もしもジョージ・オーウェルがウマ娘の怪文書を書いたら 作:ryanzi
トレーナーになる少しまえの一冬、
ぼくとぼくの牡猫、護民官ペトロニウス(略してピート)とは、
コネチカット州のある古ぼけた農家に住んでいた。
古い木造家屋というものはティッシュ・ペーパーに火をつけたようによく燃えるから、
今でも、あの農家がそこに建っているかどうかは疑問だ。おそらくはあるまい。
たとえ建っていたとしても、売り払ったから、今ではぼくたちのものではない。
だが当時ぼくら――つまり、ぼくとピートは気に入っていた。
下水がなかったので家賃は安かったし、今だった部屋に置いたぼくの製図机に、
冬の陽ざしがよくあたった。
ただし欠点があった。この家は、なんと外に通ずるドアが十一もあったのである。
いや、ピートのドアも勘定に入れれば十二だ。
ぼくは、いつもピートに、専用のドアをあてがってやることにしていたのだ。
わがピートは、人間用のドアをあけろとせがむ場合は、遠慮会釈なくぼくの手を煩わせたが、
それ以外は、ふつうこの自分用のドアを用いた。
ただし、地上に雪の積もっているあいだは、絶対に自分のドアを使おうとはしなかった。
冬が来ると、ピートは決まって外に出ようとせず、人間用のドアをあけろとまつわりつく。
彼は、その人間用ドアの、少なくともどれかひとつが、
夏に通じているという固い信念を持っていたのである。
そして、トレセン学園に就職した現在、かくいうぼくも
「セイちゃんが来てあげましたよ~。今日もピートくんは可愛いですなあ」
彼女はぼくの担当バのセイウンスカイ。サボリ魔だが、なかなかに策士だ。
猫のピートのおかげで、練習に来る頻度もある程度は高い。
でも、神出鬼没なのが厄介だ。一人になれたと思ったら、突然現れるのだ。
これでは生理欲求を満たすためのそろぴょいができない。ぼくもそろそろ限界だ。
そういうわけで、夜のトレーナー室でこっそりうまぴょいすることにした。
ピートは今頃、自室でぐっすりと寝ているだろう。
「・・・よし、今だ」
ぼくはたまたま落ちていた本を手に取る。
寡頭制うまぴょい主義の理論と実践 エマニュエル・ゴールドシップ
なんか最初の方のページは付けられた感じがとてつもなかった。
だが、気にしなかった。そろぴょいで見栄えなど気にできるものか。
噂によると、同僚がこの本を使わずにそろぴょいしたそうだが、信じられない。
とにかく、ぼくはセイウンスカイの絵を描いた。可愛い。可愛い。
くそっ、あの人を馬鹿にした感じがどうしても可愛いのだ。
あの、猫みたいにのんびりと、それでいて計算高くて、ちょっとわがままなのが可愛い。
うっ、だめだ。ぼくのにんじんはもう限界で、ジュースを噴き出した。
「・・・ふう」
「おやおや♡気持ちよかったんですね♡」
スカイに見られていた。もうおしまいだ。
でも、まだ巻き返せるとぼくは考えた。
「スカイ」
「なんですか?」
「君が二十歳になって、心変わりしていなかったら、ぼくとうまぴょいしてくれ」
そうそう、最初からこの方法があったじゃないか。
未成年とのうまぴょいは問題だが、大人とだったら問題なしだ。
というか、どうせ二十歳になるまでに心変わりするはずで・・・。
「これ、何だと思いますか?」
彼女はある紙を取り出した。
それには理事長からぼくに対する命令が書かれていた。
スカイとうまぴょいしろというのだ・・・。
ぼくの頭は真っ白になり、目の前は真っ黒になった。
「にゃーん♡♡♡」
あれから時が経った。
スカイは少し肥ってきた。
だがこれは、一時的な、しかも嬉しい理由による生理現象なのだ。
もちろん、スカイは前にもまして美しいし、
彼女のあの甘い「はーい」という返事に変わりはないが、立居振る舞いが少し辛そうだ。
ぼくはいま、彼女用に、身体の楽にできるような道具を設計している。
ピートは相変わらずドアの向こうに夏があるという確信を捨てようとしない。
ぼくはそんなピートの肩を持ち、そして妻のためにもドアを開ける。
万事これでいいのだ。そろぴょいは終わりだ。
ぼくは自分に対して勝利を収めたのだ。ぼくは今、セイウンスカイをを愛している。