五等分のifストーリー   作:Kary0309

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第3話 おやすみ

五つ子達の部屋は、想像以上に広かった。流石5人で住んでいるだけある。

恐らく5人で共有しているであろうリビングルームは、大きくはられた窓ガラスから沢山の太陽の陽が射し込み、テレビは大画面、そしてテレビと同じ大きさくらいの水槽には、何だかよく分からない魚が泳いでいる。太陽の陽に照らされている水槽を見てみると、まるで水族館にいるような気分になる。

 

「よーし…今日から君達の家庭教師になった、上杉風太郎です。これから勉強を頑張っていきましょ…って、何故だ!何故誰もいなぁぁぁぁぁい?!」

 

自分の目の前には誰も居ない。目の前にあるのは誰も座っていないソファーとガラス張りのテーブルのみ…。空虚なリビングルームに響く俺の声は、何とも惨めだった。

 

「私はいますよ〜」

 

その声は、どこか安心感を与える。陽のよく照る、四葉のクローバーの絨毯の上で昼寝をしているような…。

 

「はい、お水です!」

 

そう言って、お盆に乗っているコップを渡してくる四葉。

 

「ああ、ありがとう。てか、何でお前はここに居るんだ?」

 

他の姉妹と違い、何故か俺の前にいる四葉に疑問を投げかける。すると、四葉は笑顔で言った。

 

「何でって、上杉さんの授業を受けるために決まってるじゃないですか〜!」

 

四葉だけは他の姉妹と違う…。四葉の後ろのガラスから、射し込む夕焼けが、四葉を優しく照らした。その四葉の笑顔は、まるで女神のように見えた。

 

「四葉、抱きしめていいか」

 

「…」

 

四葉は無理矢理口角を上げたかと思うと、俺に背を向け、右手を突き上げた。どこかへ出発する時のジェスチャーの様に。

 

「よーし!今から皆を集めましょーう!」

 

少しぎこちない声がリビングルームに響く。リビングルームの左隅にある階段を登ると、そこには5つのドアがあった。四葉がそれを一つ一つ手前から順に指を指して、誰が使っているのか説明を始める。

 

「左から順に、五月、私、三玖、二乃、一花の順番です!」

 

五月の部屋の前に行く。

 

「五月は私たちの中で1番真面目です!きっと上杉さんとも相性が良いですよ〜」

 

四葉の言葉を信じ、ドアをノックする。少しの間の後、両肩を出した水色の服を着た五月が扉を開ける。

 

「またあなたですか」

 

そう言ってしかめっ面をする五月。

 

「ああ、これから一緒に…」

 

言いかけたところで遮られる。五月は少し左髪を上げたかと思うと、俺から顔を背けて冷たく言った。

 

「大体、何でクラスメートのあなたなんですか。この街に…」

 

「あ〜、はいそれさっきもう聞いたから」

 

少し目を開けたかと思うと、目を細くし俺を睨みつける。

 

「もう帰ってください」

 

そう言って、止める俺の言葉に耳を傾けることも無く、五月は無情にも扉を閉めた。ガタンという虚しい音が廊下に響く。

 

「ほ、ほら、五人も居れば、1人ぐらいそういう子も居ますよ…はは…」

 

そうフォローしてくれる四葉。

 

「次は二乃!二乃は5人の中で1番友達が多いです!きっと上杉さんとも仲良くしてくれますよ!」

 

続いて二乃の部屋の前に行くと、ドアを3回ノックする。

反応無し。

次はリズムゲームの如くドアを鬼ノックする。軽い音が連続して響く。

しかし反応無し。

ドアすら開けてくれない事に、少し落ち込む俺。そんな俺を四葉は精一杯フォローしてくれる。

 

「あ〜!上杉さん、落ち込まないでください!!」

 

そう言って、今度は三女の三玖の部屋の前に行く。

 

「三玖は5人の中で1番頭が良いんです!上杉さんと気が合うんじゃ…?」

 

ドアをノックすると、黒いタイツを履いた、首にヘッドホンをかけ、右目を隠すカーテンの様な髪の三玖が出てきた。髪色は少し小豆っぽい色合いだ。何とか部屋には入れたが、いきなり正座させられると、三玖にゴミを見るような目で見下ろされた。

 

「何で同級生のあなたなの…?この街には…」

 

「もういい!それ聞いた!」

 

結局部屋を追い出せれてしまった。四葉は相変わらず俺を慰め続けてくれる。最後は長女の一花か…。

 

「お、落ち込まないでください上杉さん!一花が居ます!一花は…えーと」

 

突然引きつった笑顔になり、理由を聞く。

 

「どうした、突然…」

 

引きつったままの顔の四葉は、小さな声で言った。

 

「あまり、驚かないでくださいね…?」

 

そう言って一花の部屋の前に行くと、そっと扉を押す四葉。部屋は電気が切られており薄暗い。そっと足元に目を落とすと、そこには化粧道具や衣服、本などが無造作に散らかっていた。床一面を覆い尽くす物の数々に嫌悪感を覚える。俺はまるでジャングルでも探検するかのような足取りで部屋を進む。

 

「ここに人が住んでるのか…?」

 

すると部屋の電気が点けられ、ベッドで黄色いカラフルな毛布を被った一花が姿を現した。

 

「人の部屋を…未開の地扱いして欲しく…」

 

そっと体を起こし、体を隠すように毛布を纏いながら欠伸をする一花。

 

「ないなぁ…」

 

そう言って、からかうような笑みを浮かべると、またもベッドに寝転ぶ一花。

 

「折角同い年の女の子の部屋に来たんだし、もっと他にする事ないの〜?」

 

そう言って、またもからかうように俺を見つめる一花。俺が無理矢理一花を起こそうと、毛布を引っ張った時だった。

 

「あ…ちょっ…」

 

そう言って慌てたように毛布を自分のところに持ってくる一花。まるで自分の豊満な胸を隠すかのように。

 

「今、服着てないからその…照れる」

 

そう余裕を感じさせるような笑顔の一花。一花を照らす照明が、右耳の青いピアスを妖しく光らせる。右側の、左の髪と比べ数センチ長い桜色の髪が、そっと揺れる。

俺は頬を少し桜色に染め、一花から顔を背ける。

 

「なんでもいいから、服を着てくれ…」

 

ふと一花の机に目をやる。立て掛けられた3面鏡の前には、沢山の化粧道具と、それらの下敷きになっているノートが見えた。

 

(この勉強机…最後に勉強したのはいつだ…?)

 

「あった!」

 

そう言って服を掲げる四葉。俺はそんな2人の様子を尻目に、一花の部屋を後にした。

 

「取り敢えず、服は何でもいいから居間に来てくれ」

 

一花の部屋を出ると、そこには三玖が出待ちしていた。何か訝しみを含んだ目で俺に詰め寄る三玖。

 

「フータロー…だっけ」

 

「あ、ああ…どうした…」

 

あまり関わらない方が良さそうなので、足早に三玖の脇を通り過ぎようとする俺。それを三玖は止める。

 

「何で逃げるの…?」

 

静かな怒りと疑いのこもった声に、冷や汗をかきながらも振り返る。三玖は死んだような目で俺を見つめている。

 

「私の体操服が無くなったの。赤のジャージ…。さっきまではあったのに」

 

「ほ、ほう…(俺に探せって言うのか…?)」

 

「フータローが来る"前”まではね…」

 

俺を軽蔑するような目で見つめてくる三玖。

 

「まさか盗っ」

 

「てない!」

 

食い気味に否定したお陰で、三玖は少し警戒心を解いてくれた。その時、下の方から二乃の声が聞こえた。三玖と一緒に下を覗くと、二乃のお盆の上には紙の上に置かれた色とりどりなクッキーが沢山置かれていた。赤っぽいクッキーや、チョコの様なクッキー。焼きたての香ばしい匂いが鼻の奥を撫でるのが分かった。

 

「クッキー焼けたけど食べる〜?」

 

赤いジャージを着ている二乃。ふと名前の所を見ると、そこには『中野三』と刺繍されていた。これで疑いも晴れる…。

 

 

 

 

 

なんやかんやで五月以外の4人は集まったが…。

 

「おいひぃ〜、このクッキー何味?」

 

「何で私のジャージ着てるの。返して」

 

「え〜、いいじゃん別に。服汚れたら嫌だし」

 

「いいから返して」

 

「あ!そうだ、折角土曜なんだし、どっか遊びに行かなーい?」

 

テーブルを取り囲む姉妹達は、中央に置かれたクッキーを貪り、勉強に手をつける様子は全くない…。困っている俺を見つけた四葉が、自信たっぷりの笑顔でこちらを向くと、照明に照らされたオレンジ色の髪が優しく揺れた。

満点の笑顔の四葉は、一言。

 

「安心してください上杉さん!私はちゃんと勉強してます!」

 

そう言う四葉はペンこそ持ち、ノートと対面しているが…。ノートを見ると白紙…。いや、正確には何とも可愛らしい向日葵の落書きが描いてあるだけだった。

あまりの勉強への無関心さに呆れる俺。外を見ると、辺りはもう真っ暗だ。街を照らす月明かりと、街の灯りが交差する夜景は、さぞ綺麗だろう。

 

「クッキー嫌い?」

 

ふと左耳から声が聞こえたかと思うと、そこには赤いジャージを着た、次女の二乃が立っていた。

他の姉妹同様、胸は豊満だ。髪は紫とピンクの中間色くらいで、両サイドにある蝶を模した黒い髪飾りには、水色の模様で蝶の羽根を表現している。

両手に持ったお盆には、作ったであろうクッキーと、コップに入った水が入っていた。

お盆を抱える手は、長い爪に鮮やかなネイルを塗っている。根元がピンクで、爪の中程から水色に変わっている。まるで鮮やかな蝶の模様のように見えた。

 

「いや、別に今はそういう気分じゃ…」

 

そう言うと、優しく笑顔を浮かべる二乃。その顔には一片の曇りも無い。

 

「良いから良いから。それに、クッキー食べてくれたら勉強しても良いよ?」

 

その甘い蜜に、俺はまんまと吸い寄せられ、クッキーを1つかじる。

 

「ん、美味い」

 

クッキーの香ばしさと、ジャムの粘り気のある甘さが口の中を優しく包み込む。

 

「え〜ほんと?嬉しい!バクバク食べてくれてる!」

 

気付けば俺は、何枚も何枚も続けざまにクッキーを頬張っていた。すると二乃が、水の入ったコップを俺に渡してきた。

 

「私達ぶっちゃけ…家庭教師なんて必要ないんだよね〜…」

 

急に二乃の顔が強ばった笑顔になったかと思うと、心を抉るかのような、心の生気を吸い取るかのような声で二乃は言った。その声を聞き、俺は口の中に残っていたクッキーを一気に飲み込んでしまう。

 

「うそうそ!はい、お水」

 

少しの恐怖に襲われながらも、二乃の渡してきたコップに入っている水を一気に飲み干す。その時、二乃が俺を嘲笑うかのような顔で俺を見つめると、悪魔のような笑みで言った。

 

「バイバーイ」

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