■剣の主従、再演   作:ゼミル

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ああでもないこうでもないと時間浪費しながらこねくり回した結果、自分の中の2人はこうなりました。


終幕:そして彼と彼女の第2章

 

 

 

 

 水を汲み、電気ポット、湯を沸かし、そのお湯で淹れた茶が冷めるまでの時間をかけて少女は全てを話し終えた。

 

 それは宙の炉で聖剣を打ち終えた村正が焔となって消えた後の、彼が知らぬ妖精國ブリテンの顛末。

 

 

「成程、俺が消えちまってからはそういう形であのブリテンは終わっちまったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 獣の厄災(バーゲスト)炎の厄災(アルビオン)呪いの厄災(ケルヌンノス)

 

 そして最終的にブリテンの大地そのものを呑み込んだ奈落の虫(ヴォーティガーン)

 

 

 

 

 

 

 ……奈落の虫の正体がロンディニウム攻略戦で散った筈のオベロンだった件には流石に驚かされたが、わざわざ裏切者と話を掘り返して恨み言を垂れるつもりはない。

 

 既に終わった事だ。それに面従腹背の輩は生前村正が生きた時代にも腐るほど見ている。『アイツはそういう存在だった』と割り切ってしまえるのもそのような人生経験の賜物だった。

 

 オベロンの真相に対して抱いた感情を、村正は温くなった緑茶を呷る事で無理矢理腹の内に流し込んだ。ここには居ない虫野郎の事よりも、今は目の前でうつむいたままの少女が何よりも最優先だ。

 

 

「妖精國で起きた一部始終については今は関係ねぇから置いとくとしてだ。

 つまりさっきまでのお前さんの姿は、予言の子として旅をしてた頃の記憶を土台に当時の性格やらなんやらを再現しただけ……と、お前さんは言いたいんだな」

 

「その通りです。村正、貴方と共に旅をした予言の子であるアルトリア・キャスターはケルヌンノスによる浸食を食い止めるべく、エクスカリバーに続きロンゴミニアドを連続して発動させた代償にロンディニウムにて消え去りました」

 

 

 アルトリア・キャスター(予言の子)改めアルトリア・アヴァロン(聖剣の守護者)と名乗った少女は、村正が手渡した両手の中の湯飲みに視線を落としたまま滔々と語る。

 

 身なりはまさに騎士様に相応しい立派な鎧付きのドレスだが、まるで村正の顔を見るのが怖くて恐ろしい、そう考えてるのが丸分かりの気配を漂わせて縮こまっている姿はやはりどれだけ着飾っても()()()()()()()()()()()()()だとしか村正には見えないでいる。

 

 

「先程までの私は、いわばあくまで予言の子として過ごした時期をエミュレート(疑似再現)した仮想としてのアルトリア・キャスターを、守護者となり英霊の座に登録された別のアルトリアが演じていたに過ぎないのです」

 

 

 言い終えて、ただでさえ暗かったアルトリアの顔色が更に悪くなった。後悔と罪悪感、その2つで(思考)()もいっぱいで押し潰されそうになっている。

 

 

「――――ったく下らねぇ。なあアルトリア、その話のどこにお前さんがツラ暗くしなきゃいけないような事があるってんだ?」

 

「えっ」

 

 

 遠慮もクソもない村正の一言にようやくアルトリアの顔が村正へと向けられた。

 

 髪型も変わったせいだろう。可愛らしさよりも凛々しさが目立つようになった彼女だが、虚を突かれた時に表出する素の姿はやはり村正が知る村娘に違いなく。

 

 

「お前さんが言ってる事なんざ、ガキが身近な大人の真似をしてチャンバラごっこやおままごとで遊ぶのと大して変わんねぇさ。

 逆に大の大人だってガキの頃を思い出して遊びたくなる事だってあらぁな。かく言う儂も小姓に戻ってからは寺小屋(学校)で同じ年頃のガキどもと下らねぇバカ話で花を咲かせる事もしょっちゅうよ。

 そもそも人ってぇのはな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。良い意味でも悪い意味でも、だがな」

 

「あ……」

 

 

 アルトリアの脳裏に蘇る記憶。

 

 カルデアや村正達と出会う以前、無愛想で村の住人から恐れられていた、おっかないけど面倒見の良かった鍛冶屋の爺から教えてもらった仕事のやり方――数少ない温かい思い出。

 

 

「儂自身サーヴァントとしての知識やら記憶やら経験が有るからハッキリぶちまけちまうがよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 大体よ、と村正は続ける

 

 

「忘れてるようだが妖精國でお前さんと旅してた頃の儂なんざ、生前の儂(千子村正)の霊基に自分とこの神話(日本神話)どころか余所の国の神様(北欧神話)までごった混ぜにされちまった状態で異星の神サンなんぞに召喚されちまった身だったんだぞ。

 それに比べりゃ、中身がそっくりそのまま写し見として召喚されたお前さんなんかまだマシってもんさ。余計なのが混じってねぇ、純粋なお前さんのままだって事なんだからな」

 

「そういうもの、でしょうか」

 

 

 アルトリアの顔色はまだ晴れない。

 

 

「それで良いんだよそれで。アレコレ気にし過ぎちゃあ飯も不味くなるし仕事にも気が入らなくなっちまうよ。

 それでもまだ引っ掛かりがあるってんならこの際だ、ズルズル引き摺って悪化しちまう前にブチまけて楽になっちまえ」

 

 

 村正の口調はぶっきらぼうではあるが、静かなトーンの声色とまっすぐ見据えてくる眼差しには優しさが籠められていて。

 

 考えこむようにまた俯いてしまったアルトリアは湯飲みに一口も口を付けぬまま、やがてボソボソと己の心境を語り出す。

 

 ただその内容に、今度は村正が虚を突かれる事になったが。

 

 

「……実は、私にもよく分かりません」

 

「はぁ?」

 

「ただ、そうですね。あそこまで誤魔化しも嘘偽りもなく貴方が私へ曝け出してくれた想いや情動といったものに、あの姿のままでは顔向けが出来ないと、その時の私は考えてしまったのかもしれません」

 

 

 目の前にいる少年(村正)は肉の体を持つ人間になってしまっても、魂は共に妖精國を旅した村正その人で。

 

 彼に召喚された少女(アルトリア)は村正と主従関係を結んで巡礼の旅を行った予言の子その人()()()()

 

 ――ああ、そういう事か。己の言動と心の揺らぎ、その根幹にアルトリアは思い至る。

 

 

 

 

 

 

『嫌なに何だ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お前さん」

 

 

 

 

 

 

 

「これは私の我儘なのです。村正が私に嘘も隠し事もなく私に想いをぶつけてくれるのであれば、私も予言の子の記憶をエミュレートして再現した当時の私(アルトリア・キャスター)ではなく、私も隠さず真の姿である聖剣の守護者(アルトリア・アヴァロン)としての私で貴方の前に立たなければならない――

 そう思ったから、そうしたのです」

 

 

 予言の子としての出番は終わって、楽園の妖精という配役も捨てて、聖剣の守護者という新たな役目を自ら掴み取った今の姿を村正に知らせないのはフェアじゃない。だからこの姿を見せた。

 

 こうして実際に守護者(第三霊基)モードをお披露目してみたは良いが、アルトリアの内心は期待もあり、不安もありと実の所姿を変えた瞬間からずっと揺れっぱなしだ。

 

 

「どうでしょう。村正は今の私を見てどう思われますか?」

 

 

 湯飲みを大事そうに両手で握り締めながら、上目遣いで村正を見つめるアルトリアの瞳は不安で揺れていた。

 

 

「どうでしょう、と聞かれてもだな」

 

 

 質問を投げかけられた村正も、改めて衣替えをした今のアルトリアの姿を不躾と自覚はしつつ上から下まで眺め回す。

 

 出会った当時の村娘そのままの服装や村正が仕立てた礼服とは一線を画す、要所へ板金鎧のパーツをあつらったドレスは騎士としての威厳も兼ね備える見事な誂えだ。

 

 目元や顔つきからは旅していた頃より幼さや境遇から自然と身についてしまっていた後ろ向きな気配が薄れ、今やひとかどの人物として凛々しさを感じさせる顔立ちに変わったと言える。壮厳なオーラは頭に乗せた小さな王冠にも相応しい威厳を放っていた。

 

 ただし、村正が贈った髪飾りは変わらず同じ位置に残ったままで、王冠共々アルトリアの頭を輝きで彩っている。

 

 

「馬子にも衣裳じゃあねぇが、装いといいお前さん自身の気配といい、お転婆だったアルトリアがどうして中々キリッと背筋の通った王様に育ってるじゃねぇか」

 

「王様、ですか。私の知る王といえばモルガンか汎人類史の私(アーサー王)ですので思う所はありますがそうですか、村正の目にも昔より成長したように見えますか」

 

 

 彼女曰く、今の自分は聖剣の意志の概念と融合したのも大きいが、それ以上に巡礼の旅を終えて自分なりの生きて戦う理由を見つけたお陰で気持ちを切り替えられた事が何よりの理由だろうとの事。感覚的にはひとつ分歳を取ったような気分らしい。

 

 

「男子三日会わざれば云々なんて諺もある位だ。そりゃ女子(おなご)も成長するにゃ十分すぎらぁな」

 

「そうでしょうそうでしょう。私もあれから色々と成長したのです」

 

 

 えっへん、と成長を自負する少女が鼻息を荒くして胸を張る。

 

 はにかむアルトリアの口元が、村正の記憶に刻まれたキャスター(予言の子)時代の彼女が心から喜んでいた時のそれと全く変わっていなかったものだから、村正は思わず忍び笑いを漏らしてしまった。

 

 

「村正、何故そこで笑うのですか」

 

「なぁに自分で『成長した』なんて自画自賛してる間はまだまだ尻の青いガキだってこった。気にすんな」

 

「気にします。それに私のお尻は青くなんてありません」

 

「そういう意味じゃねぇよ。若くて人生経験が足りないっていう意味の諺みたいなもんだ」

 

 

 

 

 

「モルガンのように何千年も生きたせいで精神が皺くちゃのお婆さんを通り越したナニかになってしまうぐらい経験を積むのは流石にしたくないのですが……」

 

「おいバカ止めろ」

 

 

 

 

 それ以上はいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし何だかんだで遅くまで話し込んじまったな」

 

 

 最早冷め切った湯飲みの中身を一息に飲み干して、村正は椅子から立ち上がった。

 

 2月の夜である。学校での最初の襲撃を皮切りとして立て続けに直面した怒涛の展開で置き去りにされていた温度感覚がとうとう追いついたのか、村正は手足に寒気を覚えた。

 

 依り代(『衛宮士郎』)の肉体はちょっとやそっとの無茶じゃへこたれない位には頑丈だし、作品作りが佳境の時は鍛冶場で雑魚寝もしょっちゅうとはいえ、若い女子(おなご)を冬の鍛冶場で夜を越させるのには流石の村正も気が引ける。

 

 

「巡礼の旅に出る前の私はずっと風が吹き込む馬小屋で寝泊まりしていましたし、特に気にはしませんよ?」

 

「阿呆、儂が気にするんだ。まともな寝床を用意するぐらいの甲斐性ぐらい儂にだってあるぞ。ほら、お前さんに宛がう部屋まで案内するからさっさと着いてきやがれ」

 

 

 アルトリアへ背を向け、鍛冶場の出入り口へ村正が向かおうしたタイミングだった。

 

 

「ああ村正、その前に1つだけ確認しておきたい事があるのですが」

 

 

 おもむろに村正の背中へアルトリアが問いを投げかけた。

 

 

私がこの姿を見せる前に村正が私に行おうとしていた行為についてですが

 

(やっべえ)

 

「ああいえ、村正を責めたりするつもりはありませんのでそんな身構えないで下さい」

 

「お、おうそうか……」

 

 

 ここまで全く減っていなかった湯飲みの緑茶をやはり村正と同じように一息で呷って干すアルトリア。

 

 村正の傍まで近付くや腕を引っ張り、自分へと向き直させた。幾ら普段の生活で鍛えられていても生身の人間と英霊の身体的スペック差は一部を除き当然英霊側が圧倒的に上である。

 

 ちなみに彼女の筋力はB。ステータス上だけならばこの細腕でケルトの青い槍兵に匹敵するレベルだ。

 

 赤い弓兵に至ってはアルトリアより数十cmは背が高いあの外見で筋力Dという体たらく。

 

 まぁその辺りは置いておくとして。

 

 

「村正が行おうとした行為、あれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり……

 同時に汎人類史の人々が数を増やす為のせ、生殖行為であると、聖杯から提供された知識にはありました」

 

「オイ聖杯なんてもん教えてやがる」

 

 

 これには思わず村正も真顔。今度ばかりはアルトリアの話がどういう着地点になるのか、彼にも全く予想がつかない。

 

 アルトリアの方も緊張しているようで、何度か深呼吸を繰り返している。余程聞くには覚悟がいる質問なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりですね村正、貴方が私相手にそのようの行為を望まれたという事は――――

 ()()()()()()()()()()()()、そういう風に認識しても構わないのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、呼吸すらも村正は忘れた。

 

 

「……………………………………………」

 

「その村正、ここで黙り込んでしまわれると、ええ、はい、いやその、私としても凄い困ってしまうのですが……」

 

「あ? あ、ああいや悪ぃ。意外な質問だったからちょいとばかし呆けちまった」

 

 

 村正のそんな言い草にアルトリアの目が細まる。所謂ジト目であったが少女自身に自覚が薄くとも、整った顔立ちが行えば相応の迫力だ。

 

 

「意外とは何ですか意外とは。そもそも私がこのような質問をしたのも村正がですね」

 

「すまんすまん儂が悪かったって。それでそう、お前さんの質問の答えだが」

 

 

 言葉を区切り、村正は僅かな時間瞼を下ろして呼吸と精神を整えた。

 

 再び開かれた時、赤みがかった髪に近い色合いの瞳は遠くも輝かしい憧憬を見つめているかのように、優しい光を帯びていて。

 

 

 

 

 

 

「愛だとか恋だとかそういう言葉で引っ括るには難しいがよ。

 お前さんと結納結んで一家構えてガキこさえて子育てをして――――そういう今生を送るのも悪くねぇって思える程度には、儂はアルトリアの事を気に入ってる(あいしてる)よ」 

 

 

 

 

 

 

 

 共に旅路を歩んだ。最初は命を救われた分の借りを返す為の主従関係からだった。

 

 彼女の良いところも、悪いところも、善き部分(強さ)も、悪き部分(弱さ)も、生き様も、有り様も、あの旅路で、ずっと傍で、腐る程目の当たりにしてきた。予言の子として彼女が迎えた結末もこうして知れた。

 

 ()()()()()

 

 魔力仕掛けのサーヴァントとして、仮初めの身であっても。予言の子としての運命から解放されて、ただのアルトリア(女の子)なった(成れた)彼女と、こうして再び巡り合えたのならば。

 

 教えてやりたいと、思う。

 

 温かい思い出を共に作ってやりたいと、想う。

 

 役目を果たし終えたというのであれば、それが限られた時間なのだとしても、積み重ねてきた苦労や背負ってきた責務に相応しい、彼女が満足できるだけの幸多き余生を送れるようにしてやりたいと、心から願う。

 

 女としての幸せもだ。無論それはアルトリアが望めばの話だが、己の浅ましい欲望混じりの願望であると村正も自覚はしている。

 

 それでも。村正は彼女と約束したのだ。

 

 今度は最後の最後までずっと一緒に、と。

 

 その為ならば縁を斬り、定めを斬り、業を斬り、邪魔するならば運命(Fate)すらも一切両断してみせよう。

 

 此度の聖杯戦争に衛宮士郎(千子村正)が望むのは少女の笑顔が見たいというそんなちっぽけな願い。

 

 だが、命を賭して刃を振るうには十分過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして村正の願いを、覚悟を、アルトリアもまた妖精眼によって正しく認識していて。

 

 

「そうですね、村正が言葉で答えてくれたのならば、私もちゃんと言葉で伝えないと」

 

 

 雲に隠れていたが、再び顔を覗かせた柔らかな月の光に照らされて、おとぎ話の1シーンから切り取られたかのような光景の中でアルトリアは微笑む。

 

 

(ああノクナレア(私の友達)、今なら貴女の気持ちが私にも分かる気がします)

 

 

 予言の子としての役目だけを求められて育てられた自分には、やっぱり恋とか愛だとか今もうまく分からないけれど。

 

 

 

 

 

 

 ――――私の綺麗なところも、醜いところも、救われない部分も知った上で、ただの女の子として幸せになって欲しいと願ってくれた村正ならば。

 

 仮初めの写し身ではヒトのように子供が作れないと理解していても、それでも村正が思い描いたように、彼と家族となり一緒に過ごすと考えると、私の心はまるで春の花畑(楽園)のように暖かく(幸せに)なれるのです。

 

 

 

 

 

 

 或いはその感情こそがきっと――――恋や愛と呼ばれるものなのかもしれなくて。

 

 だからアルトリアも、ただの少女のように心の奥底からの想いに突き動かされるがまま、想いを言葉に乗せて紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「村正―――貴方を、愛している(あなたがだいすきです)

 

 

 

 

 

 

 その瞬間アルトリアが見せた笑顔は、旅の間に村正が見てきた頃と変わらぬ微笑みをしていた。

 

 守りたいと思った、どこにでもいる少女そのままの、春の日差しのような微笑みを。

 

 

 

 

 




明日明後日頃おまけ追加予定。


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