五等分のifストーリー   作:Kary0309

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第10話 変わるのはまだ

二乃の上で、覆い被さるような形になってしまった。

二乃の表情は、一瞬、何が起こったか分からないというような表情になると、すぐにその表情は崩れ出した。

その大きく開いた瞼には、大きな涙の水溜まりを浮かべ、地震の如く揺らしている。

見つめ合った瞳は、まるで焦点があっておらず、まるで、俺の顔の、更に奥を見つめているかのようだった。

俺の脳内には、ある思考が巡っていた。

 

(俺は勘違いをしていた)

 

五つ子達全員の顔が、脳内に浮かんでくる。

 

(このバカ5人と、1人1人向き合うことの難しさと)

 

(俺自身もとんだ馬鹿野郎である事に)

 

「不法侵入!変態!」

 

二乃が思い切り上半身を起こし、俺に罵詈雑言を吐いてくる。

 

「違う!俺は取りに来ただけだ!」

 

「撮るって、私の裸を!?盗撮魔!」

 

「そっちの『とる』じゃなぁぁぁぁい!」

 

カシャッ

 

その時、背後でシャッターの切られる音が聞こえた。咄嗟に振り返ると、そこにはスマホを片手に持った五月がいた。

 

「最低…」

 

夕焼けをバックに、暗闇に包まれた中立ち尽くしている五月は、どこか貫禄を感じさせた。

顔をしかめ、心をじわっと突き刺すような声に、俺と二乃は呆然としていた。

 

 

 

 

 

今、もしこの状況を表すなら、裁判という言葉が1番相応しい。

裁判長一花が、釈然とソファに座りながら、裁判を進行させる。

 

「静粛に!」

 

やけに嬉々とした声で、そう叫ぶ一花。何故そこまでノリノリなのか分からないが、表情もとても楽しそうだった。

 

「裁判長、この写真をご覧下さい」

 

やけに大袈裟な動作で、スマホに映った、二乃に覆い被さる俺を、裁判長一花見せつける原告側の弁護士五月。

 

「被告人は、ピチピチの女子高生の裸を前に理性を失い、その欲望を爆発させてしまったのです!」

 

声高らかにそう述べると、五月は、その細い指を、俺の顔に向けてきた。

 

「間違いありませんね!」

 

(間違い大ありなんだが…)

 

そう心の中で反論するが、今変に反論すれば、逆に疑われる原因となる。

 

「え、冤罪だ…」

 

しかし、俺の心を止めることも出来ず、つい言葉に出してしまう。

 

「はい!裁判長!」

 

威勢よく右手を突き上げると、二乃は更に追い打ちをかけてくる。

 

「原告の二乃くん!」

 

愉しさを含みながら言う一花。

二乃は立ち上がると、俺に指をさしながら述べた。

 

「被告はわざと部屋を出たように見せかけ、私の裸を撮るために部屋に潜んでいました!」

 

「よって、こいつのこの部屋への出入りの、今後一切禁止を求刑します!」

 

「ね、捏造だ!」

 

そう焦りの混じった声で叫ぶが、その声は誰にも届かない。

 

「けしからんですなぁ」

 

呑気にそう言う一花は、ニヤつきながらそう言う。

 

「一花!」

 

変に俺の変態属性を上昇されては困るので、食い気味に名前を呼ぶ。

すると一花は、俺から顔を逸らし、片頬を膨らませた。

 

「さ、裁判長…」

 

俺をからかうような一花の笑い声の後、俺の右側に座っていた三玖が、静かに右手を挙げた。

 

「それは違う」

 

冷静沈着な声に、俺は光を見た。

 

(三玖、流石だ!)

 

「フータローは悪人面してるけど、今回は無罪」

 

(悪人面って…)

 

俺を少し貶しながらも、弁護してくれる三玖。

 

「インターホンで私が通した。録音もある。だからこれは不慮の事故」

 

「裁判長、三玖は自分の個人的感情で被告を守ろうとしてまーす」

 

三玖をからかう様に言う二乃に、三玖は頬をりんご色に染め、視線を俺から逸らし気味に否定する。

 

「三玖!俺は三玖が信じてくれると信じてたぞ!」

 

表情を輝かせながら、三玖に顔を近付ける。

 

「それ以上近づかないで」

 

そう、顔を逸らされた挙句、手で俺を制するようなポーズをとる三玖に、俺は驚きを隠せずに、つい心の中で悲しみを叫んでしまった。

 

「あれ〜その態度はもしかして、警戒してるってことなのかな〜」

 

体勢を傾かせ、三玖を煽るように顔を覗き込む二乃。

三玖は二乃へと視線を合わせると、冷たくも強い眼差しで答えた。

 

「別に警戒してない」

 

そう答える三玖に、二乃は少し感情的に話を展開しだした。三玖も、それと共鳴するように論を綴った。

話が炎を帯出したかと思えた時だった。

二乃が思いっ切りテーブルに手をついたかと思うと、三玖との顔の距離を近づけながら言う。

 

「私はこいつに裸を見られたのよ!?」

 

「別に見られて減るようなものじゃない!」

 

「あんたはそうでも私は違うのよ!」

 

「2人とも同じような身体でしょ!」

 

そんな灼熱の炎を散らしながら口論する2人に、無謀にも仲裁に向かう者がいた。

 

「ふ、2人共落ち着いて…」

 

「五月は黙ってて」

 

「てか、あんたも写真消しなさいよ」

 

光の射さない、ダークな瞳で睨まれた五月は一蹴…いや、二蹴という名のオーバーキルを受けて、虚しくも一花の太ももに飛び込んで行った。

手放された赤いスマホを、さり気なく手に取る一花。

 

「うーん。三玖の言い分が正しいにしても、普通こんな体勢になるかな〜」

 

「そうよ!こいつが急に覆い被さってきたのよ!」

 

一花の一言で勢いを得た二乃は、俺に人差し指を指して、自信ありげに言った。

 

「それ、本当?」

 

三玖が俺に疑いの目を向けてきた。

 

「あ、ああ」

 

額に冷や汗を流しながら答えると、三玖はそっぽを向いてしまった。三玖の姿は後頭部しか見えないが、恐らくその頬は膨らんでいるのだろう。三玖お得意の『ぷく顔』…。

 

「やっぱ有罪。切腹」

 

少しくぐもった声が、俺の耳に伝わる。

 

(このままでは、俺は家庭教師を続けられなくなってしまう…)

 

悪魔の様な二乃の顔が、脳裏に焼き付いてくる。

 

(どうにか否定しないと…)

 

「棚から…」

 

擦り消えそうな声で弁明しようとした時だった。そんな俺の声を代弁するように、五月がよく通る声で言った。

 

「棚から落ちてきた本から、二乃を守った…間違いありませんか?」

 

「その通りだ!」

 

テーブルに両手を思い切り付き、五月に輝く瞳を向ける。

 

「べ、別に、可能性のひとつを考慮したまでです…!」

 

そう、少し頬を赤く染めながら顔を逸らす五月。

三玖は、一花と五月の座っているソファの後ろに回り込むと、ソファの背もたれに腕を置きながら、写真を確認する。

 

「確かに」

 

「そんな!」

 

流れが俺に傾き出し、二乃が焦りながら叫んだ。宥める一花だが、二乃は俯き気味に言った。

 

「落ち着きなよ二乃。私達は仲良し五姉妹だったじゃない」

 

「『私達は仲良し五姉妹だったじゃない』?じゃあ、私は…」

 

長い、赤紫色のカーテンに隠された二乃の表情は、歯を食いしばっていた。

二乃は顔を伏せたまま、玄関の方へと走り、外へと出ていってしまった。まるで、醜いアヒルの子の様に。

 

 

 

 

 

辺りはもう真っ暗。黒い世界に包まれている。

そんな中、あたしを嘲笑うように灯る、マンションの照明の下で、惨めにも顔を埋めて座り込んでいた。

交錯する、様々な矛盾した感情、それぞれのピースが、いずれ1つのパズルを作り出せるように。

 

(あいつがあたしに覆いかぶさった時、あたしは悟ってしまった…『本当』の気持ちに…)

 

あたしの瞳から、熱いものが吹き出しそうなのが伝わる。全力で瞼の力を使い、それを受け止める。

 

(あたしはあいつの事が嫌いなんじゃない…。皆の近くにいる時のあいつが嫌いだったんだ…。皆が、今以上に変わっていってしまうのが怖かった…)

 

(そして私も…)

 

今、脳裏に浮かんできた一言。誰でもその言葉を告げられれば、悪い気持ちはしない。『す』から始まる言葉。

それを砕くように、散らばすように、頭の中をぐちゃぐちゃにして、スッキリしたくて。まとわりついて来る、長いこの髪を掻き乱した。

不意に、あいつが現れた。

あいつは、あたしを無視して歩き出したと思ったら、気付けばあたしと反対側で、扉を挟むような形で、その場に座り込んだ。

こんな時でも、あいつは単語帳を捲っている。

 

「何よ」

 

今は顔を見たくない。突き放すように、天邪鬼なあたしは吐き捨てた。

 

「解けない問題があってな。解くまで帰りたくないんだ」

 

いつものこいつなら、こんな反応は示さない。ましてや相手はこのあたし。三玖ならまだしも。

 

「本当はあいつらの事が大好きなんだろ?」

 

こいつは、あたしの心を見透かしたように言う。実際その通りだけど…。

 

「だから部外者である俺を、あいつらに近付けさせたくない。だから邪魔をするんだろ?」

 

「ええそうよ!」

 

全部正解。だから隠しても意味ない。

あたしは、嫌味とかなしに、心からそう叫んだ。でも、心に負った劣等感は、癒えることはない。

 

「でも、あたしだけが変われない…。何者にもなれない…」

 

雛達が巣立っていくように、五つ子は変わっていった。ゆっくりにも思えたし、とても早くも感じた。

皆、それぞれの個性を導き出していった。でも、あたしだけは…。

 

「それもまた、二乃の個性なんじゃないのか?」

 

その時、単語帳に視線を向けたまま言われた。その言葉で、あたしの心の鎖が、1本裂ける音が響いてきた。

 

「あいつらを守りたい…大事な家族を守りたい」

 

「そんな感情は、誰もが持っているものだ」

 

「それが人一倍強い。それだけでも、十分な個性だと思うぞ」

 

あたしは、少し口角を上げた。あいつに見せないように。そして見透かされないように、わざと声色を強くして。

 

「よし、決めたわ!」

 

埋めていた顔を、勢いよく上げた。

自分を勇気づけるために、わざと上を向いて、暗闇の広がる世界に、太陽を昇らせるように。

 

「あたしはあたしの生き方でいく。誰にも邪魔はさせないわ。特にあんたはね!」

 

左手の人差し指を、輝く宝物に、無邪気に指差す子供のように、あいつの顔へ向けた。

 

「ちょっと待っ…」

 

「勝手にしなさい」

 

「え?」

 

「認めたくはないけど」

 

あんたが家庭教師をする事じゃなくて、高鳴るあたしの心臓を。

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