的に脚への負担が少なくなるということさ。

 

 何を学べばこんなすばらしいトレーニングを思いつくのか聞いてみたいぐらいだよ。

 見た目は奇天烈だけどね!

 

 技術的なものはどんどん外に出してくれているからとても助かっているよ。

 他のウマ娘たちのケガも少なくなるだろう。

 銅像ができるんじゃないか? ウマ娘の発展に尽くしたといってね。

 ああでも、トレーニングの見た目が悪いし別の方法で体幹は鍛えられるからね。

 トレーニング自体のマネするウマ娘やトレーナーは少ないだろう。

 

 さて、少ししゃべりすぎたかな。

 トレーナー君、紅茶をもう1杯いれてくれたまえ。

 飲みすぎだのなんだのという言葉は知らないからね。

 

 うんうん、それでいいんだ。

 

 そういえば君に聞きたいことがあったんだ。

 シニア級のことなんだが……ああ、今ではなくてね。

 クラシック級から上がったばかりの時だよ。

 

 正直にいうと、何事もなくシニア級に上がったことが予想外でね。

 だってそうだろう?

 誰だって出ると思うじゃないか、有マ記念に。

 

 実際、人気投票では上位だったんだろう?

 菊花賞でレースに出ても大丈夫だとわかったのだから、挑戦するだろうと思っていたんだが。

 なにせ2ヶ月後だ。しっかり調整だってできたはずだからね。

 

 で? どうなんだい?

 有マ記念に出なかったことについて、君は中々話したがらなかったじゃないか。

 今だってそうさ。苦虫を噛み潰したような顔をして。

 

 ふぅン? 言いたくないって?

 今こうやって振り返っているのは、今度の取材のためだと君が言ったんじゃないか。

 それなら君には説明する義務があるはずだよ。権利ではなく、義務さ。

 ほら、観念してさっさと言いたまえ。

 それとも何か、やましいことでもあるのかい?

 

 ……なんだ、それ。

 心配だったからって。

 つまりあれかい? 君は私のことを信用してなかったってことかい?

 走れるといったのに、大丈夫だと説明したのに。

 

 え?

 しきりに脚をさすってたから心配したって?

 

 えー!?

 あれで心配していたっていうのかい!?

 なんだそれ!

 

 はあぁー……トレーナー君。

 あれは寒かったのと、走れるようになって感慨深くて、つい触っていただけだよ。

 だから、別に脚の調子がよくないとか、まだ理論的に問題があるとか、そんなことは全くないよ。

 

 あっ、だから君は湯治に連れていったりしたのか!

 急に温泉に行こうだなんていうものだから、どうしたのかと思っていたんだ。

 しかも学園を休んで3泊もするし。

 

 点と点が結ばれた気分だよ。

 なるほどね。トレーニングをやろうとして止められたのもそういうことか。

 ずっと疑問に思っていたんだ。

 大阪杯に出るまで、なんでこんなに気をつかわれているんだろうって。

 やはり脚のことは言わないほうが良かったかなと思ったぐらいさ。

 

 えー、カフェにまで言われていたのかい?

 気をつかいすぎだって。

 そりゃあそうだよ、だって私が問題ないと言っているんだからね。

 過保護にしすぎて走らせないなんて、私以外のウマ娘だったら最悪の場合契約解消だよ。

 

 ああ、待ってくれたまえ。私以外と言っただろう?

 なにも泣くことはないじゃないか。

 こらこら袖で目をこすってはいけないよ。ほら、落ち着いて。

 大丈夫だよ、私が君以外のトレーナーと一緒になるわけがない。断言する。

 

 なんでもっと泣くんだい君は!

 

 

 

 

 

 

 落ち着いたかい?

 まったく、君は泣き出すとものすごい引きずるんだから困ったものだよ。

 ダービー後も泣き散らかしてみんなに心配されたんだろう?

 泣いてばかりいるなあ、君は。

 

 ……あー、うん。

 そんなこともあったね。

 でもそれは思い出さなくてもいいだろう?

 

 あの時は私にも君にも落ち度があったし、君の同期のトレーナーだって嫌味じゃなく君のことを心配していたわけだ。

 まあ言っていいことと悪いことがあるだろうから、ちょっと失礼だったかもしれないけど。

 

 確かに君にとっては衝撃だったかもしれないけどね、うん。

 私としてはなんでそうなったんだろうと思っていたし、今もそう思っているよ。

 君はなんというかこう、まっすぐすぎるきらいがあるからね。

 ついなんでも正面から受け取ろうとしてしまうんだろうが。

 

 え? 私も焦っていたって?

 ……そんなことなかったと思うけどね。

 だってそうじゃないか。そんなことする理由はないだろう?

 今の環境がベストだって思っていたし、今でもそうなんだから。

 だから焦る必要なんてなかったよ。ただ、実験しにくくなるから少しだけ困るなあとは思っていたけど。

 

 カフェから聞いたって?

 デジタル君からも?

 おいおいトレーナーくぅん、君は誰の言葉を信じるというんだい? うん?

 君は、私の、トレーナーだ!

 私を信じればいい。そうだろう!

 

 うんうん、そうだよ。

 感情が動かされることなんてなかったさ。

 

 契約を見直すなんて話になってもね。




 ちょっとだけオリジナリティ。
 でも別に暗いお話になるわけじゃなく、どっちかというとコメディちっくなアクシデントが起こるだけです。
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