アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 距離近くない?


Story26:2度目の正月

 正月がやってきた。

 タキオンと出会ってから2度目のお正月だ。

 

 アグネスデジタルが香港から帰国してきて「タキオンさんの機嫌が悪いんですけどなにしたんですか!?」と詰め寄られたのが記憶に新しい。

 因みに香港カップで1着。地方ダートGⅠから中央芝GⅠ、そして海外芝GⅠで連勝ってどういうことなんだ……?

 どんな育て方をしたらこんなおかしな走りをするウマ娘になるんだろう。

 先輩ってやっぱりすごいなぁ。

 

 話が脱線したが、そう。正月だ。

 去年はトレーナー室を開けて実験やらなにやらしていたが、今年は静かな時間が過ぎていた。

 タキオンが研究を休むと言い出したんだ!

 隕石でも降ってくるのかと言ってまた機嫌が直滑降となったのはさておき。

 

 前回の一件以来、いろいろな活動が少しだけ消極的になったというかなんというか。

 別に気にしなくてもいいとは言っているものの、ほんの少しだけ反省してくれているようだった。

 カフェに聞いたら授業中の態度は元に戻って研究用の本を読んでるらしいけど。まあ、タキオンらしくていいだろう。

 

 脚のことは大丈夫だと何度も言われたので、流石にもう信用したよ、うん。

 有マ記念は登録期間を過ぎていたので観戦に切り替え、カフェの勝利を2人で見届けた。

 紆余曲折いろいろあったが、充実した1年間だったといえるだろう。

 

 そしてシニア級に突入した初日の元日なわけだが。

 

「トレーナー君。そろそろ昼食を食べないかい? 朝が少なかったからお腹がすいてしまったよ」

 

 何故かタキオンが俺の部屋にいる。

 こたつに入って携帯をいじりながら、俺に食事の注文をする始末だ。

 

 朝起きて、新年がんばるぞと思いながらいつも通りに朝食を用意していたところにチャイムが鳴り、扉を開けたらタキオンがいたのだ。

 何事かと思ったが、弁当をもらいに来たというものだからたまげてしまった。

 ないけど……と言ったら思っていたよりも不機嫌になって怒られることに。

 

「君は私の世話をするのが仕事じゃないか! 毎日弁当をもらっているんだから、今日も作ってくれないと困るよ。特に最近は手抜きが多いからね」

 

 悩んだりまったりという期間、冷凍食品を使うことが多かったからそれが不満らしい。

 いや、全部手作りって物凄い手間なんだぞ!

 俺の想いは全く伝わらず、弁当がないならいま作っておくれと言われて部屋に侵入してきた。

 それで用意していた自分の朝食をタキオンに食われ、量が少ないだの栄養が足りないだのと文句を垂れながら食べられたわけだ。

 

 やや半ギレのまま俺も朝食を食べたわけだが、タキオンはそのままこたつに入って居座り今に至る。

 そして先ほどのセリフだ。許せん。

 

 しばらくして準備ができたので、こたつに昼食を運ぶ。

 

「おや、ようやく作ってくれたんだね。では食べるとしよう……うん? トレーナー君、それは何かな」

 

 余った年越しそばで温かい豚とろろそばを作ったわけだが、俺の前にだけ木箱がある。

 ふたを開けると、中にはおせちが入っていた。そこそこいいやつだ。

 

「へぇ、おせちじゃないか。そういったものはあまり口にしないが、見た目が色鮮やかだね」

 

 いただきますといっておせちに箸を伸ばしたところで、俺はおせちの箱をひょいとどかす。

 きょとんとしているタキオンをよそに俺はおせちを食べ始める。うん、おいしい。

 

「どういうことだいトレーナー君」

 

 いや、これ俺の分しかないから。

 そう言うと、耳と尻尾をピン! と伸ばした。

 

「えー!? なんでだトレーナー君! それになんで避けるんだ!?」

 

 ほら、急にご飯たかりにきて注文つけてくるからさ。

 腹立つじゃん。

 

「むっ、なんだそれ。そもそも君が私のご飯を用意してくれるって約束をしたんじゃないか。作ってくれていないのが悪いだろう」

 

 だから作ったじゃないか、豚とろろそば。

 おせちの箱を置いてそばを1口食べる。うん、本格的にだしを作ったからかなりおいしい。

 タキオンのせいで料理スキルが上がったから、その恩恵だな。

 

「むむむ……」

 

 すっとおせちに箸がいくが、届く前にひょいっとどかす。

 

「………」

 

 タキオンがじっとり睨んでくるが無視していると、急に立ち上がった。

 なんだろうと思ったら、そばの器を持ってきて俺の隣に入ってくる。こたつ机はそこそこ大きいから狭くはないが……。

 

「ここなら邪魔できないだろう。ではいただくとするよ」

 

 ふふんと得意げにしておせちをつまもうとするタキオンだが、箱を持ってそのまま反対の場所に座る。

 

「えぇー!?」

 

 本気で驚いて、耳がぺちょんと垂れてしまった。

 少し意地悪しすぎたか。

 食べていいよと机に置くと、最初からそうしてくれればいいんだよと言って俺の隣にまた移動してきた。

 いや、別にこっちこなくても食べれると思うんだけど。

 

「また君が持っていくかもしれないだろう。今日の君は信用できない」

 

 ぷんすかタキオンになってしまったようだ。

 まったく君は子供なのかいと不満を言いつつもおせちとそばを堪能し、食後には満足そうに尻尾を揺らしているのであった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 今年も去年同様神社にやってきた。

 やはり元日、けっこうな人の多さだ。

 

「いやはや、毎年のことだがよくこんなに集まるな。行事というものは何故こんなにも集客力があるんだろうね」

 

 人混みがあまり得意ではないためか、タキオンは眉尻を下げている。

 コートの下にある尻尾も力なく揺れていた。

 うーん、まあでも正月に願掛けって言うのは1年を始めるための目標を決めるのにいい機会だからなぁ。

 

「それはそうだろうけどね。こんな寒い中ご苦労なことだよ」

 

 私たちもだが。

 そう言いながら、ぐるりと境内を見回す。

 今年もここで願掛けしたりするウマ娘たちが非常に多い。

 やはりパワースポットとして有名だからなのだろうか。

 言い出したのはマチカネフクキタルらしいが。

 

「目標か……うん、そうだね。君はどんなローテーションを組む気なんだい?」

 

 そういえばタキオンには言っていなかった。

 有マ記念も出走せずにしっかりと脚を休めたことだし、プランAも成功した……はず。

 ならば、彼女の適性をフルに活かせる中距離GⅠに加えてグランプリ制覇を狙う強気のローテーションでいきたい。

 タキオンが目指す限界を超える助けになってくれるはずだ。

 

「クックック、強気だね。大阪杯、宝塚記念、天皇賞秋、そして有マ記念……」

 

 欲張りだね、君は。

 タキオンは笑いながらレースを確認する。

 

「まあいいだろう! 今言った全てのレースで活躍すると約束しようじゃないか」

 

 ニヤリとほほえみ、やる気に満ちた目で俺を見た。

 去年のことを考えると、本当に変わったなぁと思う。

 前は出れるかわからないとばかり言われたし、走るかどうかもわからないといわれたものだ。

 

「我ながら変わったものだね。いや、変えられたというのが正しいかな?」

 

 穏やかに笑いながら、顎に手を当てて俺の顔をじぃっと見る。

 

「まあ、悪くない気分さ。限界を超えるために走れるわけだからね」

 

 満足そうに頷くタキオン。

 これからの活躍に期待できそうだ。

 

 お参りのために列に並ぶ。

 賽銭箱にお金を入れ、タキオンが無事に走ることができるように強く強くお願いしておく。

 この神社の神様でもウマ娘の三女神でもいい。とにかく無事に走れるようにお願いします、はい。

 

 お祈りも終わって賽銭箱の前から離れる。

 俺も体調管理に気をつけようと再度決意していると、タキオンが隣でクツクツ笑う。

 

「熱心にお祈りしたものだね。効果はないはずなんだが」

 

 でも、意外と効くことがあるからなぁ。

 そう言うと、ふぅンと頷く。

 

「前まではそんなことはないと思っていたが……感情の力というのは中々あなどれない。祈りが現実に作用することもあるだろう」

 

 科学的な知見を好むが考え方がロマン派なタキオンらしく、数値で表せないものにも理解がある。

 ひとしきり頷いて考えこむ仕草をすると、ビシッと俺を指さした。

 

「トレーナー君、少しいいかな」

 

 そう言ってスタスタと歩いていく。

 タキオンについていった先に合ったのは、ここ数年でかなり有名になったお守りだ。

 確か、神むすびだったかな。

 

「サイレンススズカ君がこのお守りをつけて、ケガ無く走り切ったという話はよく耳にする。ほとんど効果はないだろうが……」

 

 実際にお守りを手に取って見ながらうーんと唸っているタキオン。

 黄色に赤と青が入ったカラフルな神むすび。勝負服にもそのカラーが入っているし、丁度いいかもしれない。

 お金を渡してタキオンが持っているお守りを購入する。

 

「……決断が早いね。私にとっては都合がいいけど」

 

 少し驚きながら、買った神むすびを眺める。

 そして、ふっとほほえんだ。

 

「感情というのはおもしろいものだね。少しだけ高揚しているよ」

 

 普通の少女らしく笑うタキオンを見て、本当に変わったなぁと思うのだった。




Report:●◇年1月1日

 とても気分がいい
 脚についたお守りの、ほんの少しの重みが心地いい
 トレーナー君の希望に応えてあげようじゃないか
 そんな気持ちだ

・追記
 デジタル君が私の脚を見て何度も気絶しているんだが大丈夫なんだろうか
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