五等分のifストーリー   作:Kary0309

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第5話 5人で満点

五つ子達の部屋に入ると、そこには既に5人全員が集まっていた。

二乃、三玖、五月、四葉、一花の順番で、俺と向かい合う形でソファに座っている。

四葉と一花以外の全員が、俺を鋭く睨みつけている。

俺は懐からおもむろに5枚の紙切れを取り出すと、テーブルに思いっきり叩きつけた。

その衝撃がガラスを伝って、部屋中に響き渡る。

紙越しからも、テーブルの冷たさがひんやりと5本の指に伝わってくる。

 

「これから小テストを行う!合格点を超えた者には、金輪際近づかないと約束しよう!ただし、合格点未満の者には、俺の授業を受けてもらう!」

 

四葉と五月以外の全員の表情が、驚きや嫌悪に顔を歪ませる。

俺の出した契約に、四葉が思い切り立ち上がる。

428と刺繍されたパーカーの、胸辺りが、428の赤い数字と共にゆったりと揺れる。

丁度四葉と重なる太陽が、四葉の横顔を眩しく照らす。

 

「上杉さん、一体どういうことですか!?」

 

そう疑問を投げかけてくる四葉を五月がそっと止める。

流れを知っている五月は、赤色の眼鏡ケースから赤紫色の眼鏡を取り出すと、ゆっくりとその眼鏡をかけた。

太陽の明かりが、赤紫色の眼鏡の縁を輝かせる。

赤紫の額縁に飾られた五月の瞳は、鋭く俺に眼差しを向けていた。

 

「良いでしょう」

 

五月の冷静沈着な声がそっと空気を伝う。

 

「は!?何でテストなんか受けないといけないのよ!?」

 

「…」

 

「私は別にいいけど…」

 

各々が自分の感情をぶちまけるが、四葉がその流れを変える。

 

「まあまあ皆、合格点目指して頑張りましょう!」

 

両拳を握りしめ、肘を曲げて力いっぱい頑張ろうポーズを披露する四葉。拳が空気を切る音が聞こえる。

 

「合格点は?」

 

三玖が的確な質問をしてきた。俺は声高らかに言う。

 

「60…いや、50点でいい。お前らが50点取れば、俺の授業を受けなくていい」

 

二乃が変わらず、鋭い目付きで俺を睨みつけながら言う。

 

「まあいいわ。50点なんて楽勝よ。私達を見くびらないで」

 

まるでプライドの高い女王様のような口振りで言い放つ二乃。

そのままテストをする事になり、一人一人にテストを配る。

全員にテスト用紙を配り終えると、俺は試験官の如く五つ子達がカンニングしないかを見張る。

全員が筆を進め始めた。

順調に解いているように見える者、すぐに筆が止まる者、一瞬筆が止まったかと思えば、筆が下の方に移動する者、全く進んでいない者、頭を抱える者。

気付けばテストは終了時間を迎えていた。時刻は午後1時45分。

俺は解答用紙を見て驚愕した。

 

「すごい!100点だ!」

 

五つ子全員の瞳が一瞬輝く。

 

「全員合わせてな…」

 

一瞬にして、五つ子達の顔は苦笑いへと変わった。全員俺から目を逸らしている。

解答用紙を、目の前に座っている全員の順番に入れ替え、点数を照らし合わせてみる。

五月が28点、二乃が20点、三玖が32点、一花が12点、四葉が8点。

 

「お前ら、まさか…」

 

絶望感が入り交じった声色で言おうとすると、全員が立ち上がった。

 

「逃げろ!」

 

二乃の掛け声とともに、五つ子達全員が逃げ出した。

赤い髪、オレンジの髪、小豆色の髪、桃色の髪、赤紫色の髪が、俺の脇を通り過ぎていくのがわかった。

咄嗟に全員の後を追おうとするが、全員はもう階段を登りきるところだった。俺の脚力では到底追いつけない。

全員に逃げられてしまった俺は、情けなくもその様子をただ見る事しか出来なかった。

 

(こいつら全員、赤点候補かよ…!)

 

 

 

 

 

らいはも父さんも寝静まった中、真っ暗な部屋で1人、黄色く光る小さな明かりを頼りに勉強をする俺。

 

(家庭教師と自分の勉強の両立がこんなにも大変だとは…)

 

気付いたら朝を迎えており、俺は眠たがっている自分を奮い立たせ、学校へと向かった。

へとへとになりながらも、何とか間に合った俺。

少し体を止め休憩していると、黒光りする大きな高級車が学校の前に止まるのが見えた。

その高級車へ近付くと、太陽に照らされ、銀色に輝いている車窓を覗いてみる。

その車窓は、黒く俺の顔を反射させている。

不意にそのドアが開いたかと思うと、見慣れた顔が飛び込んできた。

至近距離で目と目が合う俺と五月。

五月は顔をしかめると、勢いよく車から出てきた。

そっと進行方向から体を避けると、中からはゾロゾロと五つ子達が出てきた。

 

「朝からなんですか。不躾な」

 

「おはよーございます!上杉さん!」

 

「おはようフータロー君」

 

「またあんた?」

 

学校の入口へと向かう五つ子達は、俺から逃げるように早足で階段を登って行った。その時、俺は手に持っていた教科書を放り捨てて言った。

 

「見ろ!俺は何も持っていない!手ぶらだ!」

 

俺の心からの叫びが響き渡る。三玖がそっと振り向いて冷たく言い放つ。

 

「そう言って、私達に勉強させるんでしょ」

 

三玖の冷たい視線が突き刺さってくる。

 

「私達が実力不足なのは認めます。ですが、あなたの力など必要ありません」

 

「そう。勉強なんて1人でも出来る」

 

俺を突き放すように言う五月と三玖。そのまま逃げられてしまいそうになり、慌てて階段を登ると、俺は核心を突く質問をした。

 

「そこまで言うなら、もちろん昨日のテストの復習はしたよな?」

 

全員の足が止まる。五月のアホ毛がピンと立つのが見えた。

 

(まさかこいつら…)

 

最悪の事態を予想し、少し額が青冷めるのを感じた。

 

「問1、厳島の戦いで、毛利元就が敗った将軍の名を答えよ」

 

五月がそっと俺の方へ振り向く。口元がほんの少し上がるのが見えた。

少し期待をする俺だったが、その期待はすぐ打ち捨てられた。

五月は答えられるから口角を上げたのではなく、頬を膨らませるために口角が上がっていたのだ。

頬を膨らませ、拳を下の方で強く握りしめ、小刻みに震えている五月。さぞ悔しかったのだろう。

そして俺はこの時悟った。

 

(こいつら…極度の勉強嫌いだ…)

 

何とか一緒に校内へ入ることは出来たが、廊下を歩く俺と五つ子達の距離感は5、6メートル。

まるで今の心の距離を表している。

そっと昨日のテストの結果を五つ子ごとにまとめた表を見ると、ある事に気づいた。

問1を三玖が正答しているのと、あと1つ…。

その時、三玖が俺の方へ振り向いた。小豆色のカーテンが、三玖の右目を隠しながら照明に照らされている。

三玖は、何か言いたげに薄肌色の唇を動かしたが、結局何も言うことなく、五つ子達の後を追ってしまった。

 

 

 

 

 

「はい、焼肉定食焼肉抜き…」

 

食堂のおばちゃんが言い終わる間も無く、お盆を受け取る俺。急いで三玖を探さなければならない。三玖を見つけ、そっと声をかける俺。

 

「あ、あの…三玖…」

 

三玖は冷たい左目で俺を睨みつけてくる。ふと三玖のお盆に乗っているものを見る。そこには350円のサンドイッチと…。

 

「抹茶ソーダ…?」

 

「何?」

 

三玖が警戒心マックスで反応する。俺はたじりながらも答える。

 

「いや…その、抹茶ソーダ?どんな味がするんだろーなって…」

 

俺の頭の中に、炭酸で爽快に沸き立っている、苦味ある抹茶ソーダがどんな味を醸し出すのかを巡る想像が流れ出していた。

 

「意地悪するフータローにはあげない」

 

そう言って顔を背ける三玖。

 

(えぇ…)

 

三玖のセリフに困惑しながらも、立ち去ろうとする三玖を止める俺。

 

「朝の問題なんだけど…」

 

三玖がはっと何かを思い出したかのように、俺の方へ振り向く。三玖の小さな口から、言葉が出かけた時だった。不意に後ろから両肩を思いっきり叩かれたかと思うと、四葉の声が脳内に響いてきた。

 

「上杉さん!見てくださいこれ」

 

一瞬にして俺の前まで躍り出ると、四葉が三玖と俺への壁となる。まるで2人を妨害するかのように。

後ろに何か隠している四葉がそれを勢いよく俺に見せつけてくる。それは、全問にペケが付いた、英語の宿題だった。

 

「英語の宿題、全部間違えてましたー!えへへー」

 

笑い事ではない。すると、一花が不意に現れ、四葉を俺の前からズラす。

 

「こらこら、2人の邪魔しないの四葉」

 

「あー!一花!でも…」

 

四葉が言い切る前に、一花が俺に照準を定めてきた。

 

「それにフータロー君も、勉強ばっかりじゃなくて、青春を謳歌したりだとか、他にもすることあるでしょ〜?」

 

そう、俺を勉強から遠のけていく一花は、俺にとっての地雷を踏んでいく。

 

「例えば…恋愛とか」

 

俺はその単語を聞いた瞬間、体が熱くなっていくのが分かった。怒気でだ。

 

「恋愛?それは学業において最もかけ離れた行為だ。したい奴はすればいい。だが、そいつの人生のピークは、学生生活で終わるだろう」

 

俺の謎の怒りの籠った熱弁に、少し引き気味の3人。一花がそんな空気を変えるべく、今度は三玖にロックオン。

 

「でも、三玖だって好きな人とか居るんじゃないの?」

 

その質問を聞いた三玖の頬が、瞬く間に赤く火照っていくのが分かった。外から射し込む太陽が、そんな三玖の感情を表すかのように熱く三玖の顔を照らす。三玖は火照った顔を背けると、1人で行ってしまった。

 

「五つ子の私には分かります!」

 

「うん!」

 

『三玖は…』

 

『恋してます!(るね!)』

 

(恋…!?まさか、三玖が…?)

 

 

 

 

 

午後の授業が始まる。教科書の準備をしようと、机の中に入っている教科書を出そうとした時、何やら手紙が入っているのが分かった。その手紙には…。

 

『フータローへ』

 

と書かれており、右下には三玖と書かれている。その手紙を開き読んでみる。紙の柔らかくザラっとした手の平を撫でるような感覚が伝わった。

 

『放課後、屋上に来て

どうしても伝えたいことがある

この気持ち、抑えられないの』

 

(まさかこれ…ラブレター!?三玖が!?)

 

驚きにより、顔が火照ってしまう俺。今まで無かったことで、ニヤ付きが出てしまう。五月には気持ち悪いと言われてしまう始末だ。

 

(でもどうせイタズラだ…行く意味が無い…)

 

 

 

 

 

秋に沈む太陽が、オレンジ色に街を包み込んでいる。屋上で俺は1人、来るはずもない手紙の差出人を待っている。

 

(ほらね…程度の低いイタズラに乗っかっちまったぜ!)

 

そう、自分を慰める気持ちでもあった心の声。

その時、屋上の扉が甲高い音を立てながら開かれるのが分かった。

扉から出てきたのは、手紙の差出人の三玖。

三玖はゆっくりと俺に近付くと、恥ずかしそうに言った。

 

「よかった。ちゃんと来てくれたんだ。その…今日はどうしても伝えたいことがあって…」

 

(伝えたいことって…!?ま、まさか…告白…!?会ってまだ3日だぞ!?3日!)

 

俺を見上げる小さな三玖の顔は、まるで小動物のように見えた。夕陽に包まれた三玖の顔は、必死さで溢れていた。拳を腰の下でギュッと握りしめ、掠れそうな声で、喉から一生懸命、"その”言葉を告げるのだった。

 

「す…す…」

 

俺の体温は、100度に達したかのような程熱くなっていた。

小さな口を一生懸命に動かす三玖。

そよぐ秋風が、小豆色の、前髪のカーテンを、優しくなびかせていた。

射し込む夕陽は、三玖の瞳をオレンジ色に輝かせていた。

それでもなお、三玖の深い青の瞳は、熱心に俺の瞳の奥を捉え続けていた。

 

「陶、晴賢!」

 

「陶…晴賢?」

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