アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 疲労を抜くことは極めて大事だよトレーナー君


Story38:準決勝の前に

 予選で強い勝ち方をすることができて非常に嬉しい。

 先輩とは違って奇抜な作戦を考えられないから、俺はとにかく事前に情報を調べ上げてタキオンに伝えることしかできない。

 かなりピンチだったがうまく立て直して勝ってくれたのでホッとしている。

 

 いい調子のまま次のレースに臨みたいなと思いながら、タキオンを温泉へと連れ出した。

 理由は単純で、疲労抜きだ。割と無茶な走りをした上、月1でかなりレベルの高いレースを行うわけで。

 決勝まで行くと3戦だ。ここでトレーニングするぐらいなら、多少衰えてでもしっかり疲れを取った方が万全ということで湯治に来たというわけだ。

 

「足湯はいいね。体が熱くなりすぎることもない。知っているかいトレーナー君。足湯は全身の血流がよくなる上、内臓機能にも効果があるんだ」

 

 去年聞いた気がするな、なんて思いながらタキオンとゆっくり足湯に浸かる。

 テーブルもある足湯だから、パソコンを開いて次のレースについて情報を集めながらの休みだ。

 タキオンの疲労抜きをしている間、俺はしっかり働かないと。どうせこの後は旅館でゆっくりするんだし。

 

「相変わらず真面目だね。おかげでいつも助かっているわけだが」

 

 ずいっと隣に座ってきて、パソコンを覗き込んでくる。

 コースと距離だけ判明しているから、芝の様子とか坂とかそのあたりを確認するぐらいで、まだ本格的にやっているわけではない。

 次のレースは東京2,400m。日本ダービー、ジャパンカップと同じ条件だ。

 525mの直線で、どこで仕掛けるのか、天候の予想は、バ場は。発表されている情報を集めながら、メモを取る。

 

「ふぅン、東京レース場か。ダービーのリベンジとなるわけだね」

 

 タキオンは楽しそうに情報を見て、自分の携帯を取り出しデータを見る。

 彼女は彼女で自分の体のデータをくまなくとっている。

 そこから距離やレース場などの情報とすり合わせて作戦を考えるのが、俺たちのレースプランだ。

 尤もタキオンが優秀なレースプランナーだから、俺が考えることは少ないけど。

 

「2,400mか。一応根幹距離ではあるからね、得意な距離だよ」

 

 自分のデータを参照しながらそう話し、にんじんジュースを1口飲む。

 

「準決勝のレースに関して言うと、重要なのは出走者。これだけだろうね」

 

 タキオンの意見には同意だ。

 今集めた情報を鑑みるに、良バ場になることが予想されているし、天候もレース前後2日間が晴れだ。

 となると、問題はやはり枠順と出走者だ。

 

「出走して来る逃げウマ娘がどのタイプかだね。サイレンススズカ君のような大逃げでハイペースに走るタイプなのか、先日のシーティエム君のようにスローでコントロールしながら走るタイプなのか」

 

 タキオンは先行で走るウマ娘だ。逃げウマ娘の走りによって、その走りの内容が大きく変化するわけで。

 トレーナー間では一般的に、大きく逃げるタイプの場合はペースメイクするのは2番手以降、先行集団のトップを走るウマ娘と言われている。

 スローペースの場合は逃げウマ娘を起点に考えてもいいが、ハイペースの場合はタキオンやミョウオウトプロのような先行ウマ娘が重要となるわけだ。

 

 前走ではスロー寄りのミドルペースだったため、シーティエムのペースに合わせた走りだった。

 それを利用してタキオンを封じに来たのがアマゾントリップやホクオウボーダーの仕掛けというわけだ。

 ペースを合わせるのか、作る側になるのか。出走者によって変わるために、最も気になるところではある。

 

「仕掛け時やポジショニングはそう問題じゃないだろう。とにかく脚をギリギリまで溜めることが求められるわけだからね」

 

 直線が長く、上り坂もあるために早仕掛けで勝つのは難しい。

 そのため、ロスなく走りながらしっかり脚を溜める。結局それが一番いいのだ。

 

「脚は好調。体のバランスも整っている。研究の成果も出ている。私が走る条件としてはかなりいいと思っているよ」

 

 ニヤリと笑い、データを見せてくる。

 携帯の画面には身体データと2,000mを走った時のタイムなどが記録されていた。

 それらを確認すると、現状1年前から今まで記録が右肩上がりだ。

 特に上がり3Fのスピードが著しく伸びている。

 瞬発力を鍛えるトレーニングはあまりしていないはずだけどなぁ。

 

「この調子を落とさずにいきたいところだね。精神的に安定した状態というのは勝負ごとにおいて勝敗に直結する部分がある」

 

 最近のタキオンはとにかく穏やかだ。

 有マ記念で一度目指していた研究の成果が存分に発揮できたからか、かなり余裕がある。

 薬を作って渡してくるのは変わりないが、難癖付けて無理やり飲ませてくることはなくなった。

 

 カフェからも大人しくなったと聞くからな。

 そう話すとものすごい不機嫌になったけども。

 

「さて、出走者が出るのを待とうじゃないか。そろそろ旅館に行くんだろう? お互い脚がふやけてしまう前に行こうじゃないか」

 

 タキオンに急かされてパソコンを閉じ、足湯から出る。

 次のレースはどんな展開になるんだろうか。タキオンの温められた脚を見て、そう思うのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 温泉とマッサージでしっかりと疲労を抜き、万全の状態で調整し始めた今日この頃。

 ついに出走者の発表となった。

 

「さて、誰と走ることになるんだろうね」

 

 薬を調合しながら、くつくつ笑う。

 つけているテレビでは理事長が生放送をしている。

 これからタキオンの走るレースでの出走者、枠番が発表されるのだ。

 

『東京11レース! 2,400mだ!』

 

 背後にあるスクリーンに1枠1番と表示され、ウマ娘の名前がランダムに消えては点き、消えては点きと繰り返されていく。

 しばらくして理事長が扇子をビッと突き出すと、名前が表示された。

 

『1枠1番! エアシャカール!』

「へぇ、シャカール君か」

 

 幾度となく対戦したエアシャカール。

 タキオン以上にロジカルな思想を持っていて、計算が全てという理系のウマ娘。

 差し追込のウマ娘だったと思うが、1枠1番は若干不利そうだ。

 

『続いて1枠2番!』

 

 先ほど同様に名前が点滅し、誰が出走になるんだと待ち構える。

 1枠、2枠、3枠と決まったところで、4枠7番。

 

『4枠7番! アグネスタキオン!』

「おや? また7番か」

 

 タキオンは予選同様7番での出走だ。

 真ん中の枠番であれば前にも後ろにもポジショニングしやすいから問題ないだろう。

 

『続いて4枠8番!』

 

 名前が点滅、そして表示される。

 

『4枠8番! ファインモーション!』

 

 隣の枠はファインモーションだ。

 有マ記念で戦った新進気鋭のウマ娘。

 シニア級になったばかりのはずだが、参戦して勝ち上がってきたようだ。

 

 その後も順調に進んでいき、7枠へと差し掛かる。

 

『7枠14番! シンボリクリスエス!』

 

 外枠にはシンボリクリスエス。

 彼女も天皇賞からずっと戦い続けているウマ娘。

 実力はシンボリ家らしく突出しており、タキオンがいなければ天皇賞も有マ記念も余裕で勝てていただろう走りを見せていた。

 秋の3冠をクラシック級から狙いに行くぐらいだ。ずば抜けた能力を持っている。

 

 そして最後の枠、8枠。

 最も外枠である18番。

 

『8枠18番! タップダンスシチー!』

「おっと?」

 

 タキオンも俺も、思わず釘付けになる。

 遠くからうわぁー! と悲鳴も聞こえてきた。

 大外枠に大逃げのウマ娘。

 これは波乱の予感がするぞ。思わず頭を抱えてしまうのであった。




Report:●▼年2月□◆日

 タップダンスシチー君が大外枠とは、かなり面倒な展開になりそうだ
 東京レース場で大逃げされてハイペースなんてたまったもんじゃない
 しかも彼女は逃げ切る可能性すらあるのだから困ったものだ

 いかにハイペースで走りながら息を入れるか
 それが極めて重要になるだろうね
 まあそうだね、中盤と後半、しっかり休めるように走らせてもらおうかな
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