英雄を問う者 アナザーヒーロー:アヴァターセル 作:ナルキッソス・セン
彼の謎の言動から、既に翌日。委員長決めも終わり、僕が委員長に。そしてその昼食時、相も変わらずここは混雑していて、上級生や他のクラスと相席は日常茶飯事だった。
警報が鳴り響く。放送は速やかな避難を呼び掛けており、上級生達はその放送に従って入り口に殺到する。僕らも遅れまいと後を追ったが、これが不味かった。入り口には既に行き場を失う程が向かっていた。寄る人波に押し流され、麗日さんや飯田くんとはぐれてしまう。
『そも、サイレンが鳴り響く。大山鳴動してマスメディア。緑の人に倣えば、窮地を脱する非常口。』
彼が見えた。視界の先には、優雅なティータイムを満喫しながらこちらを冷ややかな目で見ているであろう彼。そして、昨日の帰り道、彼が僕に言い放ったあの言葉。外へと目を向ければ今朝のマスコミが侵入しているのが見えた。
昨日のは、予言だった?いや、そんなことより、今はこれをどうするかだ。彼の言葉を信じるのなら緑の人に倣え……窮地を脱する非常口?非常口で緑の人って、あのピクトグラムの事か?そうだとして、倣え……?
その時、頭上を凄いスピードで吹き飛んでいく何かを見た。いや、あれは飯田くんだ。
「飯田くん!?」
多分麗日さんの"個性"で浮いた飯田くんが自らの"個性"で進んでるんだ。そのまま出入口の上に叩き付けられる様にして止まった。
「ダイジョォォォブ!」
……あぁ、そうか。これは僕の事では無かったか。非常口に倣って、窮地を脱する緑の人は飯田くんだったのか。入り口の僅かな出っ張りに足を乗せ、パイプを掴んで落ちないようにして最高峰に相応しい行動を取るよう呼び掛ける飯田くんを尻目に、僕は彼を振り返った。
しかし、彼はもうそこにはいなかった。
その日の帰りに彼を探した。
「白澤くん見てない!?」
「もう帰ったと思うけど……」
「ありがとう、また明日!」
走る。答え合わせの為に。
「白澤くん!」
「……既に伝えたはずだ」
振り返ることも無く彼はただ歩き続ける。
「何で今日の事が分かったの?」
「私は忙しい、また今度」
一陣の風が吹いて、一瞬目を閉じる。開かれた視界に既に彼はおらず、言い知れぬ空虚がそこにあった。
▼▽▼
後日、委員長を飯田くんに交代する事を皆に告げた。その日のヒーロー基礎学は敷地内の別の建物で実施されることになった。
バスで一人席に座り、何を言うでも無く外を眺める。その眼差しには何を考えてるかはわからず、彼について話すこともなく時は過ぎた。
そして僕たちはUSJこと嘘の災害や事故ルームにやってきた。そして、13号先生のお小言というなの"個性"についての向き合い方の講義を受けてから入場。オールマイトの到着が送れているらしく、今日はこの二人でやることになったようだが……。
▼▽▼
……?寝ている?あれ、僕は何を……!
「はっ!?ぅ、敵は!?」
皆、寝ている。誰も彼もが幸せそうな寝顔で寝ている。ただ一人を除いて。
「……起きてしまったか。寝ていてくれれば全て済んだものを」
「白澤くん……!?これは、一体何を!?」
「一人が起きてしまえば皆起きる」
次々に、クラスの皆が起きる。それに続いて敵も目を覚ます。そう言えばと慌てて自分の体を確認する。へし折ったはずの指は無傷、そして最初の場所から動いていない。あれは夢の中の出来事だったって言うのか……!?
「白澤……お前、何をした」
「夢見るなら、無機物とて同じ。それは集合的無意識によるものであるのなら、多少荒唐無稽な芸当すら出来よう」
「つまりはお前が眠らせたって事で良いんだな……13号、生徒を守れ」
「不思議だなぁ……その教師、もう瀕死だったはずなのになぁ……」
「自ら塵と化した13号が無事……幻覚?」
ジリジリと戦いの気配が近付く。お互いに何が起こっているのかは分からないが、対峙しているのなら、目的が夢の中と同じならば戦わなければならないのは当然なのだろう。
「また生徒を散らして殺すのみ!」
「"ロータス"」
黒い霧が僕たちを覆わんと広がるが、それよりも早く花弁が黒い霧の行く手を塞ぐ。声のした隣を見れば白澤くんが指揮とるかの様に手を上げていた。
「胸に咲けよ、月の如く」
相澤先生の胸に小さな花が咲く。それはクラスの皆にも広がっていき、僕の胸にも小さく咲いた。
「蓮の花……?」
「輪廻の花、その名はロータス。千年を知り、幾万の夜を越え、毎秒君を想う。信じよ、ロータスを」
暖かい。じんわりと広がる暖かさに力が漲る、まるで身体の奥底から湧いてくるように。立ち上がった僕達は敵と相対する。
「先生、俺らも戦えます!」
「馬鹿言うな。プロのヒーローが二人もいて卵を戦わせられるか。13号、生徒を頼む」
そう言って、相澤先生は敵の中央に飛び込んでいく。さっき見た光景の焼き増しのようだが、明確に異なる部分がある。先生は身軽に動き、敵は動きが鈍くなっている。
「真言を聞け、これがマントラだ」
足元には蓮が咲き、後光の中で何かを撃つように敵を狙っている彼が、そう呟く。彼が何かをしているんだ。相澤先生を強化か何かして敵を弱体化させているんだ。
「僕達は早く移動しましょう、相澤先生が足止めしている間に!」
「残念ながら、私は今忙しい」
蓮の花は彼の足元から既に広がり、後光は段々と穏やかになっている。珍しく彼が感情を微弱ながら表に出しており、しかしそれを読み取ることは出来なかった。
「すぐだ、すぐにもだ。私を迎エいれるノだ……いや、撃てずとも既にロータスが咲いている」
「ぐああぁぁ!?」
「死柄木!?」
手が大量についた敵が突如苦しみだし、黒い霧の敵が駆け寄る。
「何だ……何をしやがった!やめろ、この不愉快な奴らはなんだ!クソ!脳無!全員殺せ!」
脳無と呼ばれた敵は、一歩目を踏み出す。しかし、その歩みは真っ直ぐ相澤先生の元へ向かっていた。相澤先生も先程の夢を思い出したのか、距離を取って睨み付ける。が、その拳は近くにいた敵に対して振るわれた。
「……は?」
脳無はそのまま敵を殲滅する。死柄木と呼ばれた敵は、何が起きているのか理解できないまま、投射され続ける狂気に対抗していた。
「君の名のもとに、彼らは来る。ああ、そのパレードは何処までも続いていく」
「お前か……!このふざけた妄想を見せるのは!黒霧!」
「……ダメです、個性が使えません」
「ふざけんな、何秒経ったと思ってやがる!」
戦闘の最中を、白澤くんは悠々と歩いていく。余りにも堂々と、敵などいないかの如く。真っ直ぐと死柄木の下へと歩いていく。
「私がお前に見せているのはお前の過去だ」
「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!」
走り出し、その顔を掴む様に手を出した死柄木の手を正面から握り締め、しかし崩れること無くその手は存在し続けた。
「何故、何故死なない!!」
「……汝、日の下にて生きるべし。灰に埋もれることなく、己が過去を呪うが良い。しかしてそのメシアに靡くなかれ。邪悪は既に、君の中にある」
「な……」
▼▽▼
「死柄木!」
「救済はある。報われずとも救われ、救われずとも清廉なる。その道は、今確かにあるのだ『陟「邇イ謳鈴怕?「陟托スァ』忌まわしきヒーロー社会の忌み子よ」
「何で……お前が……それを……」
死柄木は震えていた。彼が『先生』と呼び慕うあの人物と出会った時の事を思い出し、しかしそれ以前の事は思い出せず、たった今この名称し難き感情に打ち拉がれているのだ。
しかし、終わりは来た。救済よりも早く哀しき離別はやって来てしまった。
「私が来た」
早すぎだ。正義の象徴がそんな者では、邪悪なる者も産まれよう。
オールマイトは及び腰になっていた敵を一掃し、動かなくなった脳無を一瞥し我々の方を向いた。
「行け、アヴァターよ。また今度」
手を離し、それと同時に黒霧の中に沈み込む死柄木。ロータスは枯れ、イレイザーヘッドの効果は既に消えている。教師の増援も到着し、消え行く死柄木に銃弾が浴びせられていく。
「さらばだ」
……哀しきアヴァターよ。