アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 さぼりがち

・8/23追記

 小説情報の「前作前々作とのつながりはあんまりない」という表記ですが、「つながりはありますがトレーナーは別人」という表記に変更します。
 お察しの方もいるとは思いますが、同じ世界線かつ前作の後の時間軸だからですね。

「あんまりない」というのはトレーナーが違うことと、前のみんなはメインじゃなくなるよという意味で書いてたんですけど、この書き方だと別の世界線みたいな表記に見えるので変更したということです。

 端的に言うと、前作までのみんなは出るよ!
 でもたくさんは関わらないよ!
 そういうことです。


Story05:生活

 発光が終わってから職員室へと向かい、新人トレーナー専属システムのための書類をもらった。

 このシステムは新人であれば1人ウマ娘をスカウトできれば、その娘をトゥインクル・シリーズに参加させてもいいというもの。

 有名なのは名家である桐生院家のトレーナー、桐生院葵さん。

 そして1番知られているのが俺がお世話になっている先輩だ。

 

 先輩は何のノウハウもない状態からトゥインクル・シリーズに参戦。

 そのまま担当ウマ娘は連戦連勝で駆け抜けて、URAファイナルズの初代優勝者になったのだ。

 チーム発足後も大活躍も大活躍で、今ではトレセン学園の強豪チームの1つとして数えられている。

 

 そんな先輩トレーナーがたくさんいるから、チームのサブトレーナーになる新人が多い。

 俺みたいに専属システムを使うというのはかなり稀。

 先輩や桐生院さん以外では俺で5人目なんだとか。

 3、4人目のトレーナーも頑張ったけど、何もない状態からのスタートは厳しく、目標を達成できずに終わってしまったとか。

 

 専属システムの珍しさと、問題児で退学が決まっていたアグネスタキオンの担当になるということで、職員室は一時騒然。

 退学を撤回できるのか? そもそもきちんとレースを走るのか? 授業はどうなんだ? 研究も危険だ。

 話がうるさかったのか、一緒に来ていた彼女は不機嫌そうに耳を畳んでいた。

 そんな中、唯一いいじゃん、頑張ろうと言ってくれたのはやはり先輩だった。

 

「ほら、これが書類。生徒会に出しておいで。理事長とたづなさんにはうまく言っておくよ。頑張れ」

 

 ニッと笑いながら一緒に職員室を出る。

 

「クセウマ娘だからな、負けるなよ?」

 

 じゃ、俺は理事長のとこ行ってくるよ。

 そう言ってスタスタと歩いていった。

 ……か、かっこいい。

 

「ふぅン? クセウマ娘とは中々言うじゃないか。あのトレーナーのチームリーダーよりマシだと思うけどね」

 

 心外だなあと不満をあらわにしている。

 まあ確かに、リーダーのウマ娘はなんというか、別次元のクセウマ娘だし……。

 

 そう思って先輩を見ていたら、そのリーダーウマ娘が横から飛び込んできてドロップキックをしていた。

 ぐわああああーーッ! とゴロゴロ転がりながら受け身をとって何事もなかったように立ち上がる先輩と、何事もなかったように一緒に歩いていくウマ娘。

 うん……凄いわ。思わずアグネスタキオンと目を見合わせてしまうのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そんなこんなで担当と専属システムが受理され、正式にタキオンのトレーナーとなって、今日。

 職員室にてトレーニング計画を必死に作っていた。

 普通はトレーナー室をもらえるらしいのだが、如何せん担当ウマ娘が退学になるはずの娘。

 デビューするまでは経過観察ということで、色々な部分が保留中なのだ。

 

 そういうわけで職員室にいるわけだが……なんというか、視線を浴びている。

 新人なのにあんなウマ娘を担当して大丈夫かな……? と心配してくれているから、見ているのだ。

 みんな別に悪い感情の視線ではないから困っているわけで。

 

 今一集中できずにあーでもないこーでもないと1ヶ月分の計画を何とか作り上げた。

 放課後タキオンに確認をしに行こうと思っていたら、肩を叩かれる。

 うん? と振り返ると、学園での授業を受け持っている先輩トレーナーの姿が。

 

「えっと、昨日アグネスタキオンさんの担当になったってことでいいのよね、あなた」

 

 あ、そうですけど……も、もしかして。

 

「ええ……2時間目から授業に出てないみたい」

 

 おおぉ……。思わず変な声が漏れる。

 せっかく退学せずに済むような流れになったというのに!

 とりあえず探しに行かないと。

 

 ……タキオンって普段どこにいるんだ?

 

「タキオンは大抵理科教室にいるぞ」

 

 そう言って話に入ってきたのは先輩だ。

 理科教室?

 

「移動教室で行く校舎があるだろ? 音楽教室とか家庭科室とか。そこの1番端っこにあるんだ。科学実験の授業とかやらないから、今はタキオンの実験場になってる」

 

 そ、そんなところに……。

 よく知ってるなぁと思ってまじまじと先輩を見ると、まだ君より付き合いが長いからな、肩をすくめた。

 

 改めて場所を教えてもらって、すぐさま向かう。

 移動教室がないのか、周りは静かで誰もいない。

 1番奥の教室に向かうと、扉にはめ込まれたガラスの窓に黒いカーテンがかかっていて、中は見えなくなっている。

 コンコン、とノックをしてみる。中から小さく声が聞こえた。

 

「誰だい?」

 

 タキオン? そう口にすると、少ししてから扉が開いた。

 そこにいたのはタキオンだ。制服の上から白衣を見にまとっている。

 

「おや、トレーナー君じゃないか。よくここがわかったね」

 

 不思議そうにしているタキオン。

 先輩から教えてもらったんだと話すと、ああ、と頷いた。

 まあ入りたまえ、と言って教室の中に戻っていく。後を追って中に入ると、試験管やビーカー、フラスコ、それにアルコールランプなどなど。

 学生時代の理科教室で見たことのある実験器具がずらりと机に並んでいた。

 そしてその近くにはいくつもの紙が。実験のレポートか何かだろうか。

 

「普段はここで実験しているのさ。流石に寮でやってしまうと同室相手の迷惑になってしまうからね」

 

 もっとも彼女は迷惑だと思わなそうだが。そう独りごちながら散乱しているレポートを手にして内容を確認する。

 

「今は脚の筋力を全体的に強化できるものが作れないかと考えていてね。一部分に効果があるものは作れそうだけど、大腿四頭筋ばかりなんだよ。内転筋群にも効果がある物をと思っているんだ」

 

 タキオンの言っていることは半分ぐらいしかわからない。

 専門的な部分は言われても知識が足りないので、わからないけどそうなんだ、と頷く。

 まだ少ししかコミュニケーションをとっていないが、話したいことをとにかく全部話そうとするタイプなのはわかるので、聞き役に徹する。

 

「昨日のトレーナー君から取れたデータも中々役に立っているよ。あの3つの薬に入っている要素を含めれば長く効果があることがわかったからね」

 

 君にとっては災難だったかもしれないけどね。ククク、と楽しそうに笑いながらレポートになにがしかを書きこむ。

 その後もつらつらと昨日の薬の効果や今作っているものの基本的な効能などを聞き続けて数十分。

 

「ところでトレーナー君は私に用事があったんじゃないのかい?」

 

 ようやく本題に入った。

 タキオン、授業サボってるよね。

 そう話すと、なんだそんなことかと冷めた目で俺を見てくる。

 

「私に必要だと思う授業は受けているよ。だけどね、今更レースの種類だとか脚質の種類だとか、当たり前のことを一々聞いていられるかい? そんなことに時間を割くなら研究をしたほうがよっぽど有意義だし効率的に速くなれるじゃないか」

 

 流れるようにつらつらと授業を受ける意味がないと訴えてくるタキオン。

 彼女にしてみれば本当にいらない時間だと思っているのだろう。

 しかしあまりにも生活態度が悪すぎると退学までは多分行かないと思うが、何かしらのペナルティを受ける可能性もある。

 無駄な問題を起こさないためにも、出席はしておこうとなんとか説得してみる。

 

「ふむ。確かに授業を受ければ問題は少なくなるだろうね。しかしだね、トレーナー君。ちょっと考えてみておくれよ」

「大きなケーキと小さなケーキがあるとする。授業に出たら小さなケーキと大きなケーキ一切れをあげよう。でも授業に出なければ大きなケーキを全部もらえる。代わりに小さなケーキは没収さ。因みにどちらも同じ量、同じ味のものをもらえるとする。トレーナー君ならどちらを選ぶ?」

 

 それなら大きなケーキを全部もらえる方を選ぶと思うけど。

 

「そうだろう? つまりそういうことだよ。私は小さなケーキぐらい無視してもいいと思っている。私も君と同じさ。大きなケーキが欲しいというわけだよ」

 

 なるほど……そういうことか!

 

「うんうん。わかってくれたかい?」

 

 嬉しそうに腕を組んで頷くタキオン。

 

 うん、わかった。

 とはならないぞ。

 

「えー!? 今のは納得してくれるところじゃないか。君だって私と同意見だろう!」

 

 いや、小さなケーキが君にとって大事になるから授業に出ろって言ってるわけで。

 そもそも、タキオンが大きい方を欲しいとか十分とかって話じゃなくて、小さい方をもらわなければ最終的に大きい方も没収されて何ももらえないよっていう話なんだから。

 

 とにかく、ちゃんと授業を受けること!

 

「なんだ、思ったより強引で強情で頑固だな、君は」

 

 ぶっすーと不機嫌そうに三白眼で俺を睨むタキオン。

 だって、ここでちゃんとしないと担当から外されちゃうかもしれないしさ。

 

「なるほどね……担当から外れてしまったら、君がモルモットになるという話もなくなるか。それはほんの少しだけ困るかもしれないね。まあ君ならお願いすれば実験に付き合ってくれる気もするが」

「うーん。うーーーん。うぅーーーーーーん。仕方がない! 少しだけ君の話を聞いてあげることにしようじゃないか」

 

 やった!

 思わず喜んでガッツポーズをとる。

 これで少しは安心して……そう思っていると、タキオンからすっと試験管を差し出された。

 中には青く発光している薬が。こ、これは……?

 

「君の要望を聞いてあげるんだ。なら、私の要望も聞くのが道理というわけさ。まさか断らないだろう? 君はモルモットなんだから拒否権なんてないけどね」

 

 さあ、と手渡された薬を見て、うぅーんと後悔する。

 しかし、タキオンも言うことを少しは聞いてくれるという。

 仕方がない、一気飲みだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その後、青白く発光する大腿部を周りから見られて生活する羽目になるのだった。

 代わりにタキオンも少しだけ出席率が上がったのでよしとしよう。




Report:●×年4月▽日

 トレーナー君に授業に出るよう懇願された。
 どうやら内申点が悪いと今後の活動に影響が出るということらしい。
 私の研究に影響はないが、モルモットの実験協力を円滑にするために出席を約束した。
 もっとも、全て出るとはいっていないけどね。

 今回与えた薬は私とトレーナー君だと発光する時間が違った。
 やはりウマ娘の体には悪影響と思われる効果に耐性が強い。
 つまり、強い効果を発揮する薬の場合、効き目が薄くなる可能性がある。
 代わりに副作用がある薬でも、副作用がなくなる可能性もあるわけだ。

 永続的に作用する薬というのはやはり難しい。
 しかし、いいデータはとれたからよしとしよう。
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