アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 交流するぞ!


Story28:ファン感謝祭

 大阪杯で実力を見せつけたタキオン。

 さあ次は宝塚記念だというところで、学園の行事が挟まった。

 

 毎年恒例春のファン感謝祭だ。

 この日だけは一般の人たちがトレセン学園内に入ることができる。

 ウマ娘バンドの演奏や紅白対抗リレー、メジロ家サイン会やらなにやらとイベントが目白押しだ。メジロだけに。

 

 どこかで爆笑する声が聞こえる中、タキオンはいつも通りトレーナー室に……いなかった。

 

「ふぅン。思いのほかすごい人の多さじゃないか」

 

 野外ステージ近くに設置された小さめのステージがいくつか。

 そこで様々なウマ娘たちが撮影会を行っていた。

 学園祭の中では目玉イベント。ファンが推しているウマ娘と直接交流できる貴重な時間だ。

 

 俺たちトレーナーはウマ娘と接するのが普通だから感覚がマヒしているかもしれないが、彼女たちは国民的スターだ。

 飛び入り参加してぴすぴーす! と1枚だけ写真を撮らせて去っていった謎の美少女ウマ娘も多くのファンをもつ。

 アイドルとの握手会みたいなものだ。アイドルと違うのは、不埒な輩がいた場合物理的にとんでもない目に遭うことだが。パワーが違うんだよパワーが。

 

 しかし、こういったものに参加するようになったんだなぁとタキオンを見てしみじみとした気持ちになる。

 

「なんだいトレーナー君、生暖かい目で見て」

 

 成長したなぁと思って。

 そう話すと、不思議そうに首を傾げた。

 

「私はなにかを変えたつもりはないけどね。今回の撮影会だってそうさ。思春期の女子は声援や応援での心意的変動がパフォーマンスの向上に繋がるんだ。それにウマ娘も当てはまると思っているから、研究のために参加しただけだよ」

 

 いつも通りだろうと得意げに話すタキオンだが、その尻尾はちょこちょこ揺れているし、口角も少し上がっている。

 こういったものに対して感情を素直に見せているのが成長したってことじゃないのかなと思うが、前にそれを指摘したら違うとかなりぶつくさ言われたので口を閉じることにした。

 

 しばらくして前のウマ娘の時間が終わり、タキオンの番になった。

 勝負服を身にまとったタキオンがステージに立つと、キャー! と黄色い声が上がる。

 クラシック級での活躍と大阪杯の走りを見て多くのファンを獲得したようで、人数が非常に多い。

 特に女性ファンがものすごく多い。何故だかわからないが女性人気が高いのだ。今いるファンも多くが女性で、男性ファンは2割ぐらいだろうか。

 

「では、アグネスタキオンさんの撮影会を開始します! 整理券番号1番の方から順番にどうぞ!」

 

 撮影会と銘打っているが、実際は交流会だ。

 少し話をして、ファンのカメラか携帯を預かって2ショット写真を撮る。アイドルの握手会に近いかもしれない。握手会行ったことないけど。

 

「アグネスタキオンさん! 大阪杯すごかったです! 応援してます!」

「ああ、ありがとう!」

 

「本物だぁ……! すごい! かっこいい勝負服!」

「それは光栄だね!」

 

「アレやってもらっていいですか!? お手手くるくるするやつ?」

「くるくる? トレーナー君……ああ、なるほどね。これでいいかな」

 

 ファンたちの声掛けや要望に応えながら撮影会は進んでいく。

 別のステージで行われている撮影会をチラッと見ると、何故かトレーナーも一緒に写真を撮られていた。

 ……先輩じゃないか! タイキシャトルと一緒に撮影会に参加していたようだ。

 というか一緒に写真撮ってるのデジタルだ! 相変わらずのウマ娘オタクだなぁ。

 

「トレーナー君、よそ見しないでおくれよ」

 

 視線を戻すとタキオンがこちらに袖を突き出していた。いや、手か。

 話を聞いていなかったので何を必要とされているか今一わからない。

 

「おいおい聞いてなかったのかい? 君はなんのために私の隣にいるんだ。ほら、はやくペンを渡してくれないかい」

 

 サインだったらしい。

 袖の中にペンをズボっと突っ込むと、尻尾がビン! と跳ね上がった。

 

「なんだ、びっくりするじゃないか!」

 

 いや、ペンって言ったじゃん。

 

「急に袖の中に手を入れてくるなんておかしいだろう! 手の上に乗せてくれればいいじゃないか!」

 

 えぇ……書けないだろ、その袖だと。

 

「確かにそうかもしれない。しかしだねぇトレーナー君、普通に考えてだよ? 手渡しするってなって、服の中に手を入れるのはおかしいと思わないかい? うん?」

 

 怒ってますという表情で俺に詰め寄ってくるタキオン。

 スイッチ入ってしまったなと思っていたら、何故かものすごい勢いでシャッター音が鳴る。

 2人でファンの方を向くと、みんな写真を撮っていた。サインを求めていたファンも同様だ。

 え、何これは。

 

「なんだこれ。どういうことだい?」

「大丈夫です! サインとかとりあえずいいですから! 続けてください! ほんとに!」

 

 今のやり取りのどこに需要があったのだろうか。

 2人で首を傾げながら、撮影会を続けていくのであった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 撮影会が終わった後、先輩に挨拶をしたら何故かタキオンがタイキシャトルに別の会場へと連行された。

 気づけば先輩のチームのトークショーに飛び入り参加することになるという謎の事態に。一体何が起きているんだ……。

 

「ちょっとだけ尺稼いでくれないか。主役のウマ娘が行方不明だからさ、見つけてくるから頼むぜ」

「よろしくお願いしマス!」

 

 そう言ってどこかへ行ってしまった。

 先輩のチームの主役といえば、まあチームリーダーだろう。

 さっき撮影会にいた気がするんだが、逃げてしまったからな。追込が得意なのに逃げているとはこれいかに。

 

 現実逃避していたが、トークショーは既に始まっている。

 先輩のチームはそういうものだと慣れているのか、ファンたちはタキオンと俺がいても動じない。記者とかもいるけど全然困ってないな。

 というかうんうんと頷いている。ファンも関係者も教育されすぎでは?

 

「それではアグネスタキオンさん! よろしくお願いします!」

 

 司会を務めるのはトレセン学園のスタッフではなく、フクキタルだ。

 何故チームのトークショーなのにチームメンバーが司会をやっているんだろうか。

 

「今日はみなさんをまとめる役が吉とでていたので、スーパーラッキーガールことマチカネフクキタルが司会ですよ~!」

 

 いいぞー! フゥー! ラッキーカムカム!

 謎の声援を受けて得意げにしているフクキタルは、手元のカンペを見ながらトークショーを進行し始める。

 

「まずはそうですね~。今日の感謝祭、何に参加されていますか?」

「撮影会だよ。先ほどまで参加していたね」

「おぉ~! 撮影会ですか! 感謝祭の目玉イベントですね! 目玉じゃないイベントなんてありませんけど」

 

 行きたかった~。撮影会なんて出るんだな。そんな感想が聞こえてくる。

 ファンの方々から歓迎されているようだ。先輩のチームは大らかなファンが多いなぁ。

 

「どうでした? 楽しかったですか? タキオンさんってこういうのにあまり参加しないイメージがありますけど」

「随分ストレートな物言いをするものだね! 悪くはなかったよ。いや、愉快だったと言えるだろう」

 

 クツクツと満足そうに笑うタキオン。

 研究のためと言っていはいたが、なんだかんだ楽しかったようだ。

 誰しも好意的な言葉をかけてもらえると、嬉しいものだからな。

 

「そうですよね~! ファンの方々との交流は幸せを分かち合えるすばらしい時間ですからね!」

 

 わかる……とフクキタルのファンらしき方々が神妙に頷いている。

 かなり前から追いかけているのだろう。中にはここまでよく成長して……と感動しているファンもいた。

 

「あ、あの! 少しいいですか!」

「おや?」

「うん?」

 

 興奮した様子で手を上げたのは、雑誌の記者だ。胸章をつけている。

 そして腕には……あれ、タキオンに買ってあげたものと似たお守りだ。

 

「あの、フクキタルさん! ドリームトロフィー・リーグへの参戦、おめでとうございます!」

「おぉ~! ありがとうございます~! みなさんの応援のおかげです!」

「私、フクキタルさんのファンで! 是非占いを見てみたくて!」

 

 フクキタルの占いは、学園では相当有名だ。全部自己流だと言っていたけど。

 マチカネ相談室というお悩み相談の窓口ができるほどだし、アドバイスも極めて有用。

 最近どこかのウマ娘雑誌で占いコーナーをやっていた気もする。コアな人気があるんだろうな。

 

「なるほど! ではこの後時間があったらやってみましょう!」

「ありがとうございます! あ、あと、その。アグネスタキオンさんにも少しだけ質問が」

「おや、随分うまく切り出してきたじゃないか。ククク……いいだろう! 何を聞きたいんだい」

 

 たどたどしい部分はあるが、流れるように取材へと切り替えた。

 フクキタルは「げぼっ! 私の司会が~!?」と叫んでいる。げぼってなんだ。

 

「先日の大阪杯、お見事でした。それで、次はどんなレースを目標にしているのかな、と」

「ふぅン。トレーナー君、言ってもいいのかい?」

 

 別にいいんじゃないかな。

 ついでに勝利宣言もしておけばいい。

 

「アッハッハ! 強気だね!」

「では宣言しよう! 私は中距離のGⅠレースをメインに出走するつもりさ。もちろん、グランプリにもね。それらの全てで結果を出すよ」

 

 自信満々にそう話すタキオンに、おお! と期待の声が上がる。

 

「では、次は宝塚記念ですか!?」

「そういうことだね。もちろん、人気投票で出走権を得られたらということではあるが」

「ふっふっふ~! 大丈夫ですよ、タキオンさん! 絶対に出られます!」

 

 グッと両手でサムズアップするフクキタル。

 絶対、とは。

 

「ファンの方々にしっかり宣言したじゃないですか。なら、みなさんが叶えてくれます! タキオンさんの願いを!」

「そんな簡単にいくものかい?」

「いくものです! 私がそうでしたからね~」

 

 ニコニコ笑いながら体を揺らすフクキタルに、またファンの方々が腕組み頷きおじさんになっている。

 俺たちも投票するぞ! がんばってくれ! 楽しみにしてる! そんな声が聞こえてきた。

 

「……ククク、おもしろいものだね。声援を聞くだけで、高揚しているよ」

 

 みんなからの応援を聞いて嬉しそうに笑うタキオン。

 次のレースも絶対に勝つ。この場の熱気と情熱を感じて、そう決意するのであった。

 

 ちなみに先輩たちが戻ってきたのはそれから20分後だった。

 リーダーはシュノーケルつけて鯛を持っていたんだけどどこまで行ってたんだ……?




Report:●◇年4月◎▽日

 ファンとの交流、中々いいデータがとれた
 深淵を覗くものはなんとやらと言うものだけどね
 高揚しているファンを見ると、私も高揚してしまう
 感情というものはおもしろいものだね
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