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この男は、ある事件に巻き込まれて以来、極度の鏡嫌いになった。
この男が何者なのか……
の前に、検事が何故この男に「血液検査の結果次第では刑務所に戻って貰う」と言う取引を持ち出さなきゃいけないのかを説明しよう。
発端となったのは50年ほど前。
円盤型宇宙船群が飛来し、複数の深海に黒い玉の様なワープホールを落として行ってしまった。
その後、そのワープホールから動物型ロボットの様な巨大怪獣が次々と出現。町中に現れては騒ぎを起こして人々を大いに困らせた。
無論、地球側も指を銜えて観ている訳でもなかった……
と、言いたい所だが、銃器などの通常兵器を浴びる度に急成長・急強化してしまう巨大怪獣の前に為す術が無かった。
通常兵器による巨大怪獣の排除が不可能かと思われた時、宇宙から通信が入り、とんでもない和平条件を突き付けて来た。
「お前達が頭髪のケアーを徹底的に怠ると言うのであれば、この星で暴れている怪獣を全て撤退させよう」
この条件と特徴的な頭部を理由に「ダメージヘアー星人」と名付けられたエイリアンへの対応を協議する会議が何度か開かれたが、肝心の巨大怪獣の排除が全く上手くいっていない事が災いしたのか、降伏派が大半を占めてしまった。
だが……
この頃から、ダメージヘアー星人や巨大怪獣にとって致命的に不都合な現象が立て続けに発生した。
先ずは、複数の隕石群が円盤型宇宙船や巨大怪獣を何度も襲ったのだ。しかも、天からの恵みはこれだけに止まらず、巨大怪獣が極端にその隕石を避けて通る様になったのだ。
各国は隕石内に巨大怪獣を撃破出来る物質が有ると予想し、挙って隕石の解析に没頭するが、どう言う訳か隕石から採取された物質の兵器化に失敗してばかりなのだ。と言うより、どう言う訳か兵器が隕石を拒絶して排出してしまうのだ。
こうして、巨大怪獣に嫌われた隕石群は、都市部を防衛する為の守護神的置物として扱われた……
かに視えた。
しかし、ダメージヘアー星人や巨大怪獣にとって致命的に不都合な現象はこれだけではなかった。
いや、寧ろここからが本番だった。
巨大怪獣避け隕石群が様々な都市部に配置されてから数日が経った頃、隕石の保管管理を担当していた職員の中から多彩で無尽蔵な超能力を発現させる者が出始めた。
その者達は直ぐに様々な検査を受けさせられ、その結果、隕石の破片と同化してしまった事が原因である事が判明した。
更に、隕石の破片と同化した者達が放つ超能力には、地球側にとって嬉しい誤算とも言える副産物が有った。
それは、巨大怪獣は、その超能力を浴び過ぎると死んでしまうのだ。
その為、検事達は、この男に対して「血液検査の結果次第では刑務所に戻って貰う」と言う取引を持ち出す羽目になってしまったのだ。
男は勿論大笑いしながら嘲笑った。血液検査の結果次第で極悪人や凶悪犯を刑務所から追放すると言う、その非常識過ぎる甘さに。
そう……男は隕石の力と副作用を嘗めていたのだ……
それ以来、男は鏡を極度に嫌う様になった。
男の名は「強田護」。
強田は、幼い頃からヤンキー漫画に登場する「強過ぎる糞外道」に憧れていた。そして、自分も何時か「強過ぎる糞外道」の様なワガママを貫き通せる男に成りたいと願っていた。
その為なら何でもやった。様々な努力と悪行を重ねた。
無論、警察には何度も目を付けられた。
敵対するヤンキー達に忌み嫌われた。
だが、強田は売られた喧嘩を全て買い、そして全勝した。
が、何時までもそんな生活が続く筈も無く……手下だった筈の者の裏切りが切っ掛けで遂に逮捕され、例の隕石との適合率を測る為の血液検査を受ける羽目になってしまったのだ。
だが、強田の考えは楽観だった。
血液検査の結果次第で刑務所から出られる。そして、出たら何をしてやろうかを色々と考えていた。
逮捕の切っ掛けとなった裏切りの落とし前をつけさせるのも良いし、その裏にいる黒幕を根絶やしにするのも面白い。
あえに、これをきっかけに別の町に繰り出して勢力拡大の足掛かりにするのも良いかも知れない。
などと物騒な未来予定ばかり浮かぶ強田だったが、それは1つも実現する事は無かった……
例の隕石と同化して初めて鏡を診た時、強田は絶望して絶句した。
そう、隕石との同化の効果は、多彩で無尽蔵な超能力を得る……だけではなかった……
隕石の欠片と同化した者は、老若男女関係無く、ふっくらとした乳房を有する可愛らしい美少女の様な姿に成ってしまうのだ。
強田も例外ではなく、以前はかなり強面の男性だったが、同化後は青白いツーサイドアップが特徴の巨乳美少女の様な姿となってしまい、その事が悩みの種となっている。
故に、巨大怪獣を死亡させてしまう程の超能力を有する者達の事を「魔法少女」と呼んでいるのである。
「何で……プの字の様な女装をせにゃならんのだ……ちょっと前まで……『逆らう奴はぶっ殺す!自由とスリルと快楽の日々ぃー!』だったのに……今はプの字の様な女装をして……俺が!この俺がぁー!」
強田の殺意と激怒を籠めた絶叫。
だが、強田が最も許せなかったのは、道を踏む外して「強過ぎる糞外道」から遠ざかってしまった自分自身であった。
責任感の強い男が、最初に責めるは自分自身である。放った言葉も、殺意のやり場も、強田が強田に向けたものであったかもしれない。