五等分のifストーリー   作:Kary0309

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第7話 変わっていく気持ち

三玖が答えを言ったかと思うと、三玖は手すりの上を華麗に滑っていく。まるで風のような速さで。

 

(あいつ、また逃げる気か!いっつもそうだ。あいつらは逃げてばかり…勉強からも、俺からも!今度こそは逃がさない!)

 

階段を駆け下り、三玖の後を追う俺。三玖は植え込みの角を右に曲がっていく。俺も走りながら角を思いっ切り曲がった時だった。

視界が一瞬で真っ暗闇になったかと思うと、顔に伝わるのは柔らかい感触…。まるでクッションの様だった。

衝撃で跳ね返り、ぶつかった相手の顔を見てみると、それは、四葉だった。緑のリボンを付けた四葉は、俺の顔が四葉の胸に埋まったのも気にしていない様子だ。

 

「わお!上杉さん。あまり急ぎすぎちゃダメですよ、危ないですからね」

 

「ああ、四葉!三玖を見なかったか?」

 

そう尋ねると、四葉は渡り廊下の入口を指さした。

 

「三玖なら、あっちの方に行きましたよ!」

 

「おお!せんきゅ」

 

そう言ってその入口へ向かう俺。校舎内に入り、走って三玖を探そうと角を曲がった時だった。

 

「わお!上杉さん」

 

「四葉!?」

 

「あまり急ぎすぎちゃダメですよ、危ないですからね」

 

何故かさっきぶつかったはずの四葉に出会ってしまう。両手には大きな段ボールを抱えている。てことは…さっきのは…。

 

「四葉、さっきお前のドッペルゲンガーを見たぞ。気を付けろ。絶対に会うんじゃない。死ぬぞ」

 

「えぇ!まだ死にたくないです私!」

 

「それじゃ!」

 

そう言って、急いで三玖を探しに行こうとする俺。四葉を追い越し、三玖を探しに行く。

その時、後ろで何やら大きな物の落ちる音が聞こえた。

 

「いたたたた…」

 

振り返ると、四葉が荷物を落としたようだ。左手を押さえているあたり、壁とぶつけたのだろう。

 

「あーもう!しょうがない。手伝ってやるよ」

 

急いで蹲っている四葉のそばに駆け寄ると、四葉の左手を見る。特に目立った外傷はない。

 

「大丈夫か?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

やけに元気が良く、どこか焦点の合ってない目で言う四葉。俺はそんな事気にせず、段ボールを持ち上げようとするが…。

 

「重!」

 

重くて持ち上がらない。

 

「じゃあ、2人で運びませんか?向こうの校舎の1階の空き教室に運ぶだけなので、すぐですし」

 

四葉がそう提案するが、俺は四葉の左手を案じて首を振る。

 

「大丈夫だ!俺1人で…ッッッ…」

 

持ち上がらない…。変に汗をかき、段ボールを濡らしてしまいそうだ。

 

「怪我してませんし、大したことないから大丈夫です!」

 

「じゃあ、手伝わなくて大丈夫だな!」

 

そう言って三玖を追いかけようとするが、四葉に呼び止められる。

 

「あー!待ってください!一緒に運びましょうよ!2人の方が直ぐに終わりますし!」

 

 

 

 

 

なんやかんや言って手伝ってくれる上杉さん。いつもの目は冷徹極まりないけど、最近、どこか人間味が増してきたと思う。夕焼けで朱く照らされた廊下を、2人段ボールを持って運ぶ。そんな何気ない時間が心地良い。

 

「どうして三玖を探してたんですか?」

 

そっと瞳を覗き込む。夕焼けで輝く瞳が、どこか上杉さんの目に温かさを加える。

 

「勉強のことだ」

 

必要最低限のことしか言わない。会話も続かない。けど、それで良い。一緒にいられるだけで良い。

 

「まさか上杉さんが自分から手伝ってくれるとは思いませんでした!」

 

微笑みながらそう語りかけると、上杉さんはいたって表情を変えずに言う。

 

「四葉には、恩も少しあるしな」

 

「恩?」

 

なんの事か分からず、首を傾げると、上杉さんは説明しだした。

 

「最初の授業の日、協力してくれただろ。ま、次の日すぐ逃げて、更にはテストの点も1番低かったが」

 

そう冷たく言う上杉さん。私は微笑んだままで、上杉さんを見つめながら荷物を運んでいく。長く続く廊下を、たった2人で占領している気分だった。窓から伸びてくる朱い光は、廊下を明るく照らしていた。暫く沈黙が流れるが、私がその空気を断つ。

 

「私の顔、どこか見覚えありませんか?」

 

含みのある声色で尋ねる。上杉さんはそんな唐突な質問に、困惑している様子。

 

「なんの事だ?急に」

 

当たり前の反応だ。上杉さんの眉が少し下がるのが分かる。

 

「実は…私と上杉さん…昔1…」

 

言いかけた時、鈍い音が廊下に響いた。2人だけしかいない廊下では、よく響く。衝撃が壁をも伝わっていく。

 

「痛っ!」

 

上杉さんが後ろ歩きだったせいで、頭をぶつけてしまった様だ。

 

「もう上杉さん、何やってるんですか!」

 

そう、笑いながら言う。

上杉さんは衝撃で段ボールから手を離してしまった。負担が一気にかかってくるが、そんなのお構いなし。しっかりと負担を受け止めると、私は目的の教室へ向かう。

 

「上杉さん!置いてっちゃいますよ〜!」

 

上杉さんが、後頭部を押さえながらゆっくりと立ち上がったかと思うと、顔をしかめながら私に言い放った。

 

「全然大丈夫じゃねぇか!」

 

まるで悲痛な叫びかのように声を響かせながら言う上杉さん。誰もいない廊下はよく響く。

 

「あはは〜すいません。嘘ついてましたぁ…」

 

上杉さんは呆れたように溜め息を吐くと、いつもの冷たい目で私を見る。怒られるかな…。そう心が縮こまっていたが、そんな心配は必要無かった。

 

「なら、三玖探していいか」

 

別に何とも思ってなさそうに言う上杉さん。私は頷くしかない。

 

「じゃ、気をつけろよ」

 

上杉さんは、そう言い残すと、三玖を探しに行ってしまった。薄暗さと夕焼けが混じり合う放課後の廊下、私は1人寂しく荷物を置きに行った。

 

(思うようにいかないなぁ…)

 

 

 

 

 

(ちょっと疲れたな…)

 

フータローから逃げたため、少し疲れた。運動はこれっぽっちも出来ない。休憩しようと近くのベンチに腰掛ける。ぼーっと目の前に広がる夕焼けを見つめる。空いっぱいに広がった朱い夕焼けと、それを包み込む雲が、私の心を落ち着かせる。

 

「三玖!やっと見つけたぞ」

 

不意に声が聞こえる。私のリラックスタイムは突如崩壊した。声のした方を恐る恐る見ると、そこにはフータローが立っていた。私は何も言わず、無言で立ち上がると、すぐさま駆け出した。

 

「ああ!おい待て!」

 

後ろでフータローの声が聞こえる。それと同時に、後ろでフータローが走る音が聞こえる。私は無我夢中に走り続けるが、フータローも執念で追いかけてくる。

校舎を半周したぐらいだろうか、もう既に2人とも結構バテていた。私を照らす夕焼けのせいで、とても暑い。

 

「はぁ…はぁ…何でここまでするの?」

 

息苦しくなりながらも質問する。後ろからは、はぁ…はぁ…という息遣いが聞こえてくる。恐らくフータローもバテてきている。

 

「それは…いや、そんな事今はどうでもいい。戦国クイズだ、戦国クイズ」

 

(まだ言ってるの…)

 

そう思いながらも、体はとうに疲れ切っている。しかし、止まればフータローに捕まってしまう。ほぼ歩いているかのような速度でも走り続ける。

 

「俺はこの3日間、図書室の武将関連の本、全てに目を通した!今ならお前と、対等に話せる自信がある!」

 

「どうせ嘘でしょ…そうやってまた私を騙そうと…」

 

「それは悪かった!でも、今は嘘なんかじゃない!本当だ」

 

フータローの必死な声に、私はちょっと応えてみた。

 

「武将しりとり、龍造寺隆信!」

 

既にヘトヘトだけど、頑張って声を出す。額を伝う汗が、すっと頬を滴り落ちていく。

 

「ふでも良いんだよな?福島正則!賤ヶ岳の七本槍の、一番槍として名高い武将だ!」

 

そう自信満々に答えるフータロー。まさか、その人物の情報も簡単に言ってくるとは…。少し期待を寄せ、しりとりを続ける。

 

「金森長近!」

 

「河尻秀隆!」

 

その間にも、どんどんとしりとりは続いていった。気付けば校舎の周りをほとんどまわっている。

 

「か、片倉小十郎」

 

「上杉…景勝」

 

「津田、信澄」

 

「三好…長慶」

 

「島津…豊久」

 

「真田、幸村!」

 

お互い息はもうとっくに上がっていた。振り絞って出していた声も、なかなか出ない。私は限界を迎え、近くの芝生に倒れ込んだ。柔らかい芝生が優しく私を包み込んでくれる。

 

(どうして、ここまでできるの…?)

 

芝生に仰向けになりながら、朱く染まった空を見上げる。フータローはすぐ側で両膝をついて座り込んでいる。

 

「俺と張り合えるほどの足とは、大したもんだ、三玖…」

 

息をあげながら言うフータロー。私も、激しく肺を膨らませたり縮まらせながら言う。

 

「私、クラスで1番走るの遅かったんだけど…」

 

そんな会話をしながら、私は上半身を起こすと、靴を脱いだ。そのまま履いている黒タイツを脱ぐ。

 

「ちょ、三玖?!」

 

フータローは頬を少し赤く染めている。

私は構わず黒タイツに隠れていた薄肌色の肌を見せつけると、裸足のまま黒い学生靴を履く。

 

「飲み物買ってくるわ…」

 

フータローはそう言うと、飲み物を買いに行ってしまった。私は日陰にあるベンチに座ると、ぼーっと景色を眺めていた。

不意に、左頬が冷たい感触に襲われた。

 

「ひゃっ!」

 

思わず踏まれた猫のような声を出してしまう。

 

「すまんすまん」

 

そう笑いながら言うフータロー。あの日の私と同じように、私に抹茶ソーダを差し出しながら言った。

 

「110円の出費は痛かったが、このくらいなら許してやろう。安心しろ、鼻水なんて、入ってねーよ」

 

私はそっと笑顔になると、抹茶ソーダを受け取る。手に伝わる冷たさが心地良い。

 

「石田三成が、大谷吉継の鼻水の入った茶を飲んだ逸話だろ」

 

フータローは私を見下ろしながら言う。その瞳は、なんだかすごく温かい。

 

「この逸話に辿り着くために、一体いくらの本を読んだことか…」

 

日陰といえど、多少なりとも射し込んでくる夕陽は、フータローの左半身を薄らと照らす。

 

「ま、最後は四葉にスマホで調べてもらったんだがな」

 

その一言を聞き、私は眉をひそめ、フータローを睨みつける。

 

「もしかして四葉に言ったの?私が武将好きって」

 

たじろぐフータロー。

 

「いや、言ってないが…」

 

少し安心した。フータローは続け様に私に質問する。

 

「てか、姉妹に知られても嫌なのか?武将好きって」

 

わたしは抹茶ソーダを右側によけると、靴を脱いで裸足のまま、ベンチに両足を上げた。体操座りで顔を埋める私。前髪が私の顔をベールのように隠す。私の目の前に立っているフータローに言う。

 

「ダメだよ…だって、わたしが姉妹の中で1番の落ちこぼれだもん」

 

そう悲壮的な私を、フータローは慰めてくれる。

 

「そんな事ないぞ。だって現に、テストでは1番点数が良かったじゃないか」

 

「優しいね…フータローは」

 

フータローは少し戸惑いながらも言う。

 

「ま、まあ、どんぐりの背比べではあるがな!」

 

私は顔を埋めたまま、殻に閉じこもったまま、フータローに語りかける。

 

「私達は五つ子…。だから私が出来ることはみんな出来る。だから勉強できたって意味ないんだよ…」

 

その時、フータローは力強い言葉で言った。

 

「俺の仕事は5人の家庭教師だ。だから、5人全員に笑顔で卒業してもらう必要がある」

 

熱く語るフータロー。少し私も心が動くが、やはり卑屈な私は心を開ききれない。

 

「でも、5人全員で100点なんだよ?そんなので、笑顔で卒業なんて」

 

「そう。5人で100点。だからこそだ」

 

私は何を言いたいのかわからず、じっとフータローを見つめる。

 

「俺も三玖の言う通りだと思っていた。昨日までは、な」

 

そう1人で語り始めるフータロー。

 

「ただの、5人で平均点20点の問題児だと思っていたが…。三玖の一言で、自信がついたよ」

 

そう、私に優しい微笑みをかけるフータロー。

 

「自分ができることはほかの4人にもできる…。裏を返せば、4人が出来ることは自分にも出来るってことだ。一花も、二乃も、四葉も、五月も」

 

フータローは、私に微笑みながら、優しく力強い言葉で言った。

 

「そして三玖、お前もだ」

 

その時、閉じこもった私の何かが、砕ける音がした。私の世界が明るくなった。埋めていた顔も、気付けば上がっていた。しっかりとフータローの瞳を見つめていた。今は、私の瞳も今のフータローのように、輝いているのだろうか。

 

「これを見てくれ」

 

そう言って、フータローはポケットから何やら紙を取り出した。私の右隣に置かれたそれを覗き込む。

 

「前のテストの結果表だ。何か気付かないか?」

 

綺麗にまとめられた表で、とても見やすい。じっと目を凝らしてみていると、あることに気付いた。

 

「全員、正解してる問題が違う…」

 

「てことはだな。三玖の言うことが正しければ、全員100点の潜在能力を秘めているって事だ」

 

そう興奮気味に言うフータロー。私はその紙を見つめたまま、小さく唇を動かした。

 

「五つ子を過信し過ぎ…」

 

少し微笑みながら。

 

 

 

 

 

昼休憩、図書室で勉強をしている俺と四葉。6人ほど座れるはずの椅子は、1つしか埋まっていない。正確には2つ分だが。

 

「他の4人もお前くらい勉強熱心だと助かるんだがな〜」

 

そう不満そうに漏らすと、四葉は苦笑いしながら答える。

 

「一応、全員に声はかけたんですけどねぇ〜」

 

その時、後ろで図書室の扉が開く音がした。

 

「どうやら私一人だけじゃないみたいですよ!」

 

俺はその言葉を聞き、振り返る。そこに立っていたのは、頬を赤く染め、恥ずかしそうに立っていた三玖がいた。

 

「ね!三玖!」

 

三玖は無言のまま本棚へ向かうと、そのまま屈みこんだ。数冊の本を手に取ると、その本を棚の上へ置きながら立ち上がる。紙をめくる音が小さく響き渡る。

 

「私、ちゃんと勉強してみることにした。昨日のフータローの言ったこと、信じるよ。5人全員を、笑顔で卒業させる…。4人が出来ることは私にも出来る…」

 

三玖は振り返ったかと思うと、少し体を傾け、手を後ろで組みながら言った。

俺に、その生き生きとした、ラピスラズリの様な瞳を向けて。

 

「責任、とってよね」

 

窓から射し込む光が、三玖を輝かせていた。まるで光のシャワーが降っているかのような程、三玖の周りは輝いていた。三玖の笑顔は、とても眩しかった。

 

 

 

 

 

「三玖の好きな人って…もしかして上杉さん!?」

 

そばに寄ってきた四葉が、唐突に聞いてくる。私は頬を染め、顔を背ける。必死に表情を押さえようと頑張る。

 

「ないない」

 

(こういう時は一花のつもりで…!)

 

そう心の中で自分を言い聞かせ、少し笑いを含ませながら答える。

フータローは私達が何を話しているかも知らず、不思議そうに私達を見つめていた。

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