雲の柱がそびえ立つ山の麓に防衛軍と扶桑陸軍双方の車両とそれに搭乗する人員がずらりと並ぶ。そして、双方の指揮官が前に立ち、神妙な表情でそれぞれ訓示を行う。国の命運に関わるかもしれない重い任務に、訓示を聞く者達の顔は無意識のうちに強張っていく。それはリリィやウィッチ達も例外ではない。
そうして、訓示が終わると皆一斉に動き出す。車両はエンジンを始動、兵員達は装備を抱えて兵員輸送車やトラックへと乗っていく。リリィ達もCHARMの点検を終えると防衛軍の車両の周囲に集まる。一方、少し離れた場所でウィッチ達も準備を進める。
車両のものとはまた異なる轟音が鳴り響き、防衛軍の隊員とリリィ達はその聞き慣れぬ音がする方へと視線を向けた。すると、そこには青白い光が輝いている…ストライカーユニットの魔導エンジンを始動した際に現れる魔法陣の輝きだ。そして、その見た事の無い光を見たリリィ達は目を見張る。
「あれは?」
「マギの光…いえ、違うわ。それにこのエンジンみたいな音は…」
「見てください、叶星様。宮藤さんと服部さんです」
一葉の指差す先には低空を飛ぶ芳佳と静夏の姿があった。彼女達はそのままリリィ達が待機する装甲車の車列へと飛んでくる。そうして、二人はにこやかに挨拶しながら一柳隊の目の前に降り立った。
「みんな、今日はよろしくね」
「宮藤さん、服部さん。こちらこそお願いします。あれ?背中に…それは荷物ですか?」
梨璃は芳佳と静夏の二人がリュックを背負っている事に気が付いた。
「うん。この前、服装で色々あったからそれに備えてね」
「あー…そういう事ですね」
芳佳と静夏の報告により、雲の向こうではどうも服装の常識が異なる点がある…という情報が扶桑政府に伝わっていた。よって、そのままでは向こうで要らぬトラブルを引き起こす可能性が出てくると考えられた。そこで扶桑政府は今回の作戦に参加する人員に対策するように指示を出した。
その結果、陸海軍は異世界でも大丈夫だと思われる軍服を大慌てで用意する羽目となった。その異世界の常識がよく分からない為、とりあえず男女問わず全員新品の長袖長ズボンとする事としたのだ。兵卒や下士官達が普段着ているような半袖の軍服も異世界ではどう見られるか分からない、念には念を入れての対応となった。
「あ、梨璃さん。私達はちょっと用事があるのでこれで」
「ええ。では、また後で」
芳佳は梨璃と会話を交わすとそのまま防衛軍車列の方へと移動、そこには扶桑からの外交団一行が既に待機している。そして、その中には彼女の上官である美緒の姿もあった。
「坂本さーん!」
「おお、宮藤に服部。今日は頼むぞ!」
「ええ、任せてください。梨璃さん…リリィの皆さんもいるので百人力ですよ」
「そうか、彼女達がどのように戦うのか…見ものだな。まあ、こんな事態だ。接敵しないのが一番だが」
美緒は海軍省から派遣された将官の随員としてこの外交団に同行する。他にも陸軍側からも同じように将官と佐官が派遣されている。そして、車両の中には外務省から派遣された職員たちが既に乗車していた。彼らは物珍しそうに車内をキョロキョロと見回している様子である。
そして、頭上に爆音が轟く。車両を護衛する他のウィッチ達がやって来たのだ。護衛のウィッチは芳佳と静夏の他に海軍ウィッチが三人、陸軍ウィッチが四人。規模としてはかなりの人数だ。そして、この他に雲の周辺警戒や東京や横浜といった都市部や重要拠点の防空にも多数のウィッチや航空機が全国からかき集められている。
「さて、もうちょっとで出発かな」
「宮藤、お前達が世話になったという異世界の方々に挨拶しておこうと思うのだが」
「ええと、梨璃さん達ならあの辺りに…」
芳佳がそう言いかけたところに突如ラッパが響く…それと共に対空戦闘と叫ぶ声も響き渡る。そして、それを聞いた三人は咄嗟に顔を見合わせる。
「敵!?…坂本さん、行ってきます!」
「ああ、気を付けてな」
「はい!行こう、静夏ちゃん」
「了解!」
二人は敵を探す為にフワリと飛び上がる。しかし、そこで地上から無線が飛び込んだ。
「これより車両隊は雲の中に前進する。護衛のウィッチ隊は手筈通りその直掩にかかれ。上空の敵機についてはこちらで対処する」
「え、もう出るの?まだ予定時間じゃ…」
「宮藤さん!戻りましょう。おそらく、敵の攻撃を避ける為にすぐ出発となったのでは」
その無線を聞いた二人は再び車列の上空へと舞い戻っていった。
雲の周囲には戦闘機の編隊が飛んでいる、警戒任務の為だ。
雲から最も近い横須賀航空隊の戦闘機とウィッチから成る戦闘隊は雲の東側、西側は厚木の戦闘隊が担当。東京湾上空や横須賀軍港は茂原や館山等の基地から飛び上がった各戦闘隊が交代しながら警戒の任に就いている。
更に神奈川北部や東京西部は調布や所沢等から飛び上がった陸軍航空隊の戦闘機やウィッチが目を光らせ、東京の都市部上空や横浜上空も柏や成増等から出撃した陸軍航空隊が同様に上空警戒を常時実施している。そして、それでも数が足りないのを補う為に関東各所の陸海軍飛行学校の教官達までもがその他の地域の警戒任務に動員される事態となっていた。
そんな中、雲の周囲を飛ぶ戦闘隊に急報が飛び込んだ。
「電探が不明機を探知、高度500。ネウロイか件の化け物かは不明。至急確認、迎撃せよ」
「ヨーソロー。小隊各機続け」
無線を聞いた横須賀海軍航空隊の戦闘機とウィッチが獲物を求めて高度を下げる。そして、戦闘機の小隊三番機が無線を飛ばす…何かを見つけたのだ。
「敵機発見、敵機発見。2時下方、数1。あれは…銀色、件の化け物と思われる」
「中型ネウロイぐらいの大きさか…よーし、かかれ!一撃浴びせたらすぐに距離を取れ、間違っても深追いはするな。弾が効くかどうかも分からんからな」
「ウィッチ隊も続いて攻撃に入る」
「了解。とどめはそっちに任せる」
海軍航空隊の総本山とも称される横空の戦闘隊は編隊を乱す事も無く、エンジンから轟音を響かせてヒュージへと襲い掛かった。
一方、地上では緊急発進した車両隊が雲の中を走っていた。トラック主体の扶桑軍支援車両隊は想定通りにスピードが遅い、防衛軍の装甲車両との距離は開くばかりである。そして、その遅れているトラックの護衛には数人の陸戦ウィッチにトラックや兵員輸送車搭乗の機械化歩兵の一個中隊、更に中戦車一個中隊。そこに防衛軍の装甲車が二両と万一の為にと工兵車両が加わっていた。
「一時方向の草むらに何かがいる」
走行中、防衛軍の装甲車のセンサーが熱源を捉えた。その熱源の輪郭から明らかに人では無い事は確認できる。しかし、念の為にも無線で他の車両に一報を送り、その反応が味方で無い事を確認…味方にあらず、と雑音交じりの返答が飛び込むと105mmライフル砲の砲身がその熱源へと指向する。そして、轟音…多目的榴弾が発射され目標へ寸分違わず着弾。爆炎と土埃が噴き上がる。それと共に爆炎の中から銀色の怪物がいくつも飛び出してくる…スモール級のヒュージだ。こちらにはリリィがいない。しかし、サイズ的には通常火力で対処可能な相手だ…装甲車の車長がそう考えていると、後方から轟音が鳴った。扶桑軍の中戦車も次々砲撃開始。更にはトラックや兵員輸送車から歩兵が次々と飛び出し、ヒュージの群れへと前進し始めた。
「まったく無茶しやがる…」
センサーによって映し出されたその様子を見た車長はそう呟く。いくら相手が小銃の通用するスモール級ヒュージとはいえ、普通の人間が生身で積極的に立ち向かうのは危険極まりない。相手を知らぬが故の蛮勇か…そう考えていると、見慣れぬ何かが画面端にいくつも映る。それは確かに人である。しかし、両脚には奇妙な箱状の物体を装着している。そして、更に奇妙な点がある。走っているような素振りもないのにかなりのスピードで移動している点だ。
「おい…ありゃ何だ?」
車長は咄嗟にハッチを開けて頭を出す。そして、彼は謎の人物達の姿を直接見て、相手がどのように動いているのかを悟った。
「はあ!?…脚に履帯だと?」
履帯付きの機械…陸戦用ストライカーユニットを付けた装甲歩兵である陸戦ウィッチ達は土埃を巻き上げながら次々と最前線へと躍り出た。そして、車両から降りた歩兵達はその後ろに続いて前進を続ける。敵からの攻撃はウィッチのシールドが弾き、後ろの歩兵達は敵との距離をどんどんと詰めていく。そして、小銃の射程内。一斉に歩兵達の小銃が火を噴き、ヒュージはそれに怯んだように一歩引く。それを見た歩兵とウィッチ達は各々抱えた小銃の銃剣をギラリと輝かせると、その勢いのままヒュージの群れへと飛び掛かった。文字通りの白兵戦である。既に扶桑側は小型のヒュージ相手なら歩兵装備で立ち向かえると把握しているらしい。
しかし、こうなっては装甲車や戦車の主砲に出る幕はない。下手に撃てば味方ごと吹き飛ぶ事になる。
「手慣れてやがるな」
扶桑軍の兵士達は明らかにこの手の敵と戦う事を前提としている様子だ。装備面は時代相応。だが、ウィッチと通常兵力が連携して戦う等、ヒュージのような化け物相手の戦術面ではよく訓練されているとも言える。彼らの敵であるネウロイという化け物がどんなものなのか…詳細な情報を持たない装甲車の車長には想像も出来ない。しかし、このような実力を有する扶桑側の戦力は対ヒュージ戦では確実に有力な戦力であると思えた。
「こっちの護衛はてっきり貧乏くじかと思ったが、こいつは大当たりだったかもしれんぞ」
「車長、本隊に報告した方が」
「分かってる、今やるよ」
既にヒュージの群れは掃討されており、各車両は前進を再開していた。車長は無線ではるか前方の指揮車両に戦況を報告。だが、返答ははっきり帰ってこない。データリンクは繋がっているので防衛軍の車両部隊本隊が未だ雲の中にいる事は確かだ。それを怪訝に思った車長が端末に表示された情報を見る。すると、まともな返答が帰ってこない原因が分かった。本隊側も現在交戦中…しかも、こちらより戦況はもっと悪い。複数のラージ級を含むヒュージの群れと接敵、完全に足止めされた状態だからである。
「これなら置き去りにされそうもないな…各員、警戒を厳にせよ。それと、扶桑側にも支援要請を出しておけ。この先はもっとやばそうだ」
「了解!」
車長は皮肉気味にそう呟くと、装甲車を前進させた。
「2時方向にラージ級1、ミドル級が12!くそ、9時方向にもラージ級!!」
「スモール級…四方八方から突っ込んでくる!!」
「こちら一柳隊!前進します、その隙に態勢を立て直してください!!」
「こちらヘルヴォル。グラン・エプレと協同し、もう一つの群れを要撃します」
「了解、幸運を!」
「外交団の車両の直掩はアールヴヘイムが行う。さて、そうなると私達が最終防衛ラインか…」
リリィ達が駆け出すと同時に各車両は煙幕弾を発射、後進開始。扶桑軍の重装甲車も同時に後ろへと下がる。彼らも大物相手は分が悪いと判断したのだろう。装甲車と言ってもこの場のどの車両もラージ級ヒュージの攻撃にはとても耐えられない。よって、一度距離を取って態勢を立て直し、突破の機会をうかがうのである。そんな中、車両内では外交官達が顔を真っ青にしながら椅子にしがみ付いていた。
「とんでもない所に来てしまった」
一方、同乗の陸海軍の士官達は小さなのぞき窓に齧り付く。場数を踏んで肝が据わった彼らは動じる事も無く外の様子を把握しようとしていた。
「外はどうなっている?」
「よく見えん。どうせ動かんのなら外に出してほしいもんだ」
そんなぼやきが車内に響く中、美緒はただ静かに目を瞑っていた。彼女も当然外の様子は気になるし、リリィという異世界の戦力がどのように戦うのか一目見たいとも考えていた。しかし、上空を飛んでいる自分の部下達の事を考えると今無暗に動く気にはなれない。ここに無線でもあれば上の様子が掴めた分、まだ気が楽だっただろう。しかし、この場にはそれもない。あの小さなのぞき窓では空を見る事も叶うまい。くれぐれも無茶はするなよ…彼女にできる事は静かにそう祈る事だけであった。
「宮藤少尉、どう対応しましょう?」
この場を飛ぶウィッチの最先任は陸軍大尉であった。よって、指揮を出すのは彼女である。しかし、その彼女はヒュージと戦うのはこれが初めてである。その為、既に戦闘経験のある芳佳にアドバイスを求めていた。
「そうですね…ネウロイと同じように大きな相手は頑丈みたいです。ですので、私達は小型や中型を優先した方がいいかな、と。下には専門家であるリリィの皆さんもいますし」
「なるほど、後を考えると大型以外を狙っていった方が効果的ですね」
航空ウィッチの強みはその機動力である。しかし、それだけに消耗も激しく継戦能力にも難がある。いくら支援部隊を連れているとはいえ、弾も魔法力も消耗する事は出来る限り避けておきたい。
「小型は…困ったな。草木に紛れてよく見えませんね」
「では、中型を上から狙いましょう。無理に撃って誤射なんて事態は避けたいですし…各員、聞いた通りにかかれ!」
ウィッチ達は車両隊の上空に陣取り、上からヒュージに対して攻撃する。ヒュージは地上の戦いに手一杯らしく、上にまで反撃できない様子だ。よって、攻撃はほぼ一方的な構図となっている。そうして、ウィッチの攻撃によって隙が出来たところにリリィ達が突き進む。彼女達が狙うのは二体のラージ級ヒュージ。しかし、最終兵器であるノインヴェルト戦術は使わない。消耗が激しすぎて戦闘継続不能に陥りかねないからだ。だからこそ、通常攻撃で各レギオンは攻める。
「梨璃、今よ!撃ちなさい!!」
「はいっ!!」
梨璃の放った弾丸はラージ級ヒュージの頭部に突き刺さる。そして、ヒュージは体液を噴き出しながら崩れ落ちる。そして、更なる轟音が鳴った。何事かと一柳隊の面々が振り返ると、そこには横倒しになったラージ級の姿があった。もう一体の撃破にも成功したのだ。
「よかった…これで進める」
梨璃がホッとしながらそう呟いた。しかし、更なる異変が起こる。鳥の鳴き声のような甲高い音が鳴り響いたのだ。
「これは…?」
「梨璃さん、あれを!」
梨璃は二水が指差す方へと視線を動かす。そこには複数の空飛ぶ物体、鳥のような姿をしたヒュージの群れだ。数はラージ級が一体、ミドル級が四体。そして、勢いよくこちらに突っ込んでくる。
「回避!!」
一斉に散開する一柳隊。そして、ヒュージの鍵爪が一柳隊のいた場所を引き裂く。深々と残る爪痕だけが地面に残るが、ヒュージの姿はそこに無い。既に上空へと飛び去っている。リリィ達と装甲車が一斉に射撃を行うが、三次元的な機動とその頑丈さによって有効弾は出ない。
小回りの利くリリィだけならすれ違いざまに反撃を浴びせる事も出来るが、車両にそんな芸当は難しい。狙われたらひとたまりもないだろう…万事休すか、夢結がそう内心で呟く。すると、無線が鳴った。
「今飛んできたヒュージはこちらで対処します。上は任せてください!」
芳佳の声が響く。そして、夢結は空を見上げる。そこにはヒュージを追ういくつもの人影があった。
下からは五つの機影、銀色の怪物が突き上げてくる。
「静夏ちゃん、行くよ!」
「了解!!」
体を捻り、頭を下に向ける…そのまま反転急降下。そして、狙いを定めてすれ違いざまに一連射。手ごたえはあった…芳佳は背後を振り返る。ヒュージからは鱗のようなものがバラバラと落ちていく。命中弾を与えた事は確実だ。しかし、目標は羽を羽ばたかせると右旋回を始める。こちらを脅威と感じたのか獲物を変えたようだ。他のウィッチは中型の獲物をそれぞれ追撃しているらしい、あちこちで機銃の発射音とエンジンの唸り声が鳴り響いている。これで撃ち漏らす心配はなさそうだ。そして、背中を晒した相手に芳佳と静夏は一気に攻撃。だが、弾は弾かれた。
「弾が…あれは?」
「シールド!?」
この前遭遇した大型のヒュージと同じく、この大柄なヒュージもシールドのようなマギの障壁を使うらしい。ごく一部の例外を除けば普通のネウロイはこんな手を使わない、ウィッチ二人はどうしたものかと困り果てる。
「どうしよう、静夏ちゃん」
「攻略法が分かりさえすれば…あっ、下に専門家がいるじゃないですか」
「よし、梨璃さん達に聞いてみよう」
そして、芳佳は地上へと無線を飛ばす。
「梨璃さん。聞こえますか?こちら宮藤です」
「ええ、ばっちり聞こえます!宮藤さん、どうしました?」
「今ヒュージと交戦中ですが…ヒュージがシールドみたいな壁を使ってきて弾が通じなくて」
「それってマギリフレクター…かな?」
「梨璃、代わって」
無線の主が梨璃から夢結に代わる。
「宮藤さん、こちら白井。ヒュージのマギリフレクターに困っているという事でいいのかしら?」
「うん、その通り。どうやって攻撃すればいいかな?」
「そうね、シンプルな手なら…防御の隙をタイミングよく攻撃するか、相手が限界を迎えるまで攻撃するか、といったところかしら」
「えーと、限界って?」
「ヒュージはマギを使って攻撃や防御を行うの。で、マギは体内に内蔵している分だけだから、使い過ぎるとマギの枯渇を起こすのよ。そうなればマギリフレクターは使えないわ」
「なるほど、魔法力切れを狙うという事だね」
「参考になったかしら?」
「ええ、とても」
そして、今度は静夏に無線を飛ばす。
「静夏ちゃん、相手も魔法力切れを起こすみたい」
「魔力切れ?なるほど、そこまで追い込めばいいという事ですね」
「うん!じゃあ、仕掛けるよ」
「了解!」
二人は編隊の距離を開く。ヒュージは迷ったような素振りを一瞬見せると、静夏へと突進していく。それを見た静夏は回避の為に左旋回、ヒュージはそれを追いかける。一方、芳佳はその背後に忍び寄ると、一連射。再び弾かれるが、更に射撃。ヒュージは背後へ振り返ろうとする。そこに別方向から機銃弾が飛び込む。静夏が旋回しながら弾を叩き込んだのである。うまく不意を突いたのか今度は通じた、破片が飛ぶ。ヒュージはたまらず回避の為に急上昇する素振りを見せた。しかし、二人からは腹と背が丸見えだ。最早射撃の的である。更に撃ち込むが、今度は備えていたのか全て防がれる。
「静夏ちゃん、残弾は?」
「あまり余裕はありません」
「こっちも同じく」
「…長引くのはまずいですね」
ヒュージは頭を下げて静夏へと降下、突っ込む様子だ。それを見た芳佳は静夏に言う。
「静夏ちゃん、ちょっと相手を引き付けておいて」
「…宮藤さん?何をする気ですか」
「うん、ちょっとね」
「えっ、まさか…宮藤さん!?ああ、まったく!!」
芳佳は一気に上昇していく。それを見た静夏は盛大に溜息をつくとヒュージの目の前で旋回し始める。さて、喰いつくか?そう考えた途端にヒュージは突っ込んでくる。静夏は水平にジグザグ機動し、ヒュージの攻撃を躱しながら相手を引き付ける。それを上から芳佳がじっと見ていた。攻撃するタイミングを見計らっているのである。そして、一気にダイブ。
「いっけえ!!」
そう叫びながら機銃を前に構え、シールドを複数重ね合わせて展開。そのままヒュージの胴付近目掛けて突っ込んだ。
芳佳のシールドがまずマギリフレクターに接触、戦闘で消耗しつつもヒュージのマギリフレクターは向かってくるシールドを弾き返そうとする。だが、芳佳の勢いは止まらない。そのまま眩い閃光と共にマギリフレクターをぶち抜くと、勢いを保ったままヒュージの体を轟音と共に貫いた。そして、芳佳は戦果を確かめる為に振り返る。そこにはヒュージがきりもみ状態で落ちていく姿があった。芳佳の体当たりによって片方の羽がもげ落ちた様子である。
「やった!」
そして、ヒュージは轟音と共に地表に落下。それを見届けると高度を上げて静夏や他のウィッチ達と合流、全員健在。他の飛行型ヒュージも全て撃墜する事に成功したようだ。
「やりましたね!支援部隊の所に行きましょう」
「うん、今のうちに補給しないと」
一方、落下したラージ級ヒュージは飛行不能になったもののまだ生きていた。その損傷からうまく動けずジタバタともがいている。そして、ヒュージはやっと首を持ち上げるが…視線の先には人影があった。
「やあ、ちょうどいい所に落ちてきたね」
そこにはCHARMを抱えた天葉の姿があった。
「じゃあ、ちょっと覚悟を決めてもらおうか」
そして、アールヴヘイム九人の持つCHARMの切先がヒュージへと向けられた。
リリィとウィッチは敵が潜む雲の中を行く。その先の別世界を目指して。