トレーナーさんちのゴルシ   作:ししゃも丸

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話によって時間軸はころころと変わりますです。



ある日のゴルシさん

 

 

「……ン……」

 

 目が覚める、といってもまた意識だけ。瞼はまだ重くて開ける気なんてないし、身体もまだ起き上がることを拒絶している。

 アタシには目が覚めるタイミングというのがある。それはアイツが起きた時にアタシも目が覚めるというものだ

 

 なんで分かるのかって? 

 

 こっちに帰ってきたら最初の夜からそうで、アタシは毎晩アイツの背中に抱き着きて寝ているからである。だからアイツが身体起こそうとする時に自然と自分も起きるようになってしまったのだ。

 

 しかしだ、アタシは天下無敵のゴールドシップ。そう易々と大事な抱き枕を手放す程優しくはない。

 

「ン~~まだぁ……いっしょにねてろぉ……」

 

 アイツの身体に回している腕に力を入れて、同時に脚を絡めて逃げなくさせる。だけど、これはほんの一瞬だけでアイツはスイスイっとアタシの拘束から脱出する。

 

「はいはい。お前はまだ寝てていいよ」

「……おまえが……いなきゃやだぁ……」

「ほんと、朝だけは素直なんだからな。ほれ、代わりにこれ抱いてろ」

 

 最後の抵抗と言わんばかりに手を掴んでいたけど、これまた簡単に離されて代わりにアイツが使っている枕を渡された。アタシはこれまたいつものようにこの枕をアイツの代わりにしてまた眠る。

 これがまた快適に安眠を促してくれて、まあアイツの匂いがするからなのだが。

 

 だけどアタシはまだ寝ない。アイツがまだいるから。

 

 アイツもアイツで寝室の扉は開けたままにして、まだ自分がいることを音で知らせてくれている。ウマ娘は耳がいいからほんの些細な音も聞こえるので、だいたい何をしているかが分かる。今は朝食を作りながら出勤の準備をしているころだろうか。それから朝食を済ませたら身支度を整えて、最後にまたこっちに戻ってきた言うのだ。

 

「じゃあ行ってくる。今日は京都まで行かなきゃいけないから帰りはちょっと遅くなる。だから夕飯は大丈夫だからな」

「……きをつけてなぁ~~」

 

 頑張って腕を上げて横に振る。とりあえず玄関の閉まる音が聞こえるまで。それが聞こえたら、バタッと腕を下ろしてまた眠る。

 

 前は生徒だったからこんなに朝は弱くなかったけど、こういう生活を送り始めたら何故か弱くなった。まあ二度寝と言ってもあと二時間ぐらい眠るだけなんだけどな。

 

 

 

 

 

「うっし。掃除でもすっかな」

 

 起床してからアイツが用意しておいた朝食を食べて、身支度を整えたころには時刻は9時ちょっと過ぎ。だいたいいつもこんな感じで、次は掃除を始めるのがここ最近の日課だ。

 

 意外かと思われるかもしれないが、アタシはちゃんと居候としてそれなりの家事はちゃんと熟している。といっても本当に年相応というような掃除だけどな。

 普通に掃除機をかけて、そのあとクイックル〇イパーで床を吹くだけ。あとはテーブルとか汚れているところが目立ってきたらキッチン周りとか風呂場を念入りに掃除する感じ。

 

「あ、干しとくの忘れてた」

 

 昨晩洗濯して室内で干していた洗濯物をベランダに移す。ベランダに出て毎回思うのは、つくづくアイツはいい所に住んでるっていうこと。都内だから意外かと思うけど、ここからの見晴らしは中々いいと思ってる。

 

 ふと洗濯物を見て最初の頃を思い出した。

 

「何だかんだ言って慣れるもんだよなあ」

 

 男女の下着や服が一緒に吊るされているのを見て、アタシは慣れというものをしみじみと感じてる。

 今でこそ家事はアタシがやっているけど最初はアイツがやっていた。今までの生活に中にアタシが入ったことで、多くのことに一人分が追加される。それは洗濯に限らず食事もそうで。

 

 それは初めてアイツがアタシの下着を洗濯籠から取り出した時だ。

 

 多分、アイツは悩んだんだと思う。一緒に洗うべきか、それとも別々に洗うべきかと。そんなアイツの後ろ姿をひょっこり覗いてアタシはこう言った。

 

「──えっち」

「……フンっ!」

 

 からかうだけのつもりだったけど意外と効いたのか、アタシの下着を洗濯機に投げつけていたのは見てて面白かった。

 

「それからなんやかんやあって。今じゃアタシが主婦の真似事してんだもんなあ。ま、これはこれでイヤじゃないけどさ」

 

 主婦の真似事をしていると、アタシがアイツの女だということをハッキリと認識する。いや、してしまうことにどこか喜びを感じているのかもしれない。

 

 つまり何が言いたいかと言えば、アタシは今の生活を気に入っているってこと。

 

 

 

 

 

「ロールちゃん一人で寂しくないの?」

「はい。一人は慣れていますから」

「ほんと、ロールちゃん凄いわね。あたしなんて子供がいたときはいいけど、今はもう一人暮らしだから旦那が帰ってくるまでちょっと寂しいっていうか、心細かったりするのに」

「普通はもっとしたいことしているイメージがありますけど」

「まあそりゃあそうなんだけどね! でも、やっぱり家に一人はつまらないもの」

「……」

 

 時間にしてお昼ちょっと前。気分転換に散歩をしてからマンションに戻ってきて、帰りのエレベーターで同じ階に住んでる一人の奥さんと相乗りすることになって世間話をしていた。

 

 ロール、というのはアタシの偽名。正式には『ロールバドー』という名前になってる。ちなみに考えたのはアタシだ。確か、違う世界の()()()がそんな名前で何かやっていたという話を聞いたことがあったからだ。

 という訳でご近所の奥様方にはロールちゃんって呼ばれてる。

 

 あ、ちなみに言葉遣いはちゃんとしてるぞ。ゴルシちゃんは好かれるのは得意だからな。

 

 ──チン。

 

 エレベーターが止まって一緒に廊下に出る。奥さんは本当におしゃべりが好きなのか、今度は別の話題を振ってきた。

 

「それにしても彼にもいい人が見つかってよかったって、みんなが思ってるの」

「え、どうしてですか?」

「彼って一言でいえばいい男でしょ? 男の人なのに近所付き合いはちゃんとするし、仕事もトレセン学園で働いててしっかししてる。なのに今まで彼女を連れこんだりとか、浮ついた話が一度もなかったから、あたし達心配だったのよ。だから、ロールちゃんみたいな奥さんが出来てあたし達も一安心ってわけ」

「いやあそれほどでも」

 

 奥さんって言われてついつい嬉しくて照れる。

 

 まあでも、同棲してるだけで結婚はおろか付き合ってるのも怪しい関係なんだよなあ。よし、アタシ達の関係について今一度深く話し合うべきだな、うん。

 

「そういえば。ロールちゃんもウマ娘だから前はレース出てたんでしょ?」

「えっ」

「ネットとか探せば出てくるかしらねえ。きっとロールちゃんのことだから、きれいな走りをするんでしょ」

「い、いや、その、わたし脚がちょっとアレでああなちゃって、公式のレース出たことないんですよ、あは、あはは……」

「まあそうなの。それは大変だったわね」

「ま、まあ色々あって……あ、じゃあわたしはここなので。またっ」

「ええ、また」

 

 丁度我が家の玄関の前を通りかかったので、無理やり会話を終わらして逃げることにした。いやはや、まさか出されたら困る話題トップ1が来るとは思わなかったぜ。

 

 そりゃあウマ娘だから誰だって走ったことあるだろうって思うのは当然だ。確かにアタシは走ってたよ、アタシは。だけど、わたしことロールちゃんは走ったことなんてないわけで。

 

 一応動画投稿サイトで『ゴールドシップ』と調べればちゃんと当時の映像が出てくるが、それはアタシが消えた日までのもので、それ以降は投稿すらされていない。もっと言えばアタシを認識していないので、あの日以降検索もされず再生されることはない。

 

 しかし、ふとレースのことを思い出したら何かが引っかかっている。それが何なのかは分からないが、すぐに思い出せないということは大したことないってことに違いない。なのですぐに忘れることにした。

 

 

 

 

 

「……あ、そういえば今日は菊花賞か」

 

 昼寝から起きてこれから何をするかと思った矢先、アイツが今日京都に行ったことを思い出した。で、その京都で今日開催されるレースが菊花賞なわけだけど。

 

「誰のレースだ?」

 

 誰と言ってもアタシが知っているウマ娘なんて数えるくらいだと思う。覚えているのは同じクラスメイトだったヤツぐらい……ルドルフとか……あいつとあいつとか。

 

 特に気になるわけでもないのでアイツがいま担当しているウマ娘については深く聞いたことはない。向こうがよく、誰々がすごくてさあみたいな話を聞くことがあるくらいだ。

 こっちの世界はこれでもってくらいウマ娘のレースを取り上げるから、すぐに特集なんかするテレビ局があるはず。なのでテレビの電源を点けて適当にチャンネルを変えているといいのがあった。

 

『本日行われたクラシック三冠の最後を飾る菊花賞で、チームスピカのトウカイテイオーが見事勝利しました。これにより、彼女は今日まで無敗で三冠を手にしたことになり、かのシンボリルドルフに続いて無敗の三冠ウマ娘の称号を手にしました。では、レース後の記者会見の映像をご覧ください』

 

 へえ、ルドルフに続いて無敗の三冠ウマ娘がついに現れたのか……。

 

「ま、アタシも持ってるけど~」

 

 テレビの前でガハハッと笑うアタシは中々珍妙な光景だろう。

 そんなことを思っていると、多分少し前に行われたであろう記者会見の映像が流れた。URAのロゴが入った看板の前に立つトウカイテイオーと……アイツ。

 

 二人はカメラのフラッシュがたかれる中、すごくいい顔をしていた。

 

『トウカイテイオーさん。まずは菊花賞の勝利、そして無敗の三冠ウマ娘おめでとうございます』

『はいっ、ありがとうございます!』

『お聞きしますが、今日までの勝利の秘訣はズバリなんでしょうか』

『えーと、日頃のトレーニングの成果……もあるんですけど、やっぱり隣にいるトレーナーのおかげです。トレーナーがボクを最強のウマ娘にしてやるって言ってくれて、だからボクは今日まで頑張ってこれました。なのでやっぱりトレーナーのおかげ、かな』

『なるほど、ありがとうございます。では、そのトレーナーさんはどうですか』

『いえ、私はほんの少し手伝っただけです。彼女が今日まで勝ってこれたのは、紛れもなくトウカイテイオー彼女自身の力です。彼女は私の自慢のウマ娘ですよ』

『えへへっ』

『ありがとうございます。では──』

 

 テレビの電源を切ってリモコンをソファーに放り投げた。暗くなったテレビの画面に薄っすらと映るアタシが目に入る。

 

 一言でいえば、すげえ機嫌の悪い顔をしていた。

 

「なんか、なーんかイヤだ」

 

 理由は分からないけど、すげえ二人の顔を見てたらさっきから胸がモヤモヤしている。テイオーってヤツがアイツの隣にいるのもちょっとイヤだし、何よりアイツがあんなにべた褒めしているのがもっとイヤだ。

 

 アタシは無意識にスマホの画面を動かしてアイツに電話した。

 ……すぐには出なかったけど、かけ直すことなくちゃんと電話が繋がった。

 

『ゴルシか? どうした、何あったのか』

「別に。なんでもねえ……なんでもないけど、いま何してる」

『今か? さっきとみんなとお祝いにご飯食べて、これから帰るところだ。ただそっちに戻っても学園で少しやることあるから、帰りは予定より、ちょっと待ってくれ──どうしたスズカ。え、オグリが食べ足りないから駅弁買っていいかって? ほら、財布持ってっていいから。あ、領収書はちゃんともらっておくんだぞ……えーと、そうだな。帰りは少し遅くなるから……ゴルシ? おーい』

「……」

 

 今更だけど電話をしたのを後悔してきた。スズカというのは多分サイレンススズカだろう。何となく名前だけは覚えていたから知らないヤツではなかった。でも、逆にそれがもっと不快な気持ちになった。

 

 前は、アタシがアイツを独り占めしてた。アタシにはアイツが、アイツにはアタシだけが必要だった。でも、いまは違う。アタシが居た場所に他のヤツらが入り込んでいる。それが何故だかすごくイヤだ。

 

『なあ』

「なんだよ」

『お前さ、もしかして嫉妬してるのか?』

「はあ? 嫉妬なんてしてねえし」

 

 まるでいまアタシが考えていることを全部見透かしてるかのようにアイツは突然言ってきた。口ごもらずちゃんと言い返せたので不自然ではない。だけど、多分バレバレなのかアイツはアタシが望んでいた言葉を伝えてきた。

 

『いいか、ゴルシ。お前は俺のウマ娘だ、誰でもない俺だけの。みんなは忘れているが、俺だけはちゃんと覚えているよ。お前が誰よりも強く、速いことを』

「……うん」

『俺はお前がいる場所にちゃんと帰る。だからそんなに心配するな』

「アタシがなんで心配するんだよ」

『まったく。お前は素直じゃないな。ま、それがお前の魅力であるが』

「う、うっせえ! いいから早く帰って来いよな!」

『はいはい。じゃ、戸締りはちゃんとしとくんだぞ』

 

 返事を返さずに通話を止めてスマホをソファーに放り投げた。

 

 何だか顔が熱いっていうか、そわそわしているような気がする。別にあんな事を言われて嬉しいからじゃない。そうだ、絶対に違うに決まっている。

 

 ていうか、アイツもアイツでよくもまああんな恥ずかしいことをすらすら言えるものだ。アタシには絶対ムリ。

 

「──へへっ」

 

 だけど……うん、イヤじゃない。

 

「気分がいいからもうひと眠りでもすっかなあ」

 

 そう言っても、結局アタシはアイツが帰ってくるまで何だか言って最後まで起きているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





当面の課題はゴルシとイチャイチャするような話を考えつつ、他のウマ娘とイチャイチャしてゴルシのモヤモヤゲージを貯めさせる予定。

まあ、前作でヤンヤンしてたから、こっちではイチャイチャさせてあげたいだけなんですけどね。

とりあえず次はテイオー反応シリーズを更新するためにこっちはお休み。まあ両方ともネタが思いついたら書きます。
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