五等分のifストーリー   作:Kary0309

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第9話 最悪の不誠実

キッチンへと移動した3人。

俺は、三玖に一応の確認をとる。

 

「もちろん、やるわけないよな?三玖…」

 

三玖の横顔を覗き込みながら言う俺。

しかし、三玖は案の定やる気満々なようで…。

 

「フータローは座ってて」

 

静かな炎を燃やしながら、水色のシャツの袖をまくる三玖。やたら透き通っている肌が露出する。

 

「いや、お前が座ってろ!」

 

そんな俺の言葉に耳を貸すことも無く、三玖は戦場へと足を踏み入れてしまった…。

仕方なく椅子に座り、純白のテーブルに料理が置かれる時を待ちながら、2人の料理の様子を観察する。

二乃は調理道具、料理するスペース、調理の腕前ともに上等品で、明らかに料理慣れしている。

一方三玖は、二乃がしっかりとスペースを空けているのにも関わらず、窮屈に端の方で不器用に調理している。

使っている食材の量からも、明らかに二乃の方が手の込んだ料理を作っているのが分かった。

それは果たして、純粋に今は美味しい料理を作りたいのか、俺を負かすためだけに手を込ませているのかは分からないが…。

 

「じゃーん!旬の野菜を贅沢に盛り込んだ、ダッチベイビー!」

 

二乃が俺の前へと運んできた料理は、まるで店に来たかと思うほど、完成度が高かった。

全体的には、黄色を含んだ乳白色をしているが、時折隙間から見せる、大胆な秋が旬の野菜たち。あえてそれらを隠すようにベーコンを被せることで、より脳を刺激する。

 

「オムライス…」

 

一方、三玖から出されたものはオムライス。

皿に盛り付けられたそれは、現代アートの様に乱れていて、最早チャーハンかと思う程卵のドレスははだけていて、隠すべき所を完全に露出させてしまっている。赤褐色に染まった米粒達も、どことなく萎えている様に見える。

先ずは、二乃の作ったダッチベイビーにスプーンを滑らせる。

白銀のスプーンの上に乗った、ゴージャスなそれは、食欲感をそそらせるように、射し込む光を油分で大胆に反射させていた。

1口、口に滑り込ませる。口の中で広がる香ばしさと、秋野菜の濃厚な味わいが、優しく口の中で飽和し合う。

続いて、三玖の現代アートオムライスにスプーンを滑らそうとした時だった。

 

「やっぱいい!自分で食べる」

 

普段の三玖からは想像できない、焦燥感を醸し出しながら言う三玖。テーブルについた手は、露出した肘あたりまでにかけて、青白い血管を浮かび上がらせている。

 

「せっかく作ったんだし、食べてもらいなよ〜」

 

銀のスプーンは、こぼれ落ちていくオムライスをしっかりと支え、俺の口へとそれを運んだ。

口に広がるケチャップと、少し焦げ感のある米の味わい、僅かなグリーンピースが醸し出す健康的甘みが、渦となって俺の喉元を通り過ぎていくのが分かった。

 

「うん。どっちも美味いな」

 

二乃の顔は、理解できないと言いたげな表情だが、三玖の顔は光明が立ち込めたかの様な表情になっていた。

少し頭を下げ、両手でその、くっきりと美しい線を描いている鼻と、小さくも確かな弾力のある唇を隠すようにしながら、頬を赤く染めていた。さっきまで不安で曇らせていた瞳は、からっと晴れた、秋の空の様に澄んでいた。

 

「何よもう!全然面白くない!」

 

二乃は、あえて三玖の苦手な料理対決を持ち出したのだろう。

しかし、結局三玖の料理は美味かった…。

もしかしたら俺が貧乏舌なだけかもしれないが、少なくとも俺は満足した。

それが気に食わなかったのだろう。

二乃は、スカートを落ち着かないようにひらつかせながら、ドアを勢いよく開閉する音と共に、部屋から居なくなってしまった。

 

 

 

 

 

もう既に、空は茜色に染まっていた。小さな黒い影が、夕日に照らされながら羽ばたいている。

 

「すっかり遅くなっちまったな」

 

三玖と一緒に皿を洗いながら、沈黙を破るように言う。蛇口から勢いよく流れ出る水は、騒がしい音を出し続けている。

 

「まんまと二乃の策にハマっちまったって訳だ…」

 

食器を丁寧に洗う三玖の、横顔を見ながら言う。

両腕の袖をまくった三玖の腕に、大小様々な水滴が、麗しく揺れている。

 

「また出直すよ」

 

疲労感の混ざる声色で、呟くように言う。

手元が疎かになりながらも、食器についた水滴を拭き取る。

洗剤でよく滑るようになった皿の表面は、イルカの鳴き声のような音を発しながら照明に照らされている。

 

「それにしても、俺は二乃と分かり合える気がしないな」

 

少し助けて欲しい、そんな思いの入り交じった俺の発言に、三玖はそっと蛇口に手を伸ばすと、水を止めた。

さっきまで、水が飛び散っていく音で騒がしかった空間が、一気に静寂へと包まれた。

 

「そんな事ないと思うよ」

 

手に持っていた食器を片付け、三玖は夕日の射し込む、大きな窓ガラスの前へと向かっていった。

 

「三玖?」

 

燦然と立つ三玖に、俺はそっと疑問符を浮かべながら呼んだ。三玖は、何かが解けたように口角を上げると、俺の方を見て言った。

 

「誠実に向き合えば、二乃もきっと心を開いてくれるよ」

 

射し込む夕日が、高く筋の通った三玖の鼻を隔てた、三玖の顔の右側を眩しく照らしていた。右目を隠す前髪から、少し瞳を覗かせながら俺を見つめている。

 

「誠実にって…どうやって」

 

三玖は、優しく微笑みながら答えた。

 

「さあ、分かんない。でも、それをフータローが1番分かってるんじゃない?」

 

 

 

 

 

辺りは既に朱色に染っている。照明に包まれた玄関までやってきた時、英語の単語帳を忘れたのに気が付いた。

部屋まで戻ろうと後ろを向くと同時に、玄関の自動扉は無情にも閉じてしまった。

透明な扉の向こうに、部屋まで続くエレベーターが見えるのが腹立たしくなってきた。

仕方無く、右端の方にある入力機へ向かうと、俺は五つ子達の部屋番を入れる。

 

「なに?」

 

少し音質の悪い、掠れ気味の三玖の声が聞こえる。

 

「単語帳を忘れたから、取ってもいいか?」

 

三玖はぶっきらぼうに言う。

 

「私はシャワー浴びてるから、勝手にどうぞ」

 

「っておい三玖!それでいいのかよ!」

 

ツッコミ気味に言う俺。すると、プツッという音と共に通話が終わってしまった。

低い機械的な音がしたかと思うと、扉は開いていた。俺は、納得がいかないながらも部屋へ向かう。

 

「おじゃましまーす!」

 

失礼があってはいけないと思い、部屋中に声を響かせる。

リビングの方へ向かうと、そこにはなんとバスタオル1枚で髪を乾かしている三玖がいた。

いつも皆が座っているソファで、何とも無防備な姿で、その長い髪を乾かしている。

右手を櫛の様にし、左手でドライヤーを持って、髪を風のようになびかせている三玖。

バスタオルから露出している、深い谷間やモッチりとした太もも。俺の体は自然と熱くなっていった。

 

「三玖!?もう上がったのかよ!」

 

そう叫ぶが、ドライヤーの騒然とした音で聞こえないのか、三玖は全く反応を示さない。

夕陽に照らされた顔は、優雅に髪をそよがせている。夕陽によって赤みがかったその細長い髪の毛は、1本1本が綺麗に夕陽を吸収していた。

 

(そういえば、こういうの気にしない奴だったな…)

 

さっさと単語帳を持って帰ろうとした時だった。

 

「誰?もしかして三玖?もう上がったの?」

 

プライドの高そうな、高貴感のある声…。

 

(もしかして二乃か!?)

 

今、俺にほぼ裸姿を見られている五つ子が、誰なのかを確かめるために、ゆっくりとそいつの方を向く。

そこには、蝶を模した髪飾りをつける、1人の五つ子がいた…。

 

(二乃だ…間違いない…)

 

両サイドに、器用に飾り付けられた蝶の髪飾り。黒いフォルムには、エメラルドに染められた羽模様がある。

髪飾りから、垂れ下がれた赤い髪は、その蝶が舞った後の、輝くエフェクトの様だ。

 

(さっさと取って帰ろう…)

 

物音を立てぬよう、抜き足差し足忍び足で、単語帳を置き忘れた机の元へ向かう。

 

(それに、こんな不誠実がバレたら、どうなる事か…)

 

単語帳までの距離、数センチ…。この地獄から、開放されるかと思った、矢先の事だった。

 

「ねえ」

 

(バレたか…?!)

 

恐る恐る、二乃の方を向く。

 

「私のコンタクト知らない?」

 

(こいつ、目が悪くて見えてないのか…?)

 

今、確かに俺と二乃は目が合っていた。バスタオル1枚の女子高生と俺…。そんな2人が見つめ合うというシチュエーションは、二度と起きないだろう。

オマケに向こうは、俺を俺と認識していない。

となると…。

 

「そこら辺の棚に入れたはずだから、取ってくれない?」

 

やはりだ。二乃は、完全に俺を三玖だと認識している。

 

「まだ意地悪したこと怒ってるの?ごめんってば」

 

今ここで逃げてもいいが、それだと、三玖と二乃の仲が、今日の1件のせいで壊れるかもしれない。

と、俺は焦燥しながら二乃のコンタクトを探す。

冷静に、自分の行動に根拠を見出そうとするが、恐らくもっと、単純な行動原理だったと思う。

 

「違う違う!そこじゃないって」

 

本が数冊入った棚を開け、コンタクトがないか探していると、二乃が立ち上がって、俺の背後までやってきた。

二乃の身長では、背伸びしないと届かない高さにある棚。

二乃は、俺より無理矢理後ろの位置で背伸びしているので、自然と俺に体が当たる。

不幸にも、俺と触れ合った二乃の体の部位は胸だった。たった1枚の薄いバスタオルでは、ほぼほぼ生の乳が当たっていると言っても過言ではない。

柔らかく、弾力のある胸が、二乃が体を動かす度、圧力で俺の背中に押し当てられる。

耐えきれなくなった俺は、顔面を真っ赤に燃やしながら逃げ出した。

 

「あ!やっぱり怒ってるじゃない」

 

二乃の声など無視し、机の上に置かれた単語帳をポケットに突っ込む。

 

「全部あいつのせいよ!パパに頼まれたからって、勝手に私達の家に入り込んできて…。私達の家なのに…」

 

その時、二乃が不意に感情的に言い出した。その声は、単純な俺への悪意ではなく、五つ子への愛が混ざったような声だった。

 

(もしかして、二乃のやつ…)

 

俺に1つの考察が巡ってきた時だった。怒りの発散で、右手を大きく突き上げた二乃が、派手に棚の扉へ、右手の甲をぶつけてしまった。

木製の扉と、二乃の骨がぶつかり合う。軽くも痛しい音が響いた。

その時、衝撃で二乃の頭上にある本達が、今にも二乃の頭上へ落ちそうなのが分かった。

俺は、咄嗟に動き出していた。叫ぶのと同時に。

 

「上見ろ!危ない!」

 

「え?」

 

 

 

 

 

視界に、はっきりと映った本達。あたし目掛けて飛んでくる本達。

あいつの声が聞こえたと同時に、あたしの体は床へと倒れ込んでいた。床へと散らばる、赤く束ねられた髪を押さえつける感触。男のくせに、白い腕。

呆けた表情をしていたあたしは、初めて三玖だと思っていた奴の正体を知った。

地味な黒髪のてっぺんに咲いた、四葉のリボンもどきのあほ毛。変に澄んでいて、気持ち悪い細い瞳。やけに、キリッとした目鼻立ち。

 

(あたしは勘違いをしていた)

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