五等分のifストーリー   作:Kary0309

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第6話 速きこと風の如く

俺と三玖の間に、しばしの沈黙が流れる。三玖は後ろを向くと、胸の前で両手を握り締め、小さくガッツポーズをとって言った。

 

「よし!言えた!これですっきり…」

 

俺は予想外の三玖の言葉に、動揺を隠せないでいた。

そのまま去ろうとする三玖に、俺は慌てふためきながらも質問を投げかける。

 

「ちょっと待った!これって、捻った告白…とかじゃ、ないよな!?」

 

三玖は、さっきの生き生きとした目からは想像できないほど冷たい眼差しで答える。

 

「うるさいなぁ。今日の問題の答えだけど?」

 

「問題?今朝の?」

 

脳内に、今朝の記憶が蘇る。

 

『問1、厳島の戦いで、毛利元就が破った将軍の名を答えよ』

 

(あれか…)

 

「じゃあね。さよなら」

 

ゆっくりと歩き出す三玖の肩を、思いっきり引っ張る俺。

その時、三玖のスマホが宙へ投げ出される。小さな音を立てながら、地面へと落下したスマホは、時刻とホーム画面を映し出していた。

三玖のスマホに貼ってあった壁紙画像は、『風林火山』と書かれた、武田菱だった…。

ゆっくりと三玖はそのスマホを屈みながら拾うと、懐に隠すようにしまった。

屈んだままの三玖は、まるで幽霊かのように、負の念のこもった目で睨み付けてきた。

 

「見た?」

 

あまりのオーラに、少し後退り、目を逸してしまうが、正直に答える。

 

「ああ…」

 

すると三玖は、両手でゆっくりと顔を覆った。指の間から見える三玖の顔は、とても赤面していた。殺されでもするのでは無いかと思っていた俺は、少し拍子抜けながらも質問する。

 

「日本史、好きなのか…?」

 

「うん」

 

掠れかけた声で答える三玖。そのまま日本史にハマった経緯を語り出す。

 

「初めは四葉に借りたゲームがきっかけだった…。野心溢れる戦国武将達に、段々とハマっていって、本も沢山読んだ。でも周りの子が好きなのはイケメン俳優やアイドル。私は髭のおじさん…。変だよ…」

 

(確かに変だ…と、切り捨てるのは簡単)

 

俺は三玖の両肩を強く掴む。三玖は驚きで隠していた顔を現す。三玖の瞳をじっと見つめた俺は、強く言い放つ。

 

「変じゃない!」

 

三玖の瞳が大きく開いたかと思うと、頬がさっき以上に赤らんでいく。三玖の肩から、三玖の体温がどんどん熱くなっているのが伝わった。

 

「自分が好きになったものを、ちゃんと信じろよ!」

 

素早く三玖から肩を離すと、思わせぶりに顔を逸らし、顎を擦りながら言う。

 

「そう言えば、前回の日本史のテスト、満点だったなぁ」

 

「そうなの!?」

 

三玖の、少し嬉々とした声が聞こえてくる。

 

「あぁ。これが学年一位の実力だ。もし三玖が俺の授業を受けるんだったら、もっと色んな武将の事を教えられるぞ」

 

これで三玖が食いついてくるだろうと思ったが、三玖を甘く見ていた。

 

「それって、私より詳しいってこと?」

 

急に対抗意識を燃やし、俺に詰め寄ってくる三玖。三玖の拳はぎゅっと握りしめられている。

 

「ま、まあ…」

 

あまりの気迫に目を逸らす。俺をじっと見つめてくる三玖は、俺に戦国クイズを仕掛けてきた。

 

「じゃあ、この話も知ってるよね」

 

「織田信長が豊臣秀吉を猿って呼んでたってのは有名な話だけど、これ、実は間違いなの。本当はなんて呼ばれてたか、知ってる?」

 

眉間にシワを寄せ、頬を提灯のように膨らませている三玖。

いつも寡黙で、すっと消えてしまいそうな透き通るような声の三玖。しかし、今回はまるで、ライバルと対決しているかのようなほど情熱的な声に聞こえた。

 

(確か、日本史の先生が言ってたような…)

 

頭に浮かんでくるのは、ハゲで出っ歯な日本史の先生。その様相から、答えを導き出すと…。

 

「ハゲ…ネズミ?」

 

ただの悪口だが、口から出ていたこの言葉は正解だったようだ。

 

(ありがとう…先生)

 

悔しそうにする三玖。しかし、三玖の武将の逸話攻めは止まらなかった。

 

「上杉謙信は、実は女だったっていう説が…」

 

「ああ、それな」

 

「三成は柿を食べなかったの…」

 

「あぁ…それなぁ…」

 

「信長は頭蓋骨に酒を入れたって話も…」

 

「ああ…それな」

 

三玖は歴史の話になると、別人のように生き生きとしていた。俺に喋らせる間もなく、どんどん話を続けていく三玖は、とてもこの時間を楽しんでいるように見えた。

 

(武将は勉強嫌いなこいつを勉強と結びつける、唯一の接点…。このチャンス、生かしてみせる!)

 

「それでね!」

 

更に逸話を喋ろうとする三玖を制止し、俺は三玖を取り込むための作戦に移り変わる。

 

「待った。もうそろそろ帰らないとな〜」

 

三玖は少し肩を落とす。さっきよりも濃くなった橙色が、街を包み込んでいた。

 

「でもまだ話し足りないなぁ〜。この逸話、三玖に話したいなぁ〜」

 

三玖の口が少し開く。

 

「そうだ!次の授業は日本史を勉強しよう。もちろん、三玖は授業を受けてくれるよな」

 

少し厚かましく誘導をすると、三玖は照れと悔しさを隠すように体を俺から背けると、そのふっくらとした唇を小さく動かしながら言った。

 

「そこまで言うなら…良いよ…」

 

(勝った!)

 

大きく高い音をたてる屋上の扉を開け、帰る準備をする。ドアノブの冷たい感触が左手を伝う。

屋上へと続く階段と踊り場を照らす照明は、青白く光る自動販売機くらいで、かなり暗い。

階段を降り始め、10段ほど降りた時だろうか。後ろから甲高いスイッチ音と共に、固い物体が金属に衝突するかのような音が響き渡った。

後ろを振り返ると、そこには、俺より高い位置で立っている三玖の姿があった。俺へと伸びている手は、何やら缶ジュースを持っているようだった。

 

「抹茶ソーダ…?」

 

「うん。これ、友好の印。気になるって言ってたでしょ」

 

「あ、ああ」

 

正直いらないと思いながらも、友好の印なので三玖の小さな手に握られた抹茶ソーダに手を伸ばす。

 

「安心して、鼻水なんて、入ってないよ」

 

(え?鼻水?今、鼻水って言った?何で?)

 

「なんちゃって」

 

無邪気に言う三玖だが、俺は三玖の発言の意図がわからず動きが停止してしまっていた。完全に思考がショートしていた。三玖はそんな俺の異変に気付いた。

 

「あれ?もしかしてこの逸話、知らないの?」

 

三玖の声色が、いつもの無気力さとも、さっきまでの無邪気さとも違う、別の気配へと変わった。暗闇を伝うその振動は、失望と呆れを乗せていた。

 

「頭いいって言ってたのに、その程度なんだ」

 

三玖の手に握られていた抹茶ソーダは、気付けば三玖の元へ帰っていった。

ゆっくりと三玖の目を見ると、その目は俺を軽蔑するかのように見下ろしていた。

2人を取り巻く空間は、文字通り暗闇に包まれた。険悪なムードが立ち込める。

三玖はゆっくりと俺の脇を通り過ぎると、振り向くことも無く去っていってしまった。

 

「じゃあね。バイバイ」

 

三玖の静かで冷ややかな声が、寂しく俺の脳内へ響き渡っていった。

 

 

 

 

 

俺はすぐさま図書室へ駆け込むと、歴史にまつわる本を一通り借りた。

俺の腰から頭頂まで至るほどの高さに積み重なった本。

貸し出し担当の人はかなり驚いていた。

 

(絶対に諦めない…)

 

 

 

 

 

「お前が来るのを待っていたぞ。三玖」

 

「なんの用?フータロー」

 

あの日のような夕焼けが、俺と三玖を照らしている。今こそ決着の時だ。

三玖は、俺の書いた果たし状風手紙を広げながら俺に問う。

 

「勝負だ。三玖」

 

「は?」

 

唐突な俺の言葉に困惑する三玖。

 

「お前の得意な戦国クイズで勝負だ。今の俺ならなんでも答えられるぞ」

 

「もういい?帰って」

 

そう逃げようとする三玖を引き止める。

 

「もしかして怖いのか?自分の得意なもので俺に負けるのが」

 

三玖は悔しそうに頬を膨らませながら睨み付けてくる。ゆっくりと三玖が俺に近付いてくると、果たし状風手紙を俺に渡してきた。

 

「武田信玄の風林火山の風の意味は?」

 

「ふん!そんな簡単な」

 

そう笑いながら答えようとすると、三玖は何故か階段の手すりの上に座っていた。

 

「正解は…」

 

「速きこと風の如く」

 

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