※「どけ!トレーナーの隣は私だ」のとあるお話の続きというかリメイクみたいなものです。
昔──といってもほんの少し前の話。
一人のウマ娘がいたんだ。
そいつの名前はゴールドシップ。
アイツはなんていうか黙ってればすごく美人でさ、でも喋ると奇人みたいなやつ。しかもどれも前に超が付くから余計にたちが悪いときたもんさ。
だけど、走りに関しては超が付くどころじゃない最高のウマ娘で……最高の女でもあった。
ゴルシは……俺のつまらない人生を楽しくしてくれた。もう叶うことのない夢を叶えさせてくれた。
だからそんなアイツに惹かれるのは、何ていうか当たり前だったんだと思う。いつも一緒にいるの当たり前でどこへ行くのも一緒で、彼女といると毎日が楽しくて、飽きることなんて一度なかったんだ。
そんなアイツが俺の夢を叶えるために走り続け、無敗のままレースを去ることになった。誰も成し得ない偉業を果し、国内はおろか世界にだってその強さを証明して見せた。きっと今後二度とその記録を抜く存在は現れない、そう思ってしまうぐらい強かった。
我こそが最強だと自負するウマ娘ならばその頂を奪うべく戦うことを望んだに違いない。でもその望みは永遠に叶うことはなかった。
突拍子もない話だけどゴルシは……未来からきた未来人。SFというかドラえもんみたいだろ? だけど、本当のことなんだ。
なんでも色々やりすぎたから、だから帰らなきゃいけないって。そんなアイツに俺は自分の想いを打ち明け、彼女も俺のことを好きだと言ってくれた。
嬉しかった。
でも、帰らなきゃいけなくて、だから俺はまたここで会おうと約束をしたんだ。するとアイツは俺の目の前でスッと消えちまった。
そして世界はゴールドシップという存在を認識しなくり、彼女を覚えているのは世界でただ一人俺だけになった。
それから数年の月日が流れた──
「であるからして、チキン伯爵の尊い犠牲もあり、ビーフ伯爵とポーク伯爵が手を組んで合い挽き肉同盟が結ばれたわけだ。後にこれが暴君キャロット皇帝との戦いに大きな変革をもたらすことになる」
「やっぱり先生の授業はためになるわね」
「いや、それはちょっと……」
後ろから生徒達の声が耳に入ってくる。そんなことはいつものことだし、教壇に立って黒板と向き合えばイヤでも聞こえてくるものだ。
アレから俺はまだここトレセン学園で働いている。それもトレーナーではなく今は教師として授業をしていた。それも今は自分が受け持っているクラスで授業中だ。
元々ここには教師として赴任しきたので、ある意味こっちが本業とも言えた。でも、アイツと出会ってトレーナーとしてまた再活動をし始めたに過ぎない。教師とトレーナーの両立はそこまで難しいものではないと昔は思っていたけど、それは担当しているウマ娘がアイツ一人だけだったからだということにここ最近気づいた。
気づいた、ということはつまり今も俺はトレーナーとしても活動をしているということになる。担当しているウマ娘については──
──キンコンカンコン。
チャイムが鳴った。今日の担当科目はこれにて終了。残りの時間はトレーナーとしての時間だ。
「今日はこれでお終いだ。毎度のことだが、怪我をせずトレーニングに励むように。じゃお疲れさん」
俺の授業の時はそれが号令の代わりだ。一々起立させるなんて面倒だし、どうせ生徒達も早くトレーニングがしたくてうずうずしている子ばかりだから丁度いいのだ。
教科書や資料をまとめていると、一人のウマ娘が俺の方にやってきた。我らが生徒会長シンボリルドルフだ。
「先生、少しいいだろうか」
「ああいいよ。どうした何か相談か?」
「違うよ。感謝祭の出し物の書類が出来たからそれを渡しにね」
そう言ってルドルフは大人顔負けの企画書を渡してきた。正直に言って、俺が作るより出来がいいからきっとミスはないだろうし、このまま流し読みしても十分受理されるのは間違いないと思われる。
それに我がクラスの出し物はもう毎年決まっている。それは『執事喫茶』だ。ある年から始めたのだが、これが女性来場客にとても大人気なのだ。
もちろん我らが生徒会長も執事としておもてなしをしているので、それが人気の秘訣でもある。
「どうせ問題はないから後で一応は目を通しておくよ」
「変わらないね先生は。所でだ」
「ん?」
急にルドルフは一歩前に出て顔を近づけてきた。教卓がなかったらきっと鼻と鼻がすぐに触れ合う距離まで来ていたに違いない。
だからなのか、鼻で息を吸うといい匂いがした。今の若者でも香水は付けるとは言うが、休日でもないし生徒会長であるルドルフがそんな校則違反をするはずがない。ということはだ、元々彼女が持つ匂いということになる。
別にルドルフの匂いは初めてではないし、彼女に限らずウマ娘達はみな独特の匂いがある。それはもう香水なんていらないほどいい匂いだ。
それついては分かってはいても、俺は決してそれを口には出さないでいた。だって今の世間はそういうことに敏感だからね、仕方がないね。
「もし今年”も”1位を取ったら個人的なご褒美が欲しいなって」
毎年学園の出し物の人気投票みたいなものがある。それは来場者だけが投票できるシステムになっていて、もし1位を取れば学園からそのクラスに対して何らかのご褒美がもらえるというものだ。
だけど俺はそれについて呆れながら彼女に言った。
「……どうせライアンにオペラオーやフジキセキ辺りにも助っ人を頼んでるんだろ」
「緻密な計画と言ってほしいな。で、今年もご褒美が欲しいんだけど……ダメ?」
ちょっと首を傾げておねだりしてくる彼女の姿は、男なら誰しもが逆らうことができないことは間違いない。何よりも目の前のシンボリルドルフを知る存在はどれだけいるだろうか。クラスメイトはおろか副会長のエアグルーヴでさえも知らないと思う。
それも当然だろう。目の前にいるのは生徒会長でも皇帝でもない、ただの女の子なのだから。
故にというか当然の如く俺は手を挙げて降参のポーズを取りながらそれに屈した。
「はいはい分かったよ。お前のご要望に従うよ、
「ふふっ。じゃあその時はよろしくね、先生」
まさにご満悦と言わんばかりにルドルフは去っていた。
先程見せた笑顔は男女ともに魅了するぐらいカワイイ顔をしているが、俺はそんな彼女の顔をしている所を他では見たことがない。見たことはないが、俺も世の男性のように女性の笑顔には勝てない男であった。
「ぐぬぬっ!」
「ぐぎぎっ!」
「スカーレット、ウオッカ! 競い合うのもいいが間違っても怪我なんてするなよっ!」
スタート地点に帰ってきたダイワスカーレットとウオッカが、互いに今にも身体をぶつけ合うような走り方を見せていたので大声で叫ぶ。
すると少し遅れて返事が返ってきた。
『ハーイッ!』
「本当に分かってるのかあいつら……」
首を横に振りながらため息をつく。二人のあの光景は今に始まったことではないが何かあったらでは遅いのだ。まったく毎日ハラハラしながら見ているこちらの身にもなってほしい。
するといきなり背中に何かがのしかかってきて、思わず前に倒れそうになるがなんとか踏ん張ることができた。そしてその主が俺の耳元で駄々をこねるように言ってきた。
「ねーねー次のボクのレースはいつなのさー」
「あのなテイオー。しばらくレースはお預けって言ったろ」
「だって~」
子供のように、というかまあ俺からしたらまだ子供なんだが、背中でごねているのが我がチームのエースと言っても過言ではないトウカイテイオーだ。
皐月賞、東京ダービー、菊花賞を見事勝利し、それまでを無敗で勝ち続けてきたので皇帝シンボリルドルフ次ぐ無敗の三冠ウマ娘を手にした。
「あらあら。テイオーったら私に負け越しているのがそんなに悔しいのですか」
ところがその無敗伝説は同じチームメイトで、今俺の隣に現れたウマ娘──メジロマックイーンによってストップをかけられた。そのレースが天皇賞・春で、そこから何ていうか意地の張り合いというか、まあ互いに負けず嫌いだから同じレースに出てその勝敗を競うようになった。
ちなみにマックイーンが言うように、今の所彼女が一つ勝ち越している。
「別に悔しくなんてないやい。だって今度はボクが勝つに決まってるんだもん。ね、トレーナー!」
「あら。トレーナーさんは私が勝つにきまってますわよね?」
「はいはい。お前らが元気に走っている姿が見れて俺はうれしいな~」
「ホント、素直じゃありませんわね。ほらテイオー、置いていきますわよっ」
「あ、待ってよぉ~」
マックイーンが走り出してテイオーも彼女を追うべく背中からようやく降りてくれた。別に重いという訳ではないが疲れるのだ。父親になって、子供に抱き着かれる気分というのはこういうものなんだろうなと一人で想像する。
トウカイテイオーとマックイーン。
この二人だけではなく、特にうちのチームにいるウマ娘には何だか不思議な縁を感じたりする。何ていうか懐かしさを感じる時が多々ある。と言っても皆と出会ったのはここがトレセン学園だからで俺がトレーナーだからでもあるし、何よりそれ以前に出会ったこともない。それなのに懐かしいと思うその根拠は今でも分かっていはいない。
だけど間違いなく言えるのは、俺は昔と変わらず今を楽しんでいるってことだ。それだけで十分すぎる理由だ。
「おじさんおじさんっ」
「おじさま~」
コースの方に目を向けて思いにふけていると、目の前に耳をピコピコと揺らしている我がチームで一番若いキタサンブラックとサトノダイヤモンドが立っていた。
「二人ともどうしたんだ」
「どうしたじゃないよ! 私達もそろそろ来年から本格的にレースに出てもいいと思うんです! ね、ダイヤちゃん」
「目指せ三冠ウマ娘! ってわけじゃないですけど私達も挑戦したいんです。おじさま、ダメ……ですか?」
「……」
『ジ~~~』
目をうるうるとさせながらこちらを見上げてくるその仕草に勝てるものはいないだろう。いやはや、最近の若い子は交渉が上手い。だからと言って単に二人に負けた訳ではなく、デビュー戦も無事勝利して好スタートを切ったの二人。なのでもう少しトレーニングを積んで来年からレースに慣れつつ、二人が言うように皐月賞と言ったG1レースに挑戦させる予定ではいた。
「はいはい。ちゃんと考えているから、そういうやり方は若い男にでもやるんだな」
「あはは……ですよねー」
「私は本気ですよ。じゃ、走り込み行ってきます」
「……え、ダイヤちゃん? ちょ、ダイヤちゃん待ってよー! ダイヤちゃーん!」
キタサンブラックとサトノダイヤモンド。
意外なことに二人が学園に来る前から俺は彼女達と交流があった。だから他の子達と違って『おじさん』、『おじさま』と呼ばれている。
まあ本当におじさんって呼ばれる年齢だから否定はできないのだが、やっぱりちょっとこう心にくるものがあったりする。
ただ、おじさまって呼ばれるのはちょっとイケない感じがしてちょっと危機感を抱いている。なにせ、たづなちゃんがたまに怖い目を向けているのは記憶に新しいからな……。
「全員揃ったら今日はどうするかな」
他にも所属しているウマ娘はいるがまだ来ていない。まあうちのチームはそこまで規律にうるさくはないので、余程のことがなければ軽い注意程度で怒鳴ったりはしないのだが。
とりあえずチーム全員が揃うまで俺は今日のトレーニングを考えることにした。
『トレーナーまた明日~!』
校門で皆に送り出されながら俺は帰路につく。
彼女達は学園の前に寮があるので、寝坊とか下手なことをしなければ登校には間に合うし、門限までに寮に戻ってこられる。
「意外と寮生活は厳しいんだよなぁ。特にルールが」
大学まで出ているが今まで寮生活というのはしたことがないので、そういう規則に関してはあまり共感ができない。まだまだ若いし、そういう所をしっかり躾けておくのもある意味大事なことなんだろうとは思っているけど。
ただ不満というかおかしなことがあるとすれば、女子寮は部外者及び男子禁制のくせにトレーナー寮にはウマ娘は問題なく入っていいということ。
解せぬ。
と思いつつも、当の自分は寮ではなく少し離れたマンションに住んでいるのだから、それを言う資格はないのだろう。
独身だし金銭面や交通のことを考えれば寮に住むというのが正解なのだろうが、生憎と学園に来る前から借りているマンションに住んでいたので、今更そちらに移るなんて面倒なことはできなかった。なにより独身男性用の寮ということもあってあまり広い部屋とは言えない。なのでそういう生活面で不便を感じるからそっちには住んでいない。
でも、本当に徹夜とか必要な時に近場にあるトレーナー寮は便利なので一応は契約している。といってもまともに過ごしたことはあまりないし、置いてあるのも必要最低限。
ただ最近はよくお昼休みにタマモクロスに料理……お好み焼きとかタコ焼きの作り方を教えてもらうために利用しているぐらいだろうか。
「オグリがいっぱい食べるし、最近タキオンにも弁当をせがまれるし。男の作る料理なんてそんなにいいもんじゃないだろうに」
ウマ娘は一人一人個性が強いというか、一癖も二癖もあるような子ばかり。それはそれでいいのだが、時としてこういう時はちょっと困る。
オグリキャップに関してはスカウトして以来、彼女はこの場合悪い意味で燃費がいいと言うべきか、よくお腹を空かせているのでよくおにぎりとかお菓子を持参している。
対してタキオンだけど、彼女は妙な縁で知り合ってから食事に関して注意したら「じゃあキミが作ってきてくれたまえよ」なんて言うから作ってあげたら、それで味を占めたのかよく弁当をせがむようになった。
一応毎日じゃないから助かっていると言えばいいんだけど問題は食費だ。
「流石にこればかりは経費では落ちないよな……」
レースに勝ったお祝いなどはなんとか経費で落とせるけど、私的なものであればいくらウマ娘が関係していも難しいだろう。
なんとかたづなちゃんを説得してみるか……いや、仮に通っても後が怖いよな。
そんなことを思いつつ学園の近くにある駅まで歩いて、電車に乗って二駅目で降りる。距離からすればそこまで遠くはないし、自転車通勤だってできなくはない距離だ。車は持っていないけどバイクは所有しているが、何となくその日の気分で通勤手段は選んでる。
といってもほとんどが徒歩が多いのだが。
ふと普通の独身男性なら自宅に帰るまでどんな気分でいるんだろうかと思う。時間帯的に多くの人間にすれ違うのでよく見ているのだが、その足取りは軽かったり重かったり。疲れた顔をしている者やそうでもない者も。普通ならやっぱりどこかで食事を済ませたり、コンビニやスーパーなどで夕飯を買って帰るのだろうか。
確かに俺も以前まではそういう感じだったような覚えがある。もうその時のことは覚えていないので、自分がどういう生活を送っていたのかもうあやふやだ。
じゃあ今はどうしているんだと言われれば、そういう心配をする必要がなくなったということになる。
住んでいるマンションまで来れば、あとはエレベーターに乗って自分が住んでいる階まで上がる。ポケットから鍵を取り出しながら住んでる部屋の玄関前まで歩き、いつものように玄関のドアノブに鍵を差す。
そしていつものように言うのだ。
「ただいま」
普通の独身男性が住む部屋ならば、ただそれだけで声が返ってくることなくそれで終わる。だけど俺は違う。
「おう、お帰り」
出迎えたのはTシャツにショートパンツとまあ楽な格好でこちらに歩いてくる……ゴールドシップだ。
そう。ここには俺ともう一人ゴルシが一緒に住んでいる。この世界にはいないはずの彼女がだ。
「飯用意するからちょっと待ってろよな。あ、先に風呂でも入るか?」
「いや、飯食ったあとに入るよ」
「そっか」
そう言ってゴルシは台所に向かい、俺は自分の部屋に戻って着替えてからまたリビングに戻った。それからリビングに戻って、テーブルの前に座りながら顎を手に乗せて調理をしているゴルシを眺める。
かつてあれほど見慣れたあのよく分からないヘットギアというか帽子は付けず、綺麗な葦毛がよく見える。でも今は調理の際邪魔になるのか髪をまとめてポニーテールぽくなってる。どうやら俺はポニーテールフェチなのか、すごくいまのゴルシが魅力的に見える。いや、昔からそうなのだがこいつは喋らなきゃ美人だったし、頭のアレを取れば超美人だったのだ。
でも、今ではもうかなり目が慣れているのかあまりそういう気は起きなくなっていた。別に枯れているというかそういう訳ではなく、なんだろうか……んー言葉にするには少し難しい。
ただ間違いなく言えるのは、俺はゴルシのことが好きだ……まあ好きなんだけど……。
「ヘイおまちぃ! ゴルシちゃん特性チャーシュー麺だよ!」
「おおっ……ぉぉぅ……」
「フフーン。ビックリしすぎて声を失っちまったようだな」
ドンっと置かれたゴルシ特性チャーシュー麺。出来立てなので見るからにアツアツだ。だけど、それに対して俺の目は死んでいた。
俺は箸を持って、アツアツの麺の上に浮いている薄くてひらひらなチャーシューを掴み、そのチャーシューを見ながらゴルシに言った。
「なあ、ゴルシさんよぉ……」
「ンー熱くて食えないのか? アタシがふーふーしてやろうか!」
「チャーシュー麺ってのはチャーシューが乗ってるからチャーシュー麺であって、ハムが乗ったラーメンはチャーシュー麵って呼ばねぇんじゃねぇかな……」
「アタシが作るチャーシュー麺はそう言うんだよ」
プッツン。
そう言われた瞬間、俺の堪忍袋の緒が切れた。
「ふざけんな! 俺はちゃんと食費を渡してるのになんでこういう所でケチるんだよ! どうせまた何か買ったんだろ!」
「新作のゲーム買っちゃった。てへっ」
「それだけじゃないだろ」
「あ、あと……ネットでプレミアついてるプラモデル買った……」
「……売ってくる」
箸をおいて立ち上がり、恐らく押入れにしまってあるだろうそのプラモデルを探しに向かう。するとゴルシが俺の腰に抱き着いてきてそれを阻止しようとしてきた。
「頼むよぉー中々再販してくれなくて、やっとの思いで買ったやつなんだよぉー」
「何がやっとの思いだ。全部俺の金だろうが!」
「しょうがないだろ。お前がいない時間はヒマでしょうがないんだからさ~」
「もう頭にキた。今日という今日こそは我慢ならん」
「彼女のちょっとした贅沢ぐらい許してくれたっていいだろ!」
「あん? 彼女って誰だよ」
「アタシ」
「……ふっ」
「あ、笑いやがったなテメェー!」
「やるかこの!」
「上等だぁ!」
俺はゴルシが好きだ。好きなんだけど、数年経った今でもちょっとまだ引きずっているというか、自分の気持ちに素直になれていない俺がいる。
だってコイツ、あの感動的な別れからたった三日後にふらっと帰ってきたんだぜ!? 普通もう一生会えないっていう別れをしたのに三日だぞ三日!
映画で例えるなら最後の別れをしたあとにエンディングが流れて、終わったと思ったらいきなりふらっと帰ってくるシーンが流れたら、そりゃあほんの数分前の涙と感動を返せってなるさ。
そりゃあまた会おうなんて約束はしたよ? だけど三日はないだろ。そこはもっと数年経ってから来るとかさぁ……その、あるじゃん。
それが玄関を開けたらゴルシが立ってて、アイツを見た瞬間アレだぞ。嬉しいとかそういう感情よりも、なんか現実逃避したくなるぐらい受け入れがたいものだったしさ。
だからなのか、帰ってくるまでにあれ程恋焦がれていたゴルシに対する気持ちが、その所為でどこかへ吹き飛んでしまったんだ。
まあ、そういう所も彼女らしいと言えばらしいんだけどさ。
だけど……そんなゴルシだから、コイツのことが好きで一緒に暮らしているんだろうなって思ってる。
じゃなきゃもう数年も一緒に住んでないし。
「必殺ゴルシビーム!」
「っぶね! ビームはナシっつったろ!?」
「ふーんだ。もっとゴルシちゃんをもっと甘やかせ!」
「十分甘やかしているだろうが!」
「まだまだ足りないっ!」
「欲張りさんめ!」
とまあ、そんなこと思いつつもこの生活を楽しでて、これが俺達の日常だということだ。
ちなみに。
この痴話喧嘩は毎度のことなので今じゃもう数えることすらしなくなった。時間にして1時間ぐらいで収まりそのあとなんやかんやあって、いつものように最後には一緒のベッドで寝るのであった。
ゴールドシップ
トレーナーの家に住むただの居候。
しかしその正体は未来からやってきた未来人。トレーナーの夢を叶えるために史上最強のウマ娘になったはいいが、歴史を変えてしまいそのツケを払うべく未来へ帰った……けど三日後には我慢できなくて帰ってきた。
近隣住民からは普通にトレーナーの奥さんだと思われてる、らしい。