アグネスタキオンは超光速の夢を見るか   作:あぬびすびすこ

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 餌付けとデビュー前

※前話Story:06のあとがきでReport書き忘れていたので書きました!


Story07:始まる前

 タキオンのメイクデビューに向けて、相手の調査をしてみたり短時間で効率的なトレーニングを調べてみたり。

 先輩からチームで好評だったというトレーニングやケガ防止の対策などを教えてもらったので、今日の放課後タキオンに相談してみよう。

 

 そんなこんなで、朝から職員室でトレーニングメニューを作っていると、肩を叩かれた。

 誰だと思って振り向くと、先輩が扉を指さして立っている。

 職員室の出入り口を見ると、タキオンが眠そうな顔でこちらを見ていた。

 

 どうしたんだろうとタキオンのところに向かい職員室を出ると、あくびをしながらで包みを渡される。

 

「ビタミンやたんぱく質、それにミネラル。脂質と糖質もバランスよく含まれていたよ」

 

 押し付けられたのは弁当箱だ。

 早速昨日の夜に弁当を渡したわけだが、きちんと夕食で食べてくれたらしい。

 よかったよかったと思っていたら、すいっと人差し指を立ててこちらを見てくる。

 何か言いたいことがあるらしい。

 

「悪くはなかった。しかしだね、弁当について指摘する点が2つある」

「1つは箸を使うことさ。研究しながら食べるには手間だった。もっと簡単に食べられるものがいいね」

「2点目は白米の量だよ。おかずに対して白米の量が少なすぎる。バランスを考えたらもっと増やした方がいい」

 

 すごい指摘を受けた。栄養補給のためと言うから味への指摘はない。

 確かに研究しながら食べるなら、おにぎりやサンドイッチみたいに片手が空くものが好ましい。

 トータルバランスを考えてほしいというのも分かる。

 ただ、食べる時ぐらいは休憩してほしいと思っているんだけどなぁ。

 

「言っただろう? 研究時間が削れるのが問題なんだよ、モルモット君。あ、失礼。トレーナー君」

 

 やれやれと肩をすくめてこちらを見るタキオン。

 次は気をつけるよ。そう言うと、是非そうして欲しいと言われた。

 

「今日の分は仕方がない。次回以降は頼むよ」

 

 そう言って手を差し出された。

 ん? と首を傾げると、タキオンも不思議そうに俺を見てくる。

 今日の分ってなんだ?

 

「もちろん朝食のことだよ。ほら、出したまえ」

 

 ないけど。

 

「な、なんだって!?」

 

 タキオンは本当に驚いたらしく、目を見開いて1歩後ろによろめいた。

 

「冗談だろう!? わざわざ研究途中で取りに来てやったというのに……!」

 

 ぷんすか怒り始めた。

 え、だって毎日ご飯作るとは言ってなかったじゃないか。

 

「私の食事を用意すると約束しただろう! ならいつでも用意するのが君の仕事じゃないか!」

 

 ヒートアップするタキオン。

 どうしたんだと周りの先輩たちやウマ娘が心配そうに俺を見てくる。

 いや、大丈夫だから。そんな目で見ないで。

 

「そもそもなんで作っていないんだい!? 毎回約束しろってのか! 非効率だよ!」

「私の面倒を見るのが君の役目だろう! 早く私にご飯を食べさせろ!」

 

 そう言われてもないものはない。

 朝食は自分の部屋で食べてきたから持ってないし。

 

「えー!?」

 

 本日2度目の驚愕だ。

 尻尾もピンとたち、わなわな震えている。

 別に俺は悪くないのにかわいそうになってきたな……。

 とりあえずお昼までに何か作っておくよ。

 

「い・ま! 今食べたいんだ!」

「この欲求はご飯を食べるか君にあらゆる実験を行うかしなければ解消できないよ」

 

 どれだけ食べたいんだ!

 あまりの理不尽な申し立てにこちらが驚いてしまう。

 なんか女性のトレーナーたちがかわいそうな目で俺を見ている。

 うん、なんとなくこう、小学生の子供のわがままを思い起こすよ、今のタキオン。

 

「ほら、選びたまえよ。ご飯を食べさせるのか実験されるのか」

 

 ……多分これどっち選んでも実験はさせられるんだよなぁ。

 仕方がない。担当ウマ娘の要望を聞くのもトレーナーとしての仕事だって先輩も言ってたし。

 とりあえずご飯作るよ。そう話すと、当然だと頷かれた。

 

「はぁ、実験は午後に回すとしよう。とりあえずは朝食だ」

 

 やっぱり実験されるじゃないか!

 

「それはそうだろう。実験はモルモットとしての業務さ。ご飯はトレーナーとしての業務だよ、トレーナー君?」

 

 そう言ってニヤリと笑うタキオン。

 ままならないなぁ。

 

「口から文句を垂れ流していないではやく作ってくれよ。ほら! はーやーくー!」

 

 パチパチと手を叩いて急かしてくるタキオンを見て、ため息を吐きながらカフェテリアにキッチンを借りに行くのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そしてついにメイクデビュー前日。

 阪神芝2,000m。右回りで内コースだ。

 タキオンは自分の脚質を先行差しの中長距離向きだと俺に説明してくれた。

 実際それに最適化されたフォームやストライドになっているため、その判断は確かなものだ。

 

 前乗りで阪神レース場近くの宿泊施設に泊まることにしたわけだが、俺とタキオンがやることはトレセン学園にいる時とあまり変わっていなかった。

 つまり、研究と実験だ。

 

「火は使えないし実験器具は持ち運べる程度の簡易キットだけだからレポートは取れないね。材料もないし作ってきた薬しかない。まあ、とりあえず1本飲んでもらえるかい?」

 

 そう言って試験管を手渡される。

 今日はオレンジ色に発光している薬だ。

 この薬はどういう効果に繋がる物なんだ?

 

「それは大腿二頭筋や……ああ、つまりはハムストリングスの収縮データを取りたいんだ。これまでは表側の筋肉に注目していたからね。今度は裏側の筋肉も確認したい」

 

 膝関節にも多大に影響を与える筋肉だからね、と話す。

 とりあえず飲んでみると、これまたいつも通り変なにおいに変な味だ。

 

「効果が出るまで大体5分ほどだね。それまでは明日のレースについて少し話そうじゃないか」

 

 俺は思わずタキオンをまじまじと見つめてしまった。

 レースについて言及することはほとんどなかったし、レースでの作戦や距離なども全部俺任せだった。

 あまりにも信じられないという目で見てしまったためか、タキオンが少し不機嫌そうにしている。

 

「なんだ、君は。まるで私がレースをどうでもいいものだと思っていると、そう言いたい目をしているね」

 

 いささか心外だな、と腕を組む。

 今までそういう話はしてこなかったから、と言うと、少し考えて確かにそうだねと言って機嫌を直した。

 

「メイクデビューでのレースは研究において必要かどうか考えていたし、よりよい実験結果が出るにはどのタイミングで出走するのがいいのか計算していたんだ」

「私の予定ではそもそもメイクデビューでは欲しい研究結果は出ない。そう考えていたし今もそう思っているよ」

「理由は簡単さ。レースのレベルの問題だよ。私が必要としているのはGⅠレースで激走して1着で勝てるようなウマ娘のデータさ。それこそ会長や君の先輩のチームリーダーのようなね」

 

 会長ことシンボリルドルフはトレセン学園最高峰のウマ娘。この前取れたデータは最高だったとタキオンはよく話していた。

 先輩のチームリーダーのウマ娘は、GⅠを勝ちまくりURAファイナルズも2連勝しているのにケガをしない上、長距離もバンバン走る。

 丈夫な身体のデータは是非とも欲しいな、と外の星を眺めながら彼女は話す。

 

「目的の人物に自由な時に接触できるだろう? デビューしてしまうとトレーニングやレースで時間が足りなくなってしまうからね」

「だから出走しないつもりでいたんだ。まあ、君が登録してしまったから出ざるを得ないけどね」

 

 それはごめん。

 でもタキオンのことを考えたらここで走ってもらわないと退学に……。

 

「ああ、そんなに気にしなくてもいいよ。君が実験に付き合ってくれていることの方が何よりもメリットだからね」

「自由に実験させてくれるモルモットがいつでも近くにいるなんて、こんな素晴らしい環境を逃すのはそれこそ問題だよ」

 

 くつくつ笑って俺を見て、そして足を見てくる。

 俺も自分の足を見ると、ほんのり光が。

 あ、ハムストリングスだからももの後ろが光ってる!

 俺がわたわたして自分の足を確認していると、タキオンは小さくつぶやいた。

 

「ククク……君のおかげでなんとか走れそうだ。これからも頼むよ、モルモット君?」

 

 怪しく笑うタキオンと副作用に慌てる俺。

 そんな凸凹で変な2人組は、明日のメイクデビューに向けて相談を続けるのだった。




Report:●×年7月×○日

 この前弁当を指摘したからか、最近の弁当はクオリティが上がっている。
 おにぎりは形が整ってきたし、味付けも安定してきた。
 今度はサンドイッチを頼むとしよう。
 ビタミンと食物繊維を同時に摂取できるから効率的だ。

 それにしても今日のモルモット君は随分失礼だった。
 レースの話をしてあげようと思ったらあんな目で見てくるわけだ。
 確かに研究の話をよくしていたけれど、流石に失礼じゃないかい?
 ハムストリングスのデータは取れたから許してあげようじゃないか。
 寛容さを見せてあげるのもまたモルモットの管理者の仕事だからね。
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