URAファイナルズ。
トゥインクル・シリーズとドリームトロフィー・リーグのウマ娘たちが戦い、距離別で最強の座を競う3年に1度の祭典。
開催が発表され、有力なウマ娘たちへ推薦状が送られてきている。
もちろん、タキオンのところにも。
「ふぅン、URAファイナルズか」
推薦状を手に持って遊びながらタキオンは独り言つ。
有マ記念で勝利し、年間無敗。GⅠ4連勝、計6勝という成績を残した。
そんな彼女に推薦状がくるのは当たり前のことだと思う。
「なあ、トレーナー君」
ソファの背もたれに体を預け、ニタリと笑いながら俺の顔を見る。
「どうしたい?」
ひらひらと推薦状を振って見せてきた。
なんの挑発をされているんだ、俺は?
出たくないのかと聞くと、何故か不機嫌そうに唇を尖らせる。
「なんだよー、君は出なくてもいいっていうのかい? 出なくていいなら私は出ないよ」
急にやる気がなくなってしまったようだ。
どういうことなんだ……。
出てくれるなら出てほしいよと話すと、急に元気になってニヤニヤし始めた。
情緒が不安定すぎる!
「ふぅン、まあ及第点だ。私にとっても、化け物ぞろいのドリームトロフィー・リーグ出走者を観察できる機会だ。逃す手はないね」
機嫌がよさそうに推薦状にサインして出走希望を告げてくる。
書き終えた推薦状をもらい、俺のサインと判子を押す。
ふむ、まあ予想通り中距離部門への出走だな。
「私の適正距離はおそらく1,800mから2,500m程度だろう。スタミナや脚のことを考えると、長距離には不安が残る。2,500mは長距離だけどね」
俺も同じような印象を持っている。
ウマ娘はシニア級になると、自分の適正距離が明確に見えてくるのだ。
タキオンのスタミナとスピードのデータを見ると、明らかに適正は中距離。とてもわかりやすい。
長距離は走れるけど、そこそこ。そんな感じだ。マイルも同じく。短距離は適性がない。
最初から適性はある程度わかる。だからこそミホノブルボンはすごいって言われるわけだし。
ただタキオンの場合、菊花賞まで常に脚をセーブしていたからな。シニア級での走りで確認しなければいけなかったわけだ。
「URAファイナルズは距離、レース場、出走ウマ娘。その全てがランダムだ。私は根幹距離が得意だが、選べるわけじゃない」
根幹距離というのは、400mの倍数のレースだ。要は2,000、2,400の2つ。
タキオンはこれらの距離だとペースメイクがかなりうまい。いつも以上にスタミナが残るから、スパートを早めても問題ないのだ。
しかし今回は、2,000mだから出る。2,200mだから回避するといったように選ぶことができない。
それは誰もが同条件なわけだから、甘んじて受けるしかないが。
「まあ、私にとっては些事だよ。重要なのは中距離であることだからね」
タキオンは中距離が単純に強い。これは適正距離だからというより、中距離での走りが巧いのだ。技術が優れているともいう。
直線だろうがコーナーだろうがとにかく自分の走りたいように走れて、自分のレースプランを全員に押し付けることでスタミナを管理する。
そして計算されたタイミングで抜け出し、最後は鋭い末脚で突っ込んでいく。
王道のレースができる理由は、このレースの巧さなのだ。
「うぅん、今から楽しみだ! どんなデータが取れるんだろうね!」
わくわくしてきたと耳や尻尾を動かして楽しそうにするタキオン。
このまま良い精神状態を保ちたいところだ。
◆ ◆ ◆
やる気に満ちている状態で1月後半を迎えた。
既にレース場、距離、出走メンバーが決まっている。あとは枠番だけだ。
それぞれのメンバーの特徴を考えながら作戦を練り、タキオンのレースプランとすり合わせていく。
今日は実際に走って確かめるため、練習場で調整だ。
距離はレース本番と同じく阪神2,000。大阪杯と同じ条件とする。
よーい、ドン!
「ふっ!」
タキオンが走り出し、本番の情景をイメージしながらタイムを確認する。
スタートはいつも通りいける。枠番は決まっていないがある程度隊列は想像できるので、タキオンは自分のポジションをどこにとるかを考えてそこに収まるように走っていた。
うん、逃げウマ娘はこの人数だからこのぐらいだろう。あとは第3コーナー前で動くようなウマ娘がいるかどうか。
メモを取りながら走りを見ていると、後ろから誰かが歩いてきて隣に立つ。
視線だけ向けると、来ていたのはアマゾントリップだった。
「やってンねぇ」
やってるよ。短く返しながら、最終直線に入ってきたタキオンを見た。
今回の想定は第4コーナーまで後ろがあまり動かずに進むパターンのようだ。
すっと外に1人分体を出し、一気に加速する。
――タキオン! 全身全霊だ!
残り200mとなったところで上り坂をイメージ。
力強く踏みこみ、さらに加速してゴール板を駆け抜けた。
タイムは……うん! 練習場ということで平坦であることを考えても相当なタイムだ!
実力を出し切ればレコードも見えてくるだろう。
「ふぅ……おや、トリップ君」
「よ!」
タキオンが息を整えながら戻ってきたところでアマゾントリップに気が付いた。
人懐っこく笑って手を上げる。レースに勝ってヘドバンするウマ娘とは思えないなぁ。
「これ、先生がタキオンに渡してくれってよ」
「ふぅン? ああ、これか」
アマゾントリップが差し出したのは紙の束だ。
タキオンは知っているもののようだが……なんだそれ?
「タキオンが授業受けてなかったのは知ってンだろ? 今はちげーけど。その受けてねーとこをレポートで出せばお咎めなしって話なンだわ」
「かなり面倒だったけどね」
「おめーが最初から受けときゃよかった話だろーよ」
「必要ないと思っていたのさ。君も知っていることをもう一度聞かされるのは苦痛じゃないかい?」
それはそうだとアマゾントリップは力強く頷く。
ほら見たことかとタキオンも得意げだ。
教育者としては耳の痛い話ではある。それだけ大事ってことなんだけど、学生である彼女たちにとっては面倒なことなんだろうな。
それはさておき。
今もレポート出してるのかと聞くと、そうだよと返された。
「もっとも、これが最後の提出だけどね」
「先生も終わった……つってやりきった顔してたぜ」
問題児の問題が解決して、感動もひとしおだろう。
今後も問題を起こしていくと思うけど。
「あ、それとこれだ。枠番、決まったぜ」
「おや、そういえば今日発表だったね。私もトレーナー君も忘れていたよ」
「アンタら忘れちゃいけねーもンじゃねーのか、これは」
あまりにも正論すぎる。
俺もタキオンもそっぽを向くと、似たもン同士だなと言われてプリントを渡された。
なになに……タキオンは、4枠7番か。内じゃないが外でもないな。
「オレは7枠13番だ」
「ふぅン、外枠だね。脚質には合っているかもしれないが」
「まあな。ホクオウも8枠18番で大外枠だぜ」
「彼女も追込だし丁度いいかもね。それでも大外枠なのは面倒だと思うが」
今まで何度も争っていたウマ娘たちが勢ぞろいしていた。
アマゾントリップ、ホクオウボーダー。シーティエムやミョウオウトプロもいる。
唯一ミナモトライコウはマイルにいったらしい。なんでも一緒に戦えなかった先輩であるアグネスデジタルと決着をつけたいんだとか。
それを聞いたデジタルが気絶していたとタキオンから聞いた。
「シーティエム君は1枠1番。トプロ君は5枠10番か。思ったよりばらけたね」
「そうだな。まあ、ポジション争いで変にぶつからなくていいだろ」
「それもそうだね……いや、私は多分トプロ君とやり合うことになると思うが」
「そりゃあご愁傷様なこって」
ケラケラ笑うアマゾントリップに対し、タキオンもくつくつ笑う。
静かに話してはいるが、お互いに燃えるような闘志を瞳に宿している。
これは大変なレースになりそうだなと、わくわくしながら2人を見るのだった。
Report:●▼年1月○●日
中々おもしろいレースになりそうだ。
クラシック級からシニア級まで戦ってきたウマ娘が相手なんだからね。
私の得意な距離だし、大阪杯で同じ条件を勝利している。
有利なのは変わりないが、実力のあるウマ娘ばかりだ。
全力を尽くして走ろうじゃないか。