アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 勘違いってあるよね


Story24:心配

 菊花賞で2着と健闘し、長距離レースでもしっかりと走ることができると証明したタキオン。

 上機嫌でレースを終えた次の週。

 同室のアグネスデジタルが天皇賞秋に出走するということで、2人で見にいくことに。

 

 テイエムオペラオーの天下と言われている今のシニア級。メイショウドトウが宝塚記念で勝利したものの、その威光は未だ健在。

 それを覆すために新しい風を期待していたトゥインクル・シリーズファンたちは、クラシック級で活躍していたミナモトライコウの参戦に沸き立った。

 しかし彼女は参加できなかった。理由は簡単で、実績がまだ少なかったから。

 ファンたちは非常に残念がり、そのやりきれない感情をアグネスデジタルに向けてしまった。

 

 デジタルは芝の実績があまりなく、クラシック級のマイルチャンピオンシップで勝利したというぐらい。

 それでも凄いのだが、2週前の地方との交流ダートGⅠレースで1着を取るなど、戦績はダートに寄っている。

 せっかくミナモトライコウが頑張ってくれると思ったのに。芝に砂をかけるつもりか。

 そんな声まで上がっていたし、記者たちも芝の実績がないがどうなんだと取材に押し寄せた。

 そこで、担当トレーナーである先輩が一言だけ言ったのだ。

 

 ――真の勇者は、戦場を選ばない。

 

 取材陣もファンたちも、誰もが首を傾げた。

 そして、それがどういうことなのか。

 今、この瞬間、このレースで証明したんだ――!

 

『トゥインクル・シリーズファンの歓声に応えて4コーナーのカーブ直線コース! メイショウドトウが先頭で向かってきた!』

『さあテイエムだ! オペラオーだ! テイエムオペラオーだ!』

『メイショウドトウがまだ先頭! しかしテイエムオペラオーが上がってきている!』

 

 ――デジタルーーーッ! 観客席に突っ込んでこォーーーーい!!!!

 

『オペラオーが上がってくる! そしてアグネスデジタルが外から一気に上がってきた!』

『しかしオペラオー! テイエムオペラオー大丈夫か!? 外からアグネスデジタル!』

『外からアグネスデジタルが最後にかわしたァーーッ!!! これは納得の強さアグネスデジタル! 芝の2,000mでも見事GⅠを制してみせました!』

 

 ワアアアアーーー!!!!

 とんでもない歓声で迎えられたデジタル。

 嬉しそうな楽しそうな、とろけた笑みでバタバタ動きながら喜びを全身で表現している。

 テイエムオペラオーとメイショウドトウはデジタルの走りに驚いているようで、すごいじゃないか! と話しかけていた。

 あ、デジタルが固まってる。

 

 しかしまあ、先輩が自信満々に推していた気持ちがわかった。

 完膚なきまでに、実力でみんなを納得させたというわけだ。確かにこれは勇者と言える。

 やっぱり恐ろしいな、先輩……。

 

「ふぅン。芝もダートも関係なし、しかもマイルから中距離までなんでも走れるとはね。いやはや、興味が尽きないな」

 

 嬉しそうにしながら顎に手を当てて、ニヤリと妖しく笑っていた。

 後にデジタルからタキオンさんに迫られすぎて顔がいいのはダメでしゅ止めてくださいとよくわからない要請がくるのを俺はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで大満足のレースが行われてから時間が過ぎ、もう11月だ。

 次の出走レースはどうするかという話になったわけだが。

 俺はかなり慎重になっていた。出走もトレーニングもだ。

 

 理由はタキオンにある。

 

「ふふん、ふふん、ふふふふ~ん」

 

 機嫌よく鼻歌を歌いながら、海外から届いた小包を開けている。

 そして、ふとした時に自分の脚を見て軽く擦った。

 

 このタキオンの脚をさすっているのが非常に気になってるのだ。

 今までこんなふうに上機嫌なこともなかったが、それ以上に脚を何度も見たり触ったりするのが本当に気になる。

 かといって、ちょっと聞いてみたらこうだ。

 

「なにもないよ。だから触っているのさ」

 

 わからない……!

 また思わせぶりに話しているだけなのかそうでないのか、本当にわからない。

 今までずっと脚のことを秘密にしていたり、薬の素材について教えてくれなかったりと、なんだかんだ彼女から得られる情報というのは少ない。

 

 もし走れるけどまだ脚に不安がとなると……。

 それが気になって、ここのところ凄い寝不足だ。

 かといって対処法というか、解決法がわからない。聞いても、なにもない、なんでもないというだけだし。

 あまりにも悩みすぎてタキオンから心配されるほどだ。まあ、薬の実験に影響が出るから健康でいてくれというぐらいだけど。

 

 そして悩みに悩んだ結果。

 タキオンを連れ出すことにしたのだ。

 

「どこへ行くんだい? 急に休みなんかとって」

 

 不思議そうに車に乗るタキオンに、温泉だよと伝えて発進させる。

 

「温泉? ああ、だから着替えを持ってきてだなんていってきたんだね」

 

 しかも私服でというから、不思議だったよ。

 納得がいったらしく、うんと頷く。

 

「しかしどうして急に。確かに長距離レースの後はしばらく休んだほうがいいだろうけど。いいのかい?」

 

 いいんだよ、と首を傾げるタキオンに伝える。

 今回のことについて先輩に相談したところ、おすすめの温泉をいくつか紹介してもらった。

 異様に詳しかったのが不思議だったがそれはおいておく。

 とりあえず3泊ぐらいしてゆっくり休んでもらおうということだ。

 

「ふぅン? まあ、温泉による回復効果について調べていたこともある。やる意味は薄くなってしまったが、少し実験してみようじゃないか」

 

 湯につかるまえにいくつか飲んでもらおうかなと携帯を取り出して薬のチェックをし始める。

 ……温泉に入る前からかなり疲れそうなものだが、これもタキオンのためだ。甘んじて受けることとしよう。

 これで脚に不安がなくなると信じる!

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 が、ダメ……!

 

「足湯というのもいいものだね。熱いけど」

 

 温泉地にある足湯を堪能しながら、タキオンは自分の脚を擦っている。

 うぅん、まあ今は足湯だからな。脚だけだから擦っているんだ。そういうことにしよう。

 

「知っているかい? 脚は第2の心臓といってね、全身の血液を送り出すために……」

 

 タキオンの話を聞きながら、次に行く予定の温泉について考える。

 おすすめされた温泉は膝痛なんかに効くらしい。これならいけるだろう。

 

 

 

「いやあ熱いなあ、温泉は。待たせたようだね」

 

 少し顔を赤らめたタキオンが出てきた。

 浴衣であまり見えないが、しっかり温まったようでほかほかしている。

 よし、かなりいい感じだな。

 

 と、思っていたのだが。

 

「ふぅン。やはり興味を持てるような番組はやっていないな。いや、地方のレースなら」

 

 脚を擦りながらテレビのチャンネルを変えてる……ッ!

 くっ、さすがに今日だけではダメか。

 しかし明日と明後日、最悪3日後の朝湯もある。

 湯治にしてはかなり短い期間だが、先輩もお墨付きの回復コース。信じてやりきるぞ!

 

 

 

 そして3日後の車内。トレセン学園に帰っている最中。

 

「高いな……しかしこの茶葉は、うーん」

 

 紅茶を注文しようと携帯を弄りながら、脚を軽く擦っていた。

 ……ダメじゃないか!

 

 

 

 

 

 どうすればいいんだ……思わず肩を落として学園内を歩く。

 湯治はダメ、マッサージもどうかと言ったら触られたくないとダメ。

 俺からうてる手はもう少ない。

 

 今はトレーニングも控えめにして、筋力が落ちない程度で調整してごまかしている。

 年末の有マ記念にも出走権があるにはあるが、俺がGOサインを出せないので出走登録をしていない。

 

 タキオンは出走についてあまり気にしていない様子だが、このままではよくないよなぁ。

 ため息を吐いて、手元のトレーニングメニューを確認する。

 

「あの……」

 

 後ろから声をかけられ、思わずビクッとなってしまう。

 慌てて振り向くと、いつものようにぼやんとした雰囲気のカフェが立っていた。

 カフェが俺に話しかけてくるのは珍しいことじゃないが、なんとなく心配そうな表情だ。

 

「大丈夫ですか……? またタキオンさんが、なにかしましたか……」

 

 いや、そういうわけじゃないんだけど。そう言って頭をかく。

 どうやらしょげているのを見て気にしてくれたようだ。

 そうですか……と頷いたカフェは、少しだけ考えるそぶりを見せる。

 

「……有マ記念、出ないんですか」

 

 出走レースについて聞かれてしまった。

 カフェは菊花賞での勝利が評価され、有マ記念への出走権を得ている。

 今は年末に向けてトレーニングをしているところだが、タキオンが出走登録していないことを気にしているようだ。

 

 うん、ちょっと……と歯切れ悪く話すと、また心配そうな顔をされてしまった。

 タキオンの虚弱体質については周知の事実だ。いやまあ事実かというと少し誇張しすぎなところはあるが。

 ともあれこんな風に言うと心配されてしまうのはあたりまえだ。

 大丈夫、俺がなんとなく心配で気になってて。そう正直に話すと、わかりましたと頷いて去っていった。。

 

 他のウマ娘にまで心配されるなんてなぁ。反省しよう。

 気を引き締めて、どう対処するかを考えるのだった。




Report:●△年11月□×日

 なんだかトレーナー君がよそよそしい。
 というか心配そうに見つめてくる。
 私がなにかしただろうか。それともまだ脚を気にしているのか。
 温泉にも連れていかれたからね、その可能性はある。

 しかしそんなに信用がないのかな。
 トレーナー君には正直に言っているのに。
 なんでもない、なにもないよ、とね。
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