アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 トレーナー君の想い


Story40:果て

 並み居る強豪たちを押しのけ、タキオンはURAファイナルズ中距離部門の決勝へとたどり着いた。

 新聞や雑誌では既に決勝の特集が組まれている。

 情報収集のために買いあさってトレーナー室でタキオンと一緒に読みながら紅茶を楽しむ日々だ。

 

「『最強マイラータイキシャトル! 短距離でも勝利するのか!』『異次元の逃亡者、マイル部門にて完勝!』既に注目度の高いウマ娘たちは大きく取り上げられているね」

 

 タイキシャトルはマイルでは未だ無敗。短距離でもマルゼンスキーやサクラバクシンオーたちに勝つことができる最強のマイラーでありスプリンターだ。

 前回の第2回URAファイナルズはマイルで出場して優勝しているから、今回は短距離部門に殴りこみをかけたようだ。

 

 異次元の逃亡者はサイレンススズカだろう。アメリカを主戦場としていたはずだが、URAファイナルズのために帰国していたのだ。

 タイキシャトルをマイルで負かせるのはきっと彼女だけだと言われるぐらいには飛び抜けて強いウマ娘でもある。

 そしてそれを差して優勝したのが、今俺が見ている雑誌のウマ娘。

 

「そっちは……ふぅン。『笑門福来! バ群を切り裂くステイヤー!』フクキタル君の走りは本当に興味深い」

 

 長距離部門に出走中のマチカネフクキタル。

 サイレンススズカを唯一差して勝てる存在と言われているが、本質的にはステイヤーとも言われている。

 バ群に包まれようが最後方でブロックされようが、必ずトップスピードで抜け出してくる走りはあまりに衝撃的だ。

 しかも自信満々にすり抜けてくるものだから恐ろしい。だが、見ていてとても気持ちいい走りでもあるけど。

 

「まあ、私たちが気にすべきはこっちだね」

 

 そう言って新聞を1つ手に取って、俺に見えるようにして記事を読む。

 

「『皇帝vs帝王! 王座はどちらの手に!』『スーパーカー、中距離でフルスロットル』会長にテイオー君、マルゼンスキー君。知ってはいたが、そうそうたる面子だね」

 

 中距離部門にはシンボリルドルフ、トウカイテイオー、マルゼンスキーと数多くの優駿たちがその名を連ねている。

 ドリームトロフィー・リーグのメンバーが多く、いかに上位リーグがおかしいのかがよくわかるラインナップだった。

 タキオンはそんなメンバーと競い合って勝たなければならない。難しい話だが、これほど燃える要素もないだろう。

 

「『超光速のプリンセスの挑戦』『漆黒の幻影、夢を飲み込むか』私とカフェについて書いてある雑誌もあるよ」

 

 手渡された雑誌を見ると、中距離部門と長距離部門の要チェックウマ娘として2人が書いてあった。

 カフェは長距離での出走でタキオンと戦うことはないが、中距離部門出走のタキオンと並べて書かれているのを見ると、シニア級で期待されるウマ娘が誰なのかよくわかる。

 というか、トゥインクル・シリーズから出走しているウマ娘を選出しているんだな。

 その他のウマ娘たちもシニア級のウマ娘たちだ。

 

「二つ名というやつだろう、この漆黒の幻影だとか、スーパーカーとか。なんだか不思議な感覚だね」

 

 タキオンは自分の記事を見て首を傾げている。

 超光速というのはまさしくタキオンという感じで、端的に表しているからとてもいいと思う。

 ただプリンセス要素はどこから飛んできたのだろうか。わがままお嬢様なところかな。

 

「トレーナーくぅん? 誰がわがままだって?」

 

 一瞬で不機嫌そうな表情になって俺に詰め寄ってくる。

 おっと、失言だった。悪い悪い。

 

「全く悪いと思っていない言いかたじゃないかい? なあ、トレーナー君。最近遠慮やデリカシーの欠如が見られると思うんだが。親しき仲にも礼儀ありというだろう? もう少し私に対して礼節というものをだね」

 

 礼節を語るなら自分の助手にもっと敬意を払ってほしいものだが。

 

「む、君のことは尊敬しているさ。よくもまあ内容物不明の薬を遠慮なく飲むことができるものだとね」

 

 そういうとこだぞ、遠慮がなくなってきている理由は。

 流石に3年もこんなことやられていたら、タキオンの要望に応えこそすれ、反応は明らかにしょっぱくなるものだろう。

 

「なんだよー、君は私の助手なんだろー? 私の言うことを聞くのは当然じゃないか」

 

 はいはいと適当に返事をしてまた雑誌から情報を集める。

 決勝は本当に難しい戦いになるはずだ。きっちり対策をしないと。

 詰め寄って文句を垂れるタキオンの頭をかきまわしながらそう考えるのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 決勝が近づいてきたある日。

 リフレッシュのためにタキオンをどこかに連れていこうと思い、希望を聞いてみた。

 

「少し待ってくれたまえ。準備をしよう」

 

 実験道具を片付けて白衣を脱ぎ、外に出る準備をし始めた。

 あ、今から行くんだ。

 

「時間的に丁度いいだろうからね」

 

 そう言われて窓の外を見る。

 いやすっごい夜だけどね。

 

 

 

 

 

 セーターやマフラーなどを着せて防寒させたタキオンと共に、夜道を散歩する。

 歩いていける目的地らしい。

 

「3月とは言え冷えるね。トレーナー君がこれを買ってきてくれなかったら凍り付いていただろう」

 

 楽し気にマフラーをぽんぽん叩く。

 実験中いつも手をすり合わせているものだから、防寒用のマフラーやらセーターやらを買ってきて使わせているのだ。

 色々なことに無頓着すぎて本当に心配になる。

 

「雨や雪の中走ることもあるぐらいだ。問題ないだろうと思っていたんだよ」

 

 こういうものがあった方が快適だけどね。

 尻尾を軽く揺らして、機嫌がよさそうだ。

 

 しばらく歩いていくと、ここだよとベンチに案内される。

 2人で座ると、タキオンが空を指さす。

 見上げてみると、綺麗な満月に煌めく星々。

 学園内でこんなに良く見える場所があったのか……。

 

「カフェが時々星を見ながらコーヒーを飲んでいてね。ここは良く見えるんだと言っていたんだ」

 

 そう言ってタキオンが鞄から取り出したのはホットのミルクティーを2本。

 いつも通りだなと苦笑しながらもらって一口飲む。

 少し肌寒い空気と温かい紅茶、まろやかなミルクと砂糖の甘みが合わさってとても美味しい。

 

「お友達と一緒に夜道でコーヒーなんて興味深いなと思っていたんだ。しかし、こうやって一息ついてゆっくり見上げると、頭がスッキリしないかい」

 

 そう話して紅茶を飲むタキオンの横顔は大人びて見えた。

 しばらく無言で星々を堪能していると、不意にきらめきが見えた。

 

「ふぅン? 流れ星かな」

 

 タキオンがそう口にしたのと同時に、俺は両手を組んで願い事をする。

 急に祈り出したのを見てタキオンは驚いたのか、べしっと尻尾が俺に当たった。

 

「トレーナー君? 何を……ああ、願い事か。眉唾な話だね」

 

 オカルトすぎるよ、なんて言うタキオンの脚には、神社で買ったお守りがついている。

 今でもずっとつけてくれているみたいだ。

 

「ところでトレーナー君は何をお願いしたんだい? やっぱり私に勝ってほしいとか、優勝とか。そんなことを願ったのかな?」

 

 そうじゃないよ、と俺が言うと意外そうに目を丸くしていた。

 

「珍しいな。君はいつも私に勝ってほしいと言うから、てっきりそれだと思ったよ」

 

 まあ、近いと言えば近いけどちょっと違うって感じだ。

 そう話すと、不思議そうに首を傾げる。

 

「じゃあ、なんだい? 言えないってわけじゃないだろう」

 

 自分の予想が当たらず、若干不満そうにしているタキオン。

 まあ、言ってもいいかと思って、答える。

 

 ――いっしょに果てを見たい。

 

 タキオンは想像していなかったのか、口を開けてぽかんとしていた。

 結局のところ、最初からずっと俺は同じ思いを抱いてタキオンのトレーナーをしていたわけで。

 彼女が目指す最高速度のその先。果てが見たい。後ろからでも横からでもなく、彼女の隣で見たいんだ。

 

 確かにレースに勝ってほしいとかちゃんとしてほしいとか、月並みに思うことは多々あるけれど。

 いつだって俺は、果てを隣で見たいって思っている。

 

「なんだ、それ」

 

 タキオンが一言呟くと、こらえきれなかったのか爆発するように笑いだした。

 

「アッハッハッハ! なんだそれ! なんだそれ!」

 

 ひどく笑われているが、いつものことだから何も気にならない。

 バカにされている雰囲気ではないし。

 

「はー……生きていて一番笑ったかもしれない。そうか、そうか」

 

 楽しそうに目じりの涙を拭いて、楽しそうな笑顔で俺を見る。

 

「君はいつだって狂った目をしているね、本当に」

「いいだろう! 君は私の助手だ、共に果てを見る権利がある」

「目指そうじゃないか! 私と君で、その先を!」

 

 力強く宣言したタキオン。

 とても充実していて、嬉しそうな表情をしていたのだった。




Report:●▼年3月◆◎日

 とても愉快な日だった
 きっと決勝で見せてあげられるはずさ
 研究の成果、可能性のその先を
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