アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 並み居る強豪との大一番


Story39:URAファイナルズ準決勝

 URAファイナルズ準決勝。

 激しい戦いを制したウマ娘たちしかいない、精鋭だけが残っているレース。

 東京2,400mという日本ダービーを彷彿とさせる条件。

 なんとなく浮足立つ雰囲気が東京レース場にはびこっている。

 

 それが悪いことだとは言わない。

 注目されている理由だし、何よりそれだけの熱気がレースにあるという証拠だ。

 雰囲気に影響されてそわそわと尻尾を揺らすタキオンを見てそう思う。

 

「なんだいトレーナー君。こっちをじろじろ見て」

 

 俺の視線に気が付いたのか不思議そうに俺を見る。

 準決勝だなと思ってと答えると、そりゃあそうだろうと腕を組んだ。

 

「予選を勝てば次は準決勝さ、当然だろう。そしてここを勝てば決勝だよ」

 

 最高の機会じゃないかとタキオンは嬉しそうにしている。

 とはいえ、トゥインクル・シリーズ以上に実力者しかいないレースだ。

 走りながらデータを取りに行く余裕はあまりないみたいだが。

 

「なに、一緒に走ることで見えてくるものもあるさ」

 

 経験だけはデータじゃ獲得できないからね、と。

 理系的な考え方ではない、タキオンらしい回答を聞いてそうだな、と笑う。

 今日も好調らしい。是非、いつも以上に魅力的な走りを見せてほしいところだ。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『URAファイナルズ準決勝。東京レース場で行われる最後のレースとなります』

『距離は2,400m、左回りです。日本ダービーやジャパンカップと同じ条件ですね』

 

 日本でも注目度の高いGⅠレースと同条件ということもあり、観客たちの熱気は予選よりも凄まじい。

 熱気にあてられて、出走しているウマ娘の中には掛かっていると思うぐらいに動いている娘までいる。

 

『注目のウマ娘たちを紹介しましょう。まずは1枠1番、5番人気エアシャカール』

『クラシック2冠のウマ娘です。シニア級では勝ち星が少ないですが、常に入着しているウマ娘です。今日も好走が期待できるでしょう』

 

 エアシャカールは体をストレッチしながらギロリと周囲を睨む。

 見た目に反してかなり理知的なウマ娘だ、現状を確認して自らの計算式に間違いがないかを確認している。

 緻密な計算に裏打ちされた走りは、常に好走している成績からも感じ取れるものだ。

 

『4枠7番アグネスタキオン。本日の1番人気です』

『やはり彼女が決勝に上がる最有力ウマ娘でしょうね。スピード、技術、共にトゥインクル・シリーズでは最高峰ですから』

 

 タキオンは当然のように1番人気だ。

 成績やレース内容を鑑みれば当然ともいえる。

 足首をストレッチしながら他のウマ娘を観察して、レースプランの修整を行っていた。

 

『4枠8番ファインモーションです』

『彼女は3番人気ですね。抜け出してからグングン伸びる走りに期待です。私のイチオシですよ!』

 

 穏やかに笑いながら観客たちに手を振っているのはファインモーション。

 アイルランド名家のウマ娘であり、その走りも非常に強い王道の走り。

 先行抜け出しから伸びていく走りは圧巻。今日もその走りが見たいと観客たちは期待している。

 

『7枠14番シンボリクリスエス。2番人気です』

『かなりきついトレーニングで仕上げてきたと聞きます。その実力を遺憾なく発揮してほしいですね』

 

 有マ記念からさらに仕上げてきたシンボリクリスエス。

 予選では大楽勝での勝利だったらしく、2番人気につけている。

 鋭い差し脚で一気に追い抜く切れ味が武器。勝利のために研ぎ続けた脚を今日も見せてくれるだろう。

 

『そして8枠18番、タップダンスシチー。4番人気です』

『大外枠に大逃げウマ娘ですよ! 今日は大波乱になりそうですね』

 

 調子よくアップしているのはタップダンスシチー。

 ハイペースとかスローとか一切関係なく自分のペースで大逃げをかます姿はまさしく2代目サイレンススズカ。サイレンススズカ引退してないけど。

 緩みないペースで走るため、瞬発力勝負のウマ娘は地力が無ければ勝負すらできないというハイスペックなウマ娘だ。

 

『このレースも非常に面白い展開になりそうですね』

『全員の好走に期待しましょう!』

 

 

 

 

 

 タキオンたちウマ娘は各々が集中しながらゲートに入っていく。

 流石に準決勝となると集中力が違い、目線を合わせる程度で声をかけるなどもない。

 静かに、しかし燃え上がる闘志を身に宿しながら、全員の体勢が整った。

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』

 

 ――ガタンッ

 

『スタートしました! 出遅れのない綺麗なスタートです!』

 

 誰もが集中していた効果が発揮され、全員綺麗なスタートとなった。

 そして、全員の意識が向くのは、外――。

 

『やはり彼女を措いて他にいないでしょう! 先頭で走っていくのは18番タップダンスシチー!』

「行かせていただきますよォ!」

 

 タップダンスシチーが大外からグングン加速して先頭に立ち、内側へと斜行していく。

 基本的にはスローペースから瞬発力勝負になりやすい東京芝2,400。

 しかし、彼女がハナを主張した時点で、彼女が参加していた時点でそんな展開はあり得ない。

 

 全てを燃やし尽くして逃げたアイネスフウジンのように、距離適性を突き破ったミホノブルボンのように。

 自らの全てを使い切って、全力で逃げる。それがタップダンスシチーだ。

 観客たちはみんなそう思っている。

 

『タップダンスシチーが先頭! その3から4バ身後ろに7番アグネスタキオン! その後ろ8番ファインモーション! 後方集団に1番エアシャカールと14番シンボリクリスエス!』

 

 タキオンはタップダンスシチーが自分の前に来たところで追従、彼女の後方を位置取り2番手を確保した。

 ファインモーションは有マ記念での失態を学び、今回はタキオンの後方につくことでスタミナを温存する作戦となった。

 

 エアシャカールとシンボリクリスエスは後方待機だ。

 タップダンスシチーがいるとはいえ最終直線は525m。必ず瞬発力勝負になる。

 そう考えての差しの位置でのレースだ。しかし対応しやすいように、後方集団の先頭、8から10番手の位置でけん制し合っている。

 

『隊列が定まってきたところでタップダンスシチーが第1コーナーを回ります。少ししてアグネスタキオンら先行の集団もコーナーに入りました』

 

 阪神レース場とは違い、コーナーの距離はおおよそ均等。

 ハイペースで逃げるタップダンスシチーを見ながら、タキオンは自分の出方を考える。

 後方でスリップストリームを使いながら走るファインモーションをどうするか。

 

 ファインモーションはタキオンの後方を走りながら、なんて走りやすくて走りにくいのだろうと感じていた。

 スリップストリームを利用しているためかなり走りやすく、スタミナが温存できている。

 しかし、コーナーに入ると途端に苦しくなる。タキオンのフォームが完成されているのだ。少しでも自分のフォームに問題があると、きちんと風よけにならない。

 技術力。ファインモーションはそれを痛感していた。

 

『さあタップダンスシチー逃げる逃げる! 第2コーナー回りまして、1,000m通過は61.1! ペースとしては平均でしょうか!』

『少し遅いぐらいですよ! 前半はしっかり脚を溜めるみたいですね! これは大逃げが決まるかもしれませんよ!』

 

 タップダンスシチーはハイペースにはせず最初のペースを少しだけ落としていた。

 実際のところは単純に自分のペースがそうだっただけであるが。後方を一度確認して、向こう正面に入ったところで少しずつペースを上げ始める。

 

 タキオンはふぅン、と息を吐く。

 思った以上に遅い。2,400mの経験がなくとも、タップダンスシチーの走りぶりからそれは感じられた。

 そもそもタップダンスシチーは逃げているわけではない、というのがタキオンの見立てである。看破していたのだ。

 自分のペースで走っていた結果、それが逃げになっている。そんなウマ娘だと思っていた。

 

 つまり、今のところ平均ペースなのではないか。

 タキオンの考えはこれに尽きる。

 そして後ろを振り向いた彼女が向こう正面に入ってから少しずつ遠ざかっていく。

 なんというか、緩みのないペースではあるものの、自分の脚に余裕がありすぎる。

 

「――ふぅ」

 

 タキオンは向こう正面に入ったところで、ほんの少し息を入れた。

 そして、ペースをグンと上げたのだ。

 

「えっ!」

 

 ファインモーションは遠ざかっていくタキオンの背中を見て驚愕した。

 確かに距離は離れているが、ここからペースを上げるほどじゃないと思っていたからだ。

 しかし、ここで前に出るということはタキオンはスローペースだと感じているということ。

 どうするか。一瞬迷い、ファインモーションはタキオンについていくことにした。

 

『タップダンスシチー距離を離して……いや、アグネスタキオンが距離を詰めています! ファインモーションも少し上がっているでしょうか! 後方集団は変わらずです!』

『判断が速いですね。タップダンスシチーは放っておくと捕まえきれなくなりますから。流石の切り替えだと思います』

 

 タップダンスシチーは第3コーナーに入りながら、チラッと後方を確認する。

 離せているかな。そう思って見たわけだが。

 

「やるじゃないですか……!」

 

 確かに距離は離せている。

 タキオンとファインモーション以外は。

 流石の走りだとタップダンスシチーは感心した。

 判断の速さ、これはレースにとても重要な要素だ。

 

 いいウマ娘が育ってるじゃないですか!

 そう思いながらも、走りを緩めずコーナーを回っていく。

 

 タキオンはコーナーに差し掛かりながら、タップダンスシチーとの距離を目測する。

 おおよそ3……いや、4バ身と仮定。そこから距離を詰めるためのスパート位置と、息を入れるタイミングを計算。

 第3コーナーを回りながら脳内にて計算式を出し、解を求める。

 第4コーナー前、タキオンはペースを緩めて一息入れた。

 

「ここが私が1着になる可能性だよ!」

 

 レース中2度も息を入れたことで、タキオンのスタミナはかなり残っていた。

 勝率が最も上がる走り方。それがこの2度のスタミナ温存。

 それを邪魔されないために、わざわざタップダンスシチーの後ろを追いかけて2番手を取ったのだ。

 ファインモーションが後方にいて1度目の回復がややしづらいという問題もあったが、それもクリアして万全の状態。

 

 あとは、最終直線での勝負を残すのみだ。

 

『さあ大欅を越えて第4コーナーへ! そして最終直線! 最初に抜け出してきたのはやはりこのウマ娘! タップダンスシチー!』

 

 大歓声を一身に浴びながら走りこんでくるのはタップダンスシチー。

 タキオンと4バ身もの差をつけながら先頭を走っていく。

 スタミナは十分。あとはそのまま走りこむだけ。そんな状態だ。

 

『後方からはアグネスタキオン! ファインモーションです! 後方集団も最終直線に入りました! さあこの長い直線だ!』

 

 ファインモーションは脚の使いどころはどこだろうかと考える。

 最終コーナーで加速しながら走っているものの、まだトップスピードではない。

 やはり坂を上り切ってから? それとも残り200m?

 トレーニングしてきたものの、ファインモーションは経験が足りない。

 迷いながらも、坂を上り切ってから行こう。そう結論付けた。

 

『タップダンスシチー坂に差し掛かる! アグネスタキオンも遅れて坂を上る! 差は未だ4バ身! 後方からはエアシャカールとシンボリクリスエスが突っ込んでくる!』

 

 後方待機していたエアシャカールとシンボリクリスエス。

 ここぞとばかりに加速して一気に距離を詰めてきた。

 後方はかなりのスローだったため、脚が有り余っている。坂を含めてガンガン攻める走法となったのだ。

 

 坂を上り終えたタップダンスシチーは、残りは300mだ! 行ける!

 そう考えながら、残りのスタミナを振り絞って走っていく。

 しかし、彼女には想定外の部分があった。

 

 後ろにいたアグネスタキオン。彼女が自分以上にスタミナを余らせているということだ。

 

 ――タキオーン! 差せーッ!

 

 タキオンは坂を上り終えてニィっと笑い、脚に力を入れる。

 

「もちろんだよ!」

 

 そして溜めてきた脚を一気に解放した!

 

『タップダンスシチー先頭! しかしアグネスタキオンがここで一気に加速した! もう3バ身! 2バ身! グングン差を詰めていく! ファインモーションも追いかけてくるがアグネスタキオンが速い!』

 

 一瞬で差を詰めたタキオンは、そのままタップダンスシチーの横をすり抜けて先頭へ出た。

 抜かされた方はギョッとする。あまりにも一瞬。瞬きをしたと思ったら既に抜かされていたのだから。

 

『シンボリクリスエスが猛追! 一気に差を詰めてきている! ファインモーション! タップダンスシチーを抜かした! 2番手にきた!』

 

 後方からシンボリクリスエスがものすごい勢いで猛追。

 エアシャカールを置き去りに、ファインモーションもタップダンスシチーも抜かしてあとはタキオンだけだと。

 

 しかし、タキオンだけは。

 

(距離が縮まらない!)

 

 シンボリクリスエスは、またも歯噛みすることになった。

 自分の全力を出した。確実に全員を千切れるぐらいには鍛え上げてきた。

 しかし、それでもなおタキオンのスピードには届かないのだ。

 

「タ、キオオオォォーーーーン!」

 

 シンボリクリスエスの叫びを聞きながら、タキオンは一気に駆け抜けていく。

 瞬く間に走り去るタキオンの背は、遠かった。

 

『アグネスタキオン先頭! シンボリクリスエス届かない! アグネスタキオンが先頭でゴールイン! 一瞬で差しきり駆け抜けていきました!』

 

 タキオンはゆっくりと速度を落としていき、息を整える。

 その後すぐに走ってきたシンボリクリスエスは、悔しげな表情でタキオンを見つめた。

 

「はぁ……はぁ……」

「ふぅ……素晴らしい走りだったよ。シニア級に上がった直後でこの走りなら、もっと強くなるだろうね」

 

 タキオンは素直に称賛した。

 しかし、敗者である彼女には慰めにしか聞こえない。

 大きな悔しさを胸に、シンボリクリスエスはしっかりとタキオンに視線を向ける。

 

「どうすれば、速くなれますか」

 

 シンボリクリスエスの質問に、タキオンはくつくつ笑って答えた。

 

「誰よりも強く願うことさ。勝ちたいとね」

 

 その答えを聞いて、何かを考える仕草をして、力強く頷いた。

 ――その後、有マ記念で9バ身差をつけて圧勝することになるのは、また別の話。




Report:●▼年2月×◆日

 うまくプラン通りに走れたね
 目論見が当たってよかったよ
 もしタップダンスシチー君がハイペースだったら負けていただろうからね

 トゥインクル・シリーズはとてもいい
 貴重なデータが山のように取れるからね
 後でシャカール君が録画していたデータをもらうとするかな
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