英雄を問う者 アナザーヒーロー:アヴァターセル 作:ナルキッソス・セン
最初は目立たない人だった。無口で、身長も高い訳でもなく、"個性"も目立つ事無く使ってたんだと思う。だとしても、その記録は首位争いに食い込める所か独走状態だった。ただ、不可解な"個性"だった。
文字通りの瞬間移動をした50m走、目を離した隙に壊れる握力計、幻影が点滅する様に現れた反復横跳び、秒針の様に全く乱れる事無く刻んだ上体起こし、最早風に乗って流されていた立ち幅跳び、ボールが消えていつの間にか地球一周分の記録と共に担任の手元に戻ってきていたボール投げ、ゲームのバグの様になっていた前屈、滑るように走りバイクに僅差で勝っていた持久走。
一番不可解なのは、それだけの事をしておきながら一位を逃していた事ではなく、僕らがその"個性"に気付いてない事だ。帰ってから思い出す、その"個性"の活躍。名前が思い出せない、性別すらあやふやだ、あの人は一体……?
翌日、僕はその人をずっと注視していた。名前は白澤 真、恐らく男性、身長は170cm程度。
1日注視してこれしか分からなかった。
彼の事をもっと知るには、数日後のヒーロー学を待たなければいけなかった。ヴィランとヒーローに分かれての戦いで、最終戦に彼はヴィラン側で参戦した。21人クラスなので、ヴィラン側は3人でヒーロー側は2人。ヴィラン側はハンデとして体重の半分の重りを着けていた。
彼は峰田くんと八百万さんと会話する事無く歩き出した。最初は誰も、彼が何をやっているのかは分からなかったが、監視カメラを見続けているとふと気付く。彼が歩くのは、芦戸さんと同じタイミングだ。
「……もしかして、何処にいるのかを把握してる……?」
まだ一階にいると言うのに、彼は先導する芦戸さんの動きに合わせて階を歩き続ける。しかし、仲間には伝わらないままに峰田くんが階下に"個性"のトラップを大量に設置してきて、八百万さんもまた"個性"で同じように迎え撃つ準備をしていた。
"個性"の面から見れば待ち伏せが得意なヴィランが優勢の様に見えたが、芦戸さんがその尽くを溶かして進むことによってほぼ五分に持ち込んだ。しかし、数の利を生かせていないヴィラン側にとっては閉所や直線で絶大な威力を発揮するヒーロー側の2人は驚異だろう。しかしそれが故に彼の異端さと奇妙さが浮き彫りになりつつあった。
「何だ、あれ」
その言葉に、思考を中断してモニターを見る。そこには、四人に増えた彼が階下の四人と同じ動きをしていた。頭の球体を取って投げる彼、身体から捕縛用のロープや障害物を産み出す彼、酸を放出する彼、腹からレーザーを出す彼。そして、その光景を脚を組んで頬杖ついて眺める彼。
本当に訳がわからない。余りにも訳が分からなさすぎて誰も何も言えず、最初の一言から皆黙り込んでモニターを見ていた。だが、彼が動き始めた。組んでいた脚を解き、立ち上がったのだ。そして彼が出したロープを掴むと、それを奪い取り彼と彼を縛ったのだ。そこに彼のポケットから取り出した捕獲テープを縛った二人に張り付ける。
それに平行して、八百万さんが出したロープが独りでに動いて芦戸さんと青山くんを縛り上げたのだ。そこに峰田くんのポケットから飛び出した捕獲テープが張り付いてヒーロー側の敗北が決まった。
「透明……とは違う、遠隔操作?だとしたら、彼の個性は説明がつかない」
『アヴァターは孤独だ。そうでなくては、Σは彼らを倒し得なかった』
彼のものと思わしき声が響く。しかし、こちらから呼び掛ける事は出来ても、あちらの声が返ってくる事はない。しかし、彼は実際にあの場所にいる。であれば、彼は何らかの"個性"もしくは幻聴?アヴァターとは?Σとは?彼らとは?
「オールマイト、アイツの個性って何ですか?」
「彼女の個性はバーチュアルホログラム。しかし、彼女の自己申告だから、正直言ってわからないな」
「……彼女?彼ではなくてですか?」
「ん?」
「え?」
オールマイトが慌てて出席簿を確認する。そこには男と女が重なった様な文字が書かれており、オールマイトも知らなかったのか、首を傾げている。しかし、クラスメイトは口々に男かと、女かと、と呟いていた。
「……彼は一体何者だ……?」
誰も彼もが五里霧中。気付けば訓練を講評して授業は終わっていた。放課後の帰り道、スタスタと帰る彼の背中に追い付く。
「ねぇ、白澤さん」
「そも、サイレンが鳴り響く。大山鳴動してマスメディア。緑の人に倣えば、窮地を脱する非常口。インヤーそれはそれとして、虚偽災害に暗雲来る。光明降らすは正義の柱とその後継。生かす殺すも誰次第。さて……」
振り向き、彼はそう言い放ってまた歩き出した。サイレン?マスメディア?何の事だ、どういう意味だ、訳が分からない。顔を上げた時には既に姿は無かった。どうやらとてつもなくヤバい人なのではないか?
これまで一度もあったことの無いタイプの人だ。考え方も、感じ方も、思考回路というか、受け取り方からして異なる次元にこの人はいるんだ。そしてそれに加えて彼はその異なるという事を、恐らく認識した上で僕らに接している。であれば、彼は……彼は……何を目的としているんだ?