物語の展開上そこにタキオンをつっこんでしまった……
天皇賞秋。
レース場改修の関係から、今年は中山レース場にて行われることとなった。
クラシック級、シニア級共に有望なウマ娘たちがそろっており、中山レース場は大いににぎわっていた。
控室でパドックでのお披露目まで待っているタキオンは、穏やかな時間を過ごしている。
俺は直前まで芝の状態などを確認していて、隣に座る彼女はそれを見ながらレース展開を考えているようだ。
「天候晴れ、芝は良。しかし連続開催中で荒れ気味、と」
最内はそれまで走っていたレースの関係で荒れていることが非常に多い。
そのため、ほんの少し外を走りたいと思うところだが、キツくマークされるのは目に見えている。そう簡単に外には出られないだろう。
ならそれでいいと考えて、内側からレースを進めるという算段なのだ。それしか道がないともいう。
「やるだけやってみよう。なに、最終直線になれば自然と道が開くとも」
少しつついてみようじゃないか。
そう言いながら、不敵に笑うのだった。
◆ ◆ ◆
地下バ道をてこてこと歩いていく。
今日も調子がよく、脚も精神も万全の態勢だね、とタキオンは思う。
機嫌よく歩いていると、後ろから強い視線をいくつも感じる。
1番人気でGⅠ2連勝。警戒されているわけだとくつくつ笑うと、さらに警戒が増したのか圧が強まった。
「やれやれ、やはり私は注目されていないほうが気楽だよ」
以前みたいにね。
トレーナーに会う前の環境を懐かしんでいると、地下バ道を抜けターフへと降り立つ。
歓声、熱気、芝の香り。全てを全身に受けながら。自分の中の熱を感じながら歩いていく。
『今年は中山レース場にて行われることとなりました、秋のGⅠレース天皇賞。芝2,000mです』
『条件は皐月賞と同じですね。しかし、春とは芝の状態が違います。9月の開催から時間が経っていますので、少しタフなレースになるかもしれません』
普段中山レース場はスプリンターズステークスで一旦お休みになるが、今回は東京レース場が使えない分中山レース場を使っている。
そのため、元々芝を張り替えたばかりの9月開催からそのまま使用している。新調したばかりの芝は走りやすく速いタイムが出やすいが、今は10月後半だ。
手入れされてはいるが芝は荒れており、
タキオンはパワーではなくスピードに特化していることを自覚している。
加速力ではなく、飛び抜けた最高速度を維持して一気に走り抜けるタイプだ。
芝の状況はやや不利、枠番も不利。
だがまあ、なんとかなるだろう。楽観的に考えながら、体のウォームアップをする。
トレーナー君の適当さが移ったかな、と苦笑するのだった。
『さあ始まります中山レース場、芝2,000m。天皇賞秋です』
ファンファーレが鳴り、実況解説が準備をし始めた。
各ウマ娘も続々とゲートインしていき、出走の時間が近づいていく。
タキオンはぐるりと見回す。
エアシャカールが横目で見ていた。チッと舌打ちをしてゲートへ入る。
シンボリクリスエスも見ている。少し緊張しているようで、グッと胸の前で手を握った。
ミョウオウトプロは流石の貫禄だ。とても落ち着いている。
シーティエムもよし! と拳を作り、ゲートイン。気合は十分のようだ。
誰もが勝ちたいと思っているんだね。
そんな当たり前なことを考えながら、タキオンはゲートインした。
(私は勝ちたい、とは思っている。だがそれよりも)
『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』
――ガタンッ
『スタートしました! 出遅れもなく揃ったスタートです』
『跳び出したのは12番ユーレイドール! 10番シーティエムと4番ブルーアラミタマもハナを主張しているようです!』
ゲートが開き、出遅れなく始まったレース。
まずは逃げウマ娘たちのハナの取り合いだ。思いきり主張をしたのはユーレイドール。2番人気であるシーティエムと横並びになり、抜きつ抜かれつのデッドヒート。
ユーレイドールはハナを取らないと勝負にならない。それぐらいタキオンやシーティエムたちと実力差があると思っている。
だからこそ、つつかれてスタミナを消費させられてでも先頭に立つために必死に走っているのだ。
彼女の勝負は第1コーナーまで。そこまでに先頭を取れなければレース終了。そんな意気込みで走っていた。
その戦いを横目に見てスッと下がったのはブルーアラミタマ。
スタミナがなくなると思ったのが1つ。
もう1つは背後にタキオンがいるからだ。ここで自分が前に出てしまうと、タキオンがかなりいいポジションに収まる。
それは避けたい。先行でも走れる彼女は、マークを優先することにしたのだった。
しかし、コーナー前でさらに別の展開を迎えることになった。
『第1コーナーに入りまして、先頭を取ったのはユーレイドールです! その1バ身後ろにはブルーアラミタマ! その後ろ13番ヒガシノイナズマ! そして2番アグネスタキオンとシーティエムが並んでいます!』
シーティエムがユーレイドールへプレッシャーをかけるのをやめて後ろへ下がる。
そこに合わせてブルーアラミタマが前に出たのだ。タキオンのマークを後方に任せ、自分が前に出ることを選択。
しかしその後ろで待機していたヒガシノイナズマがブルーアラミタマを追いかけてしまった。彼女も抜け出しておきたかったのだ。
結果、前目につけていたタキオンは4番手で先行している集団の先頭に。
シーティエムがその外側について併走するという形になった。
(予想外だな。いい方向に、だが)
タキオンは僥倖にめぐりあったな、と思いながらコーナーを回っていく。
外にいるシーティエムからの圧はやや強いが、その程度なら問題はなかった。
誰もが想定していない、1番人気と2番人気がフリーの状態が形成されてしまったのだ。
『第2コーナーを抜けて向こう正面へ! 1,000m通過は59.3!』
『中々比較しにくいですが、平均ペースよりやや速め程度でしょう。この後すぐに勝負どころが来ますよ』
速すぎず、遅すぎず。
そんなペースで走っていくユーレイドールだが、後ろとの差はほとんどない。
隊列はかなりぎゅっとした状態で進んでいる。そしてこのレース場は、残り1,000mほどから激しい攻防が始まるのだ。
第3コーナーに差し掛かるところで、後方でのつつき合いが始まった。
外に出るためのプレッシャーであったり、前に行かせてスタミナを切らせるための挑発であったり。
問題は先行している人気のウマ娘たちへの影響が薄いことだろうか。
コーナーを回りながら、先頭を走るユーレイドールは早仕掛けをした。
直線は短い、ならばここから攻める!
少しずつ後方との差を付け始めたのだ。
『ユーレイドール少しずつ前に出る! ブルーアラミタマはペースを上げない! ヒガシノイナズマも下がっている!』
ユーレイドール以外は脚を溜めるべくペースを変えずに走り、バ群へと埋もれていく。
タキオンやシーティエムたち集団はペースが上がっており、第4コーナーに入ったところでブルーアラミタマたちへ完全に追いついた。
バ群と合流した2人はそれぞれタキオンたちを確認して、ブロックできるようにと考えていた。しかし、そんなことは彼女たちも分かっている。
(中山レース場。逃げウマ娘。隣、前方2人。ふぅン)
タキオンは計算式を作り、解き、そして最適なルートを導き出す。
一度だけ大きく息を吸い、そして吐く。
そして一瞬、ひゅっと息を吸う。
「――ふっ」
ブルーアラミタマたちが警戒している中、1人分開いていたスペースに流れるような走りで滑り込み、そのまま抜け出す。
「なっ!?」
「やばっ!」
美しいフォームで加速しながらコーナーを回っていき、ぐんぐん詰めていく。
ユーレイドールは後ろから近づいてくる足音を聞いて心臓が張り裂けそうになる。
先行抜け出しで近づいてくるウマ娘! あの娘だ!
『第4コーナーでアグネスタキオンが抜け出した! ユーレイドールへ差を詰めながら最終直線へ入っていく!』
観客たちが大音量で声を上げるホームストレッチ。
コーナーを回り終えたウマ娘たちは、最後の勝負だと一気に駆け抜ける。
『最初に抜け出したのはユーレイドール! しかしすぐ後ろにアグネスタキオン! いや、もう抜けた! 抜け出した! 先頭はアグネスタキオンだ!』
加速したまま直線に入ったタキオンは、遠心力に身を任せて走りやすい場所に体を持って行った。
そして誰にも邪魔されない直線コースに出て、ユーレイドールを歯牙にもかけず一気に駆け抜ける!
『内からシンボリクリスエス! シンボリクリスエス上がってきた! ミョウオウトプロとエアシャカールも後方から伸びてきている! シーティエムも粘る粘る!』
有力ウマ娘たちがコーナーを抜けたところで一気に上がっていく。
特にシンボリクリスエスは頭1つ抜け出すと、そこから半バ身、1バ身とぐんぐんスピードが速くなる。
その時、大きな声がターフに響く。
――タキオォーーーン! 突っ込めェーーー!
ふっと嬉しそうに笑うタキオン。誰よりも速い、最速の脚をもつウマ娘。
シンボリクリスエスがぐんぐん伸びる。
しかし、タキオンはさらにもう1段階、風を切って加速した!
『アグネスタキオン! なんという速さだ! シンボリクリスエスが伸びているが差は開いていく!』
シンボリクリスエスはグッと歯を食いしばる。
今出せる全力。全てを使っているというのに、目の前で走る白衣のウマ娘はそれ以上に速かった。
最高速度が、最大値が違う。それでも顔を下げず、必死に追いかける。
『アグネスタキオンまだ伸びる! すごい末脚です! そのまま突き放してゴールイン! 光のような速さですアグネスタキオン!』
一気にゴール板を駆け抜け、大歓声の中タキオンは息を整える。
そして自分が1着なのを確認すると、トレーナーを見てニヤリと怪しく笑い、機嫌がよさそうにウィナーズサークルへと歩いていった。
そんなタキオンを見て、相変わらずだな。でもよくやった! トレーナーも満面の笑みでウィナーズサークルへと走っていく。
光のような速さ、トレーナーとの絆。
すごいな。いいな。共に走った彼女たちは、眩しそうにタキオンの姿を見つめるのであった。
Report:●◇年10月×▲日
今日は運が味方してくれたね
走りやすかったし、スパートも好きにかけることができた
前に出るのが遅ければ中々厳しいレースだっただろう
しかしなんでみんな目を細めて私とトレーナー君を見ていたんだろうか
あのときはトレーナー君は光っていなかったと思うが