もしもジョージ・オーウェルがウマ娘の怪文書を書いたら 作:ryanzi
日本標準時十九時、私は空港のロビーを通り過ぎ、タクシーの中に入った。
すっかり遅くなってしまった。私のハルウララは元気にやっていただろうか?
出張でポーランドのトレセンに行っていた。
やはり、伝統的な騎兵国家なだけあって、レベルも高かった。
タクシーがトレセンに着くと、あの壮麗なピラミッド型の校舎が目に入った。
サーチライトに照らされた白い要塞はこちらに圧迫感を与える。
さらに、そこに刻まれた学園のモットーは抵抗する気すら失せさせる。
うまぴょいは平和なり
自由はうまぴょいなり
うまぴょいは力なり
「きみはケルヴィンなのか?!」
小柄で日に焼けたやせぎすの男。スナウトだ。
彼は私の同僚だったが、どこか様子がおかしい。
ハルウララをこいつに預けていたのだが、大丈夫だろうか?
もし何かあったら、最近発見された惑星の原形質のゼリーに放り込んでやる。
「き、君のウララは成長した・・・成長したが、あれはもう、私の手に・・・。
というか、私は何もしていない。彼女が勝手に成長したんだ・・・!
もう嫌だ!こんな学園!逃げてやる!それじゃあ、さらばだ!」
彼は缶詰の肉とパンを頬張りながら走り去った。
だが、今度はタキオンが校舎から出てきた。
そして、そのままスナウトを追いかけていく。ご愁傷様だ。
まあ、私のウララに限って、あんなことはしないだろう。
寮にある自室に入ると、そろぴょいしようとしてしまった。
白い月光を浴びて誰かが椅子に座っていたのにも気付かず。
ウララだった。
白いビーチ・ドレスを着、素足で、足を組んでいる。
後ろに撫でつけられたピンク色っぽい髪、ドレスの薄い生地が張り詰めた胸元。
「おかえりなさい、トレーナー♡そろぴょい、気持ちよかった?」
私はまったく心安らかに、彼女をじっと見つめていた。
もう諦めたのだ。ウララは大人になってしまった・・・。
そして、彼女が自室にいるということは、もう逃げ場はないということ。
スナウトが怯えていたのはそういうことだったのだ。
私のウララは、誰とでも仲良くできる、そういう子なのだ。
それも、ただ私と結ばれるために、成長したのだ。
だから、色々なウマ娘から教えを乞いて、吸収していっただろうことはさもありなん。
私はドアを閉め、鍵もかけた。ウララもその意図を読み取って、服を脱いだ。
私がウマ乗りになろうとする。これが男しての最後の意地だった。
でも、彼女は涙目でうるうるとなって、首を横に振った。
私は数秒で折れた。結局、彼女にウマ乗りさせてあげることになった。
有馬までの一週間は私たちもさすがに分別があったので、トレーニングと研究に励んだ。
私がそろぴょいできる望みはなかった。しかし、私とウララの中ではある確信が生きていた。
それは彼女が有馬で一着になれるというものだった。もう、芝にも負けない。
残酷な奇跡の時代が過ぎ去ったわけではないという信念を、私は揺るぎなく持ち続けていたのだ。
私は自分に対して勝利を収めたのだ。私は今、ハルウララを愛していた。