父に騙されて人外魔境の奥地で風呂屋を経営することになった俺、何故か人外娘たちに懐かれているのだが   作:恋狸

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第42話

 俺が絶対防御の外に出ると、陣形についた。

 カノンは絶対防御を解除し、レベッカと手を合わせて目を瞑る。スキルを貯めているのだ。

 そして、みゃーは二人の護衛。流れ弾を『絶対切断』で切り裂いてもらう。

 

 俺はというと……囮である。死ぬ前提の囮である。 

 だとしても、少しは時間を稼がないといけない。

 

 

 リオンの意識は絶対防御を張ったカノンに向けられている。ヘイトというやつか……少なくともそれを俺に向けなくてはいけない。

 

「一発でかいのかましますか……っ!」

 

 迫る竜巻を風魔法を応用した移動術で潜り抜けながら、俺は魔力を貯める。

 ぶっちゃけて言うならば、リオン並みの魔力を持った魔物が現れたならば倒すのは簡単だ。魔力撹乱弾(まりょくかくらんだん)を使えば良いのだから。

 リオンの魔力量は、エンペラーグリズリーが蟻に感じるほどだ。だから、あの技を使えるのだが……操作が利かないため、発動したら必ず殺してしまう。

 

 俺は、俺達はリオンを殺したいわけじゃない、救いたいのだ。

 そのために、俺は俺を犠牲にする。

 

 

「こっちを向けぇぇぇ!! 『ファイアーレイ』!!!」

 

 魔力を凝縮させ、それを一直線上に解き放つ。

 俺の手のひらから魔法陣が出現し、光の速さで、炎の光線がリオンを襲う。

 その光線は凄まじい速さでリオンの黒い羽を貫いた。

 相手は宙に浮いている。まずは、機動力を奪わねばならないのだ。

 

「ぎゃっ!」

 

 思いの外効いたようだ。

 リオンは歯を剥き出しにして俺を睨む。どうやら、敵意を移すことに成功したようだ。

 

「-=“◇¢«§¢|¨¤¯«´}¡|£、¶±µª´」

 

 リオンは聞き慣れない言葉を放つ。呪文のように聞こえるが……

 

「まさか、古代魔法か……!?」

 

 存在は明らかになっていない神話時代の魔法だ。今の魔法より汎用性は低いが威力は絶大だという。

 くそ、理性はないくせに古代魔法の詠唱できるのかよ……っ!

 

「結界魔法『リフレクト』!!」

 

 反射魔法だが、俺が結界魔法を練習していないこともあってあまり効果はないだろうが気休め程度だ。

 

「^\_=>*+,{¡~_`\『イウディカーレ』」

 

 最後の魔法名だけは聞こえた。 

 そこで俺という存在が消えた。

 

 

 

「はっ……! くそ、死んだか」

 

 ポケットに入っていた水晶が一つ砕け散る音がした。

 イウディカーレ。確かラテン語で断罪だったっけか。あまりに強すぎる。何が起こったかさっぱりわからなかった。

 

 だが……時間稼ぎは充分だ。

 

 

「「準備完了!!」」

 

「よし、かましたれ!」

 

 カノンとレベッカの合図と同時に俺は全力で距離を取る。巻き込まれたらたまったもんじゃない。

 

 

 カノンの後ろまで避難すると、それを見届けた二人が、スキルを発動させる。

 

「「合体スキル『空間支配』」」

 

 カノンとレベッカを中心に空間が歪み出す。

 ぐにゃぐにゃと曲がった風景は少し気持ち悪い。ぶっつけ本番だがどうにかうまくいったようだ。

 スキルを組み合わせる。同じ空間属性で尚且つ親和性の伴った二人ならできると思ったが、当たりだったようだ。

 

 『空間支配』は呼んで名のごとく空間を支配する技だろう。おそらく操作には、途轍もない集中力が必要だ。

 

 そして、それを使ってどうするかというと、簡単だ。

 空間の歪みを利用して閉じ込める。シンプルだが、少しでもミスると、空間が断裂してここら一帯が更地になる可能性はあるが、そこは二人を信じるしかない。

 

 空間の歪みは徐々に広がる。リオンは危険性を理解してか、歪みに魔法を撃ち込むが効かない。

 この合体スキルは『S』と『T』を同時に動かす『空間拡張』とその二つを操作する『空間固定』のスキルが合わさっているのだ。リオンが目に見える『S』に魔法を撃ち込んでも、カノンのスキルで『固定化』されているため効くわけがない。

 

「行け……っ!」

 

 集中し過ぎて、鼻血が出ている二人に俺は必死に激を飛ばす。囮はやった。あとは見守るしかない。

 

「ぐぎゃぁぁ!!!」

 

 リオンは迫り来る歪みに必死に魔法を撃ち込む。傷一つ付かない歪みに本格的に焦っているようだ。

 銀髪を揺らして、ハイライトの無い赤い目で前方を睨むリオン。

 頼む。頼むから元に戻ってくれ!

 

「「はぁぁぁぁ!!!」」

 

 カノンとレベッカの体が光輝く。スキルを全開にし、全ての力を注ぎ込まんと叫ぶ。

 

 呼応した歪みが遂にリオンの元にたどり着き、その体を包み込んだ────

 

 

「やったにゃ!?」

 

「おいバカ!」




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