芳佳「リリィ?」梨璃「ウィッチ?」   作:ひえん

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東京にて:前編

 日本からの外交団とその護衛であるレギオン、アールヴヘイム一行は鎌倉からの特別列車に乗り、無事に東京へと到着した。元の世界の様に沿線でヒュージに奇襲されるような事態も起こらなかった為、リリィ達の出番は結局無かった。

 

 そして、駅から降りてその街並みを見たアールヴヘイムの面々はあんぐりと口を開ける。まるでタイムスリップしたような気分だ。駅前には高層ビルは無く、低い建物ばかり。道路に目をやると、そこでは古めかしい車が行き来していた。

 

「これが東京…なんというか、街並みが本当に歴史の教科書に載っている写真みたいだね」

 

 アールヴヘイムのリーダーである天野天葉は周囲を見回すとそう呟いた。

 

 突然の出動命令と事情の説明を受けて放り込まれた彼女達の衝撃は特に大きい。一方、自分達の世界の東京とは大きく異なるその景色に少なからず困惑するのは外交団も同様に見える。そして、一行は迎えの車へと乗っていくが、車がクラシック過ぎて乗るだけでもおっかなびっくりという様子であった。

 一行を乗せた車列は官庁街へとそのまま直行。あくまで世間には異世界の存在をまだ伏せている。よって、車列は目立つ素振りも見せぬように走り、目的地にそそくさとたどり着く。そこは洋館風の建築物、外交団と防衛軍の一部人員が降りていく。

 

「こんな建物あったかしら?」

「さあ…?日本にも昔はあったのかも」

 

 しかし、他の防衛軍関係者とアールヴヘイム一行を乗せた車は別の建物に向かう。今度は別の洋館風の建築物、こちらも元の世界の東京では見覚えの無い建物である。そして、車列は正門を潜ると敷地内で停車、運転手の下士官がリリィ達にここで降りるように告げる。

 

「すみません、ここは何の建物でしょうか?」

 

 二年生である番匠谷依奈が小首を傾げながら下士官に尋ねる。すると、その下士官は不思議そうな顔をしながら答えた。

 

「何って…海軍省ですよ」

「か、海軍省…?」

 

 聞いたことが無い省庁の名前に依奈は隣に座る天葉と顔を見合わせる。最早、ここは外国と同じように考えた方がいいようだとも考えながら。

 

 ケースに入ったCHARMを抱えたリリィ一行と士官服を着た防衛軍一行は車を降りる。そして、ここで外交団が仕事を終えるまで待機する事となる。

 正面玄関から省内に入ると、案内役の士官に続いて歩き出す。築数十年が経過した歴史ある建物の中を進むと、物珍しそうに一行へと視線を向ける海軍士官達の姿があった。その中には女性の士官もいる。おそらく、ああいった女性が説明にあったウィッチという存在なのだろうか。

 

「うわー、雰囲気満点。お化けでも出てきそうだね」

「お、お化け…!?」

 

 一行の真ん中を歩く高須賀月詩はケラケラ笑いながらそう言うと、彼女のシュッツエンゲルである渡邉茜は怯えたように声を上げる。元々そういった話が苦手なのもあるが、実際にそれだけの重苦しい空気が漂っていた為だ。

 

「やはり警戒されているわね」

 

 遠藤亜羅椰は吹き抜けの上へと視線を向ける。

 

「そりゃそうね。向こうから見たら私達って得体のしれない人々だもの」

 

 田中壱も同じく視線を上げてため息をつく。その先には小銃を抱えた憲兵や水兵の姿があった。何かあれば上から一気に制圧する気なのだろう。この重苦しい雰囲気の原因はあれだろうな、とも考える。

 

 そして、案内の士官がある部屋の前で歩みを止める。

 

「こちらでお待ちください」

 

 どうやらここは食堂らしい。清潔そうな室内にはずらりと机と椅子が並んでおり、一行は中へと入ると各々椅子に座っていく。特に場所は指定されていない為、アールヴヘイム一行と防衛軍一行は分かれて座る。

 そうして席に着くと、きっちりした見た目の水兵達がきびきびとした動きでコーヒーを運んでくる。そして、机にコーヒーと茶菓子が一通り並ぶと、見るからに階級の高そうな士官が数人やって来る。それを見た一行はすかさず起立、防衛軍の面々は敬礼で出迎える。その士官達は敬礼を返してから簡単に挨拶を始めるが、軍令部やら連合艦隊司令部やらと既に元の世界には存在しない組織の名前が次々飛び出し、それを聞いた防衛軍関係者達の表情は固まった。

 その様子の変化に隣にいたリリィ達も気が付く。

 

「まるで幽霊でも見たかのような反応ね」

「知っていないと分からない気分なのでしょう…」

 

 そして、それに続いて一人の女性士官も自己紹介を始める。

 

「遣欧艦隊総司令部所属、坂本美緒少佐です」

 

 そして、坂本と名乗る士官の視線はリリィの一団へと向けられる。その鋭い眼光にアールヴヘイム一行は慌てて姿勢を正す。その隙の無い立ち振る舞いから、あれは間違いなく幾度も激戦を潜り抜けてきた歴戦の強者だと直感的に感じ取ったのだ。彼女こそ話にあったウィッチに違いない。

 

 一方、視線を向けた美緒もリリィの一団の様子を読み取った。彼女達が魔法の力を使い、未知の怪物と戦闘を行うウィッチのような存在…宮藤達の事前報告からはこの程度の情報しか得られなかったが、実物を間近で見ればそれが素人か玄人かの違い程度はすぐに掴める。

 なるほど、こちらの視線に対しての反応も早い。それでいて、自然と四方を警戒している節もある。やはり、ただの学生ではないらしい。雰囲気はどうも緩いが、501の仲間達と比較すればまだ許容範囲の内とも思えた。

 しかし、どのように彼女達が戦うのか…それが分からない。口頭と文章にておおよその報告は受けたものの、その全容はさっぱりだ。武器も戦い方も独特だと服部は語っていたが…彼女達が抱えてきたケース、そこにその独特な武器が入っているのだろう。報告によればそれは銃と剣が一体になったような武器であるらしい。しかし、その真価を見る事はこの場ではできないだろう。

 

 そして、海軍省の士官が口を開く。

 

「皆には時間までこちらで待機願う。で、その間に時間潰しも兼ねてこちらの状況および戦闘について、今から参考用の映像を流す。ただ、すぐに流せるものという条件から映像の内容は世間一般に公開しているニュース映画のものそのままなので、その点はご容赦願いたい」

 

 そう言うと、室内の照明が落とされて映写機が動き出す。しかし、日本から訪れた一行はニュース映画という聞いた事の無い単語に首を傾げる。

 

 軽快な音楽と共に白黒の映像が始まった。そして、クラシック音楽のBGMと共にナレーションの音声も流れる。

 

 スクリーンに映し出されたその白黒映像に一行は驚く。カラーの映像が当たり前な彼らにはそれがある種の衝撃であったのだ。

 

『ネウロイに占領された土地の奪還を目指す各国陸軍は北アフリカにて必死の激闘を繰り広げている。そして、それを支援すべく地中海洋上には我が勇猛たる空母機動艦隊が展開。今日も波頭を切り裂きながら進むのである』

 

 映像には空母の姿が映る。そして、その甲板には見た事の無い国籍マークを付けたレシプロ機が大量に並んでいる。

 

『地上軍からの支援要請が飛び込んだ。その報を聞いた我が海鷲はまた一機、また一機と大空へと舞い上がる。我が軍のみならずリベリオン、ブリタニアの各国海軍航空隊からなる戦爆連合約150機は空中で堂々と編隊を組み、悠然と進攻す』

 

 ナレーションと共に映像に映るのは撮影機に近づいてくる艦上爆撃機SBDドーントレス。かつてアメリカで活躍した傑作機であり、この手の分野に詳しい者が見ればすぐに見分けがつくだろう。しかし、ここにいる日本から来た一行の中にその分野に詳しい者はいなかった。過去の兵器類に詳しい連中は外交団の付き添いに出ていたのである。だがしかし、その機の胴体に描かれた国籍マークが見た事のないものであるという点にこの場の防衛軍の関係者達は気づく。

 

「あれは…この世界のアメリカに似た国の機体か」

「おそらくそうだろう。あれは軽攻撃機か?」

「多分…戦史専門の連中がこの場にいないのが惜しいな。さっぱり分からん」

 

『眼下に広がる大海原、その先にアフリカの大地が見えてくる。地上から立ち昇る幾筋もの煙。戦場は目と鼻の先である。そして、指揮官機から突撃の無電が飛ぶ。露払いの為に戦闘機隊とウィッチ隊が前進』

『戦闘機隊指揮官機からネウロイ発見の一報。勇猛果敢な荒鷲達はエンジンを唸らせて敵へと飛び掛かる。そして始まる空戦。熾烈、ただ熾烈。戦闘機隊とウィッチ隊が命を懸けて飛行型ネウロイを抑えている隙に爆撃隊は戦場の只中に舞い下るのである』

 

 映像には無機質な真っ黒い物体が地上を這うように移動している姿が見える。

 

「大きい…ギガント級ヒュージ並みかそれ以上だね」

 

 映像を見た天葉はそう呟く。撮影機の高度を考えるとかなりの大きさだ。そして、地上からは上空目掛けて光線や砲弾らしきものが次々放たれている。

 

『狙うは地上を進撃する大型ネウロイ、これをここで叩かねば前線の味方が危うい。一機、また一機と突撃を開始。風を切り裂きながら猛然と急降下』

 

 映像には急降下を行う扶桑海軍の艦爆隊の姿が映る。そして、胴体下から黒い物体が次々と投下される…爆弾だ。投下を終えた機は次々と機首を引き起こして離脱していく。そして、映像は地表へと切り替わる。刹那、真っ黒な大型ネウロイが閃光に包まれた。

 

『見事命中。我が海鷲、渾身の一撃は大型ネウロイを貫いた。まさに正確無比、ネウロイに次々と命中弾を叩き込む』

 

 すると、炎に包まれた航空機が地表へと落ちていく姿が映る。

 

『しかし、被弾する機も出る。ネウロイも手強い』

『犠牲を出しつつも、多数の命中弾によってネウロイは動きを止めた。そこに援軍が到着』

 

 映像には空を飛ぶ数人の人影が映る。

 

『あれこそがアフリカの星と名高いカールスラント空軍マルセイユ大尉率いるウィッチ隊である。こうして戦力も揃った。今こそ好機と一気呵成に攻撃隊は爆撃を続行。そして、集中砲火によってついに大型ネウロイはコアを失って瓦解する』

 

 大型ネウロイは閃光と共に跡形もなく砕け散る。その様子に日本から来た人々は驚いたように声を上げる。

 

「残骸も残らないなんて」

「ネウロイというのはどういう存在なのかしら…」

 

 ネウロイについての詳細な情報を持っていないアールヴヘイムの面々はただ困惑する。こんなヒュージ以上に訳の分からない存在相手に戦う事は出来るのか、そんな考えが脳裏を過ったのである。

 

『北アフリカでの激闘は今この時も続いているのである』

 

 軽快な曲と共に映像はそこで終わった。

 

 しかし、あまりにも勝手の違う戦いに日本から来た皆々は唖然とした様子で口を開く。まず、通常戦力が堂々と第一線で戦っている点が違う。

 元の世界でのヒュージとの戦闘ではマギの無い通常戦力は補助的な扱いである。その理由はある程度大きいヒュージには通常兵器がまったく効かないという深刻な問題がそびえ立っているからだ。よって、対ヒュージ戦において防衛軍の戦力は住民の避難誘導とその護衛、リリィの支援といった消極的な運用が主である。

 だが、こちらの世界ではそうではない。ウィッチという存在はリリィとは異なり軍の中の一つの兵科として他の兵科と協同して戦うのである。

 そして、防衛軍の面々はこちらの世界なら我々でも大いに戦う事が出来るのではと考え、リリィの面々は勝手が違うネウロイ戦においてどのように立ち回るべきなのかと心の内で悩む。現状、そのネウロイという化け物と交戦するなんて事態も有り得るからだ。そうなれば、銃弾や砲弾が容赦なく飛び交う戦場で駆けまわる羽目になりかねない。そうなる前に自分達がどう戦うのか戦術を決めないといけないだろう。

 

「坂本少佐、どう思う?」

「ええ…困惑しているように見えます。理由までは分かりませんが」

「やはりな。さあて、明日はどうなる事やら…」

 

 海軍士官達は異世界の人々の様子を見てそう語り合う。はたして、彼らはあのニュース映画のどこに困惑しているのだろうか。こちらが思っている以上に戦術の差があるのか、はたまた異質であるネウロイの姿に驚いているのか。そして、こちらから向かう外交団も向こうで同じような心境に至るのだろうか。そんな一抹の不安が彼らの頭の中を過る。

 すると、若い海軍少尉が食堂の戸を開いて入ってきた。その少尉は士官達に敬礼すると口を開く。

 

「外務省から日本の外交団の方々が到着しました」

「分かった。こちらに案内するように」

 

 そして、交渉を終えた外交団もこの場に合流。大役を終えてげっそりとした彼らを待機していた面々が出迎える。どうやら、双方の話し合いはうまくいったらしい。それを聞いてアールヴヘイム一行もホッと胸を撫で下ろす、これで今日の任務は一先ず片付いたのである。

 

 そして、一行は翌日に備えて今宵の宿に移動する事となった。しかし、扶桑では日本の存在を公表していない為、市中で営業しているホテルや旅館等を宿舎に使用する事は出来ない。そこで、扶桑政府は軍関係者が使用する施設を臨時の宿舎とする事で一先ず手を打った。とりあえず、市ヶ谷の陸軍省周囲の施設を使う事としたのだ。市ヶ谷には将校が出張時に宿泊や集会等に使うような施設が点在しており、そのような施設は陸軍との関係も密接である。また、施設の所有者が元軍人やその関係者という場合も多い。よって、話は通しやすい為、そこを借り上げればいいのである。

 外交団およびアールヴヘイム一行を車に乗せると、車列は海軍省のある官庁街から陸軍省のある市ヶ谷方面へと走り出す。そして、車列は途中で分かれる、防衛軍や外交団とアールヴヘイム一行はそれぞれ別の宿舎を宛がわれたからである。そうして、車は宿舎へとたどり着く。アールヴヘイムの面々は装備や荷物を持ちながら車から降りると、どこか疲れたような様子で中へと入っていく。今日一日に起こった出来事があまりにも衝撃的な事ばかりで精神的に大きく疲弊したのである。

 

「部屋は和室が2つとなっています。部屋割りはそちらでご自由に」

「分かりました。ありがとうございます」

「我々は一階に居りますので、何かあればどうぞ。食事は後程お持ち致します」

「どうも」

 

 案内の陸軍少尉に天葉は一礼する。皆クタクタだ、できれば早く休みたい。だが、その前に部屋割りをどうするか決めないといけない。そこで、まずは部屋を見てみようという話になる。そうして部屋の扉を開けると、そこはわりかし広い和室である。

 アールヴヘイムは学院外への遠征任務が多く、様々な状況で寝泊まりする事も多々ある。しかし、そんな彼女達でも流石に口をポカンと開くしかなかった。そこにあるのは元の世界ではまず見かけないようなクラシカルなラジオと白熱灯の照明やランプであった。

 

「このラジオ、どうやって動かすんだろう?」

「さあ?まず、どこにスイッチがあるのか調べないと…」

「うーん、コンセントは刺さってるね」

 

 森辰姫と金箱弥宙の一年生工廠科コンビはラジオを見てそう話し合う。技術屋として見慣れぬ機械の存在がつい気になってしまったのだ。一方、他の面々は部屋割りをどうするかを話し合っている。すると、一年生江川樟美が控えめな様子で手を挙げた。

 

「せっかくなので…天葉姉様と同じ部屋がいいです…」

 

 それを聞いた月詩も勢いよく手を挙げる。

 

「あーっ!それなら私もあかねえと同じ部屋がいい!!」

 

 この二人はシュッツエンゲルとの同室を望んでいる様子であり、それを見た二年生組は苦笑いを浮かべる。うれしくはあるが、後輩達に気を遣わせたくはない。よって、話し合いの結果、一年生と二年生で部屋を分ける事とした。そして、それぞれ分かれて部屋へと入る。

 

 一年生達が荷物を一通り降ろすと、皆疲れたように座布団へと座る。

 

「しかし、一通り宿泊用品を持ち込んでおいてよかったわね」

「念の為…と言って用意した甲斐がありました…」

 

 壱と樟美はそう言いながら宿泊用具をバッグから取り出す。アメニティの類はここにも置いてあったものの、それはものの見事に見た事の無い品々だらけであった。よって、元の世界から持ち込んだ品々が無ければ今頃大騒ぎだっただろうな、と二人は内心で考えていた。一方、工廠科コンビは備品のラジオを弄っていた。

 

「電源スイッチは…あっ、あった」

「電源入ったわ。チューニングは…このダイヤルか」

「音出てないね」

「音量のダイヤル…これね」

 

 室内にノイズ混じりの音楽が流れる。

 

「これ、聞いた事あるわ。随分昔の外国の曲ね…さて、どこまで同じでどこから違うのか。面白いわね」

 

 窓の外をぼんやり見ていた亜羅椰はそう呟く。もう既に日は沈みかけ、視線の先の街並みでは街灯が次々灯る。その下では通行人達が忙しなく歩いていく…そこには確かに人々の生活が広がっていた。そういった点ではここも日本と変わりはないだろう。

 明日は元の世界へ帰還となる。しかし、こちらの世界の外交団を引き連れてである。何事も起こらなければいいが…と考えたところで勢いよく部屋の戸が開く。

 

「晩御飯が届いたよ!みんなで食べよう!!」

 

 ご機嫌な様子の天葉の声が部屋の中に飛び込んだ。それを聞いた一年生達は立ち上がると、隣の二年生の部屋へと向かう。

 

 まずはしっかり体力を回復せねば、そう考えながら。

 




地名は同じだが、何もかも違う…そんな状況にリリィ達は戸惑う。
はたして、同じように異世界へと飛び込むウィッチ達はどうなるか。
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