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「はい、もう服を着ても良いですよ」
魔法少女と怨人を同時に兼ね備える男になってしまった強田は、急遽健康診断を受ける事になったのだが、
「特に異常はありません。至って健康ですね」
それを聞いたライラ達は驚き困惑した。
「異常が……無い?」
そこへ強田が口を挟む。
「あいつらが大人しくしている内は……な」
「あいつらとは、お前の身体に注入された悪霊の事か?」
「未来からやって来た生霊もな」
「つまり、あくまで医学的には問題は無い……と言う意味か?」
「そこの医者が幽霊の面倒を診れるって言うのであればな」
強田の言う通り、心霊現象中心の話をされては、医師も口を挟みにくい。
検査が終わって委員会に戻った強田は、抜き打ち健康診断を受けてる間の彼らのその後が気になっていた。
「例の怨人争奪戦に関わった連中、あれからどうなったか聴かせてくれないか?」
ライラは、迷いつつも質問に質問で返した。
「……何所から聴きたい?」
強田が母島決戦で一番気になっていた、怨人製作用祭壇を使って姉を復活させようとした青年の事。
「彼なら出頭したよ。今は留置所にいる」
強田が強めに問い質す。
「つまり、まだ生きているって事だな!?」
ライラは、その言葉の意味が解らない程の馬鹿ではない。
「気になるのか?あの青年が、どうして怨人の存在を知っていたのかを」
「気になると言うより、アイツを騙した連中が許せないの方が強いな。ああいうアウトな奴は『騙された方が悪い』って開き直るのが常だけどよ、流石にアレはやり過ぎだぜ」
「なら、急がせないとな」
強田は嫌な予感がした。
「まさか!?アイツを護衛してないって言うんじゃないだろうな!?」
それに対し、ライラは無駄な焦りをさせてしまった事を詫びた。
「あ、すまない。勘違いさせてしまったな。私が言ったのは、母島にある地下祭壇の解体工事の事だ。二度と怨人を生み出さない様にな」
「その事……アイツには話したのか?」
「その必要は……もう無さそうだ」
「そうか……」
「それに、お前は例の青年を護衛しろと言ったな?」
強田が少しだけ焦る。
「そこだよ。俺が一番気になってるの」
「それなら、松本が既に動いている」
例の青年と面会した松本は、元後輩達にある人物の似顔絵を描かせたのだが、
「ちっ!まるでガキだな」
松本もまた、テレパシーの応用で例の青年の過去を覗き視て、中国風の衣装を着た8歳くらいの少年に辿り着いたのだ。
「一応、母島に不法侵入した容疑者にその似顔絵を見せてやれ。ま、一致したからと言って、それだけだと実行犯しかやらせて貰えない小物しか捕まらんがな」
「ではでは、松本先輩はあの容疑者の背後に大きな黒幕の存在を感じると?」
松本が折檻する様に言い放つ。
「当たり前だろ。こんなガキが1人であんな小難しい事に辿り着けると思ってんのか?」
とそこへ、瞬間移動した強田が似顔絵を観ながら言い放つ。
「ま、どっちにしろ、このガキを捕まえない事には始まらないな」
それに引き換え、強田の瞬間移動を見た周囲の刑事達が一斉に驚いた。
「うわっ!何だ急に!?」
そんな情けない元後輩達を観て頭を抱える松本。
「そのくらいで驚いてどうする……凶悪犯を逮捕するのが俺達の仕事だろ?」
「ですが!何の前触れも無く急に―――」
松本は、元後輩の見苦しい言い訳を無視した。
「馬鹿言え。指名手配犯が堂々と街中を闊歩するかよ?」
そこへ、例の青年に似顔絵を見せに行った刑事が戻って来た。
「やはり容疑者はこの子供と面識があったようです!」
強田と松本は、改めて母島にある地下祭壇を悪用しようとした黒幕への怒りを募らせた。
だが、強田が例の青年と面会する事は無かった。
強田に注入された悪霊(つまり例の青年の姉)に止められたからだ。理由はどうあれ、強田が例の青年の姉の復活を妨害した事には変わりないのだから……
強田と松本が徒歩でライラの許へ戻ろうとしていた。
「で、そう言うお前は、母島での戦いに変な手出しをした凶悪犯に逢って何がしたい?」
強田が少し悩んだ後、こう切り返した。
「やっぱ……そっから先は騙された奴の仕事かな?恨みの量が違う」
「……そうか」
それからしばらくして、素通りしかけた交番で1枚の張り紙を発見した。
「マジかよ!?」
強田が慌ててその張り紙に駆け寄る。
それは、叩務の指名手配書であった。
「あのアウト野郎!まだ捕まってねぇのかよ!?」
そんな強田を観ながら過去を振り返る様に話す松本。
「俺もよ、巨大怪獣がミサイルや戦車を食べて成長するって設定には半信半疑だったんだ。あんなの喰らって大怪我しねぇ動物なんて、漫画かテレビの中にしかいないとばかり思っていたからな」
それに対し、強田は、魔法少女に成る前から巨大怪獣と通常兵器との関係に何の疑問も浮かばなかった。
「そうかねぇ?俺は理に適ってると思ってるがね」
「どう言うこった?」
「考えてもみなよ。あいつらは襲う側。つまり、侵略する側だ」
「……確かにな」
「て事は、悪く言えば攻撃されたり悪口を言われたりしても、なんの文句も言えねぇ立場って事だろ?」
それを聞いた松本がハッとする。
「だからこそ、巨大怪獣にはミサイルを食べて成長するって設定が必要だった!お前はそう言いたいのか!?」
強田が静かだが力強く答える。
「少なくとも……襲われる側の攻撃への備えは、ある程度考えてる筈だろ?」
改めて叩務の指名手配書を視て、
「だとすると、あのアウト野郎がまだ捕まっていない事実に急に納得が出来たな。恐らく、あの醜い頭をしたクソエイリアン共があのアウト野郎の逃走に関わってる筈だぜ?」
そう言われた松本は、この前の母島決戦に無許可参戦して逮捕された艦長のあの言葉を思い出した。
「利用価値が膨大過ぎるかませ犬だったのだよ我々は」
段々空恐ろしくなってきた松本。
「野放しにして良いのか!?その様な危険人物!」
その質問を聞いた強田が怒鳴り散らす。
「良い訳ねぇだろ!あんな未来を創った糞アウト野郎をよ!」
一同の驚きを察した強田が急に冷静になった。
「あ!?……すまねぇ。俺の中にいる連中が、あのアウト野郎に敏感に反応しやがってよ」
そう言われて首を傾げる松本。
「……その、前に教えられた怨人の作り方に関する事か?」
強田が静かに頷く。
「……ああ……どいつもこいつも、あの叩務とか言うアウト野郎の事を憎んでる。アイツさえいなければとさえ思っている」
妙な恐怖にかられる松本。
「お前、本当に外に出て良いのか?」
Risquemaximumは、ウサギとチンパンジーを同時に兼ね備える巨大怪獣とカエルとカマキリを同時に兼ね備える巨大怪獣を撃破した時と全く同じミスを、先日の母島決戦でも犯していた。
ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の死んだフリを見抜けなかったのだ。
そして、熱が冷めたと判断したミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人が、母島に隠された怨人製作用祭壇の破壊任務を再開させようと海面から飛び出した。
だが、母島に向けて両鋏を前に突き出したミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の背後を何かが襲った。
「我々が怨人の力を手に入れるのがそんなに怖いか?」
4人の魔法少女がミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人の背後を見下ろした。
その内の1人が無言でビリヤードの様な構えをし、ビリヤードのキューの様な物から光弾を発射した。
慌てて振り返るミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人であったが、既に反撃のチャンスを失っていた。
「さあ、解体ショーへようこそ」
4人の魔法少女の連続攻撃に耐え切れなくなったミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人は、無様に死体を晒す事になってしまった。そう、ミンミンゼミとテッポウエビを同時に兼ね備える巨人は、今度こそ本当に死んだのだ。
その様子を、あの中国風の衣装を着た8歳くらいの少年が船の上から観ていた。
「少し来るのが遅かったかな?つまり、今回は僕達の負け……と言う事で」
「ん?これは……」
一方、松本が元後輩達に描かせた似顔絵を観た署長は、ある事を思い出して慌てふためいた。
「……大変だ!」
この警察署長の「大変だ!」の真の意味を強田が知るのは……まだ少し先の様である。