芳佳「リリィ?」梨璃「ウィッチ?」   作:ひえん

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芳佳「リリィ?」梨璃「ウィッチ?」

扶桑皇国 相模湾上空

 

 洋上を飛ぶ二つの飛行物体。

 だが、それは飛行機ではない、ほぼ生身の少女が空を飛んでいる。そして、この空飛ぶ彼女達の正体は魔法を使う事ができる人間…ウィッチと呼ばれる存在なのだ。そして、この世界にある日突然現れたネウロイと呼ばれる異形の怪物に対抗する貴重な戦力でもある。

 さて、そんな彼女達がどのような手段で空を飛んでいるのか…それはウィッチの持つ魔法の力によるものである。しかし、いかに魔法の力と言ってもそれだけで空を飛ぶ事は非常に難しい。よって、それを解決する為にウィッチは自らの魔法力を増幅する装備を身に着けているのである。彼女達が両脚に付けている円筒形の機械、それがストライカーユニット…現代の魔法の箒とも例えられる装備である。そして、増幅した魔法力を使って魔導エンジンを動かし、その力で空を飛ぶ。

 

「静夏ちゃん、待ってよー」

「頼まれたからって積み過ぎです、宮藤さん!追浜まであと少しですから、もうちょっとだけ頑張ってください!!」

 

 そして、相模湾の上空を飛んでいる二人は第501統合戦闘航空団…ストライクウィッチーズに所属する宮藤芳佳 扶桑海軍少尉と服部静夏 扶桑海軍少尉である。統合戦闘航空団とは、各国の垣根を越えて世界各地から腕利きのウィッチを集めて配備した精鋭部隊である。この二人もその精鋭部隊の一員としてつい先日まで扶桑から遠く離れた欧州の地で戦い、ネウロイに占領されていたベルリンを奪還する事に成功したのであった。

 そして、二人はそんな大作戦を終えて、休暇の為に故郷である扶桑に帰還してきたばかりであった。

 欧州から船便で呉に到着、そのまま近くの海軍工廠にてストライカーの整備と点検を実施。その後、ストライカーで飛んでまっすぐ横須賀の追浜まで向かう予定だった。だが、その呉の海軍工廠で武器弾薬をついでに横須賀まで運んでほしいと依頼を受け、芳佳が承諾。そして、それを抱えながら途中の数か所で休憩と補給を受け、やっと横須賀の目と鼻の先までたどり着いたのだ。先の荷物を抱えた事で重量と空気抵抗が増し、スピードと航続力が低下した為に予定よりも到着が遅れてしまっている。

 そんな状況に静夏は若干焦りながらも地形を見ながら針路を決める。ここは勝手知ったる三浦半島の周辺、地形を見れば今の位置は一発で分かる…左手には江の島が見える。さて、もうそろそろ鎌倉か…と視線を動かす。浜辺の先に美しい屋根瓦の並ぶ古き良き街並みが見えてきた。そして、その奥には青々とした山々が…と、そこである異変に気が付いた。

 

「宮藤さん、あれ…なんでしょう?」

「何?どこ?」

 

 芳佳は静夏の指差す先に視線を向ける。すると、そこには山の中腹に白い雲の柱らしきものがそびえていた。その雲はとても自然現象とは思えない不自然なものに見える。そして、二人はこのような雲にある心当たりがあった。

 

「まさか、ネウロイの巣!?」

「こんな内地のど真ん中でそんな事は考えたくないですが…雰囲気は似ていますよね」

「見に行こう」

 

 芳佳の表情が険しくなる。この辺りは彼女にとって故郷の目と鼻の先なのだ、そんな所で異変が起こる事を恐れているのである。だが、問題はそれどころではない。そのネウロイの巣とは、文字通りネウロイが出現する巣のようなものである。よって、こんな所でそんなものが現れると主要軍港である横須賀や首都である東京すら直接の危機に晒される事となるのだ。そして、二人は緊張しつつも預かった荷物の封を開ける。中に入っていた九九式二号二型改13mm機関銃を取り出し、弾薬を装填。届けるように言われた荷物ではあるが、非常時なので仕方がない。

 機銃の安全装置を解除するとそのまま速度を上げる。浜松の陸軍飛行場で先程休息した為、魔法力も燃料もまだまだ余裕がある。そして、芳佳が先頭を進み静夏が右後方に続く。いざとなれば二人で敵を挟み込む事ができる態勢だ。それぞれ上下左右をよく見張る、これがもしもネウロイの巣であれば最早ここは危険域だ。奇襲を受ける恐れすらある。あの雲が何かの間違いであればいいのだが…だが、雲の柱のそばに何かを見つけた。高度は自分達よりも下、ゆっくり飛んでいる。数は一機。

 

「あれは?飛行機じゃない…ネウロイ?いや、でも…銀色?」

「銀色のネウロイ…戦争初期に出現した記録はありますが、最近は目撃例がほぼありませんね。だとすると、あれは…」

「どちらにしろ、ネウロイだとすれば街が危ない!行こう!!」

「了解!!」

 

 鎌倉上空にて所属不明の飛行物体を発見。これより接触・確認を行う…と静夏が無線で周囲の友軍へ一報、横須賀からの返信を待たずに雲の柱へ向けて突っ込む。今は一刻を争うのである。すると、眼下を飛ぶ銀色の飛行物体は二人の存在に気づいたらしい。高度を上げる素振りを見せたのだ。そして、それは間違いなく人類が使うような航空機ではなかった。その特異な姿はエイかマンボウのような形状をしている。自分達のよく知るネウロイと比べると、このネウロイらしき銀色からは生物のようなどこか生々しい雰囲気が漂っているような気がした。

 

「ネウロイ発見!!」

 

 二人は同時に無線に向かって叫ぶ。すぐに周囲から問い合わせの無線が飛んでくるが、既に攻撃態勢に入っている為に対応できない。そのまま銃を構える。あと少し…あと少し…芳佳がそう考えながらタイミングを計っていると、目の前の銀色の物体に変化があった。

 

「なっ…!?」

 

 二人は思わず驚きの声を漏らす。銀色の物体が大量の触腕のような物を出したのだ。その触腕の先端には刃物のような爪状の物体が付いている。これは本当にネウロイか?そんな考えが二人の脳裏を過る。これはあまりにも異質だ…通常のネウロイは光線や飛び道具の類を使ってくるのに。

 そんな事を考えた途端、銀色の物体は触腕を伸ばして襲ってきた。二人はそれを回避すべく、咄嗟に左右へと分かれる。そして、体を捻りながら急降下し、回避には成功。しかし、上方からの射撃タイミングを逃してしまった。そのまま頭を上げて上昇。芳佳と静夏はアイコンタクトを交わし、攻撃をやり直す。相手は緩やかに旋回しながら降下、螺旋を描くような機動だ。そして、旋回を止めて直進し始めた、静夏目掛けて突っ込む様子である。一方、芳佳からは相手の背中がよく見える…絶好の射撃位置だ。

 

「静夏ちゃん、相手の後ろに付いたよ!」

「了解!」

 

 目標の未来位置を予測しながら射撃開始、魔法力のこもった13mm機銃弾が勢いよく次々と放たれる。曳光弾が伸び、そのまま銀色の物体へと飛び込んでいく。命中確実、二人はそのままネウロイ最大の弱点であるコアの出現に備える。そのコアさえ破壊すればネウロイを倒す事ができるのだ。だが、ここで思いもよらぬ事態が発生する。目標に弾が当たった瞬間、青い液体が被弾箇所から噴き出したのだ、まるで生物の体液のように。だが、通常のネウロイではこのような現象は発生しない。

 

 こいつは何だ?

 

 目標は青い液体を噴き出しながらも雲の柱へと飛び込む。二人は後を追おうと同時に動く。しかし、芳佳が叫んだ。

 

「静夏ちゃんはこのまま横須賀に行って援軍を呼んできて!!あのネウロイは私が追うから」

「しかし、一人では…」

「無線報告だけだとみんな半信半疑だろうから、直接行って説明した方が味方も動きが速いと思うの。あと、預かった他の荷物も置いてきた方が戦いやすいだろうし、壊しちゃうと流石に悪いから…大丈夫、無理はしないから」

「分かりました。絶対に…とにかく絶対に無茶はしないでくださいね!」

 

 静夏はそう言うと、芳佳が背負っていた荷物を受け取る。そして、芳佳はにっこり微笑むと、そのまま雲の柱へと向かって飛んで行く。一方、静夏はそれを見送ると、追浜へと向けて飛ぶ…急報を知らせる為に。

 

 

 

 

 

「えーと、雲の柱…ですか?」

「そう。そこの窓の外に見えるあの山に」

「ああ、確かに。黒い雲でなんか不気味ですね」

「陸の上という特異なものではあるけれど、あれが新しいヒュージネストかもしれない。よって、一柳隊には調査に行ってほしいの。今のところ、レギオン一つと防衛軍の偵察隊が先行偵察中。どうも、現地は毒ガスみたいなものが出ているとか…」

「毒ガスですか…?」

「ええ、おそらくヒュージが出しているものだと思われるわ。微量だけど成分は不明。でも、CHARMを持ったリリィや完全装備の人員は平気みたいよ」

「分かりました。では、一柳隊出動します」

 

鎌倉のとある山中

 

 山野の中を九人の少女が駆ける。

 

 それぞれ巨大な剣のような武器を持ち、常人を超えたスピードで駆けて飛ぶ。そんな彼女達はリリィと呼ばれる少女である。リリィとはマギと呼ばれる魔力とCHARMという特殊な武器を使う事ができる人間だ。そして、彼女達は人類の敵であるヒュージというマギを持つ巨大生命体と戦う事ができる希少な戦力なのだ。

 この場を駆けるのは百合ヶ丘女学院のレギオンの一つ…一柳隊の九人である。この百合ヶ丘女学院はそのリリィを文武両面から養成する学校であり、ヒュージと戦闘を行う実戦部隊を運用する組織でもある。そして、リリィはレギオンと呼ばれる一団を組んで任務に当たるのだ。この一柳隊は学院で定められた最少人数の九人で結成されている。この一柳隊は既にいくつもの戦闘を潜り抜け、幾多の実績を上げている。そんな彼女達に今回与えられた任務は学院の近くに現れた謎の雲の柱、その調査である。それがヒュージの巣…ヒュージネストである可能性があるからという理由である。よって、事態は緊迫していると言える。この雲がもしもヒュージによるものであれば、ここはもう既に怪物の群れの真っ只中かもしれないのだ。

 

「止まって、あの靄の向こうが目標地点よ」

 

 一柳隊の一員である白井夢結が言う。そして、木々の間に見える靄の壁を目前に一柳隊一同は前進を止める。

 

「不気味ですわ。まるでこの世との境目と例えていいような」

 

 同じく一柳隊の一員である楓・J・ヌーベルが目の前の靄を見ながらぼやく。

 

「とりあえず、進みましょう。視界が悪いから奇襲に気を付けて」

 

 隊長である一柳梨璃が緊張したような口調でそう指示を出す。そして、一柳隊は靄の中へと足を踏み入れた。雲の内部は霧の中のように視界が悪い。おおよそ150m程先がやっと見えるぐらいの視界だ。よって、リリィ達は慎重に歩き出す。そして、3分ほど歩くと斜面に道を見つけた。それは木が生えていない舗装もされていない一本道、四人並んで歩けるぐらいの広めの幅だった。

 

「これは登山道かハイキングコース?」

「さて、どうかな。それにしては広い…林業や工事用の道路かもな」

 

 隊の後方を歩く安藤鶴紗が疑問を口にする。そして、それを聞いた吉村・Thi・梅がそう考えを述べた。すると、隊が止まった。後方の人員がどうしたのかと前方を注視すると、そこには木が一本も生えていない円形の広い空き地が広がっていた。

 

「こんな空き地、地図にはありませんよ…」

 

 端末でマップを確認していた二川二水が不安げに口を開いた。

 

「じゃあ、これは罠?」

 

 王雨嘉がCHARMを射撃モードに切り替えて構える。

 

「かもしれません、どうも先程からずっと違和感がありました。だって、今まで坂のある山道だったのに…いつの間にか地形が平地になっているのですから」

 

 郭神琳の一言で全員がハッとしたように驚く。確かに傾斜が無い…あまり広いとは言えないこの山にこんな平地が存在するはずもない。

 

「鷹の目で索敵はできんのか?」

 

 ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスが周囲を見回しながら言う。鷹の目はリリィが使う事の出来るレアスキルという特殊能力の一つである。その能力は上空の視点で周囲を俯瞰するというもので、この隊では二水だけが使用する事ができる。しかし、二水は緊張したような声で返事を返す。

 

「いえ、先程使っては見ましたが…視界不良で駄目でした。一応、周囲にヒュージの反応はありませんが」

 

 それを聞いた夢結が咄嗟に叫ぶ。

 

「総員警戒!」

 

 九人は全方位を警戒すべく各々が各方向を見張る。そして、鶴紗が何かに気づく。この空き地の外縁には木々がある。しかし、その木々の間で何かが動いているのだ。

 

「なんだあれ?鹿か?」

 

 その声に全員の視線がそれに集まる。すると、木が数本倒れて何かが飛び出してきた。

 

「ヒュージ?いや、何か違うような…」

 

 それは黒い物体だった。人より二回り大きいぐらいの黒い立方体、それに足のような物が4つ付いている。金属のような無機質な質感、表面にはところどころ赤い斑点がある。これはヒュージ?いや、機械か?

 

「っ!!来るぞ!!」

 

 直感で異変を感じ取った梅が叫ぶ。それと共に九人は地を蹴って散開。刹那、赤い光線が飛び込んできた。あの黒い物体がそれを撃ってきたのだ。お返しと言わんばかりに九人が一斉に射撃を浴びせる。そして、マギのこもった弾丸が次々と目標に飛び込む。命中弾多数、このまま青い体液をまき散らして倒れる…そうリリィ達は思った。だが、その黒い物体は破片をまき散らし、いくつもの大穴が開いてもまだ倒れない。そして、その被弾箇所の内部は生き物のそれではない…まるで金属の塊のようだ。

 

「なんですの!あれは!?」

 

 楓が驚いたように叫ぶ。そして、飛んできた光線を避ける。

 

「分からん!あんなヒュージは見たことが無い!!」

 

 ミリアムがそう叫び返しながら撃つ。そして、その放った弾丸は目標の足を一本へし折った。

 

「よーし、やったか!」

「いえ、あれを見て!」

 

 黒い物体の被弾箇所が白く輝く。すると、光っている箇所が次々と修復されていく。それを見たミリアムは仰天しながら叫ぶ。

 

「なんじゃと!?」

「なんて回復力…ただのラージ級ヒュージとは思えない。これは…まさか、特型ヒュージ?」

 

 相手は特殊な部類のヒュージらしい。これは長引くと厄介な相手であり、この手の部類は逃がすと更に面倒な事態に発展しかねない…それを見ていた夢結の脳裏にそんな考えが過る。そして、夢結は咄嗟に駆け出した。

 

「近接戦闘で一気に片を付けるわ!援護を!」

「お姉様、一人じゃ危険です!」

 

 梨璃もワンテンポ遅れて駆け出す。だが、夢結は既にCHARMを振り上げて黒い物体に斬りかかっていた。そして、そのまま刃を振り下ろす。黒い物体の上部と足が一本ざっくりと斬り落とされ、弾け飛んだ。これで今度こそ倒したはず…夢結を含めて皆はそう確信する。だが、即座に赤い光線が放たれた。あれだけのダメージを与えてまだ動くのか…その場の一同は驚愕する。しかし、皆がそれに気を取られていると、梨璃の悲鳴が響く。

 

「お姉様!!」

 

 夢結が倒れ込んだ、被弾したのである。右脇腹から血を流し、苦しんでいるような表情を見せる…その傷は深そうだ。そして、梨璃が駆けこんだ勢いのまま夢結の前に滑り込んだ。夢結の盾になるように…

 

「お姉様は…私が守ります!」

 

 そして、梨璃がCHARMの切先を黒い物体に向ける。黒い物体はいつの間にかその大部分が回復しており、梨璃に向けてゆっくりと動き出す。釣られるように他のリリィが駆け出すが、赤い光線の発射を阻止するには間に合いそうもない。最悪の想像が皆の脳裏を過る。すると、どこからかエンジン音のような爆音が鳴り響いてきた。

 

「やらせない!」

 

 そんな叫び声や爆音と共に木々の間から何かが突っ込んできた。そして、その何かは光の壁を正面に張って黒い物体へと飛び込んでいく、まるで体当たりのような勢いで。すると、その光の壁と黒い物体が衝突、黒い物体はそのまま弾き飛ばされた。

 

「あの光は…ヘリオスフィア?いや、違う…それにあの方はいったい?」

 

 楓がそれを見て呟く。そして、光の壁を生み出す発生源を見ると一人の少女が浮いているのが見える。あれはリリィか?しかし、妙だ。CHARMは持っていない。機関銃と言っていいぐらい大きなサイズの銃を抱えているし、脚には妙な機械が付いている。そもそも、彼女はどうやって飛んでいる?皆が疑問を浮かべる中、その少女は黒い物体に向けて銃撃。

 黒い物体はたちまち多数の機関銃弾を浴び、破片が次々飛び散る。それを見て、援護せねばと雨嘉が咄嗟に撃つ。CHARMから放たれた超高速の弾丸は黒い物体の胴体を貫いて風穴を開けた。すると、その穴の中に妙なものが見える。

 

「あれは…赤い宝石?」

 

 穴の中には赤い宝石のような物体が浮いていた。

 

「あった、コアだ!」

 

 宙を浮く少女がそう叫ぶと、彼女はその赤い物体に銃弾を浴びせていく。そして、銃弾を浴びた赤い物体は崩壊、砕け散る。それと共に黒い物体も四散、そのまま跡形もなく消えた。

 

「怪我人は、その方は大丈夫ですか!?」

 

 宙を浮いた少女が振り返って梨璃に話しかけてきた。そして、梨璃は夢結の傷口を布で止血しようとしながら答える。

 

「はい、今の戦闘で撃たれてしまって…」

「脇腹ですね…今すぐ治療します」

「え?治療って、どうやって…」

 

 謎の少女は夢結の傷に手をかざす。すると、青白い光が傷を包み込んだ。そうしていると、他のリリィも駆けよって来る。

 

「それは…」

「私、治癒魔法が使えるんです。あ、終わりましたよ」

 

 その一言を聞いた梨璃は夢結の傷を見る…傷は綺麗に消えていた、まるで本当に創作物の中の魔法のように。しかも、それがレアスキルではなく、魔法だと彼女は言った。梨璃がそれに驚いていると、謎の少女は笑顔でこう言った。

 

「海軍少尉の宮藤芳佳です。えーっと…先程の援護射撃、ありがとうございました。それで、皆さんはどちらの所属のウィッチでしょうか?見た事のない制服と武器ですけど」

 

 それを聞いた一柳隊一同は一斉に首を傾げる。

 

「ウィッチ?…魔女?」

「え?」

 

 逆に梨璃が質問する。

 

「私は百合ヶ丘女学院の一柳梨璃です。あの…宮藤さん、あなたはリリィですよね?」

「学生さん?それにリリーって…百合の花がどうしました?」

 

 今度は謎の少女が首を傾げる。話がどうも通じない…それに、謎の少女には犬の耳と尻尾のようなものが生えている。やはり、彼女はどこか怪しい。一柳隊の面々は静かに宮藤という少女を取り囲む態勢に入った。万が一に備えてである。

 

「あのー、その脚に付けている機械は…?」

「ストライカーユニットですけど、どうしました?」

「んー?CHARMか何かの一種ですか?」

「チャーム…?これの名前は震電ですけど」

「シンデン…?」

 

 梨璃は困惑した表情で楓を見る。話が通じないので困り果てているのである。だが、宮藤という少女も同じく困り果てた様子の表情だ。これはどういう事だろう、楓も首を傾げる。一方、ミリアムはストライカーユニットという謎の機械を目視で観察していた。

 

「これは…マギを推進力にして浮いておるのか?うーむ、見ただけではよく分からん」

「ミーさん、どうしました?」

 

 神琳がミリアムに声をかける。

 

「流石にその呼び方はどうなんじゃ…いや、どんな理屈でこれが飛んでいるのか、つい気になってな」

「確かに。しかし、彼女の持つ武器も気になります。見た目はただの銃にしか見えません。でも先程、黒いヒュージにかなりのダメージを与えていましたが…」

「あの口径だと車両に搭載したり、地面に据えたりするような重機関銃クラスじゃのう。とても人が抱えてぶっ放せるような代物じゃない」

「では、やはり彼女はリリィでしょうか?」

「多分な、どんな手か知らんがラージ級ヒュージに有効打を与えておったし。じゃが…今時こんな古い作りの銃とは珍しい」

「ああ、樹脂なんかのパーツが見当たりませんね。デジタル式の照準器も無さそうですし」

「うむ。あのストックも木製か?あと、あの服装…なんとも奇抜じゃのう」

 

 ミリアムと神琳は宮藤の装備品を見て考え込む。見た目はほぼ真新しい新品であるのだが、その構造はやたら古めかしく見えるのだ。一方、夢結は起き上がろうと体を起こす。

 

「とりあえず…話が噛み合っていないから情報を整理した方がいいわ。これは何かがおかしい」

「お姉様!?まだ安静にしていた方が」

「いえ、大丈夫よ。傷も消えているし…彼女に話を聞くだけだから」

 

 そして、夢結は宮藤という少女に一つの問いを投げかけた。

 

「こんな質問をいきなり聞くのは失礼ですが、年はお幾つでしょうか?先程、海軍少尉とおっしゃっていましたが…どうにも同年代にしか見えなくて」

「年ですか?今年で16です」

「えっ…」

 

 16で軍人かつ士官…そんな無茶苦茶な話があるものか。と一同が揃って声に出そうとするが、その前に宮藤の口から更に衝撃的な一言が飛び出した。

 

「ええ、1929年生まれの16です」

 

 そして、その一言を聞いた一柳隊の全員が絶句した…その年は100年以上も昔なのだ、悪い冗談としか思えない。

 

「聞き間違いかしら…1929年?」

「ええ、そうですが…」

「それは何の冗談?」

 

 夢結が睨みながら言う。

 

「冗談?ええっと、それはどういう意味で…」

「そんな大昔の人間がいるわけが無いわ」

「大昔!?今は1946年ですよ!」

「それは本気?」

 

 宮藤がそう言い返してきたので夢結はため息をつく。このままではらちが明かない…いっその事、強硬手段を取ってこのまま学園に連行するか?とも考える。彼女がどこかの組織のスパイや工作員という可能性も捨てきれない。なにしろ過去いくつかの騒動で一柳隊はそういった組織から睨まれている節があるのだ。その場合、このままグダグダと話続けるのは危険かもしれない。最悪の場合、ここで包囲される恐れもある。すると、梨璃が口を開く。

 

「お姉様、もうその辺りで勘弁してあげてください。どうも私にはその人が嘘を言っているようには思えないのです。あの表情は純粋に困っているように見えるというか、なんというか…それに、真っ先にお姉様を助けてくれましたし、とても悪い人には思えないのです」

 

 夢結はそれを聞いて再びため息をつく。

 

「甘いわね、相変わらず。で、どうするつもり?」

「私も質問してみます。何か分かるかもしれません」

 

 そう言うと梨璃は宮藤に質問する。

 

「ええと…宮藤さんは私達とは反対方向から来たのですよね。この先はどうなっていますか?」

「この先ですか?あの雲の壁を抜けると鎌倉近くの山に出ますよ。よく確認せずに飛び込んだので具体的な場所まではなんとも」

「やっぱり反対側から入ってきたのですね。うーん…じゃあ、雲の中だけおかしいのかな?でも、さっき言っていた事は…んー?」

 

 梨璃が首を傾げながら考え込む。

 

「先程の話を合わせて考えると、この先は1946年の鎌倉…という事になりますかね。とても信じられませんが」

 

 神琳が道の先を見ながらポツリと呟く。すると、それを聞いた梅がにやりと笑いながら言う。

 

「それは面白そうだ。よし、梅がちょっと見に行ってみるか。あの先がほんとに大昔かどうか」

「危ないわ、やめた方がいいわよ」

「平気、平気。じゃあ、行ってくる」

 

 梅は夢結の忠告を笑いながら断ると、地面を蹴ってそのまま消える。レアスキルの縮地を使って高速移動したのだ。一方、一瞬で消えた梅を見た芳佳は驚愕した表情で左右を見回していた。

 

「今のは何かの固有魔法ですか?」

「固有魔法…?レアスキルの縮地ですが」

 

 レアスキルという単語に芳佳は首を傾げる。そして、芳佳はストライカーユニットを外しながら恐る恐る聞く。

 

「確認ですけど、皆さんウィッチですよね…?」

「すみません。私にはそのウィッチというのがどういうものか分からなくて…」

 

 芳佳は唖然とした表情を浮かべる、ウィッチという単語が通じない事に驚いているのである。重々しい音を立てながら機銃を地面に置くと、それと共に芳佳の耳と尻尾らしきものが消えた。そして、それを見たミリアムが口を開きながら驚く。

 

「いきなり消えたぞ。どうなっておるんじゃ!?」

「ただの付け耳ではなかったようですね。しかし、手品という訳でもなさそうですし…」

 

 皆が様々な事態に困惑していると、遠くから慌てるような大声が聞こえてきた。

 

「た…た、大変だ!大変だ!!」

 

 梅が縮地も使わずに全速力で走りながら戻ってきた、顔色が真っ青だ。何かあったのだろう。心配そうに鶴紗が水とタオルを手渡しながら聞く。

 

「先輩、そんなに慌てて何かありましたか…まさか、ほんとに敵襲?」

「いや、違う。さっき言っていた事は本当だったんだ!」

「え、何がです?」

 

 すると、水を一口飲んだ梅が叫ぶように言う。

 

「だーかーら!!あの向こうは本当に大昔の鎌倉だったんだってば!!!」

「え…ええっ!?」

 

 梅から帰ってきたその言葉に、一柳隊一同は一斉に驚きの声を上げた。

 




雲の中に現れた未知の怪物、そして謎の少女。皆はその異常事態にただ困惑するしかなかった。
今できる事はひたすら情報を集めて報告する事である。
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