古手美羽という人間が雛見沢に帰って来たことはすぐに村中に響き渡った。こんな小さな町なのだからそれは当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。正直、ボクとしてはボクがここに居ることは伏せて置いて欲しかったんだが…どうやら妹が学校で友達に話してしまったらしくそこから広がってしまった。
まあ、妹を攻める気はない。ボクが口留めをしなかったのが悪かった。それを聞いた者はボクのところに来るのは分かっていた。ボクという人間はこの村では少なくともそれなりに名が通っている。それはボクが幼い頃から村の仕事や警察関係の仕事なども何回か行ったことがある。警察関係の仕事なんて部外者のボクに手伝わせるなんて絶対にダメだろうと今になっては思うがその頃は何故か手伝わせてくれた。
だから簡単に言えば、ボクは雛見沢の住人とはかなり密接に関わっていた。ボクにとってこの町と関わることはあまりしたくなかったが将来何かの役に立つかもしれないと思い、色々なことを手伝ってきた。
それが今になってこんな面倒な事を引き起こすとは全く考えもしなかった。
今、ボクは住まわせてもらっている部屋の一部屋に座りながら考え込んでいる。何を考え込んでいるのかと言うとそれは集まった者たちに聞いた話。
雛見沢の町人が集まって来た事で良かったことは知りたかったことを知れた。この村を訪れた時から北条悟史の姿を見えなかった。その理由を知りたかった。
「北条悟史が行方不明か……」
それを聞いた時はさすがに驚いたものだ。あの男が行方不明とは……。もう一度ぐらいは面と向かって話して見たかった。北条悟史との話はとても有意義なものだったと記憶している。あいつはとても良い奴だ。ボクと違って本当の意味で妹想いの人間だった。ボクが偽物だとすればあいつは本物だった。
その奴が行方不明。それほどまでにあいつは追い詰められていたのか……もう少し早く帰って来るべきだったかもしれない。
「今さら調べたところで何か分かる事はないだろう」
そしてボクは重い腰を上げて外にでも出ようかと考えていたところに声が聞こえてきた。
「美羽さん」
そこには金髪の少女が立っていた。この子は北条悟史の妹で北条沙都子。まだボクがこの村に居た頃に北条悟史に会いに行った時によく合っていた。でもそれぐらいしか彼女たちとの繋がりはないと思う。
「どうしたんだい?妹なら学校に行っているはずだけど……というか君も妹と一緒に学校に行ったよね」
どうやら両親が死んでから妹は北条沙都子と一緒に住んでいたようで今はそこにボクもお邪魔する形になっている。別にボクは雛見沢の近くのホテルに泊まっても良かったけど妹も北条沙都子も何故かボクを引き留めて…ボクはここに住むことになっている。
「はい、私は美羽さんにお話があって戻って来たんですのよ」
ボクに話か……面倒な話だと長くなりそうだな。まあ、ほとんど面倒な話に決まっているな。
「それなら学校から帰って来てからゆっくり聞いてあげるから今は学校に行ってきな。遅れちゃうよ」
それを聞いた彼女は一瞬、不安そうな顔をしたもののすぐにいつもの笑顔に戻った。
「……分かりましたわ。じゃあ、帰ってきたら話を聞いてくださいね」
「うん」
「それでは行ってきます!」
笑顔で微笑みながら言っている彼女は年相応な感じだ。ボクが居た頃はよくあんな笑顔を毎日のように浮かべていた。北条沙都子という人間に取って北条悟史という存在は精神安定剤のようなものだったのかもしれない。あの男が居ることで彼女は安心することが出来ていたのだろう。まあ、今になって考えればだけどね。
「行ってらっしゃい」
そしていずれはこのような日常が崩壊するのが分かっていたとしても…人間は日常を愛すのだ。その日常が壊れた時の悲しみは日常を愛した分だけ返ってくるというのに…