芳佳「リリィ?」梨璃「ウィッチ?」   作:ひえん

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美緒「報告会?」

 日本へ行ってから一週間後、美緒の姿はハワイ沖を航行するリベリオン海軍の重巡洋艦艦上にあった。

 リベリオンへ行く外交官に同行せよとの命令を受け、太平洋航路を結ぶ飛行艇に飛び乗ってハワイにまでやってきたのである。普通であれば船便であるのだが、高価な航空便を使う程にこの任務は緊急性の高いものであった。

 

 巡洋艦の周囲は駆逐艦が間隔を取って囲み、前方には護衛空母が航行。上空にはその艦載機が展開して警戒、更に艦内は海兵隊が警備するという徹底ぶりだ。ただ事ではない。そして、美緒にはこの場に呼び出される理由に心当たりがあった。それは鎌倉に現れた謎の雲である。

 

「よう、坂本少佐じゃねえか。ベルリンでは世話になったな」

 

 聞き覚えのある声に振り返る。そこには統合軍西方軍集団最高司令官であるリベリオン陸軍の将官ジェラルド・S・パットンの姿があった。

 

「これはパットン将軍、お久しぶりです。その…何故太平洋に?」

「ああ、本国からいきなり帰って来いと言われちまってな。で、極めて重要な報告会があるから休暇ついでにハワイまで行ってこいと」

「なるほど」

「うちの軍団は先の作戦からの休養と再編成でしばらく動けん。そういう理由もあるだろう、将官はどいつもこいつもみんな忙しいからな」

 

 そして、パットンは海に視線を向けると言った。

 

「で、少佐。聞いた話だと扶桑で何かあったらしいが…この集まりはそれか?俺はこれが具体的に何の報告会なのかも聞いていないのだが」

「いえ、私の口からは今は何も…」

「ま、無理もねえか。じゃあ、早いところ話を聞きに行くとするか。まったく…何が休暇ついでだ、完全に仕事じゃねえか」

 

 愚痴をこぼしつつ艦内へとパットンが入っていくと、美緒もその後に続く。海軍士官の案内に従ってそのまま通路を歩く。そして、会議室へと案内されると中へと入っていった。

 

「こいつはやはりただ事じゃねえな」

 

 その中には主要国の外交官や役人、軍人がずらりと座っていた。そうして、二人も席に座る。その後、数人部屋に入ってくるとそれで参加者が揃ったらしい。

 司会役のリベリオンの役人が前に出る。新聞でたまに見るような大物だ。

 

「皆さんお揃いのようだ。では、特別報告会を始めると致しましょう。まずは扶桑代表の方から事の説明を…」

 

 そして、扶桑からやってきた外交官が立ち上がると、鎌倉で起こった事件と雲の向こうの異世界について話し始めた。事情を一切知らぬ者達は異世界という単語にただただ口をポカンと開き、事前にある程度情報を得ていた者達は思っていた以上の情勢に深刻そうな表情を浮かべていた。

 更に異世界から持ち帰ってきた写真や本等の資料が並び、その全てに鮮明なフルカラーの写真が印刷されている。そして、そこに写されていた高層建築物の並ぶ大都会の街並みや先進的な乗り物や各種兵器の姿に一同は驚きの声を上げる。

 

「こちらと向こうでは技術力等が一世紀程近く違う可能性があります」

「うーむ…」

 

 誰かが漏らした呻き声が場に響く。

 

「なるほど、こういう事情か。そりゃ、大事にもなりやがる」

 

 パットンが小さくそう呟くと、それに釣られたように参加者達が話し合う。

 

「現状は雲の向こうの日本という国とは友好的な接触が行われており、敵対的な状況にはありません」

「それはいい知らせだ。しかし、問題は多い」

「まずは向こうの怪物…ヒュージという化け物ですな。生物であってネウロイとは完全に別物だという事は理解しましたが」

「報告では魔法で確実に対抗可能。小さいものは通常兵器でも撃破可能…よって、ネウロイと同様に対処すればいいかと思われます」

「そうなると向こうの世界にもウィッチはいるのか?…坂本少佐」

 

 名前を呼ばれた美緒は立ち上がる。

 

「向こうではリリィと呼ばれる存在が魔法を使用してヒュージという怪物と戦っています」

「花の名前か」

「向こうの世界は科学技術ではこちらより圧倒的に上ですが、魔法を発見したのが50年程前…こちらと比べるとずっと浅い歴史しかないようです」

「たった50年だって?それまで魔法が無かったのか…とても信じられん」

 

 美緒は周囲を軽く見回す。皆、熱心にこちらの話を聞いている様子だ。

 

「そして、その魔法についてもこちらとは色々と異なっており、彼女達には使い魔が存在せずに機械を使って魔法力を扱っているらしい…との事です」

 

 使い魔が存在せず、機械で魔法を使うという説明に場はざわつく。そして、あまりの衝撃に冷や汗を流しながらカールスラント陸軍の軍人が口を開く。

 

「それは…つまり、その機械を使えば人工的にウィッチを大量に増やせるということか?」

「いえ、やはり適正は必要な様子です」

「ふむ…で、そのリリィとやらはウィッチとどう違うのかね?」

「先に述べたように、大きな違いは機械を用いて魔法を使っている点です。また、ウィッチは多種多様な武器を使用する事が可能ですが、リリィはその機械を用いた専用の武器しか使えないという点も大きいかと」

 

 更に質問が飛ぶ。

 

「空は飛べるのか?」

「いえ、主に陸上戦闘が中心のようです。見聞きした限りでは専用の航空戦力というものは無い様子でした」

「つまり、総じて陸戦ウィッチのようなものか?」

「いえ、映像記録を見た限りでは同じような運用は出来ないかと思われます。機動が全く異なるので…リリィは文字通り飛んで跳ねるように戦うような感じと言いますか…」

 

 続いてブリタニア陸軍の将官が低い声で問う。

 

「少佐、向こうの通常戦力は見たか?」

「はい」

「どの程度の脅威と言える?」

「そうですね…」

 

 その問いに対し、素直に話していいものかと返答に困った美緒は扶桑の外交官と視線を合わせる。すると、その外交官は大きく頷く。思ったままに話していい、そういう意味である。

 

「何もかも圧倒的でした…一言で例えるなら、まさに次元が違うと言えます。航空機は音速を軽々超え、戦車は巨大で走りながらでも百発百中の精度、艦艇は数百キロ彼方の目標へ誘導弾を正確に撃ち込む事ができると映像付きで説明がありました」

「ふむ…」

 

 美緒の一言によって場が沈んだように一瞬静まり返る。そして、口々に意見を出す。

 

「万が一の事態に備えるべきでは?」

「ああ、それに雲の向こうにはまだたくさんの国があるのだろう?それら全てと友好的な関係が築けるとは限らない」

「最悪、侵攻される可能性すら捨てきれん」

「まともにやり合うとどうなる?」

「ワンサイドゲーム、そうとしかならんでしょう。詳細な研究をするまでもない。それこそマスケット銃で機関銃と戦うようなものだ…」

 

 冷静ではあるが、悲観的な考えが場を包み込む。しかし、扶桑の軍人が口を開く。

 

「とはいえ、こちらには向こうには無い強みがあります」

「それは?」

「魔法に関する技術です。こちらには紀元前からの積み重ねがありますが、あちらにはそれがありません」

「なるほど、それを活かすか」

「ええ。向こう側は優れた科学技術を有していますが、弾薬に魔法力を充填する技術を持ち合わせていません」

「つまり、ネウロイのような相手と戦うには不利という事か」

「その通り。大型のヒュージ相手に通常戦力は無力となっている模様です」

 

 それを聞いたパットンは大きく頷く。

 

「こちらは通常戦力でも魔法力をある程度は使用可能…向こうからすればこちらの技術は喉から手が出るほど欲しいとも言えますな」

「その点を大いに活用し、向こう側の技術を得ようと我々は考えています」

「しかし、それで穏便に話が済むでしょうか?」

 

 パットンの問いにリベリオン政府の高官がその意味を問い質す。

 

「何が言いたい、パットン将軍?」

「火種にならないか、という事です」

「こちらの存在が…という事か?」

「向こうの技術も含めてです。かなり強力な兵器が揃っている様子ですから、その扱いは…」

「確かにな…技術導入や兵器購入は慎重にすべきだ。音速を超える爆撃機なんて現れたら軍事的なバランスは跡形もなく崩れ去るだろう」

「しかし、それは向こうにも言える事では無いでしょうか?」

「今まで存在してこなかった化け物に対抗可能な通常兵器…向こうからすれば難病に対する特効薬が突如現れたような物だろうな」

「ええ、是が非でも欲しがるでしょう」

「そう考えると独占しようと考える輩も現れるか。それに国家が関わってくると最悪の場合は…」

 

 場が再び静まり返る。圧倒的な軍事力を持つ相手が技術目当てに攻め込んできて戦争勃発という最悪の事態を皆が想像した為である。

 

「…パットン将軍」

「はい」

「扶桑に行ってくれ」

「え?扶桑ですか…いやしかし、自分は欧州の…」

「その辺りはこちらで何とかする。それに君の所の兵力はベルリン攻略戦後ですぐには動けんだろう。そして、今回は単なる化け物相手だけではない…人間も既に仮想敵と言えるぐらいだ。よって、君のような経験豊富な者が必要となる。だからこそ現地に行き、あらゆる事態に対処してほしい」

 

 そして、高官は視線を出席者達の方へ変えると口を開く。

 

「扶桑に現れた異世界への通路は極めて有益であると同時にネウロイの巣と同様、もしくはそれ以上の脅威であると言えます。よって、我々はそれ相応の戦力を送りこむべきではないでしょうか?」

 

 異議なしとの声が次々上がる。

 

「では…第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズを中心とした戦力を可能な限り早急に扶桑へ派遣しましょう」

 




扶桑で発生した未知の事態に対して、各国はその対策を話し合う。
そして、彼らは未知の脅威に備えて最強の戦力を投入する事を決意する。
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