アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 タキオンを餌付けし隊の隊員はどれぐらいいるのだろう


Story06:食事

 メイクデビューの予定は7月。

 基本的にはその時期にトゥインクル・シリーズでの初レース、勝てたウマ娘はそのままジュニア級レースへ。勝てなかったウマ娘たちは未勝利戦へと進む。

 みんなトレーニングをしたり勉強したりと、デビューに向けて様々な努力をするのだ。

 

「成程、こうなるのか。トレーナー君、もう1度坂路を走ってもらうよ」

 

 俺たちも同じだ。

 タキオンと坂路トレーニングを行っている。

 俺も一緒に走ってるんだけどな!

 一緒にやってくれているだけまだマシとも言えるだろう。

 

「脚に疲労を貯め込みたまえ。ククク……」

 

 そう言って先に駆け出して坂路を上っていくタキオン。

 ひぃひぃ言いながら必死に駆け上がる。もちろん、坂路で走っている誰よりも遅い。

 俺たちと同じように坂路トレーニングをしているウマ娘や先輩トレーナーたちは、俺を見て気の毒そうな視線を向けてくる。

 なんともいたたまれない……!

 

「はやくここまで来るといい、モルモット君! これが終われば1度休憩だ!」

 

 タキオンの声を聞いて、最後の力を振り絞り走っていく。

 フォームもボロボロだしほとんど歩いてるみたいなスピードだし、何度かつんのめって転びかける。

 研究に必要なのだろうか、遊ばれてるだけか。色々考えながら走り切り、タキオンのところにたどり着いてべちゃりと地面に倒れ込む。

 このまま溶けてuddoに食べられるんだ……と息を切らしていると、頬に冷たい何かが触れた。

 顔を上げるとタキオンが俺の顔に試験管をピトッとくっつけている。

 

「ウッドチップとお楽しみのところすまないね、トレーナー君。疲労回復に効く薬があるんだ。飲んでみないかい?」

 

 拒否権はないんだけどねと言いながらくつくつと笑う。

 好きにしてくれ、と言って仰向けになる。

 タキオンはなら飲ませてあげようと口に試験管を突っ込んできた。

 薬品臭い匂いが鼻を抜け、なんというか苦くて甘い感じというか。子供向けの歯磨き粉みたいな味というのだろうか?

 うぅ~んと顔をしかめながら飲み干すと、不思議そうに俺を見てくる。

 

「どうかしたかい? 今日の薬は刺激的な要素はないと思ったのだけどね」

 

 子供用歯磨き粉みたいな味がすると訴えると、ふぅンと首を傾げて試験管を見る。

 

「味も少しは調節してみたんだが……どうやらお気に召さなかったみたいだ」

 

 甘くして見たんだけどね、とタキオンは薬のメモを取り始める。

 俺は息を少し整えて体を起こし、自分の足を見る。

 光って……ないな、うん。

 

「うん? ああ、今回の薬は君のデータを参考にして作ったものでね。データサンプルが少ないから強い効果が出ないように調合したのさ」

 

 次からはまた発光すると思うよと言われて淡い希望が砕かれる。

 ふくらはぎをぺたぺたむにむに触られること数分。タキオンはメモを取ってこちらを見た。

 

「薬を飲んで5分ほど経ったことだし、もう1度坂路を走ってきてくれないかい?」

 

 効果を確かめるためにまた走らなければならないらしい。

 タキオンも行こうと声をかけると、うーんと顎に手を当てて首を横に振る。

 

「私はさっきので終わりだよ。さ、早くやってきてくれたまえ」

 

 すげなく断られてしまった。

 彼女は一定のトレーニング量をこなすとすぐに止めてしまう。

 筋力を維持するぐらいの運動量+アルファぐらいだ。

 何か考えがあるんだろうが、聞いても教えてくれない。

 

 渋々坂路を下ってもう一度駆け上がる。

 先ほどまでの疲労もあって、ちょっと走ったぐらいでヘロヘロだ。

 これもタキオンに走ってもらうため……走ってもらうためだ……。

 自分に言い聞かせてなんとか坂路を走り切り、タキオンのいる所で地面にへばりつく。

 

「ふぅン……少し足を見せてもらうよ」

 

 ジャージをめくられてふくらはぎを触診される。

 とてもくすぐったい。

 

「疲労は変わらず。回復も……なるほど」

 

 真面目な顔で手元の用紙に結果を書きこんでいく。

 結果はあまり芳しくないようで、笑みを見せることは無い。

 

「効果を弱めたせいか、今一薬が効いているのかわからないな。君は何か感じるかい?」

 

 とてもつかれた。

 

「疲労だけか。なら今度は効果を強めるとしよう。明日も坂路だ、楽しみにしてくれたまえ」

 

 ニヤリと笑うタキオン。

 マッドサイエンティストにしか見えないなぁと地面から見上げながらそう思うのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 タキオンのメイクデビューの日程とレース場が決まったので、早速教えに理科教室へと向かう。

 彼女は何故か渋っていたが、流石に今年デビューしないと学園側から何を言われるかわからないからな。

 なんとかお願いして出走にこぎつけた。かわりに薬を3本飲まされてふくらはぎが黄緑色に発光していたのはご愛敬。

 

 理科教室に近づくと、何やらウィーンと機械の稼働音が聞こえてくる。

 なんだろうかと思いながらノックすると、タキオンが扉を開けてくれた。

 

「やあやあモルモット君。今日も薬を飲みに来たのかい? ドリンクバーを頼んでサーバーへと何度も赴く学生のようだねぇ」

 

 楽しそうに話しながら中に入れてくれる。

 理科教室に入ると、机の上にミキサーがあった。

 中身は……うん……なんだそのどろどろしたやつ。

 

「これかい? 私の昼食だよ」

 

 昼食!?

 何を言われたのかわからず、ミキサーに近づいて確認する。

 

 中身はいまいちわからないが、なんというか色々なものをとりあえずミックスしました! という見た目だ。

 どう考えてもお昼に食べるご飯には見えない。

 何が入っているんだ?

 

「トマトに鶏肉、チーズ、バナナ、ヨーグルト。あとは豆腐と牛乳、それにお米だよ」

 

 本当にごはんで食べるもののミックスジュースだった。

 どろっとしているのはお米も入っているからか……いやしかしラインナップ的に別々に食べれば成立するやつじゃないか。

 

「食事は足りない栄養を補給するだけの行為だよ。経口摂取で一々時間をかけていられないじゃないか」

 

 そもそも生で食べても栄養は取れるんだからね、とタキオンは話す。

 確かにそうだけど、なんというかこう……あるだろう?

 楽しみみたいなやつがさ。

 

「生憎食事が楽しいと思ったことがあまりなくてね。ああ、紅茶を飲む時間はいい時間だと思っているよ。休憩して頭を整理できるからね」

 

 なんか違う。

 話をすればするだけタキオンの食生活が心配になってくる。

 

 というか普通にカフェテリアに行けばいいんじゃないのか。

 今日も普通に開いてるぞ。

 

「私も行こうと思っていたんだけどね。今やめてしまうと研究が途中になってしまう。だから今日はこれでいいだろうと思ったわけだ」

 

 普段はサンドイッチやおにぎりを注文しているよ、と話すが本当かどうかわからない。信用するけど。

 じゃあ閉まってる休みの日とか朝夕とかは……。

 

「これだよ。私は用意なんてしないからね。やれやれ、サプリメントで栄養補給ができれば楽なんだが」

 

 タキオンはそう言って頭を振る。

 うーん、なるほど。

 わかった。ちょっと待っててほしい。

 

 彼女に声をかけて外に出た。

 カフェテリアに出向いてウマ娘用のサンドイッチを注文し、テイクアウトして理科教室へと戻る。

 不思議そうにしていたタキオンに渡すと、ほぅ? と俺とサンドイッチを交互に見た。

 

「これはこれは献身的というか従属的というか。いや、まずはありがとうと言うべきなのかな」

 

 ニヤリと笑ってサンドイッチを取り出し、食べ始める。

 今度から俺が用意するよ、ごはん。

 そう話すと、ふぅン? と怪しく笑う。

 

「私に尽くすことが君のコミュニケーションだったりしないかい? 時間をとられるわけでもないし、私としては好都合だけどね」

 

 くつくつと笑い、ビシッと俺を指さす。

 

「存分に尽くしたまえ! アッハッハ! はむっ」

 

 そういって笑いながらサンドイッチを食べるタキオンなのであった。

 ちなみにミキサー食はもったいないので俺が飲んだ。すごいまずくて泣きそうになったのは秘密。




Report:●×年6月○日

 トレーナー君がご飯をつくってくれることになった。
 早速夕食を渡されたわけだが、思いの外しっかりとした弁当だ。
 バランスも考えられているし、味付けも濃いわけではない。
 男性の料理というものは大味だと聞いていたが、彼は違ったようだ。
 しかし白米の量が少ない。これではおかずと一緒に食べると先に消費してしまう。
 栄養バランスはいいが比率が間違っている。
 明日指摘して直してもらうことにしよう。
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