アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 ぱーちーたいむ!


Story34:クリスマス

 天皇賞秋を終え、年末最後の大一番。有マ記念までの休息となった。

 今年に入って負けなしのGⅠ3連勝。雑誌の特集などでは『テイエムオペラオーに次ぐ年間無敗か!?』なんて書かれている。

 タキオンは取材とか受けないしレース後の勝利者インタビューも受けずに帰ってしまうからあんまり情報ないけど。

 今読んでいる雑誌も、レースから見たタキオンの印象やら強さやらを書き記したもので、彼女自身の心情や展望はない。

 

 まあ、ウマ娘の出せる最高速度のその先、果てを目指しているなんて言ったら危険だとかレースに失礼だとか言われかねないからな。

 タキオンは言動で批判されやすいし。前のインタビューも大変だったなぁ。

 ふぅ、と息を吐いていると、目の前からふぅンと声が聞こえてくる。

 

「なあ、トレーナー君。情報収集はいいことだと思うが、今は昼食の最中だよ。早く食べたまえ。んむ」

 

 タキオンがオムライスを食べながら注意してきた。

 今は昼時で、俺たちを含めて多くのウマ娘たちがカフェテリアで昼ご飯を食べているところだ。

 遠くで先輩やフクキタルたちがわいわい楽しそうに食事しているのも見える。

 

 雑誌を置いて1口コーヒーを飲み、ホットサンドを口へと運ぶ。

 アツアツのパンの中に入ったチーズの塩気とトマトの酸味がうまい。今度ホットサンドメーカーでも買おうかと思うぐらいだ。

 咀嚼して飲み込む。もう1口とコーヒーを掴むと、対面のタキオンがものすごく不満そうな顔をしている。

 

「きみぃ、当てつけかい? まったく、私の前でコーヒーを飲むのはやめてくれといつも言っているのに」

 

 ぶつぶつ文句を言うタキオンを無視して1口。

 うん、コーヒーだ。満足してカップを置き、不機嫌なタキオンを対面にまたホットサンドを食べる。

 

「………」

 

 同席していたカフェがコーヒーを飲みながら、俺とタキオンを見てげんなりしていた。

 手元には弁当が置いてある。俺が今日の朝に作ったものだ。

 

 なんでこんな状況になっているのかというと、タキオンが弁当の具にケチをつけてきたからだ。

 

「今日は魚の気分じゃないな。煮物も違うね。玉子はいいだろう」

 

 わざわざトレーナー室で弁当を開いてそんなことを言うものだから、腹が立ったので弁当を強奪。

 髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回してからカフェテリアまで引きずってきた。

 そしてちょうどそこにいたカフェに食べてといって弁当を渡したというわけだ。

 

 毎日早起きして弁当を作っては朝昼夕と渡しているのにこのマッドウマ娘ときたら!

 憤慨しながらホットサンドにかぶりつく。

 

「まったく心が狭いんじゃないかい、トレーナー君。ちょっと弁当のことを口にしただけだろう。確かに腹が立つような言いかたをしたかもしれない。だけどね、別に食べたくないといったわけではないじゃないか」

「タキオンさん……またお弁当で怒らせたんですか……」

 

 弁当のことでタキオンをしこたま説教するというのはよくあることで、月に1度は頭をぐしゃぐしゃにしている。

 わざわざ作った人の目の前であーだこーだと言ってくるわけだからな。そりゃあ怒るわ。

 

「だって今日は魚の気分じゃなかったんだよ。カフェだってあるだろう? 今日は紅茶が飲みたいという日が」

「いえ、ないです……」

「例えが悪かったね。肉が食べたい、魚が食べたい。そんな日があるじゃないか。弁当の内容がその日の気分に合致しなかったという話なんだよ」

 

 タキオンなんでもいいって言っただろ。

 

「なんでもいいけど気分的にはそうじゃなかったんだ」

「……こどもみたい、ですね」

 

 ついにカフェからも言われてしまった。子供みたいだと。

 えー!? と驚いているが、そりゃあそうだろうと言いたくなる。

 子供がいるお母さんたちのすごさというか、がんばりがよくわかる毎日だ。尊敬するわ、本当に。

 

「……いつも喜んで食べてるのに……今日は駄目、だったんですか」

 

 カフェが不思議そうに首を傾げながら弁当をつつく。

 あれ、そうなのか?

 

「別にそんなことはないよ。自由時間がきたから喜んでいるだけさ」

「……おかず交換」

「おっと、カフェ? そういえば新しいものを作ってみてね、飲むと一瞬で疲労が回復するドリンクなんだが」

 

 何かを言おうとしたカフェにペットボトルを突き出しながらまくし立てている。

 おかずが何かあったのだろうか。

 

「素直に言えばいいのに……」

「困るねぇカフェ。そういうのは私が時を見てするものじゃないか。ほら、これをあげるから飲みたまえ」

「いりません……」

 

 押し付けられているドリンクを押し返しながら弁当を食べ進めるカフェ。

 なにがなんだか……首を傾げながらホットサンドを口にするのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 数日後。今日はクリスマスだ。

 トレセン学園、というかカフェテリアではクリスマスパーティが開かれている。

 タイキシャトルやシーキングザパールのようなパーティ好きや、テイエムオペラオーのような目立つのが好きなウマ娘たちがこぞって楽しんでいた。

 

 俺はすぐ後に控えた有マ記念に向けて情報収集だ。

 自分の部屋でこたつに入りながらパソコンを使って天気やらなにやらを確認していると、チャイムが鳴る。

 もう夜になるが……玄関に行って扉を開けると、タキオンが寒そうにして立っていた。

 

「メリークリスマス、トレーナー君。かなり寒いから部屋に入れてほしいんだが」

 

 ぷるぷる震えているタキオンを慌てて室内に入れる。

 雪が降ってない分まだマシかもしれないが、今日はかなり寒い。

 体調を崩さないか心配だが……何しに来たのだろう。

 とりあえずこたつで温まっているタキオンにお茶を出す。

 

「おや、助かるよ。ふぅー、ふぅー」

 

 両手で湯呑を持ち、手を温めながらお茶を飲む。

 ほっと息を吐いたところで、どうしたのかと聞いてみた。

 

「今日はクリスマスだろう? だからプレゼントでもと思ってね」

 

 ニヤリと笑うタキオンが鞄から何かを取り出す前に。

 あ、いらないのでお引き取りをと言ってこたつから引っ張り出す。

 

「えー!? こんな寒い中外に放りだすなんて正気かい!? 鬼! 悪魔! モルモット!」

 

 慌ててこたつにしがみつき、そのままずるずるとこたつの中に引っ込んでいく。

 くっ、ウマ娘のパワーには勝てん!

 

 観念して手を放し、俺もこたつに入ると不満そうに鞄から何かを取り出した。

 

「まったく、ひどいじゃないか。プレゼントをと思ってわざわざ来てやったというのに」

 

 はい、と箱を渡された。きちんと包装されている。

 開けるよと声をかけて包装を取り、中身を取り出す。

 これは……アロマキャンドル?

 

「香りというのも効果的だと聞いてね。髪に使うトリートメントも作ったことだし、こういったものもどうかなと試作したわけだ。丁度いいからプレゼントにしてみたんだよ」

 

 なるほどなーと頷く。

 とりあえずつけてみようか。キッチンからガストーチバーナーを持ってくる。

 

「おいおいおいおいトレーナー君? それはいささか強力すぎやしないかい?」

 

 タバコ吸わないからライターみたいなのがないのだ。

 とりあえず遠目からちょっと火を拭かす。

 ボシュっと火が噴出し、アロマキャンドルのひもに火がついた。

 

「時々豪快というかなんというか、やりすぎな時があるねぇ君は」

 

 タキオンに小言を言われつつ、アロマキャンドルを堪能する。

 

「火のゆらぎはリラックス効果があるというのはよく聞くからね。君にとってはいい匂いがするはずさ。私生活を調べたからね」

 

 何やらものすごい気になることを言われたが、とりあえず匂いを嗅いでみる。

 ふむ、これは中々……何の匂いだこれ?

 臭いとかではないけど、嗅ぎなれた匂いというか……。

 

「心当たりがあるかい? なに、君が毎日使っているものの匂いだよ」

 

 はて。思わず首を傾げてしまう。

 毎日使うもの……?

 

「ククク……察しが悪いね。まあ、日常的に使うものだ。鼻が慣れてしまうか」

 

 これだよ、と鞄から取り出されたものは何かのボトルだ。

 中身はどろっとしていて……いやこれシャンプーだな!?

 

「アッハッハ! そうだよ、君が使っているシャンプーさ! あとは洗濯で使う柔軟剤の香りも入れたかな」

 

 どうりで嗅ぎなれているわけだ。

 いつも使っているシャンプーと柔軟剤などなど、俺が日常的に使っているものの香りがするキャンドルのようだ。

 

「こうやってきちんと楽しむのもまたいいだろう?」

 

 満足気に言われるが、なんというか、肩透かしというか。

 

「なんだよー、いいものだろう。せっかく君にとっていいものをと思って何度もテストして完成させたのに」

 

 最初はすごかったんだぞと、実験当初の話をされた。

 どうやら刺激臭がする異物になってしまったようで、大変だったらしい。

 理科教室でこっそり作っていたから謎の異臭騒ぎになったんだとか。そういえばこの前変なにおいがするとか何とかでトレセン学園の医者が集まってたな。

 タキオンの仕業だったのか……明日理事長に謝ろう。

 

 ともあれ、俺のために作ってくれたのは事実。

 ありがとう、うれしいよとお礼を言う。

 

「律儀だな、君も。しかしそうだね。前にカフェにも言われたが、言葉に出してみるとするか」

 

 そう言って改まってこちらを見直す。

 

「トレーナー君、いつも感謝しているよ」

 

 そう言って、すぐに顔をそらしてしまった。

 どうしたんだ、と声をかけると、目を泳がせる。

 ほのかに、顔が赤い。

 

「待ってくれ。これは想像以上に恥ずかしいぞ」

 

 あまり見せることのないレアな一面だ。

 なんというか、普通の少女らしくて新鮮な気持ちになる。

 おれも感謝しているよと言い返すと、うぅ、と呻いて顔を手で覆った。

 

「やめてくれよー、トレーナー君。なんだか改まると恥ずかしいじゃないか」

 

 珍しく本気で照れるタキオンを見て、また距離が近づいたなと感じるのであった。




Report:●◇年12月25日

 ――なにかを書きなぐった跡だけがある


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