『URAファイナルズ決勝戦が今年もやってまいりました。今年の舞台は中山レース場です』
最強のウマ娘を決めるURAファイナルズ。
決勝の舞台は中山レース場だ。中距離は2,000mで争われる。
中山レース場はタキオンが得意とするレース場。
4戦4勝しているし、GⅠを3勝したコースでもある。そして、その全てが2,000mだ。
タキオンとしては最高の条件で挑むことができるわけだが、対戦相手だってそうそうたる面子。
厳しいレースになるだろうが、タキオンならやってくれる。そう信じている。
「やれやれ、そんな熱い視線を向けないでくれたまえ」
困った様子で笑いながら俺を見る。
思わず見つめていたようだ。
「確かにこのレースは私の。いや、私たちの3年間の集大成だ。強いライバルに得意な距離とレース場。条件は整った。トレーナー君が熱くなるのもわかる」
私もなんだか浮ついているよ。
尻尾を揺らし、耳をぴこぴこ動かしながらそう話す。
「まあ、君に言った通り見せようじゃないか。ウマ娘が出せる最高速度のその先を。私たちはそれができる位置にいるのだから」
やる気に満ちた表情で腰に手を当て胸を張る。
お互いに力強く頷いた。
さあ、勝負の時だ。
◆ ◆ ◆
『第3回URAファイナルズ決勝、中距離部門。最強のウマ娘は誰になるのでしょうか』
タキオンはトゥインクル・シリーズでは味わえなかった緊張と高揚を感じていた。
今まで競い合わなかったウマ娘たち。それも既にレジェンドと言われているウマ娘たちとのレースなのだ。
そして続けてきた研究の成果をすべて出せる最高の機会。
胸が高鳴るのも仕方のないことだろう。
『えー、1人足りませんが、本日の注目ウマ娘を紹介していきましょう。まずは1枠2番、シンボリルドルフです』
『2番人気ですね。安定した走りと圧倒的な強さを同時に見せてくれる我らが皇帝です。かなり仕上げてきたようですね、調子がよさそうです』
皇帝シンボリルドルフ。
泰然としたその姿は、なるほど皇帝と言われるだけある。タキオンはレース場の彼女に、いつもとは違う印象を受けた。
普段は威厳のある生徒会室だが、ターフに立つ彼女はまさしくレースを極めたトップアスリート。絶対に勝つ。そんな闘志を感じる。
『3枠5番、トウカイテイオー。4番人気です』
『皇帝と帝王が勝負になります。前回のウィンタードリームトロフィー・リーグではトウカイテイオーが勝利しましたからね、今回も勝利したいところでしょう』
自称無敵の帝王サマことトウカイテイオー。
エネルギッシュにステップを踏んで動き回る彼女は絶好調だ。
バネのような瞬発力と意志の強さで上り詰めたウマ娘。かなりの強敵だろう。
『4枠8番アグネスタキオン。今日は5番人気です』
『現シニア級では最強の一角と言えるでしょう。ドリームトロフィー・リーグのメンバーに対抗できる力を持っていますよ』
タキオンは5番人気だ。
あれだけの活躍をしていてもこの順位というのは、いかに上位リーグの面々が強いかを物語っている。
しかし彼女も負けてはいない。沸々と湧き上がる闘志を胸に、じっくりとメンバーを観察していた。
『5枠9番マルゼンスキー。3番人気です』
『今回は中距離部門での出走です。いつも通りの力強い逃げに期待ですね』
スーパーカーことマルゼンスキー。
超ハイスペックな地力で走ったら逃げになってしまう天然の天才。
どの距離でも環境でも遺憾なく実力を発揮できるパワーはまさしく怪物だ。
最後の大外枠まで紹介しようとすると、会場がざわつき、そして大きな歓声が上がった。
誰もが地下バ道のほうに振り向いたため、タキオンも振り向く。
そこにいたのは、常に世間を賑わせる、破天荒なウマ娘。
『ついにやってきました! 彼女なくしてこのレースは語れません! 8枠18番! 1番人気! ――ゴールドシップです!』
赤い勝負服に身を包んだ芦毛の美少女ウマ娘は、楽しそうに笑って飛び出してきた。
ファンファーレが鳴り響き、ついにゲートインの時間になる。
タキオンは気持ちを落ち着かせるために、ゆっくり体をほぐしつつゲートに近づいていく。
「最後のゲートをぶち破れ! オラァ!」
「おいやめろ! ゴールドシップを止めるんだ!」
「触んじゃねー! アタシに触れていいのはフライングスパゲッティ・モンスターかタスマニアデビルだけだあー!」
『ゴールドシップ暴れています! いつも通りゲートに入りたくないようですね』
バタバタ暴れるゴールドシップを係員3人がかりで止めている。
ドリームトロフィー・リーグでは毎回のことで、係員を蹴ったりケガさせたりはしないため、パフォーマンスだと思われていた。
担当トレーナー曰く、準備運動みたいなものだとか。はた迷惑すぎる。
しばらくして満足したのか、疲労困憊の係員をよそに機嫌よくゲートインする。
これで全員だ。騒がしかったレース場が静まり、全員がスタートの体勢に入った。
『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』
――ガタンッ
『スタートしました! 18番ゴールドシップ以外は綺麗なスタート! ゴールドシップは出遅れです!』
大外にいるゴールドシップ以外はスタートダッシュを決め、揃ったスタートになった。
明らかに出遅れてスタートしたのに、観客たちは待ってましたとばかりに歓声を上げる。
シンボリルドルフは苦笑し、タキオンはしつけられているねぇと感心した。
『先陣を切るのはやはり9番マルゼンスキー! 快調に飛ばしていきます!』
予定調和のごとく飛び出していくのはマルゼンスキー。
初速も加速も明らかに違う。それでいて無茶な走りではなく、自然体。
恵まれた体から為される強さというものを体現している。
『少し離れて5番トウカイテイオー、8番アグネスタキオン。その後ろに2番シンボリルドルフと続きます。ゴールドシップは最後方18番手です』
注目されているウマ娘たちは、おおよそ先頭から4,5番手にいる。
マルゼンスキーから離されないためには、前にいなければならないのだ。
よっぽど自信がない限り中山レース場においてマルゼンスキー相手に差し追込は明らかに分が悪い。
『ポジションが決まったでしょうか、第1コーナーに差し掛かります。先頭はマルゼンスキー。トウカイテイオーとアグネスタキオンが2,3番手で並んでいます。すぐ後ろでシンボリルドルフが追いかける形。そこから2バ身離れて後方集団ができています』
『マルゼンスキーが走るレースはとにかくペースが速くなりやすいです。緩みなく進みますし、いかにスタミナを切らさないかがポイントでしょう』
中山レース場特有の急坂を上りながらコーナーを回っていく。
この坂のせいで、中山レース場ではタフさが求められる。
そのためマクりが決まりやすいはずなのだが、マルゼンスキーがいるせいで先行じゃないと追いつけないだろうというレースになっているわけだ。
しかし、そのマルゼンスキーは落ち着いて坂を上っている。
タキオンは事前情報通りの走りに感心しながらも少し困った。
あまりハイペースだと後半に脚が残せない。それに後ろの皇帝が尋常じゃないプレッシャーをかけ続けていて、非常に走りにくいし。
後ろを気にしながら坂を上り終え、第2コーナーの下り坂に差し掛かる。
『立ち上がりから静かなレースとなりました。そして向こう正面へ。1,000mタイムは58.2。これはハイペースですね』
『皐月賞の平均が59秒台ですからね。やはり警戒しているのでしょう』
レース場の半分を走ったところで、ペースが速めだなと感じながら誰もが走っていた。
少し息をいれよう。タキオンはレースプランを考慮して、一瞬だけ脚色を緩める。
それに合わせて隣のトウカイテイオー、シンボリルドルフも息を入れたのを感じた。
上手い。そう思った瞬間だ。
――ドォン!
後方から爆発音が鳴り、誰もがその音に恐怖した。
面白くなってきたぜぇ!!