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ダメージヘアー星人のネブソク少将は悩んでいた。
「何だ……あの女共の妙な術は!?」
シラミ上級曹長が戦況を報告する。
「お陰で、ボルベス側の攻撃がガラッと変わり、怪獣達の成長が大幅に遅れています」
因みに、ボルベスとは、宇宙人が使う「地球」を指す言葉である。
「成長が遅れているだと?あいつらは怪獣を攻撃してる筈だろ!?」
「はい。ですが、あの妙な連中の妙な術を吸収する怪獣はおらず―――」
「何故いない!?攻撃だぞ!」
ダメージヘアー星人が巨大怪獣を使用する最大の理由は、巨大怪獣が通常兵器を浴びる度に急成長・急強化するからだ。
故に、ダメージヘアー星人は巨大怪獣をどんどん送り込む事で、地球に対して「頭髪のケアーを徹底的に怠れ」と命令できるのである。
しかし、地球に魔法少女達をもたらした複数の隕石群によって、地球とダメージヘアー星人との力関係は大きく変わってしまったのだ。
「そこで、妙な術の源と思われる隕石の奪取を何度か試みたのですが……」
「で、その隕石はどこだ?」
「……失敗しました。送り込んだ工作員の98%が隕石の半径10m以内に入った途端に大量の吐血を行い、隕石に触れた途端に死亡する者が後を絶たず、死亡してから捕虜になった者さえいる程で―――」
魔法少女が美しいロングヘアーを自慢げになびかせる姿を思い浮かべてしまい、悔しそうに机を殴るネブソク少将。
「ひっ!?」
「おのれぇ……ボルベスめぇー!」
そこへ、ニコチン准尉がやって来て、
「少将、怪獣をボルベスに送り込むペースについて進言したく参りました」
「小出しではなく、大量の怪獣を一気にボルベスに送り込めとでも?」
「いいえ。その逆です」
「ぎ……逆……?」
ニコチン准尉の言葉に不安になるネブソク少将。
「逆とはどう言う意味だ?……まさか……諦めろと言うのか……?」
魔法少女が美しいロングヘアーを自慢げになびかせる姿を思い浮かべてしまい、上司に向かって怒鳴り散らすニコチン准尉。
「そんな訳ねぇだろ!でも!ボルベスに往った怪獣が一向に成長しねぇから!こっちである程度成長させてから送り込むしかねぇんだよ!」
ニコチン准尉の怒鳴り声に少々引くネブソク少将とシラミ上級曹長。
「解った……君の悔しい気持ちは良く解った……」
「はっ!失礼いたしました!」
そこへ、フケ曹長が嬉々としてやって来た。
「ボルベスの怪獣への攻撃手段を劇的に変える方法が有りますぞ!」
驚く一同。
「何!?あるのか!?そんな方法が!?」
フケ曹長が嬉々として説明する。
「上手くいけば……ボルベスは、もう2度とあの妙な連中の妙な術に頼らなくなり、ボルベスに往った怪獣もすくすくと成長する事でしょう」
「で、その作戦とは?」
1人の日本人が悔しそうに現場監督官の説明を聞いていた。
「今日の朝礼なんだが、良いニュースと悪いニュースがある。どっちから訊きたい?」
「悪い方からー」
朝礼に参加している作業員が冗談を言うと、他の作業員が笑った。ただし、現場監督官すら笑っているのに1人だけ笑っていない。
「くっ!」
だが、その1人の悔しそうな顔に気付く事無く朝礼は進む。
「では悪いニュースからだ。この前の健康診断の結果、うちのもんが4人も魔法少女管理委員会に盗られた。で、良いニュースは、現段階での最上階での作業に3人程空きが出来た。誰か志願する奴はいないかー?」
悔しそうにしていた男がその仕事に志願する事は無かった。
この男の名は「叩務」。叩が苗字で務が名前である。
彼は、日本人でありながら兵器や軍隊を崇拝し、戦争の事を「人類に発展と繁栄を与え続ける貴き現象」と決めつけていた。
勿論、彼の希望職種は軍隊だった。
しかし、彼が自衛隊に入隊出来る歳になった頃には、自衛隊はレスキュー隊との差がほとんどない程まで変わり果てていた。
その最大の原因は、やっぱりダメージヘアー星人が送り込んだ巨大怪獣の存在である。
巨大怪獣の前では、世界各国の軍隊が使用する通常兵器はまるで歯が立たず、それどころか巨大怪獣の急成長・急強化を大幅促進させてしまう体たらくだった。
それ以降、例の複数の隕石群による巨大怪獣除けと、隕石の欠片を移殖する事で誕生する魔法少女による巨大怪獣討伐に頼っているのが現状なのだ。
通常兵器の地位や名声は、底辺を大きく下回ったのだ……
叩は泣いた。
兵器を触らなくなった自衛隊の体たらくに。
兵器や軍隊への信心を完全に失った政府の体たらくに。
人類に発展と繁栄を与え続けてきた戦争への邪悪な手のひら返しを平気で行う愚民達の体たらくに。
叩は、これ以上……戦争の恩恵を失い堕落と衰退の一途を辿る人類を見るのが……辛かった。
だが、叩は諦めてはいなかった。
通常兵器だけで巨大怪獣を討伐すると言う絶対に発生しない現象(叩はそう思っておらず、本当は兵器が巨大怪獣討伐の最大の武器だと信じている)を発生させる方法を根気強く探し続け、(ほぼ絶滅危惧種と言って言い)同士をひたすらに募り続け、遂にある組織に辿り着いた。
国連非公認組織「兵器推進善業」。
彼らは、巨大怪獣の出現によって見向きもされなくなった兵器を密かに開発・量産し続け、通常兵器だけで巨大怪獣を討伐する日(本来なら絶対に来ない)と通常兵器の地位や名声を意図的に急落させた魔法少女管理委員会の不正を暴く日(彼らと叩の逆恨み的見当違いで、本当に通常兵器の地位や名声を謀らずも急落させたのはダメージヘアー星人と巨大怪獣)に備えて力を蓄え続けたのだ。
叩は、その集会に積極的に参加した。
叩にとっては有意義で充実した時間だった。
そして確信した。人類にとって魔法少女管理委員会や戦争否定派は癌細胞以外の何者でもない猛毒であり、戦争こそが人類に発展と繁栄を与え続ける貴き現象だと。
そして、叩達はある計画を実行に移す。
その計画が……地球を破滅に導き、地球の敵である筈のダメージヘアー星人が歓喜と勝利の美酒に支配される最大の原因だと知らずに……
ライラは、今回の巨大怪獣の出現の仕方に疑問を持っていた。
「今回は随分予想進路がハッキリしているな?ブレも少ない」
「はい。我々が使用している機材が大幅に改善されている訳でもないのに」
ライラは嫌な予感がした。
本来なら、巨大怪獣の発生地点と予想進路が完璧に解っているのは良い事なのだ。戦う側にとっても逃げる側にとっても。
だが、ライラは何故か素直に喜べなかった。寧ろ、虫の知らせ的な何かが騒ぐのだ。
(何なんだ?この違和感は?)
強田も、今回の出動に謀略的な何かを感じていた。
夏芽が心配そうに訊ねる。
「どうしたの?」
「なんか……今回の出撃は、何か変じゃないか?」
だが、魔法少女全員が虫の知らせ的な何かに襲われた訳じゃなかった。
「何言ってるの!?お陰で民間人を逃がし易くなったし、心置きなく戦える!」
でも、強田の違和感は止まらない。
「……本当にそうなのか?」
そして……強田とライラの嫌な予感は、裏切りと言う形で現実となってしまった。
ライラとオペレーター達が叩達にマシンガンを突き付けられてしまったのだ。そして、出動準備をしていた魔法少女達もである。
「何の真似だ?」
叩が怒りを込めて言う。
「お前達が人類から奪った物を返して貰いに来た!」
ライラは理解に苦しんだ。
魔法少女が巨大怪獣と戦い、委員会がそれを管理する。それだけの話の筈だ。
ダメージヘアー星人や巨大怪獣が略奪者扱いされるのは納得出来るが、我々が略奪者扱いされる覚えは無い筈だ。
ライラが人類から奪った物が何か一向に思い出さない事にしびれをきらした叩がピストルを真上に発砲し、オペレーター達に悲鳴を上げさせた。
「とぼけるな!お前達がアレを奪ったせいで、人類は衰退と退化の一途なんだよ!」
叩の言い分が魔法少女に管理委員会への猜疑心に繋がる……事は無かった。
寧ろ、委員会に軍事クーデターを行った者達の理解の無さに呆れと哀れみを懐くだけであった。
だが、それを口にする事は出来なかった。オペレーター達が人質に盗られているのを既に知っているからだ。
これが魔法少女だけならいとも簡単に撃破出来ただろう。だが、オペレーター達は戦う術を持っていない。しかも、人質の数はかなりのもので、1人2人死んでもなお人質としての効果を発揮するのだ。
でも、夏芽は我慢出来なかった。もう直ぐ巨大怪獣が上陸するからだ。
「待って下さい!せめて……せめてあの―――」
だが、兵士達は夏芽の訴えを最後まで聴くどころか夏芽の右足を銃撃した。
「!? 曙!?」
強田が夏芽に駆け寄った。
「大丈夫か!?」
夏芽は強がった。
「私は大丈夫。それより、あの巨大怪獣を」
強田が悔しそうかつ残念そうに首を横に振った。
「駄目だ……この卑怯者共が許さない。少なくとも今日の出撃は……な」
その間、強田が夏芽の足を超能力で治療していたが、
「そんなふざけた嘘を吐き続ける気か?」
かつての強田なら、この時点で大乱闘を発生させていたであろう。だが、今回は動かなかった。強田の名誉の為に言うのであれば、あくまで「動かなかった」であって「動けなかった」ではない。
この者達に、「命令して下さい」と言わせる程ボコるだけで改心する程の良心すら残っていない事に気が付いてしまったから。
とは言え、巨大怪獣の上陸が迫っているので、魔法少女達は急いで現場に急行しなければならないのだが、
「安心しろ。お前達が世界に吐き続けた嘘は暴かれ、兵器は本来の役目に戻り、巨大怪獣は駆逐される」
魔法少女達は、観せられた映像に愕然とした。
巨大怪獣上陸予定地に居並ぶ戦車、戦闘機、戦闘ヘリ、軍艦。
巨大怪獣にとっては栄養剤でしかない物が居並んでいると言う、地球側にとっては最悪の事態であった。
流石に人質になっているオペレーター達を見殺しにしてでも止めなきゃいけない最悪の状況に、1人の魔法少女が叫ぶ。
「やめさせろ!あんな事をしたら、巨大怪獣が―――」
「黙れ嘘吐き!」
兵士の1人が魔法少女のこめかみを撃ち抜いてしまった。
だが、兵士達に罪悪感は無かった。
「おいおい。この後、こいつらを警察に突き出す予定じゃなかったのか?」
「良いじゃねぇか。どうせ、逮捕されても死刑判決がオチなんだからよ」
強田が悔しそうに歯ぎしりした。
一方、ライラも命と大義を天秤にかけなければならない状況に陥ってしまった。
「どうした……早く読め!それが、お前達の唯一の贖罪なんだ!」
巨大怪獣や魔法少女を良く知るライラにとって、叩達に渡された原稿は、地球をダメージヘアー星人に明け渡す事を認める程危険な物だった。
「本当に大きな声で読んでも良いのか?ダメージヘアー星人の思う壺―――」
「この期に及んで嘘を吐くなぁ!どうせ……お前達の嘘は、もう直ぐ暴かれるんだからよ!」
でも、ライラは叩達に渡された原稿を読む事は出来なかった。読めばダメージヘアー星人と巨大怪獣の思う壺だからだ。
一方の叩は、イライラはすれどまだ余裕はあった。
巨大怪獣上陸予定地に居並ぶ兵器推進善業の皆さんが、通常兵器だけで巨大怪獣を討伐してくれると信じているからだ。
「読みたくないなら読まなくて良い。だが……後で後悔する事になるぜ」
最早、ライラに出来る事は……もう直ぐ発生する最悪な事態を悔しそうに観るだけであった。
それを察した叩達の1人が、叩達にバレない様にダメージヘアー星人に通信を入れた。
この時点で叩達は気付くべきだった。
自分達がダメージヘアー星人の手の平で踊らされていた事に。
だが、残念ながら叩達は自分達の致命的なミスに気付かない。通常兵器が巨大怪獣に完勝すると言う、本来なら在り得ない現象を見届ける為に。
ダメージヘアー星人達は、歓喜を必死に我慢しながら兵器推進善業と巨大怪獣との戦いを見守っていた。
そして遂に、ウサギとチンパンジーを同時に兼ね備える巨大怪獣が姿を現してしまった。
「全部隊、攻撃開始!」
とうとう巨大怪獣最大の栄養剤である通常兵器が火を噴き、全弾命中してしまった。
その結果、巨大怪獣は最初とは比べ物にならない姿へと急成長した。
突然ブリッジを始めたかと思うと、頭部が一旦胴体に収納され、へそから頭部がニョキっと生え、その頭部が4等分されて目と耳が4つに増えた。
更に、手足の部分が車輪に変化し、肘や膝からパトランプが生え、頭部が有った部分がジェットブースタへと変形し、局部から複数の縄分銅が生えた。
とここで、ダメージヘアー星人達がとうとう歓喜と勝利の美酒に完全に支配されてしまった。
嬉し過ぎて変な踊りを踊る者。
肩を組み合う者。
握手し合う者。
ダメージヘアー星人達がそれぞれの形で喜びを表現したのだ。
「馬鹿な……そんな馬鹿な!」
叩達は、この状況を信じられず、全く理解出来なかった。
兵器推進善業がかき集めた通常兵器が巨大怪獣を斃し、魔法少女管理委員会の嘘を暴いて兵器や軍隊の名誉と必要性を飛躍的に回復する筈だったのだ。
だが、結果は違った。
兵器推進善業がかき集めた通常兵器が巨大怪獣の成長と変形を促してしまっただけであった。
それでも、叩はスクリーン越しに巨大怪獣と戦う前線部隊に檄を飛ばずと共に、前線部隊の予想外過ぎる苦戦に困惑する同胞に活を入れた。
「諦めちゃダメだ!俺達の使命を忘れるな!魔法少女管理委員会の嘘を暴き、兵器や軍隊の名誉と必要性を飛躍的に回復させ、人類の発展と繁栄に必要不可欠な存在である『戦争』を取り戻すんだ!」
だが、叩の望みと責務に反して、ダメージヘアー星人達にとって嬉し過ぎる誤算が発生してしまった。
兵器推進善業がかき集めた通常兵器を嗅ぎつけて、カエルとカマキリを同時に兼ね備える巨大怪獣とカバと水牛を同時に兼ね備える巨大怪獣が、同時に出現してしまったのだ。
このまま……ダメージヘアー星人達の勝利が約束された状態のままで終わってしまうのか?
いや!歓喜と勝利の美酒に完全に支配されてしまったダメージヘアー星人達は気付かない。この計画のほころびを無理矢理作ろうとしている者が既に動き出している事に……
今回から登場する「叩務」のモチーフは、愚かで無知だった頃の私です。
戦争に勧善懲悪を持ち込む様な娯楽映画を何の疑いも無く楽しんでいた頃、正義のヒーローに強力な武器を持たせるべきだと考えていた頃、そんな間違った子供らしさを抱えながら大人になってしまった不幸者が、今回から登場する「叩務」なのです。