アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 その走りに魅せられて――


Story04:果て

「はぁ、はぁ……ふぅ! 疲れた! 心底そう思うぞ、アグネスタキオン!」

「ふぅー……なんだ、お優しいことだね」

 

 息を整えるシンボリルドルフとアグネスタキオン。

 2人の走りに夢中になってしまい、終わったことに気づかなかった。

 

「勝利したのは君だろう? もっと誇りたまえ」

「勝利と言ってもハナ差だよ。やれやれ、デビュー前のウマ娘にハナ差とは。私もそろそろ引退かな?」

「ほう? 会長もとぼけたことをいうんだね。また新しい発見だ」

 

 といっても、あまり意味はないけどね。

 アグネスタキオンはそう言って額の汗を拭った。

 

「しかし君を手放さねばならないというのは、やはり惜しいな……心変わりの兆しはないのか?」

「なんだい? 会長からのお言葉で学園に戻す気にしようということかい? 残念だがそれはないよ。そもそもそっちから出ていくように言ってきたんだからね」

 

 海外のウマ娘にでも接触しようかな、と顎に手を当てて思案し始める。

 そうか……とシンボリルドルフは残念そうに眉尻を下げる。

 そして、チラっとこちらを見た。

 

「ふむ、そうか。彼の話を聞いてもかな?」

「彼……? うん?」

 

 そう言ってシンボリルドルフは去っていく。マンハッタンカフェもシンボリルドルフと俺をチラッと見て、練習場から去っていった。

 

 アグネスタキオンが俺を見る。

 そして、不思議そうに首を傾げた。

 アグネスタキオン。俺がそう声をかけると、彼女は興味深そうに頷く。

 

「ふぅン……? どうしたんだい、君。その目は」

「随分――狂った目をしているじゃないか」

 

 俺の目を見て、アグネスタキオンはそう話す。

 

 ――目を灼かれてしまったのだろう。

 アグネスタキオンの目指す、可能性の果て。そこに向かって全速力で走ろうとする彼女の走りに。

 だって、さっきの走りが頭から離れないのだから。

 

 アグネスタキオンは『可能性の果ては遥か彼方』と、そう言った。

 彼女は、さらに速くなるのだ。

 もっともっと、もっと!

 

 見てみたい! 彼女が走るその先を!

 超光速の走りを!

 

「おーい。勝手に呆けるなよ」

 

 思わず体を震わせて物思いにふけっていると、アグネスタキオンにたしなめられた。

 

「なあ、君。まさかスカウトしたいって言うつもりかい? よしてくれ、研究以外に時間をつかうほど暇じゃないんだよ」

 

 俺のことを嫌そうに見て首を振る。

 まともなトレーナーは求めていない。彼女が必要なのは研究のために必要のものだ。

 日々のトレーニングでさえ、彼女にとってはきっと、研究の一環なのだから。

 

 それならば!

 

 アグネスタキオン!

 

「ん? どうしたんだい、そんなに大きな声を出して」

 

 さっき見せてくれた薬はあるか!

 

「急にどうしたんだ。あるけど」

 

 そう言って試験管を3つ取り出した。

 俺はその怪しいケミカルな蛍光色の液体を奪い取って蓋を開ける。

 

「え、おい! 君!」

 

 一息に3つ飲み込んだ!

 

「……驚いたな」

 

 口元を拭ってアグネスタキオンを見ると、彼女は心底驚いたようで目を見開いて口をぽかんと開けている。

 そして、だんだんと口元が緩み、大きな声で笑い始めた。

 

「驚いたよ……ク、ククク……アッハッハッハッハ!!!!」

「そんなに勢いよく薬を飲むやつがいるか! すごい速さだったよ! モルモットかい君の前世は!」

 

 大笑いする彼女に、俺はなんでもする! と大きな声で宣言した。

 それを聞いた彼女はニヤリと笑い、ほう? と顎に手を当てる。

 

「なんでも? つまり君は、自ら被検体になってくれるのかい?」

 

 モルモットでもいい!

 

「アッハッハ! つまり君は実験動物でもいいというんだね? 人権を放り投げてもいいと?」

 

 それでもいい!

 

「ふぅーーーーーーーン……?」

 

 君を担当させてくれ!!!

 

「月並みな言葉だね……しかし、その目は狂気の虜、か」

 

 アグネスタキオンはふむふむと俺を見て満足そうに頷く。

 

「クックック……いいだろう。行こうじゃないか」

 

 行くって?

 

「なんだ、察しが悪いな。職員室だよ。担当トレーナーが決まったというのに、退学していられないだろう?」

 

 彼女からそう言われて、最初は意味が分からなかった。

 少しして理解すると、じわじわと嬉しさと衝撃がこみ上げてくる。

 い、いいんだな!?

 

「君から言ってきたんだろ? まあ、君の扱いはモルモットかそれ以下だと思うけどね……クックック」

 

 そう言って笑うアグネスタキオン。

 そして、俺に改めて向き直った。

 

「それでもいいなら来るといい」

「見せてあげよう……誰もたどり着けなかった()()をね」

 

 ニヤリと笑う彼女の笑顔は、狂気と歓喜に満ちている。

 

 

 

 

 

 ――こうして、アグネスタキオンとの研究の日々が始まるのだった!

 

 

 

 

 

「フム……いや待て、モルモット君。職員室へ行くのはもう少ししてからにしようじゃないか」

 

 なんで?

 

「無用な混乱は避けた方がいいだろう? もしこのまま行けば、結局退学になりそうだからね」

 

 どういうことだろうと不思議に思って首を傾げると、何やら下の方が眩しいような。

 思わず顔を下に向けると……な、なんじゃあこりゃあ!?

 

「気づいていなかったのかい? 全身が黄緑色に発光しているぞ」

 

 自分の手やズボンの下から見える足がケミカルに発光していた。

 まるでライブのペンライトだ。

 現実味が無さすぎて手を振ったり足を動かしたりすると、黄緑の光が滑らかに動く。

 

 ど、どうなっているんだこれは。

 

「ククク! アッハッハッハッハッハッハ!」

 

 俺が困惑して変な動きをしていると、アグネスタキオンが大声で笑いだした。

 

「いやあ、まさか私も全身が光るとは思わなかったよ。3つ全部飲むとこうなるんだね。いやはや興味深い」

 

 メモしておこうとクリップボードの用紙に書き込み始める。

 いや、本当にどういうことなんだ……。

 

「確かに最初、君に会った時は健康そうだし3本飲もうと言ったさ。しかしだね、3本一気にのむやつがいるか! 時間を空けて1本ずつ飲んでもらうつもりだったんだよ」

 

 面白いな、君は。

 くつくつと笑いながら俺の体とクリップボードで目を往復させる。

 これ、いつ戻るんだ?

 

「わからないよ」

 

 わからない!?

 

「だってそうだろう。3本まとめて飲むなんて考えていないんだからね。いつ効果が終わるのかは君の体が教えてくれるよ」

 

 嘘だろ……?

 このままじゃ帰れないんだけど。

 学園内のトレーナー寮に住んでいるわけじゃないから、俺は外に出なければいけない。

 こんなに光ってたらもう学園外になんか出られない……!

 

「自業自得じゃないか……クックック」

 

 どうすれば……げんなりしていると、まあこれも人生だよと謎の励ましを受けた。

 しばらくはここで休むほかない。

 

「ふぅー、久々にこんなにも笑ったよ。さて、そんなしょげている君に朗報だよ」

 

 なに?

 

「今までの経験から察するに、そこまでずっとは発光しないと思うよ。長くても2、30分ぐらいさ」

 

 本当か!?

 

「ああ、本当だとも。私は嘘はつかないよ」

 

 なんだか怪しいが、アグネスタキオンを信じよう。

 先輩もウマ娘は信じてなんぼって言ってたし。

 最初の担当ウマ娘と仲良すぎる気がするけど。

 

「さてトレーナー君。丁度いい機会だ、今の状態で練習場を1周してきてくれ。筋肉の状態が見たいんだ」

 

 え?

 

「君はモルモットなんだろう? ほら、はやく行った行った!」

 

 アグネスタキオンに急かされて練習場を走り出す。

 

 ――こうして俺の最初の担当であり、超光速のウマ娘と駆け抜ける日々が始まったのだった。

 

 そして30分後。

 

「戻らないね……アッハッハ! 思ったよりかかるな、これは」

 

 まだ発光し続ける俺なのだった。




Report:●×年4月○日

 担当トレーナーができた。
 これには私も驚きだ。なにせ時間の無駄だと思っていたのだから。

 モルモットでもいい、なんでもやると言ってきたあの狂った目。
 本当に私の要望を全て聞きそうな勢いだった。
 いや、きっと聞いてくれるだろう。
 これからの実験はより有意義になるはずだ!
 明日からなにをするか、考えておくとしよう。

 それにしても、1時間も発光し続けるとはね。
 あんなに笑ったのは久々だったよ。
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